ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

3 彼はどこから

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「って事なんだけど」
「それなら仕方ないわね。…なんてっ!言うと思ったのっ!」

 セレスの怒りの声が屋敷内に響き渡った。

「お腹の子に障るだろ?まぁまぁ落ち着いて…」
「これが落ち着いていられる物ですかっ!貴方の世話をする者を買いに行って、なんで世話をしなければならない者が増えてるんですか!可笑しいでしょうっ!」
「まぁまぁ」
「…っ!やっぱり…っ!私もっ…!付いてくべきだったわ…」
「まぁまぁまぁ」

 泣き崩れるセレスをアルヴィンはソファに座らせた。あまり感情的になるとお腹の子に悪影響なのでは無いかと心配になった。しかしセレスにここまでの衝撃を与えたのはアルヴィン自身なので強くは出れなかった。

「あんな空気の悪い所にセレスを連れて行ける訳ないだろ?」
「だからって!こんな死にかけてる奴隷を買って来るなんて思いませんでしたっ」
「ごめんって」
「まったくもう。…………それで、こんな状態で本当に生きているの?」

 多少落ち着いてきた所で床に横たわるボロボロで悪臭を放つそれが心配になったのであろう。気遣うような視線に変わった。
 色々苦労してきたが、心根は変わらず優しい彼女だった。
 
「生きてるよ。生命力は相当強いみたいだ。多少市場で綺麗にしてもらったけど…」

 そう言いながら男の全身を巻いていた布をはだけていく。
 その下から表れた惨状を見てセレスはため息をついた。

「あらあら、傷だらけで…虫まで湧いているじゃない。よく生きてるわね…」
「寧ろ蛆虫が腐った肉を食べていたから助かったんだ。戦場でもそう言う奴が居たから。ほら」

 アルヴィンは肉を腹一杯に食べ、這い出てきた1匹を拾いセレスに見せて、ポイっとその辺に放った。

「こら!放り投げるんじゃありませんっ!」
「ごめんごめん」

 セレスは立ち上がるとその蠢く虫を摘んでそっと男の上に戻した。

「戻すのもどうかと思うけど…」
「でも、これのお陰で彼は生きているのでしょう?…虫は取らない方が良いのかしら?」
「どうだろう?腐った肉を食べてくれて治りが早くなるって聞いたことがあるけど…」
「治療石があれば多少はましになりそうですけれど。でも稀少で高くてとても手が出せませんね。…あっ、ポールに頼んでみましょうか!彼なら商人の伝手で手に入るかもしれないわ」
「彼でも難しいんじゃないかな…」
「そうね…。でも一応聞いてみましょう。それにしても、仕事が増えちゃったわ…」
「いいよ。俺が面倒見るから。俺が買ってきたわけだし」
「そんな犬猫みたいに…」

 実際、彼の値段はその犬猫よりも安いものだった。まさに叩き売りだ。
 死にかけている上に、様々な市場を行き来しているいわく付きらしい。元々の出所も失われているそうだ。

 何処から来たのか誰もわからない。

 虫の息の彼を楽にしてやろうとすると決まってその人物に不幸が訪れたとか。
 そう言う話もあり、自然に息絶えるのを待っていたとの事だ。
 店主は怪しげな奴隷が売れるのを喜びつつも多少の不安感も醸し出していた。しかしいつまでも自分の所に置いておくのは嫌だったのだろう。最後に「もし手放すならうち以外にお願いします…」と言われてしまった。

「なんにせよもう少し汚れを落とさないと。このままじゃ治るものも治らない」
「入浴はやめておきましょう。弱った身体には毒ですから。…お湯で少しずつ拭ってあげるしかありませんね。沸かして参ります」
「いや、俺がやるからいいよ。セレスは普段通りにしててくれ」
「あら、これぐらい大した仕事ではありません。それよりもアルヴィン様は薬草でも集めて来て下さい。常備しているものではとても足りませんからね」
「わかった」
「…それにしても、綺麗な髪ね。こんな鮮やかな赤髪は見た事ないわ。…でも、毛先の方は固まってしまって切るしかありませんね。ちょっと勿体ないけれど」

 男の髪は元は腰位まであったであろうが、今は絡み、様々な物で固まってしまっていてとても解せるような状態では無かった。肩辺りでバッサリと切ってしまうしかないだろう。

「それじゃあ、この死にかけ君を綺麗にしようか」



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