132 / 345
第一章:領主一年目
年末と掃除
しおりを挟む
「場所が場所だからすることもないだろうが、とりあえず明日から四日間は休みだ。厨房やその近くにある食材や酒などは好きに使ってくれてかまわない。適宜追加するから、必要があるなら言ってくれ」
使用人を集めてそう伝える。年末最後の光の日と闇の日と無の日の三日間、そして年明けの火の日は使用人に休みを与えるのが一般的だ。なぜそうなっているのかは分からないが、一般的にはその間に実家の方に顔を出したり体を休めたりして年明けからの仕事に備えるという風に考えられている。だがこの町は新しくできた場所なので、町中に実家がある者は一人もいず、また日数的に帰ることもできない。残念ながら俺では
「旦那様、明日お店を開けてもよろしいですか?」
「それはいいが、休みはいいのか?」
「はい、なかなかお城のみなさんにはお店に来てもらえませんので、一日くらいはそのために店を使ってもいいかと思いまして」
「ああ、それは全然問題ない。明日からは閉めることになっているから、使用人限定とすればいいだろう」
「食べ放題ですか~?」
「入れ食いですか~?」
「カリンナ、コリンナ、あなたたち二人はお手伝いですよ。それが終わったら食事を出しますね。好きなものを作りますから、それまでは我慢しなさい」
「「はい」」
いつの間にかしっかりと躾られているな。ここしばらくはアンゲリカの酒場が仕事場になりつつある。それでも午前中は城の方でやるべきことはやっているから、単にサボっているわけではない。それに酒場の方も忙しいのは事実だ。
アンゲリカの酒場はもちろん彼女が知っている料理を出すことになっているが、ハイデの農婦たちや他の地域からやって来た者たちからそれぞれの土地の料理を聞いてそれを作っている。さらに最近ではニクラスの妻のアレンカから様々な国の料理を教わって出しているようだ。あまり増やしすぎても大変だと思うが、それが特徴になるのなら問題ないだろう。
一方で、仕事納めをして帰る気満々の者もいる。
「料理の腕は上達したと思いますので、両親を驚かせたいと思います」
「あれだけ毎日厨房に立っていればな」
ザーラは真面目なので、暇があればパン焼きと料理の練習をしている。そして一部は俺が異空間に仕舞っている。そうすれば前に作ったものとどれだけ違うかが確認できるからだ。
異空間の中では料理は冷めない。入れた時のままだ。ただし、生き物を入れることができる異空間の方が冷めることが分かっている。あちらは普通に時間が経過するらしい。人を入れることができれば大人数を移動させるときに楽ができそうなものだが、残念ながら人は入らない。これは練習しても無理だった。
「それなら移動するか。忘れ物はないな?」
「エルマーという名前の夫がいません」
「それは最初からいない。諦めろ」
「残念です」
押しが強いわけでもなく、押しかけられることもないが、ザーラは事あるごとに俺に向かってこのようなことを言っている。ある意味ではものすごく真面目なんだろう。初志貫徹とでも言えばいいか、やり始めたことは真面目にやり遂げる。やり遂げられても困るので、彼女にいい相手が現れないかと思っている。
久しぶりと言うほど久しぶりでもないが、エクセンに移動する。いつもそうだが、いきなり町の中に現れると人を驚かしてしまうので、少し外れた場所に移動する。ザーラの実家である白鳥亭までは歩いて一〇分ほどだ。
俺にとってはそれほど長い期間でもないが、エクセンを初めて出たザーラにとっては久しぶりに感じたのだろう。白鳥亭が見えた瞬間には嬉しそうに目を細めていた。
「では二日にまた迎えに来る。それまではゆっくりと親孝行しておけ」
「ありがとうございました」
ザーラをエクセンの白鳥亭まで送り届けると、また城の方へ戻ることにした。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、お屋敷の掃除に行きませんか?」
年末の光の日。エルサにそう聞かれた。
「そうだな。エルザはしばらくぶりだろう」
「はい。久しぶりに教会の方も見てみたいですし」
「教会の管理はゲルトの親父さんお店に頼んであるから全然問題ない。俺も確認しているしな」
「そうは言っても自分の目で確認するのは違いますよ? アルマも行きませんか?」
「もちろん行きますっ」
エルザは俺が軍学校に入る少し前に屋敷にやって来て、それからは常に屋敷か教会にいて、その両方の管理をしてくれていた。アルマは孤児を装うようにして孤児院に匿われていた。二人を連れて、今年最後に屋敷と教会を見ておくのもいいだろう。
「カレンも行くか?」
「そうね……でも遠慮するわ。三人でどうぞ。私はこっちにいるから」
「分かった。今日中に戻る」
「うん」
エルザとアルマを連れて王都の屋敷に移動する。
「気を利かせてくれたのでしょうか?」
「それもあるとは思うが、単純に思い入れの違いもあると思う」
