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第一章:領主一年目
エクムントからの相談(二)
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ふむ、私が保証しますときたか。あまりにも自信満々に。これはひょっとしなくても、あれだな。この人らしいと言えばいいのか……。
「そこまで言うなら、しっかりと面談はしているわけですよね?」
「はい、一人一人話を聞きました」
「最初からうちで働くことを前提に説明して、それでもいいという者たちを集めていますよね?」
「おや、さすがですね。後になってノルト男爵領は嫌だとごねられても困るでしょう。私の知人で頼りになる人が北の大地で貴族になったので、承諾が得られればすぐに紹介すると言いました」
「私が領地経営に失敗したらどうするのですか?」
「そこは私の直感が問題ないと言っていますから」
再び底の知れない笑顔に戻ってしれっとそんなことを言う。
「彼らが仕事を失った理由の一端は私にありますが、それでも彼らはうちに来ますか?」
「その件についても気にしないことは確認しています。むしろ王都のギスギスした環境に疲れた者が多いですね。ノルト男爵領の方が好ましいのではないでしょうか」
「ちなみに人数は?」
「男性は従僕が二、庭師が二、小姓が一、御者が一、馬丁が二、門番が一〇の合計一八人、女性は侍女が二、料理人が二、台所女中が三、一般女中が一〇、洗濯女中が二、皿洗い女中が三の合計二二人です。伯爵家、子爵家、男爵家、合計六家の使用人の一部です」
「……スラスラ出てきますね」
「ここでお会いできなければ、レオナルト殿下からノルト男爵に話をしていただけないかと思っていたところです」
さらっとそんなことまで言う。殿下なら俺に「何とかできないだろうか」と聞いてくることは間違いない。それに対して俺が「分かりました。何とかします」と返事をするいう未来しか見えない。その前に王城で雇ってもらうことは……いや、結局は大公派の貴族のところで働いていたことが原因なら、王城はもっと無理か。だから俺のところに話が来たのだろう。王都に近ければ問題になるが、遠ければそうでもない。
場合によってはうちで働き、その紹介状を持って別の貴族のところで働くというのもありだ。それに実際うちに人が必要なのは間違いない。必要なのは間違いないが、うちはまだ四人しかいない。ハンスとアガーテを入れても六人だ。そこに四〇人も増えてどうしたらいいのかという話になる。実家だって僻地の貧乏貴族だった。そんな家で育った俺が四〇人を使いこなせるのかという問題もある。それに十分な部屋の数もないからな。まあ部屋は増やせるか。
「……ふう、分かりました。それでその使用人たちは今どこに?」
「知り合いの貴族にお願いしていますが、さすがにもうあまり長い間は面倒を見ることはできないと」
「では一週間後に迎えに来ます。ちなみに馬車を扱えるのは何人いますか?」
「御者も含めて五人ほどは問題ありません」
「分かりました。ではうちの隣の教会に集めてください。そこに来るのが嫌なようなら、そもそも北には行けないでしょう。他には……前の仕事を基本としますが、さすがに四〇人全員が同じ仕事というわけにもいかないでしょう。場合によっては別の仕事をしてもらうこともあります。それも伝えてもらえますか?」
「分かりました。必ず伝えますので、よろしくお願いします」
これは帰ってからみんなに説明しないとな。しばらく四人で生活と思っていたが、急に賑やかになりそうだ。まあ掃除に困ることがなくなりそうなのは助かるか。
王城を出るとそのまま貧民街の方へ向かう。ゲルトさんにも報告した方がいいだろう。
「ゲルトさん」
「おお、エルマー様……んあ? なぜこちらに? 北に向かったのではなかったのですかな?」
「ああ、行ったぞ。彼らも向こうに着いている」
「……そのような手段をお持ちだということで?」
「ああそうだ。あまり吹聴しないでもらいたいが。それでまだ数日だが、彼らに特に問題はない。うちは元々田舎者の集まりだから、みんな人はいい。上手くやれそうだ。それよりも、かなり焼けたな」
この店はスラムのすぐ近くにある。店の前から見るだけでも区画一つ分くらいが焼け落ちている。
「ここの住人たちが焼け出されただけになりましたな。北に行った者たちは暮らせる場所ができたのがせめてもの救いでしょう」
「連れて行った者たちはきちんと面倒を見るから安心してくれ。それで結局のところ誰がやったかは分かるか?」
