7 / 16
夢の中の夢は夢
しおりを挟む
「恥ずかしっ……」
私は、自分の声に驚いて目を開けた。
朝かな……まだ眠い。
キルシェ……でありサクラな私は、ゴロンと寝返りをうって、もう一度寝直す体勢に入った。
「何かすごい悲しい夢見た気がする。野宿したせいかな」
「残念ながらまだ夢です。夢に夢をかぶせただけです」
「あ……そっか……ん?」
ぼんやりする頭で周りを見渡すと。
薄黄色の世界がどこまでも広がっていて、他に何もなかった。視覚がおかしくなりそうな狭いのか広いのかわからない場所に、私一人……と一匹。
大きく真っ白な狼らしきモフモフが佇んでいる。
夢に夢。つまりは夢。
「私はあなたをこの世界に転移させたかった者です」
狼が、口元を少しも動かさずに声を発した。
私は、目をこすって、暫し頭を捻って、なんとなーく現状を理解したような。
してないような。
とにかく騒ぎ立てる元気がないので、ぼんやり理解なまま話をすすめることにした。
「私を異世界に転移させようと奮闘してた神様ですか?」
「まあ。上手くいきませんでしたが」
「……そう……でも私転生してますよね?」
「はい。あなたは死んで、この世界に転生しました」
「あらら……」
私。死んだの? 毎日毎日馬車馬のごとく働いて、まだ若かったのに、死んじゃったの?
ショック過ぎて。ショック過ぎる。
「噴水にトラックが突っ込んで、即死でした」
聞いた途端。パチパチと映像がフラッシュバックした。
最後に見た……水の向こうにいる彼の顔……どんな表情をしているのかまでは思い出せないが、事故現場を彼に見せつけてしまった可能性がある
好きな人に血まみれの死体をお見せしてしまったことが悔やまれる……じゃなくて。じゃなくて……。
「あなたの仕業ですか?」
怒りやら哀しみやらいろいろで声が震える。
「いえ。運命でした。なぜこんなにも転移させることができないのだろうかと常々思っていましたが。あなたは死ぬ運命にあり、そして転生する運命でもあったからなのです。私は運命に逆らえません」
「生まれ変わる予定だったってこと? 異世界に?」
「はい。生まれ変わりというのは、まあ割と行われることで、それがたまたま異世界で、たまたま姉上たちが転移した世界だったのです。おかげで私。助かりました」
「えっと……何が……っていうか、え~っと常々思ってたんですが、どうして関係ない私を転移させようとしてたんですか? っあと……私前世の記憶があるのどうしてですか?」
狼は、微動だにせず。
私は、ゴロンと転がったままである。とてもじゃないが神様と会話しているとは思えない絵面だ。
「あなたの姉と妹が、なかなか聖女として動いてくれず。どうすれば動いてくれるのかと聞いてみたところ。お二人ともサクラを連れてくれば……とおっしゃりましたので」
「……はぁ?」
なんだそれは。
こっちにきてちやほやされるも、面倒になった姉と、責任諸々が怖くなった妹。二人共、私に尻拭いさせようとしているか、ストレスのはけ口を必要としているか……いや両方か。
ものすごく迷惑なホームシックと言えなくもない。
腹立ちや苛立ちが一周二周して、呆れる。
「前世の記憶は、私が呼び戻しました。本来生まれ変わる際、前世の記憶は魂の奥底に沈んでしまうのですが、あなたの持つ異世界との絆のようなものに、引っ掛かってとどまっているというような感じでして、なんとかなりました」
「なにその曖昧な説明」
「所謂奇跡です」
奇跡て。
まあいい。
とにかく私は、彼女らの我が儘に突き合わされてこちらに来たのではなく、己の運命で来たわけだ。
あんな道半ばで、どたばたと死んでしまったことは、かなりショック。けれど、私は……サクラはまだ生きている。体も世界も違うけれど、私は私だ。
生きてみんなに会えるなら……あれ?
