悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる

みやっこ

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回想その5

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 私、速攻ピンチです。
 イファンがリリファリアの妹であることがバレて、エイラス陛下に呼び出され、妖精王の間に向かったところまでは想定内だったけれど。

「どういうことかご説明いただこう」

「そっそれはですね……その……本来はリリファリア……っではなくてそのっわたくし不慣れなものでしてその」
 
 なぜイファンの書類を提出しなかったのかと問われたのは私リリファリアではなく、実家から呼び出された伯父さんだった。

 伯父さんが生きているということが、こんな未踏の展開を生み出すなんて。
 少し考えればわかることなのに、まったく想定していなかった自分が恐ろしい。

 どうしよう。どうしよう。伯父さんにリリファリアがやったとか言われたらおしまいだぞ。



 脳内ハムスターが太い体を揺らし、そこら中を走り回ってホワイトボードやら紙束やら、ひまわりの種やら、ありとあらゆるものを掻き集めてカラカラ回る滑車の中に投げ込んでまわし始めた。
 ふさふさした体毛にすべてのものが絡んで、わけがわからない状態になっている。ハムスター大混乱だ。



 メニュー画面バグった。焦ってるのに焦りを倍増させないでハムスターよ。

 こうなったらどこからかやり直したほうがいいのでは?
 といっても、伯父さんを殺そうなんてのはナシだし。

 周りを見渡しても、モフモフマリモはいない。

 私は冷や汗をかきながら、滑車の中で目をまわすハムスターを頭の端に追いやり、突破口を探すため、少し前の出来事を思い起こすことにした。

 伯父さんよ。いつものネチネチしたわけのわからない文言で時間を稼いでおくれ。

 ーーーーーーーー

 今から数か月前。冒頭の事件後。

 私は怪我した伯父さんと共に、馬車に揺られて家に帰った。

 帰宅後も変わらず記憶喪失状態の伯父さんではあったが。
 数日後家に届いた青い屋根の家への入居書類がリリファリアのものであると知った途端、真っ青になった。

 喪失している期間に自分がやったとは微塵も考えない。ということは随分前から、イファンのみをいかせるつもりだったようだ。

 霊爵家の女性はみな、適齢期が来たらよほどの問題がない限り、青い屋根の家に入居することになっているとハムスターが言っていた。
 それなのになぜそこまでリリファリアを行かせたくないのか、理由を問うても答えてくれず。伯父さんはヒステリックに掴みかかってきた。

「お前が細工したんだろ! どうしてくれる!」

「やめて下さいませ伯父さま」

 リリファリアの細腕では振りほどけそうにない。どうしたものかと戸惑っていたら。

「お姉さまに怒鳴らないで伯父さま!」

「ぐっふぇ!!」

 イファンが伯父さんを体当たりでふっとばした。結構な飛距離だ。

「うわぁ……大丈夫かな」

「お姉さまこっち!」

 イファンは私の手を引っ張って、広い……けどよくみたらボロ邸、の廊下を走って奥の小部屋へ入り、鍵を閉め、追いかけて来た伯父さんを遮断した。

 容赦なく扉を閉めたので、伯父さんおもいっきりドアにぶつかったと思う。鈍い音がした。

「お姉さま」

「へっぜぇぜぇっはい」

 少し走っただけで息切れしている私と違って、イファンは少しも息を乱していない。
 丸い大きな瞳で、じっと私を見ている。

 この場合、助けてくれてありがとうなのか。それとも、引っ張らないでよ、なのか。

「お姉さまは、お体が弱いし、不器用だし、人見知りだし……」

 黙ってたらディスられた。

 リリファリアってそんなんだっけ?
 お体が弱いに関しては、聖都から帰って来たとき、あまりの長旅に疲れ果て、ベッドに辿り着くまえにダウンして数日寝込んだけど。

「それなのに、散歩に行くなんて嘘をついて一人で伯父さまを追いかけたりなんかして」

 イファンが、私の両肩を掴んだ。

「お姉さま。私のために一人で青い屋根の家へ行こうとしてるんでしょう?」

 私の……ため?