この三人はそれなりの年数を王都で過ごしているが、カレンは俺やエルザを運んでくれたのを入れても、それほど長くここにいたわけではない。俺たちを運んだらドラゴネットに戻ることも多かった。だから単に行った場所の一つと考えていてもおかしくない。むしろ酔って色々と喋ったハイデの方が印象は強いと思う。
「カレンに行きたいところがあればまた連れて行けばいい。とりあえず今日のところは俺たちだけでやることをやろう」
二人の腹は目立つほどでもないが、それでもやはり体調的に以前とは違うようだ。食事についても脂っこい物を避けるようになり、果物を口にすることが増えた。たまに気分が良くないこともあるようだ。クラースの書き付けを調べたら妊娠時の体調不良によく効く薬があったので、たまにそれを飲んでいる。カレンにはそういう不調はないそうだ。
「そうですね。掃除の方は……かなりきちんと掃除がされていますが、これはエルマー様ですか?」
「ああ、使うところと使わないところがあるから、使わない部屋などはたまにだが」
「どうしても汚れるところは限られますからね」
「おそらくベッドは汚れなくなりましたねっ」
「アルマも言うようになったな」
「これでも人妻ですからっ」
冗談を言い合いながら軽く掃除をする。屋敷の掃除が終われば教会の方を見て回る。ゲルトの親父さんの店に管理を頼んでいるが、常に人が来ているわけではない。たまに掃除をしてもらう程度だ。
「問題なさそうですね」
「使い方に問題があるような者は来ないし、そもそも来る者が減ったからな」
「そうなのですか?」
「ああ、ドラゴネットにやって来ただろう」
「そうでした。でもそれは一部ですよね?」
「それ以外には、仕事を得た者が多いので、頻繁には来なくなったようだ。ここを出た者も多いからな」
「色々と変わるんですね」
「そうだな。誰でも何でもずっと同じというわけにはいかないだろうな」
教会の確認が終わればもう用事は終わりだ。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。次は年明けですね」
「今年もありがとうございましたっ」
アルマが教会と屋敷に向かって頭を下げる。俺とエルザもそれに倣い、それから城へと戻った。
「さて、もう少ししたら俺たちも年越しの準備をするか」
仕事が休みの使用人たちはアンゲリカの酒場の方にいるだろう。差し入れにちょっと良い酒でも持った行くとしよう。俺がいても落ち着いて飲めないだろうから、置いたらすぐに帰るが。それから家族で小さなパーティーだな。
使用人を集めてそう伝える。年末最後の光の日と闇の日と無の日の三日間、そして年明けの火の日は使用人に休みを与えるのが一般的だ。なぜそうなっているのかは分からないが、一般的にはその間に実家の方に顔を出したり体を休めたりして年明けからの仕事に備えるという風に考えられている。だがこの町は新しくできた場所なので、町中に実家がある者は一人もいず、また日数的に帰ることもできない。残念ながら俺では
「旦那様、明日お店を開けてもよろしいですか?」
「それはいいが、休みはいいのか?」
「はい、なかなかお城のみなさんにはお店に来てもらえませんので、一日くらいはそのために店を使ってもいいかと思いまして」
「ああ、それは全然問題ない。明日からは閉めることになっているから、使用人限定とすればいいだろう」
「食べ放題ですか~?」
「入れ食いですか~?」
「カリンナ、コリンナ、あなたたち二人はお手伝いですよ。それが終わったら食事を出しますね。好きなものを作りますから、それまでは我慢しなさい」
「「はい」」
いつの間にかしっかりと躾られているな。ここしばらくはアンゲリカの酒場が仕事場になりつつある。それでも午前中は城の方でやるべきことはやっているから、単にサボっているわけではない。それに酒場の方も忙しいのは事実だ。
アンゲリカの酒場はもちろん彼女が知っている料理を出すことになっているが、ハイデの農婦たちや他の地域からやって来た者たちからそれぞれの土地の料理を聞いてそれを作っている。さらに最近ではニクラスの妻のアレンカから様々な国の料理を教わって出しているようだ。あまり増やしすぎても大変だと思うが、それが特徴になるのなら問題ないだろう。
一方で、仕事納めをして帰る気満々の者もいる。
「料理の腕は上達したと思いますので、両親を驚かせたいと思います」
「あれだけ毎日厨房に立っていればな」
ザーラは真面目なので、暇があればパン焼きと料理の練習をしている。そして一部は俺が異空間に仕舞っている。そうすれば前に作ったものとどれだけ違うかが確認できるからだ。
異空間の中では料理は冷めない。入れた時のままだ。ただし、生き物を入れることができる異空間の方が冷めることが分かっている。あちらは普通に時間が経過するらしい。人を入れることができれば大人数を移動させるときに楽ができそうなものだが、残念ながら人は入らない。これは練習しても無理だった。
