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【第2世・自殺者の使い方】
ここは天国か地獄か
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「ん………」
目が覚めると俺は横たわっていて、頭にはヘッドセットのようなものが被せられていた。
チクチクと頭皮が地味に痛むのを感じてさらに目が冴える。おそらくこのヘッドセットから無数の細く細かな針が俺の頭皮を刺激しているようだ。
手足は固定されていて全く動かない。俺がいる場所は…細長い酸素カプセルみたいな形の中に診察台のようなものがあって、俺はそこに固定されている。
「なんだここは…」
確か俺は屋上から飛び降りたはず。そして、目を覚ますとこの絶対に良いとはいえない状況に置かれているとこから推測するに、自分で命を絶っておきながら当たり前だが天国には逝けなかったらしい。
「ここは地獄か?業火で焼かれるのか?舌を抜かれるのか?」
その自分の言った言葉に自負するように鼻で笑うと、そこに重ねるように別の男の小さな笑い声も聞こえた。
俺はその笑い声の聞こえた方を重たいヘッドセットを傾けながら振り向くと、白衣を着ているがそのチャラそうな風貌からあからさまに医者ではない胡散臭い男が立っていた。
「キミは天国にも地獄にも逝かないよ。キミは平行世界に行くのです」
「平行世界?…そんなもんあるわけねえだろ」
「あるのです。ボクが創りました」
「どうやって?」
「それを聞いてキミの低俗な脳みそで理解できるのですか?」
「……俺は死んだのか?」
「いいえ。ボクが死なせませんでした」
薄々そうだろうなとは思っていたが、こうもあっさりと死ねなかったとわかってしまうとこうも人間は脱力するものなのか。
しかし、何故、まだ俺は生きて…死にそびれたのか気になった。
恐らくこの目の前にいる白衣の野郎が俺を死なせなかった元凶らしい。身体に痛みも違和感も何も感じないところから、俺は落ちるのに失敗したか、もしかすると落ちてさえもいないか、…まぁ、何にせよこの白衣の野郎が何を目的で俺を死なせなかったのか全く理解できなかった。
「なんでだ?どうして、俺を助けた?」
「"助けた"?そんなつもりは微塵もありません。ボクは"死なせなかった"だけです。"助けた"なんて一言も言ってません」
「じゃあ、別の言い方で聞く。どうして俺を生かした?理由はなんだ?」
「死を選んだキミは本来なら死んでいる存在です。キミはもうこの世界に存在しないものになったのです。だから、この世界に居場所を失くしたキミに、ボクが次の居場所を与えてあげようと思いまして」
「次の居場所だと?………………そんなもの、」
「"必要ない"という拒否権は受け付けていません。何故か?キミはもうこの世界では死んでいる存在なのです。そんなキミに人権などありません。だから、もちろん拒否権もありません」
嫌味なぐらい淡々と話すこの目の前にいる白衣の野郎に殺意を抱いたが、抱いたところで"死んでいる存在"の俺が殺意だなんてそれもそれで滑稽だと察した。
「とりあえず、『てめえに権利はねえから俺に黙って従え』ってことだろ?」
「ようやくわかっていただけたようですね。飲み込みの遅い御方だ」
「好きにしろよ。こんな捨てた命……」
そうだ。この世界にいてももう彼女は……早希は…………………いない。
俺の記憶の大半を占める彼女の愛おしい笑顔を思い出して感傷に浸っていると、白衣の野郎は問答無用で俺の入っていた酸素カプセルのような装置の蓋を閉めた。
すると、拍子に生温いヌルヌルとした液体がカプセル内に流れ込み、突然水を差されるとはこの事か…、俺の意識は愛おしい感傷から一気に背中の気持ち悪い液体へと向けられた。
やがて装置内が全てその気持ち悪い液体で満たされると、俺の意識はゆっくりと消えていこうとしていた。
あの白衣の野郎が平行世界を創ったなんて信じてもいないし、もし本当に創っていたとしても、今からそこに行ったところで…そこに早希はいない。
死ねない脱力感と、彼女に会えない絶望感と、いっそこの気持ち悪い液体の中で酸欠で死ねればいいのに、とか。
…………しかし、気持ち悪い液体の中は不思議と苦しくはなかった。
