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第3話
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「あった、これか……RENさんの絵」
帰宅した利香は目の前のノートパソコンに映し出されたブラウザを見て首を捻った。
加奈に教えてもらったキーワードを入力してやっとたどり着いた「REN」に関するページ。そこには確かに彼の情報や一部の作品のサンプル画像などが映されていたのだが……。
(――なんかあんまり綺麗じゃないな)
数枚の絵はそれぞれ作風も違うようだったが、どれも美術館で見たような衝撃は襲ってこない。あの一枚が特別琴線に触れたのかなと利香は思ったが、そのときリンク先のページに先の展覧会の記事が貼られているのに気がついた。
(――あれ?)
そこには自分が魅入った例の赤い絵が映し出されていて、けれどやっぱりあのときのような感覚は襲ってこない。そんな馬鹿なと思いつつ拡大してみるが、やっぱりそこまで綺麗な絵には思えなかった。
これはどういうことだろうと思いつつ、そこで少女は画面を通した世界が現実ではないことを知る。
肉眼で捉える色彩と画面補正で変化してしまったそれ、加えて目の前では感じられた絵の具の盛り上がりによる立体感の有無。そして純粋な大きさというスケール。
親友が言っていた「絵は実物で見ないと意味ないのよ」という言葉を、利香は初めて理解した気がした。
「すごい……」
思わずこぼれた呟き。こうなると、是非とも他の絵も実際の目で見たくなる。
しかし残念ながら、調べられる限り彼の絵を見られるイベントはそうないようで、これは頻繁にチェックしなくてはと利香は意気込んだ。
つまりは、彼女はRENのファンになったのだ。
こんな気持ちは中学生の頃にだだハマりしたアイドル以来だぞと思いながら、利香は隅々までページを見ていく。そして、少々残念な一文を見つけてしまった。
(――けれど、RENはこの1年新作を発表していない)
そも画家が年に何枚くらい絵を描くのかを利香は知るところではなかったが、記事によればそれまでのRENは月に一枚というようなハイペースで絵を世に発表してきていた作家らしい。
この一年という空白期間がスランプによるものなのか未発表の大作の製作期間なのか、はたまた希少性を調節するためのビジネス戦略なのかは分からないと記者は綴っていた。
(――きっと大きな絵を描いてるんだよ!)
だったらいいなと利香は素直に期待した。大きい絵なら時間もかかるだろうし、きっと新作は素敵な作品に違いないと思えたからだ。
となれば新作が発表される前に既存の作品は見ておきたくなるのがファン心理だ。どこかに見れる作品はないのか加奈に聞いてみようと利香はノートパソコンの電源を落とす。
「RENさんかぁ、どんな人なんだろ」
顔出しNGなら展覧会などのイベントも不参加だろう。そこは少し残念に思いながら、そろそろ夕食を作る時間だと利香は時計を見やって一階の台所へと降りていくのだった。
◆ ◆ ◆
放課後。一人きりの廊下を利香はよろよろと進んでいた。
「佐藤、すまないがこれ運んでおいてくれないか?」
そう先生に言われたのが数分前。佐藤利香は自分の性格を悔やんでいた。
「うぐっ、お、重っ……!」
あの教師、なんて量のプリントを女子に押しつけやがる。そんな恨み節を吐きながら、しかし頼まれれば断れない自分の性格にこそ嫌気が差すというものだ。
これが加奈なら「え、無理です」とバッサリ切って捨てるのだろうが、そういうところも含め教師も頼む生徒を見分けているのだからどうしようもない。
「ひぃ、こんなの無理……ぎゃっ!」
よたよたと廊下を歩いていると、曲がり角で利香の悲鳴が上がる。プリントのせいで前が見づらくなっていた利香は、誰かにぶつかった衝撃で吹き飛んだ。
途端、舞い上がるプリント達。バサバサと白い紙が飛び交う廊下で尻餅を着きながら、利香は唖然としたで目の前を見上げていた。
「え……うそ……」
そこには端正な顔立ちの男子生徒が「やっちまった」という表情で散乱したプリントを見下ろしていて、ともすればその顔には見覚えがあった。
どうしよう。そんな言葉が利香の頭に渦巻いたとき、彼――速水蓮太郎の視線が利香へと止まる。
そのときの彼の顔を利香は忘れることができない。
目を見開き、どこか「見つけた」とでも聞こえてきそうな顔で利香を凝視した速水は、慌てたように利香を助け起こした。
「ちょ、えっ? あ、ありがとう……」
掴まれた右手。突然のことに思考が追いつかない。
性格が悪いこの男も倒れた女の子くらいは助けるのかと思いつつ、利香は不意に襲ってきた両肩の刺激にびくりと身を竦ませた。
(ち、近っ――!)
