34 / 52
闇の賊との対決編
第33話 黒い竜巻
しおりを挟む
アイラたちを乗せたアンの大絨毯は、ディール島へ向かって下降してゆく。
サルマは絨毯の上から下を覗き込み、ディール島の南の岩場にアルゴの船が小さく見えるのを確認すると、アンに声をかける。
「おい、帰りの行き先なんだが……宮殿に戻る前に、島の入口の船着場まで俺たち二人を送ってくれねぇか? あそこに俺たちの船が停めてあるんだよ」
「それくらいお安い御用だ。任せろ、送ってやる」
アンはそれを聞いて頷く。その横にいるラビは、ラビは少し残念そうに肩をすくめる。
「うーん、それ本当は僕の仕事のはずだったんだけど……まあいいか。……ん?」
ラビが何かに気づいた様子で辺りを見、眉をひそめる。
「ねえ、妙な音が聞こえない? 風みたいな……」
「風? 絨毯で下降してるから風があるのは当たり前だろ。だが、確かに怪しい天気になってきやがったな」
サルマは空を仰ぎ見る。行きの空は快晴だったが、今は灰色の雲が空一面を覆っている。
やがてぽつぽつと雨も降り始め、それは次第に強くなってゆき、アイラたちに容赦なく降り注ぐ。
「うわぁっ! 雨降ってきた!」
アイラが声をあげる。ラビは絨毯の様子を確認する。
「まずいよ、絨毯が雨に濡れてだんだん重くなってきた。アン、大丈夫? 僕の力も貸そうか?」
「大丈夫だ。この状態で上昇するのは困難だとしても、今は下に降りるだけで良いのだからな。墜落しないように操るくらいはできる。雨が天界に行く前に降らなくてよかった」
アンはそう言って絨毯を操り続け、下降してゆくが、雨はさらに激しさを増してゆく。風の勢いも強くなり、アイラたちに向かって横風が強く吹き付ける。
「風に飛ばされないようにしっかり捕まって! それにしても、さっきから僕らの周りを取り巻いてるこの風……。うまく言えないけど、なんか変なんだよな」
ラビがそう言って眉間に皺を寄せる。
「確かに……ただの風にしちゃあ妙な感じだな」
サルマはそう呟き辺りを見渡す。サルマの顔がみるみる青ざめてゆく。
「……おい。後ろのあれって、もしや……竜巻なんじゃねぇのか⁉」
「ええっ⁉」
アイラは後ろを振り返る。アイラたちを乗せた絨毯のすぐ近くに、いつの間にか竜巻のような風の渦ができており、それはだんだんと激しさを増してアイラたちに襲いかかってくる。
「うわああああああああ!」
竜巻の周りの突風に煽られて、絨毯が激しく揺れる。アンは目を見開き、ぐっと絨毯を握る手に力を込める。
「逃げるぞ。ラビ、今度は力を借せ。心配するな、アイラ。二人の力を合わせれば逃げきれるはずだ」
ラビとアンは絨毯の操縦に集中する。サルマは竜巻の方を振り返り、眉をひそめる。
(なんだ、この竜巻……嫌な気を感じる。色もどことなく黒ずんでいて、まるで……そうだ、闇の大穴のような……)
アイラも黒い竜巻を見る。それを見つめていると、闇の大穴を見た時のように――不思議と不安にかられてくるような気がして、慌てて目をそらす。
(コンパスはさっき西の空を示していたけど、この竜巻から逃げ切るにはどうすればいいのか、コンパスは教えてくれたりしないかな……)
アイラはコンパスをずっと握りしめていた手を開き、コンパスの針を見ようとする。しかしコンパスの表面は打ちつける雨によって濡れていて、針がよく見えない。アイラは表面についた水滴を指で拭き取ろうとする。
その時、激しい突風がアイラたちに向かって襲いかかり、絨毯が大きく揺れる。
「わあっ‼」
アイラはその衝撃で体を大きく傾ける。その拍子に、雨で濡れた手からコンパスが滑り落ち、乗っている絨毯の外へ――――――遥か下へ落としてしまう。
「ああっ! コンパスが‼」
アイラは落下したコンパスを見ようと身を乗り出す。その瞬間、竜巻の渦の周りの風が吹き付け、またもや絨毯が揺れる。
絨毯から身を乗り出していたアイラは、その衝撃で……絨毯から落ちてしまう。
