痴漢に触られて

ユタエンシス

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本編(不定期更新中)

22.魚みるとおなかすくね

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 電車に揺られ、約束通りオタ君と水族館に来た。海が近いので海水浴もする予定だ。

「潮風!気持ちーーー!」
「最高だな!」
「水族館。クラゲが凄いんだって」
「へぇー。俺はイルカショーとペンギン見たい。あとアザラシ」
「いいね!あ、イルカと写真撮れるって」
「お、後でSNSにあげよー」
 
 そんな話をしながら受付のお姉さんに「いってらっしゃい」と送り出された。
 ちょっと薄暗い施設内は水槽だけが神秘的に光っている。魚の説明を観ながらオタ君と小声で楽しく盛り上がった。




 館内一大きい水槽に圧倒され、美しいクラゲ水槽に見惚れる。
 順路半分くらいの所でオタ君が声をかけてきた。

「ウー太、俺ちょっとトイレ行って来るな」
「わかった!この辺ウロウロしてる」

 オタ君が居なくなったので近くの水槽トンネルを眺めていることにした。

「…デッカい魚…」

 すぅっと隣に誰かが寄ってきた。
 来るだろうなと思っていたら、案の定来た。

「あれはクエって魚だよ。最大で1m20㎝を超す大型魚だ。雌性先熟しせいせんじゅくって言ってメスとして成熟した後に大きくなるとオスになるんだって。高級魚でとても美味しいよ」
「へぇー、じゃあアレは?」
「アレはね…」

 普通に会話してしまう。
 なんだか驚く事も無くなってきた。

 チラリと横を見上げる。
 いつも少年の自宅に来る時とは雰囲気が違った。眼鏡をかけてないし、髪も黒くてオシャレにセットしてある。整った顔立ちを誤魔化すような表情も今は浮かべていなかった。
 もしかしてその洋服はこないだ会った時に買ってたやつじゃ…。なんて考えると少年はなんだか男とデートでも来たような錯覚を覚えてドキドキとしてきた。

(ドキドキ?…ドキドキなんてしてない!やっぱりきたかなんて喜んでない!無いったらナイ!)

 心の中で言い訳しつつも少年は男の側から逃げ出さない。

「ふふ、僕はお魚見てると美味しそうだなぁって思っちゃうんだ」
「…情緒ないなー。………おれも」

 思わずニヤッとして男の方を見てしまった。男は蕩けるような優しい顔をして微笑んでた。

「でも、綺麗だね」
「…うん」

 そのまま並んで人工的な海を眺める。不思議な時間だった。

「おーい、ウー太!お待たせー」
「あ、オタ君!見て見て超デッカい魚!あれクエって言うんだってー!」

 友人に呼ばれて自然に男の側を離れる。
 その後は順路にそってオタ君と楽しく水族館を巡った。





「しらす丼食べよ!」
「いいね!」

 水族館を出るとすぐそばにある小島へ向かった。本島から橋が架かっているので歩いて行ける。
 お土産屋さんを眺めつつ、坂道を登ると景色が一望できる年季の入ったお店に入った。
 席に座るとふわっと嗅ぎ覚えのある香りが漂ってきて、すぐ後ろの席に男が座ったのがわかった。

「注文なんにしますかー」
「しらす丼お願いします!」
「おれもしらす丼お願いします!」
「はいー」

 一度お店の人は中に戻るとすぐ出てきて今度は男に注文を聞いている。

「注文なんにしますかー」
「しらす丼1つ」

 同じモノを頼んだようだった。

 窓辺の席だったので潮風が気持ちいい。
 チリチリと鳴る風鈴にウミネコの鳴き声が響く。
 海の満ち引きを見ているだけで楽しい。

 注文していたものはすぐに届いた。オタ君は仕切りにスマホで写真を撮っている。SNSにあげるらしい。
 それを横目に丼を頬張った。

「うまい!」
「…美味しいね」

 その声に応えるように少年にだけ聴こえるように男がつぶやいた。

 変な関係だ。

 でもなんだか特別なモノのような気がして優越感があった。
 オタ君と遊びに来ているのに、隙をみて逢引きして浮気をしているようなそんな感覚だった。
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