上 下
4 / 33

4

しおりを挟む
 あれ……俺、どうしてこんな暗い所に居るんだ?

 確かスタジオに向かってて……そこでリョウを見かけて……そうだ、俺はリョウを庇って──!?

「リョウ──!」

 そこは、見知った部屋だった。

「あ、れ……?もう撮影、始まってたっけ?」

 そこは、俺が演じる高校生の「しん」の部屋だった。

 今寝ているこのベッドも、部屋にある家具も小物も……あの壁に掛けてある制服だって、慎の物だ。

「そう言えば……背中、痛くない?」

 壊れた大道具が背中に直撃したはずなのに……俺はこうしてピンピンしている。

 ふとベッドの脇にあるスマホを手に取れば、それは妙な日付と時刻を示していた。

「何で四月十一日?しかも朝の五時に起きる様になってるし……。これって……ドラマの第一話そのものだな。新学期が始まって、慎は亮の為に日課のお弁当を用意する為に早起きして……それで近くに住む亮を起こして学校に行く──。」

 ベッドから降り部屋のドアを開ければ、そこには思った通り階段があって……一階へ降りれば、母親役の女優さんが居て──。

「おはよう慎、今日からいよいよ新学期ね!高校生活もあと一年だから、頑張るのよ?」

「お、おはようございます!」

 確か、こんなセリフがあったけど……でも、周りにカメラさんも照明さんも誰も居ないし……どうなってるんだ?

 俺がキョロキョロしていると、母親役の女優さんがいぶかしし気にこう言って来た。

「いやあね、何よ敬語で挨拶なんかして……もしかして寝ぼけてる?早くお弁当作って、亮君起こしに行ってあげなさいよ。」

 こ、このセリフはなかった!?

 それにこんな言い方……これじゃあまるで、本物のお母さんじゃないか──!

※※※

 俺は狼狽うろたえながらも、キッチンに立った。

 お弁当って言ったって……ドラマの中じゃ、もう出来上がったおかずが用意されてて詰めるだけとかだったし……そもそも俺は、簡単な料理くらいしか作れない──。

 そう頭で思ったのだが……何故なぜか俺の身体は、ごく当たり前の事の様にスイスイ動き、あっという間にだし巻き卵を完成させた。
 しかも、冷蔵庫から下味を付けてある鶏肉を出し、唐揚げまで揚げてしまう始末だ。

 何だろう……亮が食べたい物や好きな物が、手に取る様に分かる。
 何をどうして作ってあげれば彼が喜んでくれるっていうのが、身に染み付いてる。

 ドラマの中では、慎と亮は幼馴染の恋人同士だった。
 だから分かるのだろうか……。

 そしたら、やはりここはドラマの中の世界で……今の俺はアイドルのシンじゃなく、高校生の「慎」なんだ。

 じゃあ……現実世界のシンは?
 もしかして、あの背中を打った衝撃で死んだんじゃないだろうか。

 今の俺は、ドラマの中の慎に生まれ変わった?転生した?取り憑いた?

 何が何だか分からないけど……ずっと好きだった彼に失恋した上に嫌われ、その後死んだ俺が行き着いたのは……彼に愛される世界だった──。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

アデルの子

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:571

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:2,612pt お気に入り:15

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:3,011

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

BL / 完結 24h.ポイント:390pt お気に入り:2,623

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,248pt お気に入り:91

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:138

処理中です...