「そういえば。今って……あの日から十六年経ってるってことですか?」
みんな私のこと忘れてるんじゃないだろうか。彼……の年齢ってそういえば聞いてないってか教えて貰ってないけど、年の差が……じゃなくてそもそも、結婚してるよね。
「いいえ。今日はあなたが最後に見た異世界です」
「……最後っってことは……ええっ!? マっ本当ですか!? よかっ……ん? どういう原理ですかそれ?」
最後に見た異世界というと。彼と話していた日ということでよろしいのだろうか。
「転生というのはそういうものなのです。時の流れなど関係なく。あなたの魂がこう……ぴったりしっくりくる時代、世界へと辿り着く。いやぁ。本当、見当違いな時代に転生されていたら私、詰んでおりましたゆえ。奇跡さまさまです」
「奇跡おきすぎで逆に不安だわ」
「本当はもっと早くに記憶を目覚めさせたかったのですが、幼いうちに干渉してしまうと、魂に影響があるやもしれなかったので」
「影響?」
「ふわ~と肉体から離れたりとか」
「うわ。それで。たまたま私が死んだ日に目覚めさせたんですか?」
「スタート位置を終わりと合わせた方がすっきりしてるかなと」
「なるほど」
全然なるほどじゃないけど、同意しておいた。ごねてこれ以上ややこしい説明を聞かされても困る。
なんだか急にいろいろと心配になってきたし。
借金ってどうなるんだっけ。家の片付けとか誰がやってくれたんだろ。トモかリンか、遠い親戚か。事故の処理も大変だったろうに。運転してた人はどうなったのだろう。無事でもただじゃすまないはずだ。人一人死んだわけだし。
「私が居なくなった後の世界はどうなりました?」
「さぁ。知りませんが」
無責任。と言いたいところだが、そもそも運命の責任なんて、誰にもない。神様にあるのは現状の説明責任くらいか。
「……それで。私にどうしろと」
深く沈んでいく気持ちに抗おうと、話を進める。
「それはもちろん。お姉さんや妹さんに、私こっちに来ましたよ~という報告をして、これから一緒に頑張ろうって感じで……」
「それってあなたじゃ駄目なんですか?」
「え?」
「あなたが姉と妹に報告すればいいんじゃないですか? 連れてくるって約束したから連れて来たよって。言えないんですか?」
「いえますけど……でもやっぱりご本人が現れた方が……」
「もう本人とは言いづらい状態なんですけど。別人ですし」
私は、脳をフル回転させた。
他人にいろいろと嫌なことを押し付けてこっちに来た。これは死んでしまった今となってはどうしようもないことである。
だからこそ。こっちではしっかりやるべきことをやろうとは思う……が。
そのやるべきことが、前世の姉と妹に、こっちきたよ~いろいろ補佐するから、聖女としてがんばってよ~なんてゴマすりすることだとはどうしても思えない。
しかしそうなると。
なぜ今まで、姉の借金返済や妹の人間関係の後始末に奔走していたのだろうということになってくる。
しっかりやるべきことをやるのはどちらの世界でも同じはず。
それなのにこっちに来た途端、姉と妹の後始末をするのは何か違う気がする……というのは……一体何が間違っているのだろう。
美人になって我が儘になった? 新しい人生を謳歌したい?