 どういうことだろう。

 私はこれからイファンに嫌がらせをしまくる予定で。入れ替えに行ったのもその一つのはず。自分だけ玉の輿計画でしょ?
 
「えっと……」

 ドアを叩く音がうるさくて、考えがまとまらない。
 逃げ場もないし。

 いっそ伯父さんがドアを突き破ってくれまいかと、ありえないことを考えたら、私と同じようにドアの方を見たイファンがおもいっきり眉間に皺を寄せた。

「ねえ。さっき伯父さん私だけを行かせるつもりだったみたいなこと叫んでたけど。どういうことか、お姉さまは知ってるの? 私、二人で青い屋根の家に入居するものだと思っていたわ」

 質問が増えた。
 それは私だって知りたいよ。あれだけゲームプレイしたのに、いざ飛び込んでみたら知らないことだらけだったよ。ハムスターなしじゃ生きられない体だよ。

「ドアを開けなさいっ!!」

「隠し事しないでお姉さま」

「うぅ……」

 何か言わなければ、追い詰められるばかりだ。
 私は、小さく咳払いして喉の調子を確かめ、手品師がカードを並べるように、今持っている情報を脳内に広げた。

 必要な手札を揃えるんだ! ハムスターも手伝って!



『よしきたっ』


 
 私は、協力して集めたモノをなんとかかんとかまとめ上げ、口を開いた。

「あなたなんかのためなわけありませんわ。我が家は跡取りがいないから、青い屋根の家へ入居しても、最終的にどちらかは邸へ戻らなければならないでしょ? 私、確実に選ばれたいだけですわ。それと。伯父さまのやることなんて、私が知ったこっちゃないですわ。ただの嫌がらせじゃありませんこと?」

 なんか結構それっぽいことが言えた? ちょい説明っぽかったかな。

「お姉さま……」

 イファンの瞳にますます熱がこもった。

 姉がそんな卑怯なことをするはずないとでも言いたげな目だ。さっきも気になることを言っていたし。二人の間にどういう事情があるのか……聞きたいけれど聞けない。
 
「私、お金持ちになりたいんですの。地位も欲しいんですの。こんなボロ邸の跡取りなんてごめんですの」

 もやもやしつつ、ですのを連発したら。
 イファンが涙ぐんで両手を広げ、突進してきた。
 驚いて飛びのこうとしたが、がっしりホールドされてしまい、ぎゅーっと抱きしめられた。

