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王子の愛を失った私は、お城を去ります──。

後編

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「私が、城を出なければと強く思ったのも……この中のある薬草が、私の部屋に飾られて居た事が原因です。城の者達も、これらの薬草の花粉を吸った事で、まともな判断が出来なくなってしまったんだわ」



 王子はあまりの事に言葉を失い……そして隣に座る女は、真っ青な顔で震えていた。



「俺の従者に、全ての薬草を処分する様に命じたので……城の者達は、直に元に戻るでしょう。問題は……あなたですよ、兄上。この事態を引き起こした責任、どう取るおつもりですか?」

「お、俺だって被害者だ!彼女に、騙されて居ただけで──」

「でも、あなたの邪な気持ちを見透かしたからこそ、この女はそんな悪事を思いつき実行するに至ったんでしょう?兄上……あなたは以前も、可愛い旅の踊り子を城に連れ込むという問題を起こした。そして、その女に貴金属を盗まれたと、後で騒いで居たじゃないですか。そんな目に遭ったのに、まだ懲りてなかったのですね」



 弟君の言葉に、王子は言葉を詰まらせた。



 そんな事があっただなんて、知らなかった……。

 この方、もしかしたら……いいえ、もしかしなくても、かなりの女好きなのでは……。



 私の王子を見る目が、一層険しくなり……それを見た王子は、ビクリと肩を震わせ目を反らした──。



「その時、父上からのお叱りを受け……もう二度とこんな過ちを起こすな。もしまた間違いを犯せば……次期王の座は、弟である俺に譲れと、そう言われて居ましたよね?俺も俺の従者も、しっかりとその言葉を聞きましたよ。そしてあなたも、それに誓っていらっしゃった。なのにあなたは、こうしてまた間違いを犯したんだ……。だったら、その約束を守って貰わねば──」



 弟君の威圧感にすっかり気圧され……王子はもう、何も言い返す事など出来なかった──。

 
 その後、城にあった薬草は全て処分され……城の皆はすっかり正気に戻り、私への非礼を詫びた。




 そしてそんな悪事を働いた女は、すぐに牢へと入れられ……後に、国外追放として、死の砂漠と呼ばれる地に送られた。


 また、そんな女を城に引き入れ愛してしまった王子は……城の外れにある館に、幽閉の身となった。



 これからは、弟君が城の全てを任されるのだから……彼の存在は邪魔なのだ。

 一生そこに居て貰った方が、この城の……いや、この国の為にもなるだろう。



「第二王子……あなた様が、ここまで薬草にお詳しいとは驚きました……。ですがそのおかげで、私も城の者達も救われました」



 すると第二王子は……私にある薬草を見せ、微笑んだ。 



「実は、俺が隣国を訪ねて居たのも、この薬草を探す為なんだ。病に臥せって居る父上に、なんとか元気になって貰いたくて……城を兄一人に任せ、旅に出て居たんだ。おかげで、こうして無事薬草は見つかったけど……でもその間に、君がこんなに苦しむ事になってしまい、申し訳なく思って居る」



 そう言って頭を下げる第二王子に、私は慌てて首を振った。



「もう、謝らないで下さい。私の事は大丈夫ですから、早く王に、それを煎じて飲ませてあげて下さい──」


  
 こうして、第二王子が手に入れた薬草を飲んだ王は、みるみる元気になり……そして第二王子に大いに感謝し、私には深く第一王子の非礼を詫びた。



「自分が傷ついた事より、私の回復を祈ってくれるとは……何と心優しき娘だ。どうだ……ここは改めて、弟である第二王子の婚約者になってはくれないだろうか?」
  


 私が、第二王子の──?



「実は、この者はそなたの事を以前から気にかけておったが……兄である第一王子が、そなたと婚約すると言い出したものだから、それを隠して居たのだ。」

「ち、父上……!あの……無理にとは言いません。ですが……は昔から、ずっとあなたお一人だけを慕って居るのです。それ故に、他の婚約話も受け入れられないで居ました。俺は……この先王となり、この国を、守って行きます。その時、隣に居るのは……他の誰でもない、あなたが良いのです」



 そう言って、王子は……玉座の間に飾ってあったバラを手にし、私の前に跪いた。



 確かこのバラは……あの女が薬草を植えた後に、新しく入れられたものね。

 どうしてバラなのかと彼に尋ねたら……あなたが一番好きな花だからと、笑って答えて下さったっけ。

 私がバラが好きだなんて……随分前に一度話題にしただけなのに。よく覚えて居て下さったと思ったけれど……。

 そうか……私をこんなにも想って居てくれたから、だったのね──。


 
 緊張からか、少し震える手にあるバラを……私はそっと受け取り、こう言った。



「私も……これからの未来を、あなたの隣で生きていきたい。あなたを支え、一生傍に居る事を、私はこのバラに誓います」


 
 そんな私の言葉に、第二王子は顔を上げると……幸せそうな笑みを受かべ、私を優しく抱きしめた──。
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