なぜか両肩に手を置かれ、キラキラとした速水の顔が鼻先に存在している。
少し力を込めて掴んでいる両手にドキリとしつつ、利香は続く速水の言葉に耳を疑った。
「お前、美しいな……」
いったいこいつは何を言ってるんだ。そんなことを思いつつ、利香の口が当然のように声を落とす。
「い、いえ、美しくないです」
利香の呟きに速水がきょとんと顔を見合わせた。お前こそなにを言っているんだという表情。
これが、佐藤利香と速水蓮太郎の出会いだった――。
帰宅した利香は目の前のノートパソコンに映し出されたブラウザを見て首を捻った。
加奈に教えてもらったキーワードを入力してやっとたどり着いた「REN」に関するページ。そこには確かに彼の情報や一部の作品のサンプル画像などが映されていたのだが……。
(――なんかあんまり綺麗じゃないな)
数枚の絵はそれぞれ作風も違うようだったが、どれも美術館で見たような衝撃は襲ってこない。あの一枚が特別琴線に触れたのかなと利香は思ったが、そのときリンク先のページに先の展覧会の記事が貼られているのに気がついた。
(――あれ?)
そこには自分が魅入った例の赤い絵が映し出されていて、けれどやっぱりあのときのような感覚は襲ってこない。そんな馬鹿なと思いつつ拡大してみるが、やっぱりそこまで綺麗な絵には思えなかった。
これはどういうことだろうと思いつつ、そこで少女は画面を通した世界が現実ではないことを知る。
肉眼で捉える色彩と画面補正で変化してしまったそれ、加えて目の前では感じられた絵の具の盛り上がりによる立体感の有無。そして純粋な大きさというスケール。
親友が言っていた「絵は実物で見ないと意味ないのよ」という言葉を、利香は初めて理解した気がした。
「すごい……」
思わずこぼれた呟き。こうなると、是非とも他の絵も実際の目で見たくなる。
しかし残念ながら、調べられる限り彼の絵を見られるイベントはそうないようで、これは頻繁にチェックしなくてはと利香は意気込んだ。
つまりは、彼女はRENのファンになったのだ。
こんな気持ちは中学生の頃にだだハマりしたアイドル以来だぞと思いながら、利香は隅々までページを見ていく。そして、少々残念な一文を見つけてしまった。
(――けれど、RENはこの1年新作を発表していない)
そも画家が年に何枚くらい絵を描くのかを利香は知るところではなかったが、記事によればそれまでのRENは月に一枚というようなハイペースで絵を世に発表してきていた作家らしい。
この一年という空白期間がスランプによるものなのか未発表の大作の製作期間なのか、はたまた希少性を調節するためのビジネス戦略なのかは分からないと記者は綴っていた。
(――きっと大きな絵を描いてるんだよ!)
だったらいいなと利香は素直に期待した。大きい絵なら時間もかかるだろうし、きっと新作は素敵な作品に違いないと思えたからだ。
となれば新作が発表される前に既存の作品は見ておきたくなるのがファン心理だ。どこかに見れる作品はないのか加奈に聞いてみようと利香はノートパソコンの電源を落とす。
「RENさんかぁ、どんな人なんだろ」
顔出しNGなら展覧会などのイベントも不参加だろう。そこは少し残念に思いながら、そろそろ夕食を作る時間だと利香は時計を見やって一階の台所へと降りていくのだった。
◆ ◆ ◆
放課後。一人きりの廊下を利香はよろよろと進んでいた。
「佐藤、すまないがこれ運んでおいてくれないか?」
そう先生に言われたのが数分前。佐藤利香は自分の性格を悔やんでいた。
「うぐっ、お、重っ……!」
あの教師、なんて量のプリントを女子に押しつけやがる。そんな恨み節を吐きながら、しかし頼まれれば断れない自分の性格にこそ嫌気が差すというものだ。
これが加奈なら「え、無理です」とバッサリ切って捨てるのだろうが、そういうところも含め教師も頼む生徒を見分けているのだからどうしようもない。
「ひぃ、こんなの無理……ぎゃっ!」
よたよたと廊下を歩いていると、曲がり角で利香の悲鳴が上がる。プリントのせいで前が見づらくなっていた利香は、誰かにぶつかった衝撃で吹き飛んだ。
途端、舞い上がるプリント達。バサバサと白い紙が飛び交う廊下で尻餅を着きながら、利香は唖然としたで目の前を見上げていた。
「え……うそ……」
そこには端正な顔立ちの男子生徒が「やっちまった」という表情で散乱したプリントを見下ろしていて、ともすればその顔には見覚えがあった。
どうしよう。そんな言葉が利香の頭に渦巻いたとき、彼――速水蓮太郎の視線が利香へと止まる。
そのときの彼の顔を利香は忘れることができない。
目を見開き、どこか「見つけた」とでも聞こえてきそうな顔で利香を凝視した速水は、慌てたように利香を助け起こした。
「ちょ、えっ? あ、ありがとう……」
掴まれた右手。突然のことに思考が追いつかない。
性格が悪いこの男も倒れた女の子くらいは助けるのかと思いつつ、利香は不意に襲ってきた両肩の刺激にびくりと身を竦ませた。
(ち、近っ――!)
なぜか両肩に手を置かれ、キラキラとした速水の顔が鼻先に存在している。
少し力を込めて掴んでいる両手にドキリとしつつ、利香は続く速水の言葉に耳を疑った。
「お前、美しいな……」
いったいこいつは何を言ってるんだ。そんなことを思いつつ、利香の口が当然のように声を落とす。
「い、いえ、美しくないです」
利香の呟きに速水がきょとんと顔を見合わせた。お前こそなにを言っているんだという表情。
これが、佐藤利香と速水蓮太郎の出会いだった――。
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