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  むかえにきたよ

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 山へ登る。

 その足は迷いなく進んでいた。
 一度来た道だ。帰りは2人で歩む道。
 その地面を踏み締めて着実に進んでいく。
 しかし途中まではよかったがどんなに探してもあの鳥居へと続く道は現れなかった。
 これは予想していた通りだったので、叶は慌てる事なく更に一定の距離を進むと荷物から板状の菓子取り出した。
 どんなに調べてもあの建造物の情報は無かった。
 それは普通では辿り着けないという事だ。

 案内人がいなければ。

「ほらチョコレート持ってきたぞ。好きなだけやる。出てこい」

 包装紙を破りパキパキと割ってしばらく待っていると、再びあの白い生き物が姿を現した。

「わにゃ!」
「ちょこちょこ!」

「さぁ、またあの場所に案内しろ」

 それらは疑うこともせず叶を先導していく。

 叶はピンと一本の線のように気を張り詰めながら登っていく。しかし以前よりもその心には希望がある。
 なんとしてでも連れ帰るのだと強い決意を抱き、叶の瞳はまっすぐと前だけを見据えていた。

 険しい山道をひたすらに進み案内されてたどり着いた鳥居をくぐり抜けた。
 再びの異界だ。
 その場所は変わる事無くただただ穏やかな風景が広がっている。
 恐怖はもうない。
 剣道の試合の前のように叶は集中していた。
 心は凪いだままだ。できうる限りの準備はした。
 後は実行するだけだ。

 異界の中を進み、あの建物が見えてくる。
 もうすぐだ。この古い建物に閉じ込められた親友を取り返す。この手の中に。あんな化け物にやるくらいなら全て叶の物にする。そう決めた。

 キシキシ鳴る階段を上がり、扉に手をかける。
 するりと簡単に引き戸は開いた。

 薄暗い部屋の中、うつぶせに押しつぶされてゆさゆさと揺れている色の抜けた髪が見える。

「ふっ♡あ"っひっ…♡…っはぁっゔっ♡」
『グチュ』

 気持ち良さそうに声を上げ、その指は強い快楽から逃れようとするように必死に床を掻いている。
 ぐちょぐちょと湿った音が響く。
 その醜い肉塊は触手をからませゆらめかせ上下の穴に深く入り込み輝の肉体を味わっていた。
 熱く絡むその心地良い肉壁の感触を叶はもう知っている。
 強い憎悪が湧き上がってくる。その全ては叶のものなのに、横取りした異生物に対する感情が抑えられない。
 しかし、勤めて冷静になるように大きく息を吸い吐き出した。

 一定の距離まで歩を進め、叶は輝に声をかけた。


「迎えにきた」


「…♡…っ♡………?」
「輝、帰ろう」

 ぬるぬるとうごめいていた肉塊はいぶかしげに動きを止めた。
 前回と同じように積極的にそれは叶に干渉してこない。ただ叶の様子を伺っている。
 輝がとろけた視線を叶に向ける。その焦点が合いモゴモゴと何か話そうと口が動くとずるりと触手が抜けていった。

「あひ…?かにゃえー…?」

 再び現れた叶がそこに立っていることに気がつくと、輝はまた遊びに来てくれたのだと嬉しくなった。
 ふにゃりと微笑むその顔は友人が久しぶりに会いに来てくれて、ただただ喜んでいる、それだけの表情だった。

