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ディール島編
第29話 秘密の中庭
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「……すげぇ」
サルマとアイラは皇帝のいる大宮殿までやってきて、それを目の前にし――その大きさと豪華さに圧倒されている。
その横で、ラビがアイラの手の中のコンパスを覗き込みながら言う。
「そのコンパスの針の示すとおり来てみたけど……やっぱりこの大宮殿を示してるみたいだね。試しに宮殿を通り過ぎてみたら、針がくるっと回って針の位置が宮殿側に変わったし」
「……だとすれば厄介だな。宮殿の中になんて、そう簡単に入れてくれるもんじゃねーだろ」
「そうだね。王族とその家来以外は入れないよ。普通はね」
そう言うラビをサルマは訝しげに見る。
「何だよ、特別に中に入る方法でもあるのか?」
「うん、案内してあげなくもないよ。その代わり、もし目的地までたどり着いたらちょっとでもオマケしてくれると嬉しいな」
ラビはにっこりと笑ってサルマを見る。
「ああ……わーったよ。もしコンパスの示す場所に着いたら、銅貨一枚くらいは多めに払ってやる」
「……銅貨一枚かぁ……。ケチだなぁおじさん」
ラビが肩をすくめてそう言うと、サルマが食ってかかる。
「んだよ、オマケしてやるってだけありがたく思いな。それに俺はまだ若いんだ、おじさんじゃねぇ!」
「……まぁいいか。じゃ、大宮殿の内側に入るよ」
ラビは大宮殿をぐるりと取り囲んでいる高い塀の上から少しだけ顔を出し、近くに近衛兵がいないことを確認する。そして再び絨毯を操って塀の内側にサッと入り、宮殿の敷地内に降り立つ。
ラビは絨毯を慣れた手つきでくるくると巻き、近くの茂みに隠しながら言う。
「塀の中は近衛兵がいっぱいいるし、絨毯で移動すると目に付きやすいから……ここからは歩いて行くよ。そうだ、コンパスの様子はどうなってる? 何か変わった?」
ラビにそう言われ、アイラはコンパスを確認する。
「うーん、まだ宮殿の建物の方指してるよ。でも、どうしてコンパスの針はくるくる回らないんだろ。いつもなら目的の島についた頃には回ってたし、宮殿が目的地だってところまでわかったのに回らないなんて……おかしいなぁ」
アイラがしきりに首をひねっているのを見て、サルマが言う。
「まぁ、とりあえず針の示す方に行ってみようぜ。おい、絨毯乗り。塀は絨毯で超えられたが、どうやって宮殿の中に侵入するんだよ」
「宮殿の中に入るのに、いい抜け穴があるんだ。こっち。近衛兵に見つからないように……茂みに隠れながらついて来て」
二人はラビの指示に従い、隠れながら移動する。ラビの言う目的の場所は、幸い宮殿の裏側の、影になっている目立たない場所であったため、近衛兵には見つからずに移動することができた。
ラビは、宮殿の壁面の一部分に金網が取り付けられている場所まで行くと、その金網を取り外す。すると、小さな隠し通路が現れる。
「ほら、この抜け穴から中に入れるんだ。案内するからついて来て」
ラビが四つん這いになって抜け穴に入ろうとするのを、サルマが引き止める。
「……ちょっと待て。こんな小せぇ抜け穴から行けるのかよ。これって通路とは言えねぇだろ……通気口なんじゃねぇのか?」
「そんな感じのことに使ってるみたいだけど、大丈夫。金網外して四つん這いに進んで行けば、通り道として使えるよ」
「そうじゃなくて……俺が通れねぇって言ってんだよ。オマエら二人はガキだから大丈夫かもしれねぇが、俺には狭すぎて……」
「そっか、おじさん大人だから入るの難しいのかぁ」
「だから、おじさんじゃねぇって言って……」
「誰だ! そこにいるのは!」
二人が言い合っているその声を聞きつけてか、近衛兵らしき人物の声と、こちらに向かって近づいてくる音がする。ラビはアイラの手を引っ張る。
