餅とおっさんと転生と

ポンタメソン

文字の大きさ
4 / 4
第一話(続き)『まずは畑を借りたい ~初日の夜~』

カエおじちゃんと、畑と、土の匂い

しおりを挟む
「こっちこっちー! ユウトおじちゃん、はやくー!」

ティナは大きなカゴを抱えながら、村の小道を元気に駆けていく。
村の外れ、少し坂を登った先に、段々畑のような土地が見えてきた。
草をかき分け、石をどけて、鍬を振るう人影がひとつ――

「おーい! カエおじちゃーん!」

「んだ……んだよ、ティナ。こっちは忙しいっつのに……」

姿を現したのは、がっしりとした体格の中年男だった。
髪はボサボサ、顎には無精ヒゲ、腕まくりからのぞく筋肉に土がびっしりこびりついている。
鍬を肩にかついだまま、こちらを睨むように見てきた。

「おまえ、誰だ?」

「……えっと、ユウトって言います。最近、村に来たんです」

「ふーん。最近の若いもんは、手だけは出すくせに腰は出さねぇからな。で、何しに来た?」

「畑を……やりたくて。もし、使わせてもらえるなら……」

カエは目を細めた。しばらく無言のまま、鍬をくるりと一回転させ、地面にガンッと突き立てた。

「ほう。畑を“やる”……ねぇ。おまえ、土触ったことあんのか?」

「……理科の授業で、ジャガイモ植えたくらいです」

「理科? ……なんだそりゃ」

「えっと……まあ、“ちょっと勉強しただけ”です」

「……ふん。そいつは立派な経歴だな」

皮肉か本気か、判断に困る声色。
だがその目は、ほんの少しだけ――笑っていた。



「よし。じゃあ、ちょっと掘ってみろ」

そう言ってカエが差し出したのは、見るからに年季の入った木製の鍬。柄はささくれて、土の匂いが染みついている。

ユウトは受け取ると、真似事のように腰を落とし、目の前の土を掘り始めた。

ザク、ザク……ゴリ。

「う、うわっ、固っ!」

「ははっ。石だらけだもんな。そりゃ鍬も泣くわ」

カエは大笑いした。ティナも「がんばれー」と手を振っている。

ユウトは額の汗をぬぐいながら、ひと呼吸ついた。

「……なんで、こんなに土が固いんですか?」

「理由は簡単。誰も手入れしてねぇからだ」

「……あ」

「つまりはな、やろうと思えば“おまえの土地”だってことだよ。誰も文句は言わねぇ」

「……ってことは」

「その分、全部自分でやらにゃなんねぇけどな」

カエはふっと煙草のような葉巻をくわえて火をつけた。ふわりと青い煙が立ちのぼる。

「やってみな。三日で逃げたら、そん時は笑ってやる」

そう言って、鍬をもう一本、地面に突き立てた。



「よーし……俺の大根は、でっかくなるぞ~」

「また言ってるー!」

ティナが笑いながら地面に転がった。

「バカだなあ、ユウトおじちゃん! 大根って、でかくなくてもおいしいんだよ?」

「いや、俺の大根は……でっかいんだよ」

「なにそれ~、へんなの~」

どこかで、風が吹き抜ける。土の匂いと、草のさざめき。
ユウトは、自分の手が、少しずつ“この世界の人間”になっていくような感覚を覚えていた。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...