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第一章:領主一年目
下水工事と麦蒔き
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なぜ生き物であるはずの森の掃除屋が異空間に入ったかを考えるのは後にして、とりあえず町へ戻ることにした。まだ建設は始まったばかりだ。排水やトイレ周りをいじるなら今のうちしかない。
「いましたか?」
「ああ、いたいた。どれくらい必要かを聞くのを忘れていたから、とりあえず手当たり次第に捕まえたんだが」
「普通の家なら一匹か二匹いれば十分ですよ。下水の処理でも三〇匹もいれば足りるかと」
「多すぎたかもしれないが、まあいいか。多すぎて害はないか?」
「害になる生き物ではありません。増えてエサが足りなくなれば勝手にどこかへ移動しますから。それに糞や死骸にしか興味がありませんから、子供が触っても問題ありませんよ」
「それならいいか」
俺は急いで棟梁たちのところへ行くと、下水の工事を始めた。
下水は王都にもあり、軍学校の座学にあった都市設計の授業でもそのあたりの説明はあった。ただし王都の下水は石と砂と灰を層にして、その中を通すことでごみや汚物などを取り除くだけなので、定期的に溜まったごみや汚物を取り除くする必要があった。その仕事は臭いも汚れもひどいので、その仕事のほとんどは貧民街の住人たちがやっていたそうだが、それでも彼らにとっては貴重な収入源だったようだ。
ドラゴネットでは町の西から東まで細い水路を引いて、そこに台所から出た水を流す予定だった。それを変更し、その水路に蓋をして地下を流すことにし、下流の方で石と砂の中を通して汚物を漉し取り、そこに森の掃除屋を入れて浄化する。下に落ちた水は、さらに別の森の掃除屋でもう一度浄化する。そして浄化が終わった水を堀の下流に流せばいい。そうするのが一番川が汚れにくいだろう。万が一に備えて、森の掃除屋を入れるあたりから中に入れるようにしておいた方がいいだろう。
下水の本体が完成すれば、次は汚水を下水へと流すための管を作る。その管はS字トラップと呼ばれるものだ。一定量の水を溜めることで、下水の方から臭いが上がらないようにするためのものだ。あるのとないのとではまったく違う。この仕組みを考え出した人物はすごいと思う。俺なら土魔法で土の中にS字に穴を開けることが可能だが、棟梁たちにはそれはできないので、あらかじめ渡しておく必要がある。通常の管とS字トラップ、これらを大量に作って渡すと、俺は畑へ向かうことにした。
畑に移動すると残った領民たちを集めて麦蒔きを行うことにする。
俺とカレンが森の掃除屋を捕まえに行っている間に、すでに土は作らせていた。本来なら前もって土を作っておく必要があるが、今回は仕方がない。土そのものは痩せていないから、通常の肥料と竜の鱗の粉末、この二つを加えて急いで土を作った。鱗の方はパウラから、鍋いっぱいのスープに塩を小さじ半分の分量だと言われたので、そのように伝えた。ここにいるのは主婦が多いから大丈夫だろう。
畝を作り、一定間隔で浅い穴を一列に開ける。穴の中に数粒ずつ入れて軽く土をかぶせる。一〇日から二週間もすれば芽が出るだろう。一か月ほど経って葉が増えてきたら麦踏みだな。俺もそうだったが、子供は麦踏みが好きだからな。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、早すぎませんか?」
「そ、そうだな、早すぎるくらいだが……出ないよりはいいだろう。さすがは竜の鱗だな。効き目は抜群だ」
昨日蒔いたばかりなのに、畑では青々とした小麦の芽が出ていた。クラースたちの鱗の粉末は植物の成長を促そうだ。促すとは言っても……蒔いた次の日だぞ! さすがに早すぎる。できる限り冷静な声を出そうとしたが、少し震えたかもしれない。
しかし、芽が出るのが異様に早かったが、無事に育つかはまだ分からない。ここはこの国でも一番北になる。一度冬を迎えてみないと分からないが、おそらくハイデよりは寒いだろう。ハイデでは秋の終わり、一〇月頃に蒔いて、夏を迎えた八月に収穫していたが、ここはもう少し北にあるから何でも手探りになる。
雪がどれくらいになるかも全く分からないからクラースに聞いたことがあるが、「他の場所もよく似たものだ」と返ってきた。それを信じるならそこまで雪深い土地じゃないが、上空から見て判断をされても正直困る。一メートルと二メートルは人にとってはかなり違うからなあ。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、これは何ですか?」
「……麦、だろうな、一応は」
俺を始めとして麦畑に来ていた者たちが戸惑っている。
「儂らでも、これが麦なのは理解できるのですが、一晩でどうして……」
昨日見たときは、まだ芽が出ていただけの気がするが、すでに茎が伸びている。
「鱗が効いたとしか思えないな」
「このまま育ててもいいので?」
「育てないわけにはいかないだろう。まあ様子を見ながら育ててくれ」
「……分かりました」
俺もそうだが、頭が拒否したがっている。麦は蒔いてから一〇日から二週間程度で芽が出て、それから冬の間にゆっくりと成長するものだ。普通なら数回程度は麦踏みをするのだが、それすらしないうちだ。ここまで伸びたらもう麦踏みはできない。
ここまで蒔いてから二日ほどか。収穫はいつくらいにしたらいいのか。
「育ったわね」
「育ったどころじゃないぞ、これは」
「よく育つってお父さんが言ってたでしょ?」
「限度という言葉があるんだが」
「ちゃんと育ったんだからいいじゃない」
「おお、立派に育ったな」
「これならすぐですね」
みんなで戸惑っているとクラースとパウラがやってきた。「おたくの息子さん、少し見ないうちに大きくなりましたね」という感覚で言われても困る。麦は急に伸びたりしない。
「クラース、少し育ちすぎじゃないか?」
「これだけ育てば、年内に五回も一〇回も収穫できるだろう。それなら冬の寒い時期に世話をする必要もないのではないか?」
「冬は冬で別のことをすればいいのでは? 家から出ないなら子作りでもしたらいいと思いますよ」
「まあそれはそうだが」
二人の言うことにも一理ある。重労働が減れば、それだけ生活は楽になる。生活が楽になれば子供を増やそうという気になる。麦踏みがなくなれば子供たちの楽しみも一つなくなるわけだが、そんなに回数があるものでもないが……また王都で絵本を中心に娯楽になりそうなものを買ってこようか。
それに麦わらは飼料として使ったり、細かくして土にすき込んで土を良くしたりできる。これだけ麦が育てば土を良くする必要もないかもしれないが、そのあたりは農民たちに任せよう。
しかし、パウラは冷静な女性だと思っていたが、やっぱり竜だな。ざっくりしているところがいかにもカレンの母親だ。口にすると何をされるか分かったものじゃないから絶対に口にしないが。
「いましたか?」
「ああ、いたいた。どれくらい必要かを聞くのを忘れていたから、とりあえず手当たり次第に捕まえたんだが」
「普通の家なら一匹か二匹いれば十分ですよ。下水の処理でも三〇匹もいれば足りるかと」
「多すぎたかもしれないが、まあいいか。多すぎて害はないか?」
「害になる生き物ではありません。増えてエサが足りなくなれば勝手にどこかへ移動しますから。それに糞や死骸にしか興味がありませんから、子供が触っても問題ありませんよ」
「それならいいか」
俺は急いで棟梁たちのところへ行くと、下水の工事を始めた。
下水は王都にもあり、軍学校の座学にあった都市設計の授業でもそのあたりの説明はあった。ただし王都の下水は石と砂と灰を層にして、その中を通すことでごみや汚物などを取り除くだけなので、定期的に溜まったごみや汚物を取り除くする必要があった。その仕事は臭いも汚れもひどいので、その仕事のほとんどは貧民街の住人たちがやっていたそうだが、それでも彼らにとっては貴重な収入源だったようだ。
ドラゴネットでは町の西から東まで細い水路を引いて、そこに台所から出た水を流す予定だった。それを変更し、その水路に蓋をして地下を流すことにし、下流の方で石と砂の中を通して汚物を漉し取り、そこに森の掃除屋を入れて浄化する。下に落ちた水は、さらに別の森の掃除屋でもう一度浄化する。そして浄化が終わった水を堀の下流に流せばいい。そうするのが一番川が汚れにくいだろう。万が一に備えて、森の掃除屋を入れるあたりから中に入れるようにしておいた方がいいだろう。
下水の本体が完成すれば、次は汚水を下水へと流すための管を作る。その管はS字トラップと呼ばれるものだ。一定量の水を溜めることで、下水の方から臭いが上がらないようにするためのものだ。あるのとないのとではまったく違う。この仕組みを考え出した人物はすごいと思う。俺なら土魔法で土の中にS字に穴を開けることが可能だが、棟梁たちにはそれはできないので、あらかじめ渡しておく必要がある。通常の管とS字トラップ、これらを大量に作って渡すと、俺は畑へ向かうことにした。
畑に移動すると残った領民たちを集めて麦蒔きを行うことにする。
俺とカレンが森の掃除屋を捕まえに行っている間に、すでに土は作らせていた。本来なら前もって土を作っておく必要があるが、今回は仕方がない。土そのものは痩せていないから、通常の肥料と竜の鱗の粉末、この二つを加えて急いで土を作った。鱗の方はパウラから、鍋いっぱいのスープに塩を小さじ半分の分量だと言われたので、そのように伝えた。ここにいるのは主婦が多いから大丈夫だろう。
畝を作り、一定間隔で浅い穴を一列に開ける。穴の中に数粒ずつ入れて軽く土をかぶせる。一〇日から二週間もすれば芽が出るだろう。一か月ほど経って葉が増えてきたら麦踏みだな。俺もそうだったが、子供は麦踏みが好きだからな。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、早すぎませんか?」
「そ、そうだな、早すぎるくらいだが……出ないよりはいいだろう。さすがは竜の鱗だな。効き目は抜群だ」
昨日蒔いたばかりなのに、畑では青々とした小麦の芽が出ていた。クラースたちの鱗の粉末は植物の成長を促そうだ。促すとは言っても……蒔いた次の日だぞ! さすがに早すぎる。できる限り冷静な声を出そうとしたが、少し震えたかもしれない。
しかし、芽が出るのが異様に早かったが、無事に育つかはまだ分からない。ここはこの国でも一番北になる。一度冬を迎えてみないと分からないが、おそらくハイデよりは寒いだろう。ハイデでは秋の終わり、一〇月頃に蒔いて、夏を迎えた八月に収穫していたが、ここはもう少し北にあるから何でも手探りになる。
雪がどれくらいになるかも全く分からないからクラースに聞いたことがあるが、「他の場所もよく似たものだ」と返ってきた。それを信じるならそこまで雪深い土地じゃないが、上空から見て判断をされても正直困る。一メートルと二メートルは人にとってはかなり違うからなあ。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、これは何ですか?」
「……麦、だろうな、一応は」
俺を始めとして麦畑に来ていた者たちが戸惑っている。
「儂らでも、これが麦なのは理解できるのですが、一晩でどうして……」
昨日見たときは、まだ芽が出ていただけの気がするが、すでに茎が伸びている。
「鱗が効いたとしか思えないな」
「このまま育ててもいいので?」
「育てないわけにはいかないだろう。まあ様子を見ながら育ててくれ」
「……分かりました」
俺もそうだが、頭が拒否したがっている。麦は蒔いてから一〇日から二週間程度で芽が出て、それから冬の間にゆっくりと成長するものだ。普通なら数回程度は麦踏みをするのだが、それすらしないうちだ。ここまで伸びたらもう麦踏みはできない。
ここまで蒔いてから二日ほどか。収穫はいつくらいにしたらいいのか。
「育ったわね」
「育ったどころじゃないぞ、これは」
「よく育つってお父さんが言ってたでしょ?」
「限度という言葉があるんだが」
「ちゃんと育ったんだからいいじゃない」
「おお、立派に育ったな」
「これならすぐですね」
みんなで戸惑っているとクラースとパウラがやってきた。「おたくの息子さん、少し見ないうちに大きくなりましたね」という感覚で言われても困る。麦は急に伸びたりしない。
「クラース、少し育ちすぎじゃないか?」
「これだけ育てば、年内に五回も一〇回も収穫できるだろう。それなら冬の寒い時期に世話をする必要もないのではないか?」
「冬は冬で別のことをすればいいのでは? 家から出ないなら子作りでもしたらいいと思いますよ」
「まあそれはそうだが」
二人の言うことにも一理ある。重労働が減れば、それだけ生活は楽になる。生活が楽になれば子供を増やそうという気になる。麦踏みがなくなれば子供たちの楽しみも一つなくなるわけだが、そんなに回数があるものでもないが……また王都で絵本を中心に娯楽になりそうなものを買ってこようか。
それに麦わらは飼料として使ったり、細かくして土にすき込んで土を良くしたりできる。これだけ麦が育てば土を良くする必要もないかもしれないが、そのあたりは農民たちに任せよう。
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