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海賊の楽園編
第25話 ドゥボラの陰謀
しおりを挟む会議は一時中断し、午後からの決闘で頭領が決められることになった。決闘の場所は砦の屋上にある、小さな闘技場で行われる。
アルゴたちは自分たちのアジトで昼食をとり、一足先に闘技場へと向かったが、サルマとアイラはまだアジトに残ってゆっくりしている。
「ねえサルマさん。アルゴさんの戦い見に行かなくていいの?」
アイラがソファに寝そべってだらだらしているサルマに声をかける。
「うーん……ま、わざわざ見に行かなくてもいいだろ。ドゥボラがどれほどの実力の持ち主か俺はよく知らねぇけど……アルゴの実力ならたぶん大丈夫じゃねぇか? それより俺は疲れた……。戦士島にいた頃もそうだったが、会議ってのは昔から苦手だ。同じ場所にずっと座ってるだけで肩が凝るし、くっそ疲れる……」
「サルマさん、自分から会議に参加するって言ったんじゃ……? それに、そんなに長い時間座ってたわけじゃなかったのに」
「うるせぇ」
サルマは一瞬アイラの方に顔を向けてそう言った後、また先程の体勢に戻る。
(でもサルマさんが自分から戦士島にいた頃の話するなんて、意外だなぁ。前はその話題するの嫌がってたのに。こないだの戦士島での出来事でちょっとは吹っ切れたのかな)
アイラはそう思って少し笑みを浮かべる。
「サルマくん、ここにいるのか?」
その時、ドンドンと扉を叩く音と、ケーウッドの声が扉の向こうから聞こえてくる。サルマは面倒くさそうにゆっくりと体を起こす。
「ケーウッドか? 何か用かよ」
「ちょっと困ったことになった。急いで屋上の闘技場へ、一緒に来てくれないか」
サルマは訝しげな表情でアイラと顔を見合わせた後、扉を開け、外で待っているケーウッドのもとへ行く。
ケーウッドは二人のつけているアルゴ海賊団のバンダナに目をやる。
「キャビルノに聞いたけど……キミたち、確かアルゴの海賊団に入ったんだったよね」
「ま、一日限りでだがな。で、一体何が起こって……」
サルマはとりあえず何が起こっているのか確認しようとするが、ケーウッドに遮られる。
「説明は後だ。とりあえずついて来て」
ケーウッドは急ぎ足で螺旋状の道を上っていく。サルマはため息をついて、アイラと共にそれに続く。
闘技場に着くと、既に多くの海賊たちが集まっていた。
そして、その中心に――――――アルゴが倒れているのが見えた。
サルマはアルゴの方へ駆け寄り声をかける。
「ど、どうしたんだよ! まさか……負けたのか?」
「違うわよ」
キャビルノが首を横に振って、ドゥボラを睨み付ける。
「まだ決闘は始まってもいないのに、ドゥボラのヤツが……」
「おおっと、言いがかりはよしてくれ。俺がやったなんて証拠がどこにあんだよ」
向こうからにやついた顔のドゥボラが歩いてくる。
「証拠って……それ、あんたの蛇でしょ! その蛇が……兄貴が闘技場の扉を開けて入ってきたとたん、襲いかかって兄貴の足噛んだの、見たんだから!」
キャビルノがドゥボラの剣にまとわりついている、赤い目をした黒い色の小さな蛇を指差す。
ドゥボラは蛇の頭を指で撫でて笑う。
「ああ、俺の蛇だってのは否定しねぇよ。だが、俺がけしかけたんじゃねぇ。ただ蛇を放してたところに、おめぇらが急に入って来やがったから……こいつ驚いて思わず噛んじまったんだろうよ」
「何それ、絶対嘘よ! 偶然、決闘の相手の兄貴を噛むなんて……あり得ないわ!」
キャビルノがそう喚いているのを見ながら、ケーウッドがサルマにぽつりと言う。
「……あれがドゥボラのやり方だよ。アイツは蛇使いで、毒蛇を使った戦法で勝ってきた汚いヤツなんだ。とはいえ決闘前に仕掛けてくるとは考えてなかった……迂闊だったよ」
「で、そいつ診療所に連れてかなくていいのか? 確か、ケーウッドが島の施設全部抑えたって言ってたろ?」