「早く! この抜け穴に入るんだ。まだ姿は見られていないから……今のうちに!」
「ちょっと待て、俺はどうすんだよ。さっき言ったとおり、俺はそこには入れねぇんだぞ!」
「そ、そうだなぁ。とりあえず、別の隠れられる場所を探すか逃げるかしてもらうしか……。それか、あえて捕まってもらうのもアリかな……」
「な、なんで俺が捕まらねーといけねぇんだよ!」
サルマが眉を釣り上げると、慌ててラビが付け加える。
「大丈夫、近衛兵を傷つけたりしない限りは、後で牢から出られるように取り計らってあげられるから! とにかく、今は僕とこの子だけで先へ進むよ! あ、ちょっと待って。最後に、近衛兵に見つからないうちに抜け穴に蓋するのをお願い! この入り口だけは、近衛兵に見つけられたくないんだ!」
「ったく、俺様にあれこれ命令しやがって……」
サルマはそう言いながらも、素早く抜け穴に蓋をする。そして立ち上がったところで、二人の近衛兵が建物の角から姿を現す。
「いたぞ! あいつだ!」
「チッ……」
サルマは舌打ちし、近衛兵の来た方と逆側に向かって走り出す。
(……このまま逃げ切られれば一番いいんだが、無理でも時間を稼いで、後はアイツの言ったことを信用するしかねぇ。しかしあの絨毯乗り、一体何者なんだ。奴隷に俺の処遇をどうこうできる力があるとは思えねぇが……)
サルマはそう思いながら、腰につけているロープを取り出して先端に輪を作る。そして宮殿の壁から張り出したバルコニーの手すりの部分にロープを投げつけ、先端の輪が引っかかったところでロープをつたって上まで移動し、追ってくる近衛兵から遠ざかる。
アイラとラビはしばらくの間、四つん這いになって抜け道を進んでいく。慣れた様子で進んでゆくラビに置いていかれまいと、アイラは必死になってラビの後をついて行く。
「……見えたよ。あれが出口だ」
ラビがそう言って、向こうの方に見える光に向かって行く。
そして光の元へ辿り着くと、通路から抜け出す。アイラもそれに続いて狭い抜け道から出る。
「ここは…………」
アイラはそう言って辺りを見回す。そこは、そんなに広い場所ではない、小さな中庭のような場所であった。
天井がなく、上から日の光が降り注いでいるその庭は、地面には青々とした芝生が生え、壁にはところどころツタが伸びている。壁沿いには、色とりどりの花が咲いているいくつもの花壇が置かれている。
そして庭の中央には、大理石で出来ている小さな噴水がある。それらが日の光に照らされている様子はとても綺麗で、アイラは思わず見とれてしまった。
「……あっ……!」
アイラは庭に見とれていたため、噴水の縁に腰掛け、こちらをじっと見ている人物に遅ればせながら気がついて驚いた。
その人物はアイラよりも背が低く……頭でっかちで足の短い、アイラよりも子供っぽい体型をしている女の子であった。
「あなたは……? ここの宮殿の子?」
アイラがそう言うと、その子はちょこちょことこちらへ歩いてきて、黙ったままアイラの方を見上げてじっとアイラの顔を眺めた。
その子は眠そうなぼんやりとした表情をしており、短いが太くてしっかりとした眉と、大きな瞳が印象的であった。瞳は深みのある紫色をしており、こうしてじっと見つめられていると吸い込まれそうなほどである。
肌は透き通るように白く、それに対して髪は真っ黒で量が多く、前髪を額の真ん中で分け、両耳の後ろで髪を二つに結んでいる。
服装はふわりと膨らんだ白いズボンに、こちらもふわっと膨らんだ翠色の、肩と腕の出ている服を着ている。額と首、腕には金色の輪飾りをつけ、そしてその手には――――金色に輝く、小さなオイルランプを大事そうに持っていた。
(もし宮殿の子なら、この子は王族……なのかな? 金色のピカピカした飾りとか付けてるし……)