「わああああああああっ!」
「アイラっ‼」
サルマはアイラに手を伸ばそうとするが、一足遅く、アイラは吹き付ける風にさらわれ――――――竜巻の中に飲み込まれてゆく。
「どうしよう、アイラがあの竜巻の中に………」
ラビが顔を青くして竜巻を見る。サルマはアイラを飲み込んだ竜巻を見、そして先程コンパスが落ちていった方を見る。
それからラビとアンの顔を見て、口を開く。
「コンパスは竜巻の中には飲み込まれずに、ここから真下に落ちたみてぇだ。そのコンパスの行方を追うことを……オマエたちに頼んでもいいか? 幸い真下は海ではなくディール島だからな……探せば見つかると思うんだ。あれがないと、旅の続きができねぇ。礼は必ずするから……頼む」
そう言ってサルマは少し頭を下げる。アンはサルマを見て静かに言う。
「構わないが……サルマ。おまえはどうする気だ」
サルマはチラリと一瞬だけアンを見、再び竜巻の方に目線を戻す。
「ちょっくら……行ってくるわ」
サルマはそう呟いて絨毯から飛び降り、アイラを飲み込んだ竜巻に向かって飛び込んでゆく。すぐにサルマの体も風にさらわれ、竜巻の中に飲み込まれてゆく。
竜巻はアイラとサルマの二人を飲み込むと、不思議なことにだんだんと小さくなってゆき、しゅるんと姿を消す。
竜巻が消えた跡には二人の姿は見当たらず――――やがて雨風もやみ、空は何事もなかったかのようにシーンと静まり返っている。
「お、おじさんまで竜巻に……! ど、どうしよう……。何なんだよあの竜巻……。あの二人、一体どこに消えちゃったんだろう」
ラビは動揺した様子で辺りを見渡している。アンは竜巻のあった場所をしばらく見つめ、ポツリと言う。
「たぶん、大丈夫だ……あの二人が一緒にいるならな」
アンは濡れて重くなった絨毯の隅を持ち上げ、ぎゅっと絞る。雨水がぽたぽたと下に落ちる。
「それよりも、サルマに言われたことをしよう。二人が戻ってくるまでに、コンパスが見つかってなければ困るだろう」
「…………そうだね。僕も手伝うよ」
ラビはなんとか気を落ち着かせ、頷く。アンもラビに向けて頷き、話を続ける。
「頼む、ラビ。我が兵たちにも捜索させよう。それでも見つからなければ、民衆にも協力してもらう必要があるやもしれぬ。あとは……」
アンは絨毯の上から下を覗きこみ、ディール島の南の岩場に停まっているアルゴの船を見る。
「アイラとサルマの仲間だという、あの海賊船……。あそこのやつらにも、この話をすべきかもしれぬな」
サルマは絨毯の上から下を覗き込み、ディール島の南の岩場にアルゴの船が小さく見えるのを確認すると、アンに声をかける。
「おい、帰りの行き先なんだが……宮殿に戻る前に、島の入口の船着場まで俺たち二人を送ってくれねぇか? あそこに俺たちの船が停めてあるんだよ」
「それくらいお安い御用だ。任せろ、送ってやる」
アンはそれを聞いて頷く。その横にいるラビは、ラビは少し残念そうに肩をすくめる。
「うーん、それ本当は僕の仕事のはずだったんだけど……まあいいか。……ん?」
ラビが何かに気づいた様子で辺りを見、眉をひそめる。
「ねえ、妙な音が聞こえない? 風みたいな……」
「風? 絨毯で下降してるから風があるのは当たり前だろ。だが、確かに怪しい天気になってきやがったな」
サルマは空を仰ぎ見る。行きの空は快晴だったが、今は灰色の雲が空一面を覆っている。
やがてぽつぽつと雨も降り始め、それは次第に強くなってゆき、アイラたちに容赦なく降り注ぐ。
「うわぁっ! 雨降ってきた!」
アイラが声をあげる。ラビは絨毯の様子を確認する。
「まずいよ、絨毯が雨に濡れてだんだん重くなってきた。アン、大丈夫? 僕の力も貸そうか?」
「大丈夫だ。この状態で上昇するのは困難だとしても、今は下に降りるだけで良いのだからな。墜落しないように操るくらいはできる。雨が天界に行く前に降らなくてよかった」