いやでも。新しくなりたいわけじゃない。せっかくキルシェとサクラが合体……ではないけれど、今すごくしっくりきているのに。
私は、サクラであってキルシェでありたい。
「それはまあ。確かにそうですけど」
「私がサクラだと信じないかもしれませんよ」
「まあ……では、転生したってことを説明してくるので、お姉さんと妹さんに会っていただけますか」
「じゃあ二人には、住所氏名年齢外見、全部事細かに伝えてください。でなきゃ真実味がないので」
「真実味……はい」
「私は会いませんけど」
私には会いたい人達が居る。踏み出せなかった一歩、自分で動いたわけではないけれど、一歩前へ……この場所へ来れた。
「……はい?」
「やることあるんで私」
ちゃんとある。私にはやりたいことがある。
だからまずそれをする。それが私にとってちゃんとするということ……じゃないだろうか。
「あるんですやることが」
再び声に出してみたら、より一層腑に落ちた。他人が聞いたら全然正論じゃないだろうけれど、私にはもう、頷きたおしたいほど、ストンときた。
私たぶん、やりたいことが見つからなくてうだうだしているのを、人のせいにしてただけだ。所謂悲劇のヒロインぶってたかったってやつだ。
メリエルとは全然同じじゃなかった。一緒に頑張ろうって言ったのに、頑張れてなかった。
何もかもほって楽なほうに流れた姉と妹が悪で、残って頑張る自分は正義。だから異世界へは行かない。なんて意地張って……ヴィニアスさんにも甘えていた。
彼にも……毎日毎日うだうだぐちぐちと……。
「だから姉と妹に言って欲しいことがあります。あっ……でもえっと。あなたって神様なんですよね?」
「ん~まあ。人じゃないですけど。神って認識で存在してるわけでもないです」
「いや。えっと。そういうことではなく。人からは神様的な存在って認識されてますよね?」
「まあ。ですかね」
「ですよね。じゃあ姉と妹にとってもそういう認識であってますよね?」
「ああ。はい。そういえば二人共、神様って呼んでたかもしれません。私のこと」
「よっしゃ」
私は小さくガッツポーズした。
白い狼は、まだまだ微動だにせず。しかし困惑しているのは伝わってくる。
「じゃあ。神様」
「…………はい」
「二人に私を転生させたことをお伝えしてください」
「私が転生させたわけでは……」
「神様がやったんです。二人の望みを叶えたのは神様です。なぜ転移じゃないのかと聞かれたら、選ばれし聖女ではないからとか適当に言いきかせてください」
「……はい」
神様押しに弱いぞ。
私はここから一気に神様を攻めた。思いつくままに頼み事をして頷かせ。
今度こそ目を覚ました。
枯れ葉の山から顔を出してそっと辺りを伺うと、真っ暗だった夜の森が、朝焼けの光で神秘的な景色になっていた。
「うう寒かった。死ぬかと思った」
声が震える。
昨晩。
靴も履かずに屋敷から走り出た私は、割とすぐ冷静になって、森のど真ん中で立ち止まった。
魔法使いの屋敷がある森は、物理的に広いわけではない。街からそう遠くもない。しかし一歩足を踏み入れると、迷いに迷ったあげく屋敷へたどり着けず外へ出てしまう。
結界が張ってあるからだ。
私たち魔法使いには効かないので、私が森を抜けるのは屋敷から伸びた一本道を行けばいいだけ。とっても簡単。
しかしそれだと速攻で捕まってしまう。
そこで私は、行きたい方、城下町方面とは逆の道に、着ていたカーディガンを落とし、森の中の道なき道を通って、城下町方面出口傍の枯れ葉に埋まって一晩過ごした。
上手くいけば今頃、屋敷の面々は港町の方を捜索しているはず。
彼らが一晩分遠くへ行っている隙に、体力を温存した私が動き出す。というわけだ。
「よし。じゃあ出発!」
私は、風の魔法を使って、意気揚々と街を目指して走り出した。
昨日、思い出したのだ。
昔兄と一緒にこっそり屋敷を抜け出して、城下町へ出かけたことがあるのを。それで、屋敷の正面の道が城下町方面とふんだのだが。
