異世界転移を拒んでたら転生した話

みやっこ

文字の大きさ
4 / 16

さらば世界

しおりを挟む
 絶対転移してなるものか。
 絶対に。水たまりが光っても避ける。仕事場のパソコンの黒い画面が光ったらパソコンを壁に投げつけて弁償させられたりもした。
 借金は全然減らないのに体力はガンガン減って、毎日疲れて、お風呂でうたた寝して溺れかけたこともある。
 それでもなんとか踏ん張っている。
 こんなに頑張って、二人を待ってるなんてそんなわけない。
 私はとにかく嫌なだけだ。
 何もかもほっぽって、異世界に逃げた姉と妹とついでにあまり接点のない義母と同じになるのが。
 私は、現実でちゃんと生きる。ちゃんと……。
 私……置いて行かれたんじゃない。だから追いかけたりしない。
 でも……行きたい気持ちもある。いやでも。それなら尚更ちゃんとしなきゃ。こっちでちゃんと。やるべきことをやってやりたいことみつけて…………。
 私。やりたいことって……なんかあったっけ。自由とか言ってるけど……これと言って何も……具体的なものが浮かばない。
 この歳で……。

「隊長! こんなところに居たんですか! 明日の授与式の打ち合わせがあるそうですよ!」

 ハっと顔を上げると街灯が見えた。
 ここは……外だ。水音もする。
 
 噴水に来てたんだっけ。
 水面を見ると、タバコを吸う彼の横顔が映っていた。どうやら私は、彼と話してる最中にうたた寝してしまったらしい。

「やめとくわ」

 いつの間に人が来たのだろう。
 彼が誰かと話をしている。姿は見えないけれど。

「できませんよそんなの! 陛下直々なんですよ! いいじゃないですか領地も貰えるし大金持ちですよ! それに今の殺伐とした仕事より聖女様の護衛の方が華々しくていいんじゃないすか!」

「ならお前が貰え」

「いや俺は無理っすよ。斬る以外の仕事出来ないっす」

「俺も~~」

「でしょ~~じゃなくて! 隊長は頭もいいじゃないっすかぁ! ずるくてさぼり上手で女性にモテて……俺の方が毎日苦労してるのになんで隊長が……」

「だからお前がもらえって」

「そうですね! って違うっ!」

 漫ざ……揉めてるみたい。
 彼の部下っぽい人と。
 メリエル情報だと、彼は魔獣退治専門の国家機関ガフィスレイジの特殊部隊隊長らしい。魔獣とか言われてもわからない私は、特殊部隊って響き超かっこよくない? と思ったぐらいで、彼がどれだけ危険な仕事をしているかとかそういうのは……ときどき怪我をしているのを見て怖くなる程度にしか知らない。
 彼と彼の部下は少しの間言い争いを続けていたが、部下の方が諦めて、可哀想な声を出しながら去って行った。
 
「ちきしょー隊長なんて嫌いだーー!」

 悲痛な叫びが遠のいて行く。
 私は、気配が完全に消えるのを待ってから、彼に声をかけた。

「なんか貰えるの?」

「らしい」

「授与……ってあれ? もしかして勲章的な?」

「的な」

 勲章……ってどういうものだっけ。
 国から。貰えるすごいもの的な。すごいもの。
 私はハっとして、手に持ったままだった晩御飯のコロッケを噴水に落とした。

「ああっコロッケ……じゃなくて……いやすごいじゃん! 勲章!」

「お前、外で寝るくらいなら帰れ」

「うわわっお祝いしなきゃ!」

「帰れって」

 私はまたハっとなった。
 お祝いって。
 どうやってすればいいのだろう……。
 物をあげようにも無理だし。
 以前、メリエルと晩酌しようと缶ビール片手にお風呂に潜ったら、ビールだけ異次元に消えた。この原理で行くと、異世界に転移したときって素っ裸になるのではと余計に転移が怖くなった。

「……あ。そもそも私あなたの欲しいもの知らないや」

「帰れ」

「まあいろいろ無理だけど。何か欲しいものってある?」

「無理なら聞くな」

「……ちなみに私は……」

 あなたが欲しいです。などという恐ろしい文言が浮かんだが、辛うじて口には出さなかった。
 別に酔っぱらっているわけでもなんでもないのに。
 カロリー摂取が追い付かないから、脳が正しく動いていないのだ。コロッケさっさと食べてればよかった。

「えっと」

 彼の瞳をじっとじとっと見つめつつ、考える。
 彼は私が素直になれば自分も言うと言っていた。だから……私の欲しいものを……。欲しい……もの……てなんだっけってなことを考えてうわぁってなりながらうとうとしていたんだっけ……。

「じゃあコロッケで。家に帰れ」

 珍しく。大変珍しく。彼がそう言った。
 瞬間。
 不思議とさっきまでもやもやしていた気持ちが晴れた。
 そうだ。私。彼をお祝いしたい。今したいことはそれだ。

「わかった! じゃあコロッケ大量に作って投げ込む! 一個くらいそっちに届くかもしれ……」

 言い切る前にブレーキ音が鼓膜を震わせた。
 眩しい光に目が痛み。
 刹那。闇。
 一瞬。永遠。わからない。
 ぼんやり薄目を開けると。
 赤く染まった彼の姿が見えた。いや……赤く染まっているのは彼じゃない、噴水の水だ。
 
「コロッ…………待って……てね」

 私は、呟いて、静かに目を閉じ、この世界から消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...