ただ、意識だけが、ゆっくりと遠退いて、彼女の、笑顔も、遠退いて、瞼を閉じると、闇に浸かっていくような、心地良い、そして気持ち悪い感覚に、浸っていった……………。
目が覚めると俺は横たわっていて、頭にはヘッドセットのようなものが被せられていた。
チクチクと頭皮が地味に痛むのを感じてさらに目が冴える。おそらくこのヘッドセットから無数の細く細かな針が俺の頭皮を刺激しているようだ。
手足は固定されていて全く動かない。俺がいる場所は…細長い酸素カプセルみたいな形の中に診察台のようなものがあって、俺はそこに固定されている。
「なんだここは…」
確か俺は屋上から飛び降りたはず。そして、目を覚ますとこの絶対に良いとはいえない状況に置かれているとこから推測するに、自分で命を絶っておきながら当たり前だが天国には逝けなかったらしい。
「ここは地獄か?業火で焼かれるのか?舌を抜かれるのか?」
その自分の言った言葉に自負するように鼻で笑うと、そこに重ねるように別の男の小さな笑い声も聞こえた。
俺はその笑い声の聞こえた方を重たいヘッドセットを傾けながら振り向くと、白衣を着ているがそのチャラそうな風貌からあからさまに医者ではない胡散臭い男が立っていた。
「キミは天国にも地獄にも逝かないよ。キミは平行世界に行くのです」
「平行世界?…そんなもんあるわけねえだろ」
「あるのです。ボクが創りました」
「どうやって?」
「それを聞いてキミの低俗な脳みそで理解できるのですか?」
「……俺は死んだのか?」
「いいえ。ボクが死なせませんでした」
薄々そうだろうなとは思っていたが、こうもあっさりと死ねなかったとわかってしまうとこうも人間は脱力するものなのか。
しかし、何故、まだ俺は生きて…死にそびれたのか気になった。
恐らくこの目の前にいる白衣の野郎が俺を死なせなかった元凶らしい。身体に痛みも違和感も何も感じないところから、俺は落ちるのに失敗したか、もしかすると落ちてさえもいないか、…まぁ、何にせよこの白衣の野郎が何を目的で俺を死なせなかったのか全く理解できなかった。
「なんでだ?どうして、俺を助けた?」
「"助けた"?そんなつもりは微塵もありません。ボクは"死なせなかった"だけです。"助けた"なんて一言も言ってません」
「じゃあ、別の言い方で聞く。どうして俺を生かした?理由はなんだ?」
「死を選んだキミは本来なら死んでいる存在です。キミはもうこの世界に存在しないものになったのです。だから、この世界に居場所を失くしたキミに、ボクが次の居場所を与えてあげようと思いまして」
「次の居場所だと?………………そんなもの、」
「"必要ない"という拒否権は受け付けていません。何故か?キミはもうこの世界では死んでいる存在なのです。そんなキミに人権などありません。だから、もちろん拒否権もありません」
嫌味なぐらい淡々と話すこの目の前にいる白衣の野郎に殺意を抱いたが、抱いたところで"死んでいる存在"の俺が殺意だなんてそれもそれで滑稽だと察した。
「とりあえず、『てめえに権利はねえから俺に黙って従え』ってことだろ?」
「ようやくわかっていただけたようですね。飲み込みの遅い御方だ」
「好きにしろよ。こんな捨てた命……」
そうだ。この世界にいてももう彼女は……早希は…………………いない。
俺の記憶の大半を占める彼女の愛おしい笑顔を思い出して感傷に浸っていると、白衣の野郎は問答無用で俺の入っていた酸素カプセルのような装置の蓋を閉めた。
すると、拍子に生温いヌルヌルとした液体がカプセル内に流れ込み、突然水を差されるとはこの事か…、俺の意識は愛おしい感傷から一気に背中の気持ち悪い液体へと向けられた。
やがて装置内が全てその気持ち悪い液体で満たされると、俺の意識はゆっくりと消えていこうとしていた。
あの白衣の野郎が平行世界を創ったなんて信じてもいないし、もし本当に創っていたとしても、今からそこに行ったところで…そこに早希はいない。
死ねない脱力感と、彼女に会えない絶望感と、いっそこの気持ち悪い液体の中で酸欠で死ねればいいのに、とか。
…………しかし、気持ち悪い液体の中は不思議と苦しくはなかった。
ただ、意識だけが、ゆっくりと遠退いて、彼女の、笑顔も、遠退いて、瞼を閉じると、闇に浸かっていくような、心地良い、そして気持ち悪い感覚に、浸っていった……………。
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