あってるよね。キルシェとしてあの屋敷に居た頃、外の情報とことん遮断されてたから、私きっとかなりの世間知らずだろうな。
まあ子供二人で行けたんだから、そんなに遠くないはず。
「ヴィニアスお兄ちゃん。元気でやってるかな……」
ぽつりと呟いた名前。当然知ってるはずの兄の名前のせいで、私はこけた。砂利道で盛大に。
私は、自分の声に驚いて目を開けた。
朝かな……まだ眠い。
キルシェ……でありサクラな私は、ゴロンと寝返りをうって、もう一度寝直す体勢に入った。
「何かすごい悲しい夢見た気がする。野宿したせいかな」
「残念ながらまだ夢です。夢に夢をかぶせただけです」
「あ……そっか……ん?」
ぼんやりする頭で周りを見渡すと。
薄黄色の世界がどこまでも広がっていて、他に何もなかった。視覚がおかしくなりそうな狭いのか広いのかわからない場所に、私一人……と一匹。
大きく真っ白な狼らしきモフモフが佇んでいる。
夢に夢。つまりは夢。
「私はあなたをこの世界に転移させたかった者です」
狼が、口元を少しも動かさずに声を発した。
私は、目をこすって、暫し頭を捻って、なんとなーく現状を理解したような。
してないような。
とにかく騒ぎ立てる元気がないので、ぼんやり理解なまま話をすすめることにした。
「私を異世界に転移させようと奮闘してた神様ですか?」
「まあ。上手くいきませんでしたが」
「……そう……でも私転生してますよね?」
「はい。あなたは死んで、この世界に転生しました」
「あらら……」
私。死んだの? 毎日毎日馬車馬のごとく働いて、まだ若かったのに、死んじゃったの?
ショック過ぎて。ショック過ぎる。
「噴水にトラックが突っ込んで、即死でした」
聞いた途端。パチパチと映像がフラッシュバックした。
最後に見た……水の向こうにいる彼の顔……どんな表情をしているのかまでは思い出せないが、事故現場を彼に見せつけてしまった可能性がある
好きな人に血まみれの死体をお見せしてしまったことが悔やまれる……じゃなくて。じゃなくて……。
「あなたの仕業ですか?」
怒りやら哀しみやらいろいろで声が震える。
「いえ。運命でした。なぜこんなにも転移させることができないのだろうかと常々思っていましたが。あなたは死ぬ運命にあり、そして転生する運命でもあったからなのです。私は運命に逆らえません」
「生まれ変わる予定だったってこと? 異世界に?」
「はい。生まれ変わりというのは、まあ割と行われることで、それがたまたま異世界で、たまたま姉上たちが転移した世界だったのです。おかげで私。助かりました」
「えっと……何が……っていうか、え~っと常々思ってたんですが、どうして関係ない私を転移させようとしてたんですか? っあと……私前世の記憶があるのどうしてですか?」
狼は、微動だにせず。
私は、ゴロンと転がったままである。とてもじゃないが神様と会話しているとは思えない絵面だ。
「あなたの姉と妹が、なかなか聖女として動いてくれず。どうすれば動いてくれるのかと聞いてみたところ。お二人ともサクラを連れてくれば……とおっしゃりましたので」
「……はぁ?」
なんだそれは。
こっちにきてちやほやされるも、面倒になった姉と、責任諸々が怖くなった妹。二人共、私に尻拭いさせようとしているか、ストレスのはけ口を必要としているか……いや両方か。
ものすごく迷惑なホームシックと言えなくもない。
腹立ちや苛立ちが一周二周して、呆れる。
「前世の記憶は、私が呼び戻しました。本来生まれ変わる際、前世の記憶は魂の奥底に沈んでしまうのですが、あなたの持つ異世界との絆のようなものに、引っ掛かってとどまっているというような感じでして、なんとかなりました」
「なにその曖昧な説明」
「所謂奇跡です」
奇跡て。
まあいい。
とにかく私は、彼女らの我が儘に突き合わされてこちらに来たのではなく、己の運命で来たわけだ。
あんな道半ばで、どたばたと死んでしまったことは、かなりショック。けれど、私は……サクラはまだ生きている。体も世界も違うけれど、私は私だ。
生きてみんなに会えるなら……あれ?