アンはそう言って絨毯を操り続け、下降してゆくが、雨はさらに激しさを増してゆく。風の勢いも強くなり、アイラたちに向かって横風が強く吹き付ける。
「風に飛ばされないようにしっかり捕まって! それにしても、さっきから僕らの周りを取り巻いてるこの風……。うまく言えないけど、なんか変なんだよな」
ラビがそう言って眉間に皺を寄せる。
「確かに……ただの風にしちゃあ妙な感じだな」
サルマはそう呟き辺りを見渡す。サルマの顔がみるみる青ざめてゆく。
「……おい。後ろのあれって、もしや……竜巻なんじゃねぇのか⁉」
「ええっ⁉」
アイラは後ろを振り返る。アイラたちを乗せた絨毯のすぐ近くに、いつの間にか竜巻のような風の渦ができており、それはだんだんと激しさを増してアイラたちに襲いかかってくる。
「うわああああああああ!」
竜巻の周りの突風に煽られて、絨毯が激しく揺れる。アンは目を見開き、ぐっと絨毯を握る手に力を込める。
「逃げるぞ。ラビ、今度は力を借せ。心配するな、アイラ。二人の力を合わせれば逃げきれるはずだ」
ラビとアンは絨毯の操縦に集中する。サルマは竜巻の方を振り返り、眉をひそめる。
(なんだ、この竜巻……嫌な気を感じる。色もどことなく黒ずんでいて、まるで……そうだ、闇の大穴のような……)
アイラも黒い竜巻を見る。それを見つめていると、闇の大穴を見た時のように――不思議と不安にかられてくるような気がして、慌てて目をそらす。
(コンパスはさっき西の空を示していたけど、この竜巻から逃げ切るにはどうすればいいのか、コンパスは教えてくれたりしないかな……)
アイラはコンパスをずっと握りしめていた手を開き、コンパスの針を見ようとする。しかしコンパスの表面は打ちつける雨によって濡れていて、針がよく見えない。アイラは表面についた水滴を指で拭き取ろうとする。
その時、激しい突風がアイラたちに向かって襲いかかり、絨毯が大きく揺れる。
「わあっ‼」
アイラはその衝撃で体を大きく傾ける。その拍子に、雨で濡れた手からコンパスが滑り落ち、乗っている絨毯の外へ――――――遥か下へ落としてしまう。
「ああっ! コンパスが‼」
アイラは落下したコンパスを見ようと身を乗り出す。その瞬間、竜巻の渦の周りの風が吹き付け、またもや絨毯が揺れる。
絨毯から身を乗り出していたアイラは、その衝撃で……絨毯から落ちてしまう。
「わああああああああっ!」
「アイラっ‼」
サルマはアイラに手を伸ばそうとするが、一足遅く、アイラは吹き付ける風にさらわれ――――――竜巻の中に飲み込まれてゆく。
「どうしよう、アイラがあの竜巻の中に………」
ラビが顔を青くして竜巻を見る。サルマはアイラを飲み込んだ竜巻を見、そして先程コンパスが落ちていった方を見る。
それからラビとアンの顔を見て、口を開く。
「コンパスは竜巻の中には飲み込まれずに、ここから真下に落ちたみてぇだ。そのコンパスの行方を追うことを……オマエたちに頼んでもいいか? 幸い真下は海ではなくディール島だからな……探せば見つかると思うんだ。あれがないと、旅の続きができねぇ。礼は必ずするから……頼む」
そう言ってサルマは少し頭を下げる。アンはサルマを見て静かに言う。
「構わないが……サルマ。おまえはどうする気だ」
サルマはチラリと一瞬だけアンを見、再び竜巻の方に目線を戻す。
「ちょっくら……行ってくるわ」
サルマはそう呟いて絨毯から飛び降り、アイラを飲み込んだ竜巻に向かって飛び込んでゆく。すぐにサルマの体も風にさらわれ、竜巻の中に飲み込まれてゆく。
竜巻はアイラとサルマの二人を飲み込むと、不思議なことにだんだんと小さくなってゆき、しゅるんと姿を消す。
竜巻が消えた跡には二人の姿は見当たらず――――やがて雨風もやみ、空は何事もなかったかのようにシーンと静まり返っている。
「お、おじさんまで竜巻に……! ど、どうしよう……。何なんだよあの竜巻……。あの二人、一体どこに消えちゃったんだろう」
