ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

1 メイドの告白

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「奴隷?」
「そうです。アルヴィン様、一度ご検討頂けませんか?」

 メイドであるセレスがその様に何かを求めるなど珍しい事だった。

 没落した貴族のヴェストルフ家の唯一残った忠実なる家礼はアルヴィンの乳姉弟ちきょうだいである。
 流行り病で両親が相次いで亡くなり当時まだ13歳と言う若さで当主になったアルヴィンは勉強不足、経験不足、人脈不足を痛い程経験した。
 そこからの転落はあっという間だった。
 やがて泥舟から逃げる様に1人、また1人と辞めていく。給金も滞る様になるとセレスとその母セレーナ以外残らず去っていった。
 乳母であるセレーナも早くに不慮の事故で亡くなった。
 姉弟のように育った2人は身を寄せ合いとても悲しんだが、せわしない日々の中でその悲しみもやがて薄れていく。只々生きる為に必死だった。
 代々受け継がれ、広く立派であった屋敷も今はない。過去別荘として所有していた郊外の一軒家が今の2人の住処であった。立派だった屋敷よりも小さいとはいえ、2人で暮らすには充分過ぎるほど広い家だ。

 そんなアルヴィンも今年で26になる。

 主な稼ぎはギルドからの依頼だ。幼い頃はそれこそ薬草取りや小さなお使い程度しかこなせなかったが、今や剣の腕を磨き一角ひとかどの戦士として活躍している。細身の身体は無駄なく筋肉に覆われ、その体躯を活かし素早く魔獣えものを刈り取るのがアルヴィンのやり方であった。
 黒髪のその姿から"黒い稲妻イナズマ"などと呼ばれ、アルヴィンは面映いものを感じていた。
 そんなアルヴィンに長年付き従ってきたセレスは長い銀髪をサラリと揺らし、恥ずかしげに俯いた。

「その…私の腹に…子が…」
「へ?」
「子供が、出来たのです!」
「はあぁぁ?!」

 驚愕の事実にアルヴィンは眼を剥いた。もちろんセレスの子供の父親はアルヴィンでは無い。セレスがいくら美女だとしても、姉の様に思っている彼女に対して邪な思いは一度たりとも抱いたことはなかった。

「あ、相手は誰だ!?」
「あの…その…商人の…」
「ポールか!?………殺す」
「やめて!アルヴィン!あなたの攻撃ならはたいただけで死んでしまうわ!」

 ポールは昔馴染みの茶髪のヒョロリとした青年だった。没落の一途を辿るヴェストルフ家を影ながら見守り、時には手を差し伸べ助けてくれた。今こうやって五体満足に2人で暮らせているのも彼のお陰である。
 そんな恩人でもそれとコレとは話が別だ。

(許せん。殺す)

「コロス」
「アルヴィン!!……でも、よく考えてね?行き遅れの、何の身分のない私なんかに、あの人は妻として迎え入れたいって…言ってくれたの…。その…私も彼のこと…ずっと前から…」

 顔を赤く染め、俯くセレスの姿にアルヴィンは諦めがついた。無理矢理だったのならばどんな事をしても許さなかった。
 しかし、2人は互いに想いあっている様だ。それならばアルヴィンの出る幕はない。
 そもそも、セレスがこの歳までお嫁に行けなかったのは自分などに付き従い、支えてくれた為であった。彼女の幸せを邪魔するなどアルヴィンには出来ない。
 今年37になるポールは未だ独身だ。それはずっとセレスの事を思い続けていたからかもしれない。
 ポールの家は堅実で誠実な商売を行なっている。そのため大金持ちとはいかないが、優しく温かいあの家ならばセレスを安心して送り出せるだろう。
 それでも婚礼前に手を出した事は許せないので一発ぐらいは殴るが。

「はぁ…」

「それでね、アルヴィン…様。来春にでも婚礼式をあげようってポール様が提案して下さったの。この先の事もあるし…」
「それで奴隷…か。まぁ、新しく使用人を雇うよりは安全ではあるかもな…」
「過去に酷い目に会いましたから…。それに比べて奴隷なら奴隷紋を刻み、こちらを裏切らないように出来ますからねっ!」

 その可愛らしい容姿から似合わないえげつない内容がセレスから出てきた。
 それだけお金だけの主従関係とは儚いものであった。
 家宝を盗む、ありもしない悪評を流す、ヴェストルフ家を騙り悪事を働く…など思い出すだけで辟易へきえきとした。

「でも、俺だって自分の事ぐらい自分で出来…」
「なにを言っているんですか!アルヴィン様が1人で暮らしたら1週間でこの屋敷は消し炭ですよ!」
「…そんな事は」

 ない。とアルヴィンは言いたかったが、過去の所業を思い出すと口を閉じるしかなかった。何故だか食べ物は黒焦げになり、衣服は破れ、窓が割れるのだった。どうしてそうなるのかはアルヴィン自身も説明が出来ない。

「…わかった。奴隷を家に迎え入れよう」
「…!アルヴィン様!そうしましょう!もちろん私がビシバシ鍛えてなに不自由なく暮らせるようにしますから!安心して下さいね」

 朗らかに笑う彼女が案外厳しいことを長年の付き合いからアルヴィンは理解していた。これから迎え入れる奴隷に同情しながらもセレスの腹が膨らみ動けなくなる前に探さないとならないとアルヴィンは心に決めた。




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