「そういえば。今って……あの日から十六年経ってるってことですか?」
みんな私のこと忘れてるんじゃないだろうか。彼……の年齢ってそういえば聞いてないってか教えて貰ってないけど、年の差が……じゃなくてそもそも、結婚してるよね。
「いいえ。今日はあなたが最後に見た異世界です」
「……最後っってことは……ええっ!? マっ本当ですか!? よかっ……ん? どういう原理ですかそれ?」
最後に見た異世界というと。彼と話していた日ということでよろしいのだろうか。
「転生というのはそういうものなのです。時の流れなど関係なく。あなたの魂がこう……ぴったりしっくりくる時代、世界へと辿り着く。いやぁ。本当、見当違いな時代に転生されていたら私、詰んでおりましたゆえ。奇跡さまさまです」
「奇跡おきすぎで逆に不安だわ」
「本当はもっと早くに記憶を目覚めさせたかったのですが、幼いうちに干渉してしまうと、魂に影響があるやもしれなかったので」
「影響?」
「ふわ~と肉体から離れたりとか」
「うわ。それで。たまたま私が死んだ日に目覚めさせたんですか?」
「スタート位置を終わりと合わせた方がすっきりしてるかなと」
「なるほど」
全然なるほどじゃないけど、同意しておいた。ごねてこれ以上ややこしい説明を聞かされても困る。
なんだか急にいろいろと心配になってきたし。
借金ってどうなるんだっけ。家の片付けとか誰がやってくれたんだろ。トモかリンか、遠い親戚か。事故の処理も大変だったろうに。運転してた人はどうなったのだろう。無事でもただじゃすまないはずだ。人一人死んだわけだし。
「私が居なくなった後の世界はどうなりました?」
「さぁ。知りませんが」
無責任。と言いたいところだが、そもそも運命の責任なんて、誰にもない。神様にあるのは現状の説明責任くらいか。
「……それで。私にどうしろと」
深く沈んでいく気持ちに抗おうと、話を進める。
「それはもちろん。お姉さんや妹さんに、私こっちに来ましたよ~という報告をして、これから一緒に頑張ろうって感じで……」
「それってあなたじゃ駄目なんですか?」
「え?」
「あなたが姉と妹に報告すればいいんじゃないですか? 連れてくるって約束したから連れて来たよって。言えないんですか?」
「いえますけど……でもやっぱりご本人が現れた方が……」
「もう本人とは言いづらい状態なんですけど。別人ですし」
私は、脳をフル回転させた。
他人にいろいろと嫌なことを押し付けてこっちに来た。これは死んでしまった今となってはどうしようもないことである。
だからこそ。こっちではしっかりやるべきことをやろうとは思う……が。
そのやるべきことが、前世の姉と妹に、こっちきたよ~いろいろ補佐するから、聖女としてがんばってよ~なんてゴマすりすることだとはどうしても思えない。
しかしそうなると。
なぜ今まで、姉の借金返済や妹の人間関係の後始末に奔走していたのだろうということになってくる。
しっかりやるべきことをやるのはどちらの世界でも同じはず。
それなのにこっちに来た途端、姉と妹の後始末をするのは何か違う気がする……というのは……一体何が間違っているのだろう。
美人になって我が儘になった? 新しい人生を謳歌したい?