その子の身なりを見てアイラが考えていると、ラビが女の子の横へ行き、口を開く。
「紹介するよ。この子はアン=ドリー。この国の……ドリー朝ディール帝国の皇帝なんだ」
サルマとアイラは皇帝のいる大宮殿までやってきて、それを目の前にし――その大きさと豪華さに圧倒されている。
その横で、ラビがアイラの手の中のコンパスを覗き込みながら言う。
「そのコンパスの針の示すとおり来てみたけど……やっぱりこの大宮殿を示してるみたいだね。試しに宮殿を通り過ぎてみたら、針がくるっと回って針の位置が宮殿側に変わったし」
「……だとすれば厄介だな。宮殿の中になんて、そう簡単に入れてくれるもんじゃねーだろ」
「そうだね。王族とその家来以外は入れないよ。普通はね」
そう言うラビをサルマは訝しげに見る。
「何だよ、特別に中に入る方法でもあるのか?」
「うん、案内してあげなくもないよ。その代わり、もし目的地までたどり着いたらちょっとでもオマケしてくれると嬉しいな」
ラビはにっこりと笑ってサルマを見る。
「ああ……わーったよ。もしコンパスの示す場所に着いたら、銅貨一枚くらいは多めに払ってやる」
「……銅貨一枚かぁ……。ケチだなぁおじさん」
ラビが肩をすくめてそう言うと、サルマが食ってかかる。
「んだよ、オマケしてやるってだけありがたく思いな。それに俺はまだ若いんだ、おじさんじゃねぇ!」
「……まぁいいか。じゃ、大宮殿の内側に入るよ」
ラビは大宮殿をぐるりと取り囲んでいる高い塀の上から少しだけ顔を出し、近くに近衛兵がいないことを確認する。そして再び絨毯を操って塀の内側にサッと入り、宮殿の敷地内に降り立つ。
ラビは絨毯を慣れた手つきでくるくると巻き、近くの茂みに隠しながら言う。
「塀の中は近衛兵がいっぱいいるし、絨毯で移動すると目に付きやすいから……ここからは歩いて行くよ。そうだ、コンパスの様子はどうなってる? 何か変わった?」
ラビにそう言われ、アイラはコンパスを確認する。
「うーん、まだ宮殿の建物の方指してるよ。でも、どうしてコンパスの針はくるくる回らないんだろ。いつもなら目的の島についた頃には回ってたし、宮殿が目的地だってところまでわかったのに回らないなんて……おかしいなぁ」
アイラがしきりに首をひねっているのを見て、サルマが言う。
「まぁ、とりあえず針の示す方に行ってみようぜ。おい、絨毯乗り。塀は絨毯で超えられたが、どうやって宮殿の中に侵入するんだよ」
「宮殿の中に入るのに、いい抜け穴があるんだ。こっち。近衛兵に見つからないように……茂みに隠れながらついて来て」
二人はラビの指示に従い、隠れながら移動する。ラビの言う目的の場所は、幸い宮殿の裏側の、影になっている目立たない場所であったため、近衛兵には見つからずに移動することができた。
ラビは、宮殿の壁面の一部分に金網が取り付けられている場所まで行くと、その金網を取り外す。すると、小さな隠し通路が現れる。
「ほら、この抜け穴から中に入れるんだ。案内するからついて来て」
ラビが四つん這いになって抜け穴に入ろうとするのを、サルマが引き止める。
「……ちょっと待て。こんな小せぇ抜け穴から行けるのかよ。これって通路とは言えねぇだろ……通気口なんじゃねぇのか?」
「そんな感じのことに使ってるみたいだけど、大丈夫。金網外して四つん這いに進んで行けば、通り道として使えるよ」
「そうじゃなくて……俺が通れねぇって言ってんだよ。オマエら二人はガキだから大丈夫かもしれねぇが、俺には狭すぎて……」
「そっか、おじさん大人だから入るの難しいのかぁ」
「だから、おじさんじゃねぇって言って……」
「誰だ! そこにいるのは!」
二人が言い合っているその声を聞きつけてか、近衛兵らしき人物の声と、こちらに向かって近づいてくる音がする。ラビはアイラの手を引っ張る。
