悪役令嬢はアクマでテンシだけどタイヨウにもなれる

みやっこ

文字の大きさ
36 / 36

月明かり愛おしい夜に 過去回想

しおりを挟む
「絶対に隠密だからね。大声だしたり音たてたりしちゃだめだよ。誰か来たら私を置いて逃げてね。わかった?」

 私は、二人を連れて夜の森へと繰り出していた。
 連れて……と言いつつも、辺りの気配に気を配っているのはウラガで、暗すぎてこけそうになる私を支えるのはヘイツである。
   
 一緒に暮らすようになって一年過ぎた頃から気付いて……それ以前から薄々感じていたが認めたくなかった。

 私が、彼らを保護するつもりで、保護されているという事実に。
 
「リリ。風のあたる場所に立つな」

 イベントをこなせばこなすほど、あの力を使えば使うほど、私の体調は悪くなる一方だった。また推測でしかないが、リリファリアが病弱な理由はまさしくコレなのではないかと。
 幼少のころからこの力を持っていたのだとしたら。
 何かあってこの力を使うたび、熱を出して倒れ、だんだん体にガタが来ていたのではないかと……。

「リリ。こっち」

 ウラガが、私の前を歩き、風を遮ってくれる。
 ヘイツが、私の足元ばかり注視しながら歩いてくれる。

 たまに喧嘩するし、二人はあまり仲が良いとは言えないかもしれないけれど。

 私が駄目駄目なせいで、今や介護のプロになりつつあるよね。

 暮らしにくい空間を提供したことが功を奏した……なんて申し訳ない話だが、これ以外で彼らと仲良くなる方法はなかったのかもしれない。

 最初に大変な失敗をしでかした料理は、ウラガとヘイツが交代で行うようになり。
 たまに私がやろうとしたら、ウラガには、暇人の暇つぶしを取る気かと気を遣われ、ヘイツは、とくに楽しそうでもなんでもなく、ただ私にやらせたくないらしく淡々と作っていたので、邪魔できなかった。

 始めは仕方なく。次第に無理せず生活のリズムが合い始め。
 無言で過ごす時間が増えていった。

 気を抜いているときを共有する……とでもいうのだろうか。

 さすがにヘイツが私の寝ているベッドにもぐりこんできたときは驚いたが。
 怖い夢を見るのだと訴えられ、まだ子供だし渋々許可した。

 すると、ウラガまでくるようになった。
 どうしたのかと聞くと、背中を向けたまま、たまには空気のいいところで寝たい、と言われ納得した。

 とはいえ最初は、二人も私も、まったく眠れてなかった。
 あくびをしながら朝ごはんを食べていたから、たぶん。
 
 ほどなくぐっすり眠れるようになったのだけれど。
 それはもうぐっすりと。異世界で目を開けてからここまでぐっすり眠ったことはないってほどに。
 
 真夜中。ふと目が覚めても時計の音が聞こえない。
 布団から出たくて、けれど出られない。金縛りにあったように動けない冷えた体で、朝を待つことはない。
 悲しくないのに涙が出ることもない。
 明日が来なければいいのにと思うこともない。

 その事実に気付いたとき、私は心底この物語の結末が恐ろしくなった。前から怖かったけれど、更に怖くなった。怖くて怖くて、それなのに、歯を食いしばれば体に力が入る。

 前よりも。前の前よりも。前の前の前よりも。

 私はもう何度か物語の結末を見ていた。
 先代王を殺さない結末。殺す結末。両方見た。そしてどちらも自分が死ぬことはないのだと知った。
 
 でも……どちらも駄目だった。

 何をどうしても、死ぬよりも恐ろしいことが起こるのを知ってしまった。

 だから。
 
 私は、モフモフマリモの願い通り、悪役をまっとうすることに決めた。一発でがっつり決めたわけじゃない。徐々にじんわり、少しづつ、そうなっていった。

 夜のピクニックは最期の思い出作り……みたいなものだ。

 これまでも何度か、十分程度外に出ることはあったが、今日だけは、外で楽しみたいときっちり計画した。
 念のためと、フスタフが影から見守ってくれているから安心だ。

「リリ。ここで食べようか」

 ヘイツが敷物を広げ、ウラガが持っていたサンドイッチを各自の前に置いた。
 私はあめ色のカップをヘイツの前に、深緑色のはウラガの前に、薄紫色のを自分の傍に置いて、それからもう一つ灰色のカップにポットのお茶を注ぎ、サンドイッチと一緒にフスタフの使妖精に渡した。

