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私を捨てた婚約者が復縁を望みますが、ここにあなたの居場所は無いのです──。

後編

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「虐め……?それをやってたのは、私じゃなくあなたの方でしょう」

「……え?」

「この子は、学園である女生徒を虐め……彼女の心を深く傷付けた。私は彼女の友人だったから、何とか虐めを辞めさせたかったけど……結局、その子の暴走は止まらなくて──。ついにその子は退学になってしまった。でも、家に帰り反省していると思いきや、使用人の娘を同じように虐めて居たから……怒った父や私が、その子に厳しい罰を与えた。ただ、それだけの事よ。でも、その子は嘘が上手だから……あなた、すっかり騙されちゃったのね」

「そ、そんな……」

 

 彼は、その事実に呆然とし……そして妹は、体を震わせ怒りの形相で私を見て来た。

「あなたは……いつもいつも、私の邪魔をして──。顔も成績も、魔力も私の方が優秀なのよ!?何の取柄もない癖に、姉だからっていい気にならないで──!」

 この子、怒りで魔力が暴走しかけている──!



 その時だ。

 妹の身体が急に動かなくなり、そして、彼女の足元には一つの魔法陣が浮き上がった。

 

「これ以上彼女を傷付ける事は、俺が許さない」

「あ、あなた……同じクラスに居た、地味男……!な、何であんたがここに……っていうか、この桁違いの魔力は何!?」
 
「そんなの当然よ。だって彼は……隣国の、第三王子様だったのだから」



「う、嘘……!?」

「嘘ではない。俺は正体を隠し、あの学園に通って居たんだ。俺は友好国である、この国の歴史や魔法学に興味があってな。素晴らしい学園生活になるかと期待していたが……お前のような悪女が居たせいで、何かと嫌な思いもさせられた。俺を地味男と罵り、水をかけたり、階段から落とそうとしたり……。でも何より許せなかったのは、姉である彼女にまで迷惑をかけた事だ。俺は……密かに彼女に恋をして居たからな」

「えぇ……!」



「彼女には婚約者が居て……学園卒業後に結婚すると言っていたから、そのまま身を引くつもりだったが……。この国境を見守る水晶玉に、お前と彼女が明日結婚するはずの男が映り驚いたよ。そして、お前がまたろくでもない事を企んでいると、すぐに気付いた」

「彼ね……魔法を使い、わざわざ私の所へ来てくれたの。そして、優しく慰めてくれたわ。その時、彼が隣国の王子様だと知ったの」


 
 私が居た事、そして隣国の王子の登場に、二人は激しく動揺し……そして、絶望していた。

「お前は、このままこの魔法陣で隣国へと送る。俺に対する不敬……そして、許可なく国に入り込もうとした罰を受けて貰うぞ。そして……それを率いたお前も、勿論同罪だ」

「あなたが、私の事を全く愛して居ない事……今回の件で、よく分かりました。婚約はもう破棄します。でもいくら騙されたとはいえ……あなたも愚かね。あなたが駆け落ちまでして手に入れたかった女は……愛する価値など、ありはしなかったのだから──」



「そ、そんな……俺を見捨てないでくれ──!」

「お願い、見逃して……!もう、逃げないから──!」

 二人は泣いて許しを乞うたが……王子は、それを許さなかった──。



 その後二人は、隣国でそれぞれ罰を受ける事になった。

 妹は、魔力を全て剥奪され……そして、もう誰にも嫌な思いをさせる事が出来ないよう、一生城の地下牢で幽閉の身となった。



 そして彼は、違法な手段で国に入り込もうとした罪人とみなされ、その身に罪人の刻印を刻まれ、国外追放となった。

 当然隣国にも、元居た国にも戻れないし……あの人、その内どこかで野垂れ死にしてしまうんじゃ……。

 愛する者と共に、楽園を求め旅立ったのに……それが一人きりの、孤独な死の旅へと変わってしまうとは──。

 でも、それも自業自得だわ──。
 


「……今回は、お力をお貸し下さり、ありがとうございました。」

「いや……。それより、学園に居た時のように普通に話をして欲しいんだが──」

「それは……あの時は、まさか王子様とは知らなくて」

「あの女に王子と知られたら、俺も纏わりつかれると思い……身分は勿論、魔法で少し容姿も変えていたんだ。でも、それがかえって災いしたが……だが、良い事もあった。君が……自分の友人同様、俺の事も気にかけ、色々と助けてくれた。君と二人で過ごした学園でのあの時間は、とても幸せで……俺にとって、何よりの宝だ」

 
 
 そう言って、私を熱い目で見てくる王子に……私のは、真っ赤に染まった。

「俺は、君が結婚し幸せになれるなら……もうこれ以上、何も望むまいと思って居たが……あんな事があって、その考えは大きく変わった。君は、俺の手で幸せにしたい。君が俺を幸せにしてくれたように……それ以上に君を幸せにしたいんだ──。俺の気持ちに、応えてくれるか?」



 私の前で跪く彼に……私の心臓は高鳴った。

 思えば……結婚式を迎えると言うのに、あの男は私を求めようとはしなかった。

 こんなにも、熱い想いをぶつけてくれたのは、王子が……彼が、初めてだわ。

 そして私は、それをとても嬉しく思って居る──。

「私……あなたを信じます。私は今……あなたの愛を、確かに感じましたから──」



 その後私は、王子の妃になるべく、隣国のお城へと迎え入れられた。

 今は妃になる、色々と学んでいるが……彼が私を支え、いつも優しく見守って居てくれるから……私は、毎日がとても幸せだ。
 
 こうして、この楽園のように楽しく幸せな居場所と、温かく大きな愛を手に入れた私は……地獄に落ちたあの亡者共の事など、この先は、決して思い出す事は無いでしょう──。 
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