「あそびに、きたのかぁー…」
「違う。帰るんだ」
「帰る?帰…る…。かえ、れ…る?……でも、コイツ離してくんねーよぉ…」 

『グチュ…』

「………」

 ずるりと輝の肛門から太い陰茎が出ていく。こねられ続けて赤く蕩けた肉壁が柔らかく陰茎に絡みついていた。

「んぁッ♡はぁ♡」

大小様々な触手がぐるりと輝の体に巻きついて持ち上げた。絶対に渡したくないと言う無言の抗議が伝わってくる。

「……返してもらう…絶対にだ…!!」

 激情を押さえつけながら叶は何か粉のような物を取り出した。その白い粉を握り、思い切り触手に投げつける。
 触手が巻き付いていた輝にもかかり、少量口に入った。

「ッ…!どうだっ…!」
「ぺっ…ぺっ…しょっぱ!」

『ピィ!グチュちゅ!?』

 その粉を浴びさせられた細めの触手は驚いたように縮まって輝の身体から離れた。ぴちぴち蠢いている。
 ただ太い触手はさらに輝の身体を締め付けた。

「ぐぇ」
「…ッ…はっ!効果があるッ…!……お前なんかにッ!輝を!渡してたまるかッ!!離せ!!!」

 スラリと引き抜かれた刃は微かな光を集め、刀身をかがやかせる。
 美しい構えから、迷いなく振り下ろされた刀はなんの抵抗も無く最後に残った太い触手を切り落とした。
ーースパン
 肉塊も驚いたのか切り取られた本体部分の断面を無数の瞳で見つめてバラバラと縦横無尽に何本もの触手が暴れて床や壁を叩いた。
 人間一人分程の重量感がある輝に巻き付いていた触手は、切り離された衝撃でゆるりと力が抜け、ドスンと落ちると不思議そうに床の上で身を捩った。

『グチュゥッ!!グチュちゅ!?』

「すっげ…」
「逃げるぞッ!輝!!走れ!!」
「おわ…わぁ…っ」

輝の腕を鷲掴み叶は脇目も振らずに走り出す。ヨタヨタしながらも輝も必死に足を動かした。

転がっている小さい白い生き物を踏み潰して走る。

『ぶに』『ブニュ』『ぐにゅ』

 オモチャのような音が鳴り、潰れるがすぐに元に戻っていた。

「あはは」
「笑ってる場合か!馬鹿!」
『グチュちゅ!グチュチュ!』

 肉塊も緩慢な動きでついてきたが、その巨体は出入り口を通ることが出来ずに詰まって止まった。
 巨大な身体は力も強かったが、不思議な事に建物が揺れる事もなければ、軋んだ音さえ鳴らなかった。
 入り口は開いてしまったが、此処に留めておくという機能事態は失っていなかったからだ。
 しかし逃げる事に夢中の2人はそんな事を気にすることなどなかった。

 本体は通る事が出来ないが伸縮自在な触手は必死に伸びてきて逃したくないと輝に絡みつく。

『グチュ…ッ!』
「おわっ!」
「クソッ!諦めろ!!」

 再び斬り落とそうと叶は刀を振り上げたが、肉塊も先程の出来事で学習したのか素早く刀身に絡みつきパキンといとも簡単にその刃をへし折った。

「…ッ!?……次はこいつだ!!」

 一瞬の判断で柄を捨てるとそれに向かって叶は今度は液体を浴びせた。
 ビルビル震えて触手が離れる。アルコールの香りが辺りに漂った。

『ピィ!ピィッ!?』

「走れ!」
「か、かなえ…!」

 グイグイ引っ張られて輝は足を動かす。
 ひたすら伸ばされた触手も限界があるのか、最後に輝の身体を掠ったが捕まえることが出来ずに、悲しげに振り回された。

 走って、走って走って。小さい生き物が必死に止めようと群がったが簡単に蹴散らされてしまった。

「わにゃっ!わにゃっー!」

 そうしてひたすらに足を進めると輝があんなに探したのに見つからなかった鳥居が見えてきた。

 硬く握られた手が、今度こそ離すまいと強く強く握りしめられる。

「帰る…っ!一緒に!帰るんだ!!」
「おひぃッ♡」

 輝達が鳥居を潜ろうとした瞬間。
 頭の中の触手が阻むようにくちゅくちゅ蠢いた。

「はぎッ♡うぉ"っ♡あはっ♡」
「て、てっちゃん!?」

 様子が変化した輝に驚き叶も足を止めた。

そうして原因を探るように幼馴染を眺めた。ビクビク痙攣し、多幸感に蕩けているその耳から細い触手がピルピル飛び出している事に気がついた。

「……ッ!?…これかっ!」
「はっはっ…♡ひんっ…♡」
「クソッ!なんなんだこの気色の悪い生き物は…!」

 叶はライターを取り出すとジリジリと触手を炙った。ヒルなどに噛まれた時に有効だった事を思い出し、試したのだった。
 最初こそ大量の粘液で守られていたが、やがて熱が本体まで達したのか怯む様に輝の耳の中に戻っていった。
 焼かれた衝撃からか脳内を弄り回す動きは止まったが、この場ではそれ以上どうする事もできなかった。

「うっ…うぅー……」
「くそッ!クソッ!とにかく行くぞ!ここから出るんだッ!」

 目に見える範囲の触手は取り除かれたが、体内に残されたそれらは今は諦めるしかない。
 幸いこの場からは脱出する事が出来そうだ。
 脳内をレイプされた事で脱力した輝を背負い今度こそ外に出る為に叶は道を進んだ。





その姿を白い生き物は寂しそうに眺めた。




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