「早く! この抜け穴に入るんだ。まだ姿は見られていないから……今のうちに!」
「ちょっと待て、俺はどうすんだよ。さっき言ったとおり、俺はそこには入れねぇんだぞ!」
「そ、そうだなぁ。とりあえず、別の隠れられる場所を探すか逃げるかしてもらうしか……。それか、あえて捕まってもらうのもアリかな……」
「な、なんで俺が捕まらねーといけねぇんだよ!」
サルマが眉を釣り上げると、慌ててラビが付け加える。
「大丈夫、近衛兵を傷つけたりしない限りは、後で牢から出られるように取り計らってあげられるから! とにかく、今は僕とこの子だけで先へ進むよ! あ、ちょっと待って。最後に、近衛兵に見つからないうちに抜け穴に蓋するのをお願い! この入り口だけは、近衛兵に見つけられたくないんだ!」
「ったく、俺様にあれこれ命令しやがって……」
サルマはそう言いながらも、素早く抜け穴に蓋をする。そして立ち上がったところで、二人の近衛兵が建物の角から姿を現す。
「いたぞ! あいつだ!」
「チッ……」
サルマは舌打ちし、近衛兵の来た方と逆側に向かって走り出す。
(……このまま逃げ切られれば一番いいんだが、無理でも時間を稼いで、後はアイツの言ったことを信用するしかねぇ。しかしあの絨毯乗り、一体何者なんだ。奴隷に俺の処遇をどうこうできる力があるとは思えねぇが……)
サルマはそう思いながら、腰につけているロープを取り出して先端に輪を作る。そして宮殿の壁から張り出したバルコニーの手すりの部分にロープを投げつけ、先端の輪が引っかかったところでロープをつたって上まで移動し、追ってくる近衛兵から遠ざかる。
アイラとラビはしばらくの間、四つん這いになって抜け道を進んでいく。慣れた様子で進んでゆくラビに置いていかれまいと、アイラは必死になってラビの後をついて行く。
「……見えたよ。あれが出口だ」
ラビがそう言って、向こうの方に見える光に向かって行く。
そして光の元へ辿り着くと、通路から抜け出す。アイラもそれに続いて狭い抜け道から出る。
「ここは…………」
アイラはそう言って辺りを見回す。そこは、そんなに広い場所ではない、小さな中庭のような場所であった。
天井がなく、上から日の光が降り注いでいるその庭は、地面には青々とした芝生が生え、壁にはところどころツタが伸びている。壁沿いには、色とりどりの花が咲いているいくつもの花壇が置かれている。
そして庭の中央には、大理石で出来ている小さな噴水がある。それらが日の光に照らされている様子はとても綺麗で、アイラは思わず見とれてしまった。
「……あっ……!」
アイラは庭に見とれていたため、噴水の縁に腰掛け、こちらをじっと見ている人物に遅ればせながら気がついて驚いた。
その人物はアイラよりも背が低く……頭でっかちで足の短い、アイラよりも子供っぽい体型をしている女の子であった。
「あなたは……? ここの宮殿の子?」
アイラがそう言うと、その子はちょこちょことこちらへ歩いてきて、黙ったままアイラの方を見上げてじっとアイラの顔を眺めた。
その子は眠そうなぼんやりとした表情をしており、短いが太くてしっかりとした眉と、大きな瞳が印象的であった。瞳は深みのある紫色をしており、こうしてじっと見つめられていると吸い込まれそうなほどである。
肌は透き通るように白く、それに対して髪は真っ黒で量が多く、前髪を額の真ん中で分け、両耳の後ろで髪を二つに結んでいる。
服装はふわりと膨らんだ白いズボンに、こちらもふわっと膨らんだ翠色の、肩と腕の出ている服を着ている。額と首、腕には金色の輪飾りをつけ、そしてその手には――――金色に輝く、小さなオイルランプを大事そうに持っていた。
(もし宮殿の子なら、この子は王族……なのかな? 金色のピカピカした飾りとか付けてるし……)
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