「これ。フスタフに渡して」

 首を振る使妖精。
 私も首を振る。

「渡してください」

「いえ結構です」

「お願いします」

「いえ」

「頼みます」

 数回しつこくしたら、使妖精はため息をつき、サンドイッチとお茶を受け取ってどこかへ消えた。

 近頃この方法で使妖精にいろいろやって貰っている。
 人じゃないと知っているからか、我が儘を言えて助かる。
 
「じゃあ食べようか。頂きます」

「いただきます」「いただきます」

 いつからか手を合わせる日本式が定着した。前世でそんなことしていなかったのに、日本文化がないここでやるとは。

 不思議。

 私はフっと幸せな吐息を漏らして一口……。

 小さく齧ったサンドイッチを置いた。

 食欲がない。
 力の使いすぎで、始終体調が悪くて、元気なフリが出来ない。

 気分を変えればいけるかと思ったが、全然だめで。

「…………」「…………」

 二人も、同じようにサンドイッチを置いた。

「気にせず食べて。せっかくつく……ったのは二人だけども。私は少しづつ食べるから。お腹はすいてるんだけどね。本当に。なんだろ。月が綺麗だからかな」

 見上げた先は曇り空だった。
 雲に隠れているのに、真っ暗ではない。今日は満月なのかもしれない。

「こんなの食べなくていい。まずいし」「外で食事とか衛生上よくないだろ。虫にでもやればいい」

 私の嘘に嘘で答える二人の方が、病気みたいな顔色をしている。

 鏡で自分の姿を見るよりも、二人を見ている方が自分の状態を理解出来るなんて。

「これおいしいよ。誰にもあげたくないよ」

 私たちは、仲良くなりすぎてしまった。気持ちを共有しすぎてしまった。

 これを失くしたくない。

 二人と過ごした日々を消したくない。

 例え、この先何が起ころうとも。

 この空気をなかったことになんてしたくない。

 愛おしい今日の夜を消さないために。

 私は悪役令嬢になるのだと。
 いずれ雲から逃れるであろう二つの月に改めて誓った。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

kureha
2018.05.30 kureha

今1番続きが気になっている作品です!!
ハムスターもいい味出してて、読んでいて楽しいし面白いです😆✨
いよいよ2部が開始?なようで…続きの更新待ってます(*´˘`*)♡
これからも頑張ってください(*´∇`*)

2018.05.30 みやっこ

感想ありがとうございます! 
一番っ!? ありがとうございます!!
ハムスターをいい味と言っていただけるなんて、本当に嬉しいです。
二部も頑張りますので、また読んで頂ければと思います。

解除
海苔
2018.04.30 海苔

なんだか独特で面白いです!頑張って下さい!

2018.05.01 みやっこ

感想ありがとうございます!励みになります!

解除
七屋敷ナナヤ

ハムスターが衝撃的です。もちろん良い意味で、です(笑)転生系小説は沢山ありますが、人生的歯車のカラカラに、モフモフを掛けてこられるとは。ありそうでも、なかなか書くのは難しいと思います。モフモフ好きなので、読むのが楽しいです。これから主人公がどうなっていくのか、周囲のキャラクターも含めとても楽しみです!

2018.04.28 みやっこ

感想ありがとうございます。
ハムスターを楽しんで頂けてよかったです! これからもモフモフと頑張りますのでよろしくお願いします!

解除

あなたにおすすめの小説

わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが

水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。 王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。 数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。 記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。 リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが…… ◆表紙はGirly Drop様からお借りしました ◇小説家になろうにも掲載しています

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。  しかも、定番の悪役令嬢。 いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。  ですから婚約者の王子様。 私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。

何やってんのヒロイン

ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。 自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。 始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・ それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。 そんな中とうとうヒロインが入学する年に。 ・・・え、ヒロイン何してくれてんの? ※本編・番外編完結。小話待ち。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。