「馬鹿っ……お姉さまの馬鹿っ! 私絶対ついてくから!」

 すぐ耳元で、鼻水をすする音がした。
 か細い吐息が聞こえた。
 背中に回った腕が、微かに震えている。

「…………」

 妖魔王はないものを増幅することは出来ないとゲーム内で説明があった。つまりリリファリアにはイファンへの嫉妬心が元からあったはずだ。

 こんなに仲良しなのに。いや、仲がいいからこそ何かしらあったのかもしれない。しかしそれは永遠に表に出さない感情だった……かもしれない。

 わからない。わからないけれど。

 駄目だ。イファンがあったかくてなんか泣きそう。リリファリアじゃない申し訳なさもあるし。

「お姉さま……」

 どうせなら姉妹仲良くってのを味わってみたーー

 ズムっ

 わかってんだろうなと言わんばかりに、モフモフマリモが現れ、横でポヨンポヨンしだした。音は一切しないが、体の形が変わるくらいの勢いでポヨンポヨンしている。

 感動がショボーンと萎んで、ため息が出そうになった。

 私は、仕方なく、イファンを跳ねのけようと手を突っぱねーー

「ぐふぇっ」

 よろめいて後ろに倒れた。
 イファンはびくともしていない。さっき伯父さんに体当たりしたのを見て思ったけど彼女、どうやらフィジカルが強いらしい。

「お姉さまっ!?」

 それに反して、リリファリアは弱すぎやしないだろうか。

「うう」

 心が折れそう。
 もう何度か折れてるような気はするけれど、かろうじてあったやる気が、ブラックホールに吸い込まれそうになった。



 魔法の言葉 『もう一度死ぬよりマシ』 を頭の中のハムスターが唱え続けている。



 うんうん。確かにその通りだよ。もう一度死ぬよりはマシだよ。

「お姉さま……大丈夫?」

「ああ大丈夫大丈夫。いろんな意味で大丈夫」

「え?」

「大丈夫ですわ」

 私は、すくっと立ち上がり、ふんぞり返って胸を張った。

「本当に?」

 イファンは、私に怪我がないか確かめ始めた。さっきはめちゃくちゃ信用してくれてたのに、これは信用してくれないようだ。

「こうなったら、もうリリファリアに行って貰うほかない!!」

 びっくりした。伯父さんマジでうるさい。

 イファンもそう思ったのか。またも可愛らしい顔を険しくさせ、ドアを睨んだ。

「なぜですの? そもそも伯父さまはなぜお姉さまを行かせまいとしていたんで……」

「黙れ!! とにかく行って貰う!!」

「っ……それならせめて私も一緒に!!」

「それはできん!!」

「だったら伯父さまが行けばいいじゃない!」

 ドアを壊さんばかりに叩く伯父さんに、ひるむことなく言い返し続けるイファン。

 口を挟む隙も言葉も見つけられない私は、新たな情報を頭に叩き込むため、二人の会話に集中することにした。

「リリファリアが行かなければこの家はなくなる!! お前たち普段からどれだけ俺たちの世話になってるかわかってるのか!」

 嫌味だらけの伯父さんの主張は、理解する前にイライラが勝ってしまう。これは頭の中で冷静に同時要約する必要があるな。

 よし。さっきの容量で行こう。必要なものだけ集めて並べて、整理整頓。やろうハムスター。



『よし!』



 私とハムスターは、伯父さんの言葉から嫌味を抜き去り、必死に頭を回転させた。

 要するに。
 書類未提出というのは、実のところ霊爵家ではよくあることだそうだが、あくまで裏で行われるべきことであって、公になり、妖精一族の信用を失うことにでもなったら、霊爵なんてファンタジー爵位はあってないものに成り下がる。

 特に、レインク家の住む土地は、妖魔が出ることもない、気候も安定している。妖精一族の力をそれほど必要としない田舎であるため、国から支払われる霊爵保護資金は年々減っていく一方。
 妖精一族の妻となれば、聖都からまあまあのお金を貰えるが、ここのところレインク家には女が生まれず。
 親戚はみな、このボロ邸を継ぐのを嫌がって、長男である父にすべてを押し付け、散り散りになった。

 八年前。イファン、リリファリアの父母は、この現状を変えるべく、遠く海の向こうに暮らしているという、唯一連絡が取れていた親戚の元へ、なんとか資金援助をしてもらえまいかと相談しに行く最中、乗った船が嵐で難破して行方知れずになってしまった。

 知らせを聞いてすぐ、その親戚に手紙を出してみたが一切返事はなく。
 数週間後、二人の葬儀が執り行われた。

 伯父さんは、イファンの母の兄家族ーー元は農家で。イファンとリリファリアが大きくなるまで仮の当主として仕方なくここに居るとか。

 いやいや。居座ってるんでしょうよ。

 絵に描いたように意地悪な伯母さん。気が弱く神経質な伯父さん。手に入れた地位を振りかざして近所の評判をどんどん下げていく従姉妹のせいで、外をで歩いていたら税金ドロボーと呼ばれる始末。

 私がここへ来てたった数日でこれだよ?
 こんなのが八年も続いてるんだと思うともう、この姉妹が哀れすぎる。

「わかったらさっさと引っ越しの準備をしろリリファリアっ!」

 伯父さんの思惑通りというわけでもないが。
 リリファリアのみが青い屋根の家へ入居するということで、この場は解散となった。
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