ドゥボラがにやにや笑ったままケーウッドをちらりと見て言う。ケーウッドは診療所はまだ抑えていなかったが、焦りが顔に出ないようにこちらもにやりと笑い返して言う。
「いや……とりあえず僕のところの船医が今ここにいるからこの場で診させて、先に応急手当しておくよ。……ジョージ、頼む」
ケーウッドの近くにいた、ジョージと呼ばれた黒いマントに黒い博士帽をかぶった眼鏡をかけている男が、頷いてアルゴの元に寄り、持っていたバッグを開けて治療にあたる。
「で、決闘はどうすんだ? コイツに噛まれたら、数日は体のしびれが取れねぇからなぁ……アルゴが決闘に参加するのは無理だと思うぜ。ま、アルゴ海賊団の船員で船長の代わりに戦いたいってヤツがいれば、戦ってやらんでもないけどな。とは言っても……ずいぶんへなちょこなヤツばっかり揃えたもんだな!」
ドゥボラはそう言って、サルマとアイラを含めたアルゴ海賊団の面々を指さし、ガハハハと笑う。女と子供とひょろりとした細身の男しかいないアルゴ海賊団の顔ぶれを見た他の海賊たちからも、バカにしたような笑い声が聞こえてくる。
その時、ケーウッドが横にいたサルマの肩に手を置いて、皆に向けて言う。
「……アルゴの代わりに彼が戦うってさ。さっきお前の言ったとおり、彼はアルゴ海賊団の一員だから……勝ったらアルゴが頭領ってことでいいな?」
サルマはそれを聞くと目を丸くして、何か言いたげに口を開く。アイラやアルゴ海賊団の三人も、驚いた様子でサルマを見る。
ドゥボラは腕を組み、鼻で笑って言う。
「ハッ! その細っこい兄ちゃんが相手か? 大丈夫なのか? 正直やめといた方がいいと思うぜ?」
「お、おい何勝手に……俺は嫌だぞ、あんな蛇使いと戦うの! 頭領になりたくないだとか言ってねぇで、オマエが戦えばいいじゃねーか!」
サルマがひそひそ声でケーウッドに訴える。
「僕でも厳しいと思うよ。あの剣にまとわりついてる蛇はなかなか厄介だからね。ひと噛みされたら手に力が入らなくなってしまう……。卑怯な戦法だけど、蛇は反則ってルールも特にないし」
「オマエでも厳しいってんなら、俺にだって厳しいじゃねーか! なんで俺に……」
「キミ、確か三日月剣持ってたろ?」
唐突に剣の話をするケーウッドを、サルマは訝しげに見る。
「持ってるけど、今なんでそんなこと……」
「おそらくアイツはね、警備戦士が苦手なんだよ。だからこの島から出たがらない……僕はそう睨んでるんだ。それに、キミのご先祖様は蛇退治で有名じゃないか。だから警備戦士の長のシンボルは蛇で……長の船の帆のエンブレムには二本の三日月剣とともに蛇の姿も描かれ、船首には紅竜に加えて蛇の船首もあるんだろう?」
(長の船は見たことないけど……そういえば、サダカさんの部屋の扉とか椅子に、蛇の模様の装飾があったような……)
アイラはそれを聞いて、ふとサダカの部屋の様子を思い出す。
サルマは呆れた表情でケーウッドの顔を見つめる。
「せ、先祖って……伝説の戦士のことか? そんな昔の伝説、俺とは関係ねぇだろ。第一、俺は警備戦士じゃねぇんだし……」
「関係ないかどうかは戦ってみりゃわかるさ。とにかく、三日月剣で戦えばキミはまず負けないはずだよ」
ケーウッドがなぜか自信ありげにそう言うのを聞いて、サルマは眉をひそめる。
「……オマエ、適当なこと言ってやがるだろ。第一、こんなとこで三日月剣なんか出したらマズいんじゃ……」
「大丈夫。後始末は僕がするから。キミは、とりあえずドゥボラに勝ってくれさえすればいい」
ケーウッドはそう言ってサルマにウインクをする。サルマは諦めの表情で深くため息をつく。
「わーーったよ! やればいいんだろやれば!」
サルマは気乗りしない様子で、ゆっくりとドゥボラの前に進み出る。アイラはその背中を不安そうに見つめる。
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