「それなら移動するか。忘れ物はないな?」
「エルマーという名前の夫がいません」
「それは最初からいない。諦めろ」
「残念です」
押しが強いわけでもなく、押しかけられることもないが、ザーラは事あるごとに俺に向かってこのようなことを言っている。ある意味ではものすごく真面目なんだろう。初志貫徹とでも言えばいいか、やり始めたことは真面目にやり遂げる。やり遂げられても困るので、彼女にいい相手が現れないかと思っている。
久しぶりと言うほど久しぶりでもないが、エクセンに移動する。いつもそうだが、いきなり町の中に現れると人を驚かしてしまうので、少し外れた場所に移動する。ザーラの実家である白鳥亭までは歩いて一〇分ほどだ。
俺にとってはそれほど長い期間でもないが、エクセンを初めて出たザーラにとっては久しぶりに感じたのだろう。白鳥亭が見えた瞬間には嬉しそうに目を細めていた。
「では二日にまた迎えに来る。それまではゆっくりと親孝行しておけ」
「ありがとうございました」
ザーラをエクセンの白鳥亭まで送り届けると、また城の方へ戻ることにした。
◆ ◆ ◆
「エルマー様、お屋敷の掃除に行きませんか?」
年末の光の日。エルサにそう聞かれた。
「そうだな。エルザはしばらくぶりだろう」
「はい。久しぶりに教会の方も見てみたいですし」
「教会の管理はゲルトの親父さんお店に頼んであるから全然問題ない。俺も確認しているしな」
「そうは言っても自分の目で確認するのは違いますよ? アルマも行きませんか?」
「もちろん行きますっ」
エルザは俺が軍学校に入る少し前に屋敷にやって来て、それからは常に屋敷か教会にいて、その両方の管理をしてくれていた。アルマは孤児を装うようにして孤児院に匿われていた。二人を連れて、今年最後に屋敷と教会を見ておくのもいいだろう。
「カレンも行くか?」
「そうね……でも遠慮するわ。三人でどうぞ。私はこっちにいるから」
「分かった。今日中に戻る」
「うん」
エルザとアルマを連れて王都の屋敷に移動する。
「気を利かせてくれたのでしょうか?」
「それもあるとは思うが、単純に思い入れの違いもあると思う」
この三人はそれなりの年数を王都で過ごしているが、カレンは俺やエルザを運んでくれたのを入れても、それほど長くここにいたわけではない。俺たちを運んだらドラゴネットに戻ることも多かった。だから単に行った場所の一つと考えていてもおかしくない。むしろ酔って色々と喋ったハイデの方が印象は強いと思う。
「カレンに行きたいところがあればまた連れて行けばいい。とりあえず今日のところは俺たちだけでやることをやろう」
二人の腹は目立つほどでもないが、それでもやはり体調的に以前とは違うようだ。食事についても脂っこい物を避けるようになり、果物を口にすることが増えた。たまに気分が良くないこともあるようだ。クラースの書き付けを調べたら妊娠時の体調不良によく効く薬があったので、たまにそれを飲んでいる。カレンにはそういう不調はないそうだ。
「そうですね。掃除の方は……かなりきちんと掃除がされていますが、これはエルマー様ですか?」
「ああ、使うところと使わないところがあるから、使わない部屋などはたまにだが」
「どうしても汚れるところは限られますからね」
「おそらくベッドは汚れなくなりましたねっ」
「アルマも言うようになったな」
「これでも人妻ですからっ」
冗談を言い合いながら軽く掃除をする。屋敷の掃除が終われば教会の方を見て回る。ゲルトの親父さんの店に管理を頼んでいるが、常に人が来ているわけではない。たまに掃除をしてもらう程度だ。
「問題なさそうですね」
「使い方に問題があるような者は来ないし、そもそも来る者が減ったからな」
「そうなのですか?」
「ああ、ドラゴネットにやって来ただろう」
「そうでした。でもそれは一部ですよね?」
「それ以外には、仕事を得た者が多いので、頻繁には来なくなったようだ。ここを出た者も多いからな」
「色々と変わるんですね」
「そうだな。誰でも何でもずっと同じというわけにはいかないだろうな」
教会の確認が終わればもう用事は終わりだ。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。次は年明けですね」
「今年もありがとうございましたっ」
アルマが教会と屋敷に向かって頭を下げる。俺とエルザもそれに倣い、それから城へと戻った。
「さて、もう少ししたら俺たちも年越しの準備をするか」
仕事が休みの使用人たちはアンゲリカの酒場の方にいるだろう。差し入れにちょっと良い酒でも持った行くとしよう。俺がいても落ち着いて飲めないだろうから、置いたらすぐに帰るが。それから家族で小さなパーティーだな。
10
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる