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【第4世・五等爵とは】
切り裂きジャック
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切り裂きジャックは女性…とくに娼婦ばかりを襲い、その娼婦の臓器を持ち去ったり、時にはバラバラにしたり、殺された女性たちを見るも無残な姿にした。
凶器はメスのようなもの。臓器を摘出する手際から犯人は医師の可能性など諸説あるが、実際に使われた凶器は日本刀のように長く、ナタよりも大きい刃物で、メスでも何でもなく裂いた肉を傷めない手際の良い殺し方だっただけだった。
切り裂きジャックは医師でも何でもなかったのだ。
ただの、男だった。
どうして俺がそこまで詳しく知っているのか。
俺は、俺たちは…俺たち初代五等爵は、切り裂きジャックが誰なのか知っているからだ。
そう…アビリティー・コーポレーションは『罪の力』のある者たちが集う場所。
切り裂きジャックは世間では恐れられている存在だったが、彼ほどこの組織に適した力はないだろう。
そんな切り裂きジャックの事件を一面に載せた新聞を見ながら、ある日、兄貴は突然ぽつりとある言葉を零した。
「欲しい」
当時はその兄貴の言葉に俺も他の五等爵も動揺を隠せなかった。
兄貴は切り裂きジャックをアビリティー・コーポレーションに入れようとしている、そう察した俺たちは下の者の安否も考えて、どうにかそれだけは阻止しようとしたが、"絶対的存在"…その兄貴の肩書きが俺たちを萎縮させた。
…それから幾日か。どうにか世間や警察よりも先に切り裂きジャックを見つけ、処罰される前に我が社に取り込もうと兄貴がいろいろ手回しを始めた頃。
どん底から湧いたような恐怖は何の前触れもなく、突然俺たちの目の前に現れたのだった。
「俺を……五等爵にしてくれ」と。
誰も切り裂きジャックの正体を知らない。そのはずなのに、一目この男を見た瞬間からこの男があの切り裂きジャックだと全員が察した。
男は武器を持っているわけでも、殺意を見せているわけでも、返り血を浴びているわけでもない。
それなのにこの男が切り裂きジャックだと察したのは、禍々しい雰囲気を醸し出していたのもそのひとつだが、一番はこの洗っても消し去ることのできない、吐き気を催すような他人の血の臭いだった。
アビリティー・コーポレーションの五等爵ともなればこの手の臭いは腐るほど嗅いできた。
生肉と毛髪、涙や汗やその他の体液、そして被害者が身に着けていた衣服や貴金属の臭い……そのすべてを吸い込んだ返り血を浴びたのだ、…身体に染み付く程に。
それがこの男が人を殺したのは一度や二度じゃないことを意味する。
斬っては浴び、そして渇き、斬っては浴び、そしてまた渇き、…その繰り返し。
何度この男はその惨劇を自らの手で作り上げてきたのだろうか。想像するだけでもその場で吐きそうになった。
しかし、こびりついた血の匂いを嗅いだからといって、この男を切り裂きジャックだと断定させるにはまだ早い。俺たちの勘違いで、本当はただの殺人鬼だっただけだということもありえなくはないのだ。
俺はその男を目の前にして、俺より低い身長の男の頭を見下げた。男は俺を見ようとはせず、ただ下を向いていた。
「どうして警察に捕まったり、裁判にかけられたわけでもない人間が、自らこんな所に来た?お前…此処がどんな場所かわかっているのか?」
「『罪の力』を有効活用してくれると聞いた。俺の力なら不足ないはずだ。俺はどうしても五等爵になりたい」
「…お前はあの切り裂きジャックか?」
「そうだと言ったら五等爵になれるのか?」
「お前が切り裂きジャックかどうかよりも、まずおまえの力量を測りたい。"たまたま"ひとつ五等爵の席は空いているがな…、候補生がひとりもう決まっている。綾小路輝光という男だ」
「綾小路…輝光…」
赤黒く長い髪から覗く右目だけ見える真っ黒に澄んだ瞳に俺の顔が映る。その綺麗な闇の中に溶けこむもう一人の俺が、目を輝かせながら俺の方を見つめているではないか。
気持ち悪い。俺はこんな無邪気な子供のような顔でこの男を見ているのか?一体何故?
未だ見たことない只者ではない者への興味本心か、触れてはいけないものに触れてしまう興奮感か、俺は目の前のこの男に対して神々しく思えてしまう。
一体どうしてしまったというのだ俺は…。
「何をすればいい?」
俺たち五等爵…正確にはまだ四人だが、話し合いの末、『五等爵になりたいのであれば、他の五等爵を目指す者に認められなければいけない』とその男に提案した。
ここでは功績を積んで五等爵を目指すことが全てだ。突然現れた新参者に横槍を入れられて、容易に伯爵の座を渡すほど皆甘くはない。この男を阻止するはずだ。
命懸けで。
兄貴はそうなることがわかっていた。アビリティー・コーポレーションにいるうちは、五等爵の座に着くことで世間から拒絶された自らの力を認められるのだから。
新参者にその座を取られるぐらいなら殺す勢いで阻止しに来る。
…それがいけなかった。
凶器はメスのようなもの。臓器を摘出する手際から犯人は医師の可能性など諸説あるが、実際に使われた凶器は日本刀のように長く、ナタよりも大きい刃物で、メスでも何でもなく裂いた肉を傷めない手際の良い殺し方だっただけだった。
切り裂きジャックは医師でも何でもなかったのだ。
ただの、男だった。
どうして俺がそこまで詳しく知っているのか。
俺は、俺たちは…俺たち初代五等爵は、切り裂きジャックが誰なのか知っているからだ。
そう…アビリティー・コーポレーションは『罪の力』のある者たちが集う場所。
切り裂きジャックは世間では恐れられている存在だったが、彼ほどこの組織に適した力はないだろう。
そんな切り裂きジャックの事件を一面に載せた新聞を見ながら、ある日、兄貴は突然ぽつりとある言葉を零した。
「欲しい」
当時はその兄貴の言葉に俺も他の五等爵も動揺を隠せなかった。
兄貴は切り裂きジャックをアビリティー・コーポレーションに入れようとしている、そう察した俺たちは下の者の安否も考えて、どうにかそれだけは阻止しようとしたが、"絶対的存在"…その兄貴の肩書きが俺たちを萎縮させた。
…それから幾日か。どうにか世間や警察よりも先に切り裂きジャックを見つけ、処罰される前に我が社に取り込もうと兄貴がいろいろ手回しを始めた頃。
どん底から湧いたような恐怖は何の前触れもなく、突然俺たちの目の前に現れたのだった。
「俺を……五等爵にしてくれ」と。
誰も切り裂きジャックの正体を知らない。そのはずなのに、一目この男を見た瞬間からこの男があの切り裂きジャックだと全員が察した。
男は武器を持っているわけでも、殺意を見せているわけでも、返り血を浴びているわけでもない。
それなのにこの男が切り裂きジャックだと察したのは、禍々しい雰囲気を醸し出していたのもそのひとつだが、一番はこの洗っても消し去ることのできない、吐き気を催すような他人の血の臭いだった。
アビリティー・コーポレーションの五等爵ともなればこの手の臭いは腐るほど嗅いできた。
生肉と毛髪、涙や汗やその他の体液、そして被害者が身に着けていた衣服や貴金属の臭い……そのすべてを吸い込んだ返り血を浴びたのだ、…身体に染み付く程に。
それがこの男が人を殺したのは一度や二度じゃないことを意味する。
斬っては浴び、そして渇き、斬っては浴び、そしてまた渇き、…その繰り返し。
何度この男はその惨劇を自らの手で作り上げてきたのだろうか。想像するだけでもその場で吐きそうになった。
しかし、こびりついた血の匂いを嗅いだからといって、この男を切り裂きジャックだと断定させるにはまだ早い。俺たちの勘違いで、本当はただの殺人鬼だっただけだということもありえなくはないのだ。
俺はその男を目の前にして、俺より低い身長の男の頭を見下げた。男は俺を見ようとはせず、ただ下を向いていた。
「どうして警察に捕まったり、裁判にかけられたわけでもない人間が、自らこんな所に来た?お前…此処がどんな場所かわかっているのか?」
「『罪の力』を有効活用してくれると聞いた。俺の力なら不足ないはずだ。俺はどうしても五等爵になりたい」
「…お前はあの切り裂きジャックか?」
「そうだと言ったら五等爵になれるのか?」
「お前が切り裂きジャックかどうかよりも、まずおまえの力量を測りたい。"たまたま"ひとつ五等爵の席は空いているがな…、候補生がひとりもう決まっている。綾小路輝光という男だ」
「綾小路…輝光…」
赤黒く長い髪から覗く右目だけ見える真っ黒に澄んだ瞳に俺の顔が映る。その綺麗な闇の中に溶けこむもう一人の俺が、目を輝かせながら俺の方を見つめているではないか。
気持ち悪い。俺はこんな無邪気な子供のような顔でこの男を見ているのか?一体何故?
未だ見たことない只者ではない者への興味本心か、触れてはいけないものに触れてしまう興奮感か、俺は目の前のこの男に対して神々しく思えてしまう。
一体どうしてしまったというのだ俺は…。
「何をすればいい?」
俺たち五等爵…正確にはまだ四人だが、話し合いの末、『五等爵になりたいのであれば、他の五等爵を目指す者に認められなければいけない』とその男に提案した。
ここでは功績を積んで五等爵を目指すことが全てだ。突然現れた新参者に横槍を入れられて、容易に伯爵の座を渡すほど皆甘くはない。この男を阻止するはずだ。
命懸けで。
兄貴はそうなることがわかっていた。アビリティー・コーポレーションにいるうちは、五等爵の座に着くことで世間から拒絶された自らの力を認められるのだから。
新参者にその座を取られるぐらいなら殺す勢いで阻止しに来る。
…それがいけなかった。
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