ウチのメイドがお嫁に出るので、没落貴族の俺が死にかけ奴隷を購入したら記憶喪失でなんだか様子がおかしくて…?

蔓巍ゆんた

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本編

39 家族

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 …ヴ……ヴゥ…ブ…ヴゥ…ヴ…



 不愉快な音だった。生理的嫌悪を催す、音。

 何かの羽音。

 ヴ…ヴゥ…ヴゥ…ブ…ブ…ヴン…ヴゥ…

 それは収まるどころか数を増やしどんどんと騒々しくなっていく。

「…?…なんだ?」

 目を覚ましたアルヴィンは辺りを見回した。

 しかし、真っ暗で、何も、見えない。
 
「レド…?」

 肌を合わせ共に寝たはずの人物の名前を呼んだ。隣に居るはずが、いない。

 赤色の姿を探すアルヴィンの目の前を何かがよぎる。

「…!?う、わぁ…!?」

 黒い小さな虫だった。

 その姿を追い、アルヴィンは気がついてしまった。

 それは1匹では無い。
 
 よくよく見ると闇そのものが蠢き、ひしめき合っていたのだった。

 ヴ…ヴゥ…ヴゥ…ブ…ブ…ヴン…ヴゥ…

「な!?…は、あっ…!?」

 数千、数万の蝿がアルヴィンの部屋を埋め尽くしていた。

 不快な音の正体は、この、蟲達…。

 あまりの事にアルヴィンは平静を失った。

「レ、レド!レド!何処にいるんだ!」
「はい、ここに居りますよ」
「レド!」

 その蟲達を掻き分けてレドが姿を現した。

「お目覚めですか?ご主人様…」
「レ、レド!?こ、コレはなんだ…!?俺は、悪夢でも見ているのか…!?」

 混乱するアルヴィンの側により、優しく抱きしめてレドは囁く。

「あは。現実ですよ、ご主人様…」
「いったいなんなんだ!コレは!」
「大丈夫です。彼等は貴方に危害は加えません。ただご主人様の側に居たかったのです」

 レドの金眼と目が合うと、あれ程乱れていたアルヴィンの心がストンッと落ち着いたのが分かった。

 アルヴィンはこの異常事態がまるで日常の出来事のように感じた。

「…ああ、少し驚いてしまった。そうか。側に居たかったのか…」
「あはは。…セレスも出て行って、ご主人様は寂しそうですし」

 うつろに蟲達を眺めるアルヴィンに愛おしそうにレドは声をかける。

「俺達は契りを交わしたのです。それならば家族が増えても不思議ではないでしょう?」

「…かぞく?」

「実はちょっとだけセレス達が羨ましかったのです。互いの繋がりを示す形があるなんて…」

 嬉しそうに笑ってレドはアルヴィンの顔を覗き込む。

「だから考えたんです!この子達は俺の血肉で育った子です。そうして、優しい貴方が守ってくれた…。実質俺達の子供と考えて良いのでは?」

「……こども」

「ご主人様、アルヴィン様。貴方に認知して頂きたいのです…」

 認知する…。アルヴィンは活発に動き回るそれを見詰める。

「……多すぎる。こんなに数はいなかった筈だ」

「あは。繁殖力の強い子達です。外で死体でも漁って増えたのでしょう」

「…こんな、…こんなにいても困る。…それに家族にするならば……俺は人がいい」

 微かに残った理性でアルヴィンはそう答えた。

「そうですか。あはは!…では一塊にして、人の姿に変えましょう。ご主人様の望み通りに」

 そういう意味で言ったのでは無い…。と言い返すほどの精神力はアルヴィンに残されていなかった。

 ヴ…ヴゥ…ヴゥ…ブ…ブ…ヴン…ヴゥ…

 不愉快な羽音をたてながら1匹、また1匹と集まってくる。
 そうしてカサカサと蠢きながらそれは黒い人の形に固まった。
 すると不思議な事に、足元から徐々に人の肌色に変わっていく。
 ふと気付くとあれ程いた蝿は姿を消し、目の前に1人の青年がひざまずいていた。

 その青年はまるで羽音のような声を発した。

「レドざま、…アルヴィンざま"。このような"ずがだにしでいだだき、まごどにありがどうござ、います。どうか、わたぐしに、名を、…名をさずげて、ください」

 どこか現実感がなく、ぼんやりとしながらアルヴィンは求められるがまま脳裏に浮かんだ言葉を呟いた。

「…バアル。…バアル・ゼブブ。それが、お前の名だ」

 アルヴィンが名付けた瞬間にバアルの存在は固定化された。

 若々しい声が嬉しそうに上がる。

「ああ!なんと立派な…。ありがとうございます…。バアル・ゼブブの名に劣らぬ様、不肖ながらこれから誠心誠意尽くさせて頂きます…」

 バアルの言葉遣いにレドは不満そうな顔をした。

「もっと気さくでいいです。だってお前は俺達の子供ですからね」
「…そうですねっ。レド様!アルヴィン様!僕、頑張りますっ」

 黒髪、金眼のバアルはニパッと元気に笑った。

 その容姿はどことなく2人に似ていた。

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