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人生一発逆転勝利を目指して (((ʕ•̫͡•ʔ

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 リーチ!キュインキュインキュインキュインーーーー!ポロララポロララポロララピュイーンレー↓レー↑レー↓テテテー♪ ピロロロローピュイーン!!
 ジャラララララ………

 伊東テルが朝から並び、シマの中から見つけた好調台は最後の玉を吐き出し、しばらくするとデモ画面に戻った。
 たった数時間で吸い込まれた輝の全財産は戻ってくる事はない。

「っくそ!」

 思わず台を叩くと隣に座っていた年配男性がジロリとこちらを睨んだ。
 その背後にはドル箱が積み上げられていく。
 数分前にふらりとやって来た老人はお座り一発であっという間に大当たりを引いたのだった。

「…睨んでんじゃねーぞ、ハゲ!」

 負け惜しみを投げ棄て、輝は乱暴に席を立った。
 自動ドアを抜けて店の外に出ると夏の蒸し暑い空気にむあッと包まれた。午前の太陽の強い日差しにジリジリと肌が焦げていく。
 輝は喫煙スペースに入り、煙草に火をつけた。
 規制だなんだで最近ではパチンコ店内でも煙草を吸える所が少なくなった。

 煩わしい事ばかりだ。

 イライラと煙を肺に浸透させる。瞬時に吸収されたニコチンが全身にまわり、脳血管障壁を通過して脳細胞に達した。気分が落ち着いてくる。

(一つ隣に座っていれば、今頃…。カニ歩きしときゃよかった)

 考えても仕方ない事を煙と共に飲み込んだ。それよりも今考えなければいけないのは金の事だった。

 先日バイトをクビになった。

 いったい、いくつ目だろうか。電気もガスも止められている。先月の家賃も払っていない。

 借りられる所からはお金を借りまくっていた。総額がいくらになるのかまったく輝は把握出来ていなかった。消費者金融で借りた金の返済日も迫っている。
 手当たり次第知り合いに連絡を入れたが既読無視、もしくは既読さえつかない状態だった。

「どいつもこいつもよぉ…。…あっ!?…お前まで俺を見捨てんのか…」

 ヒビの入った画面を叩く。エネルギーが切れたスマホは真っ暗な画面のままうんともすんとも言わなくなった。

「はー、だりぃ…」

 こうなってくると頼れるのは1人しかいない。だか、必ず耳に痛いお説教がついてくるのだった。しかし背に腹はかえられない。輝は煙草をギリギリまで吸うとポイと捨て、駅前まで歩いて行った。





 フラフラ彷徨いようやっと見つけた公衆電話の前で輝はゴソゴソとジーンズのポケットを探る。少しだけ残った小銭が輝の手の中でチャラリと鳴った。

「…しけてんな。何分話せっかな…」

 黒の地毛が目立ち始めた金髪頭を掻きながら扉を開ける。しっかりと記憶に刻んであるその番号をピ、ポ、パ…と入力した。

 数コール後、相手が出た。

「あ、もしもしぃ?かなえ元気ぃ?ちょっとさぁ、悪いんだけどさぁ、…金貸してくんね?」
『…やっぱりお前か、輝』

 受話器の向こう側から硬い声が聞こえてきた。
 幼馴染の道長叶だ。
 眼鏡をかけ、毎日スーツを着て働く真面目な男だった。

「そうそうオレ俺。ねね、1万!いちまんでいいからさぁ…」
『貸すわけないだろ。ボケ』
「どしてぇ…?じゃあ五千円でもいいから!マジ困ってんだよお…すぐ返すからさ…」
『輝…。…俺が総額いくら貸したか覚えているか…?』
「んえぇ…、いくらだっけ…?……5万くらい?」
『28万2千200円だ。馬鹿。お前のすぐ返すは最初だけだったじゃないか。その後もズルズルズルズルと…』
「マジごめんってば!なぁ悪いんだけど手持ち数百円しか無くて、今も減り続けてるからさ、手短に、お金…」
『貸さない』
「…はぇ?」

 いつもなら困り果てた声で泣きつけば仕方なさそうに貸してくれる叶だったが、今回は微塵たりとも揺るがなかった。

「なんでだよぉ…。俺とお前の仲だろ?」
『…子供、産まれたんだ』

 予想外の告白に輝は目を丸くした。

「……へ?……そっかぁ!おめでと!え?結婚したの?え?いつ?…俺全然知らないけど」
『言ってないから』
「…なんでぇ?」
『結婚式に呼びたくなかった』
「………」

 あまりの事に声を出せなくなった輝に叶は冷めた声で告げる。

『俺も自分の家庭の事だけで手一杯だ。昼間っから遊んでないでお前も働け』

 100円玉分の通話時間があっと言う間に終わり、ガチャリと通話が切れた。
 輝は気落ちしたままノロリと電話ボックスから出、近くの木に寄りかかった。

(働けって……。働き口がねーんだよ…)

 気分を落ち着けようと煙草を探るが、そういえば先程のが最後の一本だった事を思い出した。

「あー、もう…本当ついてねぇ…」

 だらりと腕を垂らし、地面を見つめる。そこには生命を終えた蝉が転がっていた。

 あの叶が結婚…。しかも子供まで…。

 気弱で大人しい少年だった。
 虐められがちな彼を引っ張って輝がよく遊んでやった。いつからか剣道を始めた彼は心も身体も強くなった。
 それに比べて輝は女遊びを覚えて、ギャンブルを覚えて、いつの間にかパチンコにのめり込んで借金塗れになっていた。金を無心する輝の周りからは徐々に人が居なくなった。
 しばらくヒモもしていたが、無気力な輝よりも夢を追いかける若者の方が良いと捨てられてしまった。

 どうしてこんな事になってしまったのか…

 そもそも今日だって隣の席に座っていればこんな惨めな気持ちにならずに済んだ。もしかしたら、後1万円ほど入れてれば自分の台だって当たりが出たかもしれない…。
 輝の頭の中に確変が入った時の音と光が瞬く。金属の球が擦れる音。ハンドルの感触。確変が連続した時の脳汁が出るあの感覚…。ジャラララララ…ジャラララララ…ジャラララララ………

 ー…ジジ…ジ…ッ…ジジッ…ジ…ジ…

「!?…うわっ」

 死んだと思っていた蝉がけたたましく動き、輝の思考が戻って来る。残された時間は少ないのだろうがまだ生きていた。
 羽根だけで地面を這うそれを踏まれたら可哀想なので、輝は拾い上げて木にくっつけてやった。

「…はは、懐かしーな。よく叶と虫取りしたなぁ」

 幼少期の記憶が蘇り哀愁に浸る。あの頃は楽しかった。虫取り網を片手に山を走り回り自然を楽しんだ。


『なぁなぁ知ってる?オオクワガタってさ、黒いダイヤって言うらしーぜ!』
『へぇ、そうなんだ』
『デッカいのだといっせんまんになるんだって!』
『すごいねぇ!あ!てっちゃん知ってる?クワガタのアルビノは身体じゃ無くて目が白くなるんだって。すっごく珍しいんだよ!』
『じゃあ、デッカくて、目が白かったらおくまんちょーじゃだ!!』
『すごいねぇ!絶対つかまえよう!』


「…黒いダイヤ」

 蘇った記憶にハッとし、テルは目を輝かせた。

「そーだよ!黒いダイヤ!クワガタ!でっかいの見つけて一発逆転だあっ」


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