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英雄の称号を得た夫の望みは、幼馴染を第二夫人に迎える事でした──。
前編
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戦場に出て居た夫、デイビットが漸くこの地に帰って来る。
騎士団を率い勇敢に戦い数々の戦果を上げた夫は、戻って来たら英雄の称号を与えられる事になって居るのだ。
それを与えられた者は、何でも一つだけ望みが叶えられるそうで……これまでの者達は、一生遊べるお金や豪邸など様々なものを望んだと言う。
真面目で堅物と周りに評判の夫が、どのようなものを望むかは想像がつかないが……妻としては、彼が五体満足でここに帰って来てくれればそれで良い。
此度の戦いで敵国に勝利した事で、暫くは争いも無く平和な世が続くと言われて居るし……久しぶりに愛する夫と二人でゆっくり過ごしたいわ──。
その翌日……王との面会を終えた夫は、予定通り英雄の称号を得て家に戻って来た。
私はそんな夫を労うと、何を望んだのか早速訪ねる事に──。
すると夫は、満面の笑みを浮かべこう言った。
俺が願ったのは、幼馴染を第二夫人に迎えたいと言うものだ。
この国では重婚、伴侶を複数持つ事は認められて居ないが……俺は英雄になったからな、特別待遇だ──。
お、幼馴染を第二夫人に──?
私は、夫が何を言って居るのかよく分からなかった。
ただハッキリして居るのは……夫が言う幼馴染とは、彼がいつも気に掛けて居るメアリーだと言う事だ。
でも、彼女は彼女で既に結婚して居たわよね?
そして彼女の夫は、部下として同じ騎士団に所属して居たはず──。
彼はメアリーとの結婚が決まると、この家にも一度挨拶しに来てくれ……真面目で礼儀正しく、とても素敵な殿方だと私は感心したものだ。
だからそんな方を夫に持つメアリーが、あなたの第二夫人になるはずないじゃないか──。
私がそう告げれば、既にメアリーは俺の第二夫人になる事を了承済みだと夫は告げた。
更には、メアリーの夫は戦場で行方不明になった──。
最後に見たあいつの姿は俺の命令を無視し勝手に撤退する実に情けないものだったと、夫は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
そして、今のメアリーは未亡人のような状態だ──。
彼女は、一人で生きて行けるような強い女ではない……誰かが支えてやる必要がある。
そしてそれが出来るのは、幼馴染で誰よりもあいつの事を分かって居るこの俺しか居ないと、夫は自信たっぷりに言い切るのだった。
その後、私がどれだけ反対しようとも夫の気持ちは変わらず……最終的には、英雄となった俺に逆らうと罰が下るなどと言われてしまい、私はそれ以上何も言う事が出来なくなるのだった──。
その後、メアリーは堂々たる態度で我が家へとやって来た。
そんな彼女は、夫の第二夫人になれる事を心底喜んで居るようで……最早自身の夫が行方不明である事などすっかり忘れてしまって居るようだった。
私は同じ妻として、そんな彼女が信じられなかったが……メアリーは、いつまでも昔の男の事を想って居ても仕方ないじゃない──。
そんな男の事など早く忘れ、私は英雄の妻として彼の子供を授かりたいのだと言った。
そしてメアリーは、馬鹿にしたような笑みを浮かべ私のお腹を見て来ると……あなたは子が望めそうにないと、あの人から聞いて居る──。
戦地に行く前に何度そういう行為をしても、ダメだったそうじゃない?
その事を、デイビットは散々愚痴って居たわと言って来た。
それを言われた私は心底腹が立ったが……でもそれは本当の事で、何も言い返せないのだった。
夫が戦地に行って居る間に、私は主治医に身体を診て貰ったが……その際、妊娠しにくい身体だと言われてしまった。
でも夫をがっかりさせたくなくて、中々言えずに居たが……夫はその事にとっくに気付いて居たのかも知れない。
だから余計に、彼女を第二夫人にしたいと思ったのだろうか──。
そしてその日から、夫に妻が二人と言う奇妙な暮らしが始まったが……いざ始まってみれば、夫の妻はメアリー一人だけを溺愛する状態となってしまった。
と言うのも、夫はメアリーだけを大事にし……パーティーに連れて行くのも、街に出かけ何かを買い与えるのも全てメアリーだけだった。
一方の私はいつも留守番を任され、満足げに帰って来る二人を黙って迎えるしかなく……これでは夫が戦場に赴いて居る時と何も変わらないじゃないかと、心底虚しく思うのだった。
また一番屈辱的だったのは、夫が夜の務めをメアリーにしか求めなくなった事だ。
どうせお前は彼女と違い跡継ぎは望めないのだし……何より俺は、地味なお前では無く可愛いメアリーを抱きたいんだ──。
彼女の豊満な身体を知ったからには、お前のつまらない身体にはもう欲情しない……お前は一生お役御免だと言われた時は、私は思わずその場に泣き崩れてしまった。
歴代の英雄の妻は……夫がその称号を得た後は、以前と比較にならない程幸せな人生を送ったと話に聞いて居たのに──。
夫にそれが与えられると聞いた時は、私もその妻達のように幸せになれると信じて居たのに……だけどもう絶望しか無いわ。
今でも十分辛いのに、このままメリーが身籠ったらどんな地獄が待って居るのだろうか──。
夫は既に私に見切りを付けてしまったかも知れないが、でも私自身は子を諦めては居ないのに──。
そこで私は、以前主治医に聞いたある民間療法を頼る事を思いついた。
その内容とは、ある地に自生する薬草を煎じ暫し飲み続ければ子が出来やすい身体になると言うもので……どうせ夫に言っても無断な事はするな、辞めろと言われるのが分かって居た私は、その旨を綴った置手紙を残し家を出るのだった──。
騎士団を率い勇敢に戦い数々の戦果を上げた夫は、戻って来たら英雄の称号を与えられる事になって居るのだ。
それを与えられた者は、何でも一つだけ望みが叶えられるそうで……これまでの者達は、一生遊べるお金や豪邸など様々なものを望んだと言う。
真面目で堅物と周りに評判の夫が、どのようなものを望むかは想像がつかないが……妻としては、彼が五体満足でここに帰って来てくれればそれで良い。
此度の戦いで敵国に勝利した事で、暫くは争いも無く平和な世が続くと言われて居るし……久しぶりに愛する夫と二人でゆっくり過ごしたいわ──。
その翌日……王との面会を終えた夫は、予定通り英雄の称号を得て家に戻って来た。
私はそんな夫を労うと、何を望んだのか早速訪ねる事に──。
すると夫は、満面の笑みを浮かべこう言った。
俺が願ったのは、幼馴染を第二夫人に迎えたいと言うものだ。
この国では重婚、伴侶を複数持つ事は認められて居ないが……俺は英雄になったからな、特別待遇だ──。
お、幼馴染を第二夫人に──?