いやでも。新しくなりたいわけじゃない。せっかくキルシェとサクラが合体……ではないけれど、今すごくしっくりきているのに。
私は、サクラであってキルシェでありたい。
「それはまあ。確かにそうですけど」
「私がサクラだと信じないかもしれませんよ」
「まあ……では、転生したってことを説明してくるので、お姉さんと妹さんに会っていただけますか」
「じゃあ二人には、住所氏名年齢外見、全部事細かに伝えてください。でなきゃ真実味がないので」
「真実味……はい」
「私は会いませんけど」
私には会いたい人達が居る。踏み出せなかった一歩、自分で動いたわけではないけれど、一歩前へ……この場所へ来れた。
「……はい?」
「やることあるんで私」
ちゃんとある。私にはやりたいことがある。
だからまずそれをする。それが私にとってちゃんとするということ……じゃないだろうか。
「あるんですやることが」
再び声に出してみたら、より一層腑に落ちた。他人が聞いたら全然正論じゃないだろうけれど、私にはもう、頷きたおしたいほど、ストンときた。
私たぶん、やりたいことが見つからなくてうだうだしているのを、人のせいにしてただけだ。所謂悲劇のヒロインぶってたかったってやつだ。
メリエルとは全然同じじゃなかった。一緒に頑張ろうって言ったのに、頑張れてなかった。
何もかもほって楽なほうに流れた姉と妹が悪で、残って頑張る自分は正義。だから異世界へは行かない。なんて意地張って……ヴィニアスさんにも甘えていた。
彼にも……毎日毎日うだうだぐちぐちと……。
「だから姉と妹に言って欲しいことがあります。あっ……でもえっと。あなたって神様なんですよね?」
「ん~まあ。人じゃないですけど。神って認識で存在してるわけでもないです」
「いや。えっと。そういうことではなく。人からは神様的な存在って認識されてますよね?」
「まあ。ですかね」
「ですよね。じゃあ姉と妹にとってもそういう認識であってますよね?」
「ああ。はい。そういえば二人共、神様って呼んでたかもしれません。私のこと」
「よっしゃ」
私は小さくガッツポーズした。
白い狼は、まだまだ微動だにせず。しかし困惑しているのは伝わってくる。
「じゃあ。神様」
「…………はい」
「二人に私を転生させたことをお伝えしてください」
「私が転生させたわけでは……」
「神様がやったんです。二人の望みを叶えたのは神様です。なぜ転移じゃないのかと聞かれたら、選ばれし聖女ではないからとか適当に言いきかせてください」
「……はい」
神様押しに弱いぞ。
私はここから一気に神様を攻めた。思いつくままに頼み事をして頷かせ。
今度こそ目を覚ました。
枯れ葉の山から顔を出してそっと辺りを伺うと、真っ暗だった夜の森が、朝焼けの光で神秘的な景色になっていた。
「うう寒かった。死ぬかと思った」
声が震える。
昨晩。
靴も履かずに屋敷から走り出た私は、割とすぐ冷静になって、森のど真ん中で立ち止まった。
魔法使いの屋敷がある森は、物理的に広いわけではない。街からそう遠くもない。しかし一歩足を踏み入れると、迷いに迷ったあげく屋敷へたどり着けず外へ出てしまう。
結界が張ってあるからだ。
私たち魔法使いには効かないので、私が森を抜けるのは屋敷から伸びた一本道を行けばいいだけ。とっても簡単。
しかしそれだと速攻で捕まってしまう。
そこで私は、行きたい方、城下町方面とは逆の道に、着ていたカーディガンを落とし、森の中の道なき道を通って、城下町方面出口傍の枯れ葉に埋まって一晩過ごした。
上手くいけば今頃、屋敷の面々は港町の方を捜索しているはず。
彼らが一晩分遠くへ行っている隙に、体力を温存した私が動き出す。というわけだ。
「よし。じゃあ出発!」
私は、風の魔法を使って、意気揚々と街を目指して走り出した。
昨日、思い出したのだ。
昔兄と一緒にこっそり屋敷を抜け出して、城下町へ出かけたことがあるのを。それで、屋敷の正面の道が城下町方面とふんだのだが。
あってるよね。キルシェとしてあの屋敷に居た頃、外の情報とことん遮断されてたから、私きっとかなりの世間知らずだろうな。
まあ子供二人で行けたんだから、そんなに遠くないはず。
「ヴィニアスお兄ちゃん。元気でやってるかな……」
ぽつりと呟いた名前。当然知ってるはずの兄の名前のせいで、私はこけた。砂利道で盛大に。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる