餅とおっさんと転生と

正月だった。

別に特別な予定があるわけでもなく、こたつに入りながらスーパーで買った切り餅を焼いていた。
テレビでは正月特番がうるさいくらいに芸人を騒がせている。外は雪。部屋はひとり。まあ、いつものことだ。

「ん……この餅、ちょっと固いな」

なんて、誰に聞かせるわけでもなくつぶやいて、油断していた。

ズン、と喉に詰まった瞬間、視界が霞んだ。
胸を叩く。水を飲もうと立ち上がろうとする――が、うまくいかない。

(マジかよ……これで死ぬの……?)

誰かが言っていた。「人間、最後に見るのは走馬灯じゃなくて天井だ」って。
たしかに、蛍光灯のシミばっか見てた。
あっけない。何も成し遂げないまま、人生が終わる。そんな感覚だった。

……

(――いや、まだ生きてる?)

目を開けると、草原だった。

空が広い。馬が走る音が遠くに聞こえる。
なんか、服も変だ。トゲトゲの肩当てとかついてる。

それより、手がめちゃくちゃ若い。
鏡がないから確かめられないけど、たぶん10代後半くらいの見た目になってるっぽい。

「……あー……もしかして、これ……」

転生ってやつか?

餅で死んで、剣と魔法の世界に、若返って――。

しかも、なんか手に光る紋章的なやつまで浮かんでるし。

「でも、別に魔王とか倒したいとかじゃないんだよな……」

せっかく生き返ったんだ。のんびり生きて、畑でも耕して、できれば村長とかになって……。
なんか、そんな人生でもいい気がしてきた。
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