私は、夫が何を言って居るのかよく分からなかった。
ただハッキリして居るのは……夫が言う幼馴染とは、彼がいつも気に掛けて居るメアリーだと言う事だ。
でも、彼女は彼女で既に結婚して居たわよね?
そして彼女の夫は、部下として同じ騎士団に所属して居たはず──。
彼はメアリーとの結婚が決まると、この家にも一度挨拶しに来てくれ……真面目で礼儀正しく、とても素敵な殿方だと私は感心したものだ。
だからそんな方を夫に持つメアリーが、あなたの第二夫人になるはずないじゃないか──。
私がそう告げれば、既にメアリーは俺の第二夫人になる事を了承済みだと夫は告げた。
更には、メアリーの夫は戦場で行方不明になった──。
最後に見たあいつの姿は俺の命令を無視し勝手に撤退する実に情けないものだったと、夫は馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
そして、今のメアリーは未亡人のような状態だ──。
彼女は、一人で生きて行けるような強い女ではない……誰かが支えてやる必要がある。
そしてそれが出来るのは、幼馴染で誰よりもあいつの事を分かって居るこの俺しか居ないと、夫は自信たっぷりに言い切るのだった。
その後、私がどれだけ反対しようとも夫の気持ちは変わらず……最終的には、英雄となった俺に逆らうと罰が下るなどと言われてしまい、私はそれ以上何も言う事が出来なくなるのだった──。
その後、メアリーは堂々たる態度で我が家へとやって来た。
そんな彼女は、夫の第二夫人になれる事を心底喜んで居るようで……最早自身の夫が行方不明である事などすっかり忘れてしまって居るようだった。
私は同じ妻として、そんな彼女が信じられなかったが……メアリーは、いつまでも昔の男の事を想って居ても仕方ないじゃない──。
そんな男の事など早く忘れ、私は英雄の妻として彼の子供を授かりたいのだと言った。
そしてメアリーは、馬鹿にしたような笑みを浮かべ私のお腹を見て来ると……あなたは子が望めそうにないと、あの人から聞いて居る──。
戦地に行く前に何度そういう行為をしても、ダメだったそうじゃない?
その事を、デイビットは散々愚痴って居たわと言って来た。
それを言われた私は心底腹が立ったが……でもそれは本当の事で、何も言い返せないのだった。
夫が戦地に行って居る間に、私は主治医に身体を診て貰ったが……その際、妊娠しにくい身体だと言われてしまった。
でも夫をがっかりさせたくなくて、中々言えずに居たが……夫はその事にとっくに気付いて居たのかも知れない。
だから余計に、彼女を第二夫人にしたいと思ったのだろうか──。
そしてその日から、夫に妻が二人と言う奇妙な暮らしが始まったが……いざ始まってみれば、夫の妻はメアリー一人だけを溺愛する状態となってしまった。
と言うのも、夫はメアリーだけを大事にし……パーティーに連れて行くのも、街に出かけ何かを買い与えるのも全てメアリーだけだった。
一方の私はいつも留守番を任され、満足げに帰って来る二人を黙って迎えるしかなく……これでは夫が戦場に赴いて居る時と何も変わらないじゃないかと、心底虚しく思うのだった。
また一番屈辱的だったのは、夫が夜の務めをメアリーにしか求めなくなった事だ。
どうせお前は彼女と違い跡継ぎは望めないのだし……何より俺は、地味なお前では無く可愛いメアリーを抱きたいんだ──。
彼女の豊満な身体を知ったからには、お前のつまらない身体にはもう欲情しない……お前は一生お役御免だと言われた時は、私は思わずその場に泣き崩れてしまった。
歴代の英雄の妻は……夫がその称号を得た後は、以前と比較にならない程幸せな人生を送ったと話に聞いて居たのに──。
夫にそれが与えられると聞いた時は、私もその妻達のように幸せになれると信じて居たのに……だけどもう絶望しか無いわ。
今でも十分辛いのに、このままメリーが身籠ったらどんな地獄が待って居るのだろうか──。
夫は既に私に見切りを付けてしまったかも知れないが、でも私自身は子を諦めては居ないのに──。
そこで私は、以前主治医に聞いたある民間療法を頼る事を思いついた。
その内容とは、ある地に自生する薬草を煎じ暫し飲み続ければ子が出来やすい身体になると言うもので……どうせ夫に言っても無断な事はするな、辞めろと言われるのが分かって居た私は、その旨を綴った置手紙を残し家を出るのだった──。
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