ラビは動揺した様子で辺りを見渡している。アンは竜巻のあった場所をしばらく見つめ、ポツリと言う。
「たぶん、大丈夫だ……あの二人が一緒にいるならな」
アンは濡れて重くなった絨毯の隅を持ち上げ、ぎゅっと絞る。雨水がぽたぽたと下に落ちる。
「それよりも、サルマに言われたことをしよう。二人が戻ってくるまでに、コンパスが見つかってなければ困るだろう」
「…………そうだね。僕も手伝うよ」
ラビはなんとか気を落ち着かせ、頷く。アンもラビに向けて頷き、話を続ける。
「頼む、ラビ。我が兵たちにも捜索させよう。それでも見つからなければ、民衆にも協力してもらう必要があるやもしれぬ。あとは……」
アンは絨毯の上から下を覗きこみ、ディール島の南の岩場に停まっているアルゴの船を見る。
「アイラとサルマの仲間だという、あの海賊船……。あそこのやつらにも、この話をすべきかもしれぬな」
0
あなたにおすすめの小説
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
魔法使いたちへ
柏木みのり
児童書・童話
十四歳の由は、毎日のように、魔法使いとそうでない人々がごく普通に一緒に暮らす隣の世界を姉の結花と伯母の雅代と共に訪れ、同じく十四歳の親友ジャンと魔法化学の実験に没頭する日々を送っていた。ある晩、秘密の実験中に事故が起き、由の目の前で光の炸裂と共にジャンは忽然と消え去った。
ジャンに何が起きたのか。再会は叶うのか。
「9日間」「はるのものがたり」「春の音が聴こえる」と関連した物語。
(also @なろう)
だからウサギは恋をした
東 里胡
児童書・童話
第2回きずな児童書大賞奨励賞受賞
鈴城学園中等部生徒会書記となった一年生の卯依(うい)は、元気印のツインテールが特徴の通称「うさぎちゃん」
入学式の日、生徒会長・相原 愁(あいはら しゅう)に恋をしてから毎日のように「好きです」とアタックしている彼女は「会長大好きうさぎちゃん」として全校生徒に認識されていた。
困惑し塩対応をする会長だったが、うさぎの悲しい過去を知る。
自分の過去と向き合うことになったうさぎを会長が後押ししてくれるが、こんがらがった恋模様が二人を遠ざけて――。
※これは純度100パーセントなラブコメであり、決してふざけてはおりません!(多分)
【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
その付喪神、鑑定します!
陽炎氷柱
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞、優秀賞受賞】
『彼女の”みる目”に間違いはない』
七瀬雪乃は、骨董品が大好きな女の子。でも、生まれたときから”物”に宿る付喪神の存在を見ることができたせいで、小学校ではいじめられていた。付喪神は大好きだけど、普通の友達も欲しい雪乃は遠い私立中学校に入ることに。
今度こそ普通に生活をしようと決めたのに、入学目前でトラブルに巻き込まれて”力”を使ってしまった。しかもよりによって助けた男の子たちが御曹司で学校の有名人!
普通の生活を送りたい雪乃はこれ以上関わりたくなかったのに、彼らに学校で呼び出されてしまう。
「俺たちが信頼できるのは君しかいない」って、私の”力”で大切な物を探すの!?
このせかいもわるくない
ふら
絵本
以前書いた童話「いいとこ探し」を絵本にリメイクしました。
色んなソフトを使ったりすれば、もっと良い絵が描けそうだったり、未熟な点は多いですが、よろしくお願いします。
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】
旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる