ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

年末が近付く

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 気付けばもうすぐ年末だ。今年は軍学校の一年目と同じくらい慌ただしかった気がする。

 ありとあらゆることが初めての一年だった。春先は出征した。初夏はここへ一度やって来てカレンと出会った。夏は実家に戻って領地を引き払った。秋からはまたここへやって来て町を作った。マーロー男爵領との間のトンネルも完成した。

 個人的にはカレン以外にもエルザとアルマも妻になり、三人とも妊娠中だ。来年の夏には俺も父親だ。そしてその後にアンゲリカが愛人になった。アメリアとの関係がどうなるかは分からないが、とりあえず向こうがこちらに近付いてくれるのを待っている。

 個人的なことは自分でけじめを付ければいい。問題は領主としての仕事だ。



 まず農業関係。

 町の北東部は農業地区になっている。ここは基本的に領主所有の農地となっている。つまり作物はすべて領主のものとなり、そこから領民に渡されることになっている。

 北の川からため池へ、そしてため池から畑まで水が運ばれる。その水を使って小麦などの穀物、各種野菜や果物、さらに胡桃などの木の実が栽培されている。その南には農民たちの家がある。旧領地の住民や王都からやって来た移民たちの多くがこの畑で働いている。

 その農地だが、とりあえずこれまで麦は全部で七回収穫したらしい。もう一回やりたかったと残念がっていた。最初は戸惑っていたのに張り切りすぎだ、あいつら。収穫したら土起こしたらすぐ次に備える。おかげで麦の備蓄は問題なし。むしろ余りすぎている。

 こちらに来たころ、最初は農地の半分は領主の所有物にし、残り半分は農民たちの所有物ということにしたが、収穫量があまりにも多すぎ、彼らとしては自分たちの農地はほとんど必要ないということになった。家の裏の小さな畑だけで十分だと。彼らがそれでいいと言うなら、俺としては麦を頑張って売って金を稼ぐことが仕事になる。

 麦をたくさん作れば麦わらも大量に出る。その麦わらも板に加工し、外に売るわけではないが、領内で簡易な資材として、主に屋外で使うテーブルなどに使われるようになった。二枚の薄い木の板の間に短く切った麦わらと熱して溶かしたにかわを混ぜた物を挟み、上から押すことで一枚の板のようにしている。それほど長持ちするとは思えないが、それでも単に捨てるよりはいいだろう。

 生活に使う水については、ダニエルたちが水汲み場をいくつも設置してくれたのでそれを使っている。家の固まりごとに一つの井戸を共有するのと同じ形だ。一五から二〇軒くらいで一つの水汲み場を使っているようだ。



 次は領内の店について。

 一応これまでに作った店としては、アンゲリカの酒場、パン屋、公営商店、酒場兼宿屋の赤髪亭、そして風呂屋がある。酒場とパン屋と商店は中央広場から東に伸びている道沿いにあり、赤髪亭と風呂屋は広場の南側にある。

 商店は最初は公営だったが、先日ニクラスに譲られた。今のところは公営商店時代と何も違いはないが、いずれはニクラスたちが自分たちで買い付けた商品を並べることになるだろう。

 宿屋は酒場も兼ねられる方がいい、むしろ兼ねなければほとんど意味がないだろうと思って一軒作ったが、当然ながらほとんど酒場として使われている。たまにエクセンの方からやってきて泊まる商人がいるらしい。ありがたいことだ。ぜひこの領地の話を広めてもらいたいと思う。

 今後は寝泊まりするだけの簡易的な宿や食事だけの店を作ってもいいと思うが、いきなり複数作っても客が入らない可能性がある。今のところは計画すらない段階だが、その他の商店などの商業関係の施設は南側に作る予定だ。



 もう一つ、職人街について。

 町の東側で、東西の通りの南側には職人街がある。職人ごとに必要な設備が違うので作りは同じにはなっていないが、すべて家と工房が一体化した形になっている。現在作られているものは住民が必要としているものが中心だが、いずれはこの町ならではというものを作り出せたらと思っている。

 職人街にも魔道具を使った水汲み場を設置している。運用は農民の家のあたりと同じで、こちらは使用量が多いから、数軒ごとに一つの水飲み場を使っている。

 その職人たちは王都から呼び集めた。この領地は山に囲まれているので木材は豊富だ。薬草なども多い。そして豊富な食材を使って酒も作られている。

 年末から魔獣の肉を使った保存食を作り始めたが、これはまだ試行錯誤の段階だ。ヴァイスドルフ男爵領からヴルストソーセージなどを作るために職人たちを招くことになっている。これは年が明けてからになるが、農地か牧草地あたりにそれ用の場所を用意することになるだろう。

 それ以外の特産品としては、山では琥珀が採れるので、それを使った宝飾品もいいが、それだとマーロー男爵領のバーシュルツェと同じになってしまう。モーリッツが頑張って何か特産品にできないかと頑張っている。木材も同じだ。山でいくらでも手に入るが、それもマーロー男爵領と同じになってしまう。特産品作りは難しいな。



 領民たちが飢えないようにすることはできる。食料事情だけは問題ない。だがそれ以外が中途半端なのは俺も認めるところだ。飢えないだけではどうしようもない。その先がないからだ。この町を現状維持ではなく、より大きな町にする、そのためにどうしたらいいか。

 三年間は税を払う必要はないが、四年目以降は必要だ。それまでに領地として収入を得るための手段をきちんと確立する必要がある。だがそのためには人手が足りない。魔獣の毛皮を俺が王都で売るのもありだが、それでは先がない。使用人の中で読み書き計算ができる者を役人として登用することも一つの手段だが、やりすぎれば使用人が足りなくなる。

 執事にしたヨアヒム、従僕のアントン、この二人は読み書き計算は問題なく、世の中のことにも明るい。だが城の維持をするだけでもそれなりの人数が必要で、結局は今の人数でもギリギリと言っていいくらいだ。どちらか一人なら何とかなるが、二人とも抜ければ男性使用人をまとめる者がいなくなる。ハンスだけではつらいだろう。この人数でもやっていけるように考えるのが領主の仕事だ。

 ……ダメだな。どうにも悪い方へ悪い方へと考えてしまう。もうすぐ年末だ。領民たちには酒を配って騒ぎたいだけ騒がせる。そして年が明ければ文字通り新しい年になる。俺にとっても領民たちにとっても、ここに来て良かったと思えるようでなければならない。そのためには俺が暗い顔をしてるのはダメだ。空元気を出すわけでもないが、明るい顔で年末年始を迎えるようでないとな。
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