「はい。どちらも取り潰しになった貴族だそうですな。なんでも爵位を召し上げられて平民に落とされる際に、ありもしない土地の権利を持ち出して売って金を作ろうとしたそうです。買った方も同じように平民に落とされた貴族で、安い土地を買って引っ越そうとしたところ、そこが貧民街だったので、怒って更地にしようとしたそうです。いやはや」
どっちもどっちだな。前者は強欲で、後者は自己中心的だ。
「それからどうなったかは分かるか?」
「どちらもきれいさっぱり処分されたようですな。かなり大目に見てもらって爵位召し上げで済ませてもらったところが、まああれですからな」
「あの連中らしい最後だな」
「よくご存知で?」
「大公派の貴族だろう。一人一人知っているわけじゃないが、何人かはな。失脚したのが多かったそうだからな。そのせいであちこち引っ越しがあって大変だったそうじゃないか」
あれからも王都内では貴族の引っ越しが続いている。結局のところ空いた屋敷を改装して引っ越し、前の屋敷を売却し、そこを別の貴族が買って、のように順番にならざるを得ないので、全体が落ち着くまでには相当な時間がかかる。
「ええ、それで一時的にかなり人手が足りなくて、エルザの嬢ちゃんに相談して、孤児院の男の子たちも雇ってもらえました」
「貧民街の方には探しに行かなかったのか? 男手ならいくらでも集まっただろう」
「一応向こうの希望で、最初は貧民街の住人はやめてほしいということでした。ですが、そのうちそうも言っていられなくなったようで、貧民街の住人でもいいと。真面目で体が丈夫そうなのを何人も紹介しました」
親父さんから一通り話を聞くと、職人たちが必要としている追加の道具を注文し、それに情報代を上乗せして払って王都を離れた。
「そこまで言うなら、しっかりと面談はしているわけですよね?」
「はい、一人一人話を聞きました」
「最初からうちで働くことを前提に説明して、それでもいいという者たちを集めていますよね?」
「おや、さすがですね。後になってノルト男爵領は嫌だとごねられても困るでしょう。私の知人で頼りになる人が北の大地で貴族になったので、承諾が得られればすぐに紹介すると言いました」
「私が領地経営に失敗したらどうするのですか?」
「そこは私の直感が問題ないと言っていますから」
再び底の知れない笑顔に戻ってしれっとそんなことを言う。
「彼らが仕事を失った理由の一端は私にありますが、それでも彼らはうちに来ますか?」
「その件についても気にしないことは確認しています。むしろ王都のギスギスした環境に疲れた者が多いですね。ノルト男爵領の方が好ましいのではないでしょうか」
「ちなみに人数は?」
「男性は従僕が二、庭師が二、小姓が一、御者が一、馬丁が二、門番が一〇の合計一八人、女性は侍女が二、料理人が二、台所女中が三、一般女中が一〇、洗濯女中が二、皿洗い女中が三の合計二二人です。伯爵家、子爵家、男爵家、合計六家の使用人の一部です」
「……スラスラ出てきますね」
「ここでお会いできなければ、レオナルト殿下からノルト男爵に話をしていただけないかと思っていたところです」
さらっとそんなことまで言う。殿下なら俺に「何とかできないだろうか」と聞いてくることは間違いない。それに対して俺が「分かりました。何とかします」と返事をするいう未来しか見えない。その前に王城で雇ってもらうことは……いや、結局は大公派の貴族のところで働いていたことが原因なら、王城はもっと無理か。だから俺のところに話が来たのだろう。王都に近ければ問題になるが、遠ければそうでもない。
場合によってはうちで働き、その紹介状を持って別の貴族のところで働くというのもありだ。それに実際うちに人が必要なのは間違いない。必要なのは間違いないが、うちはまだ四人しかいない。ハンスとアガーテを入れても六人だ。そこに四〇人も増えてどうしたらいいのかという話になる。実家だって僻地の貧乏貴族だった。そんな家で育った俺が四〇人を使いこなせるのかという問題もある。それに十分な部屋の数もないからな。まあ部屋は増やせるか。
「……ふう、分かりました。それでその使用人たちは今どこに?」
「知り合いの貴族にお願いしていますが、さすがにもうあまり長い間は面倒を見ることはできないと」
「では一週間後に迎えに来ます。ちなみに馬車を扱えるのは何人いますか?」
「御者も含めて五人ほどは問題ありません」
「分かりました。ではうちの隣の教会に集めてください。そこに来るのが嫌なようなら、そもそも北には行けないでしょう。他には……前の仕事を基本としますが、さすがに四〇人全員が同じ仕事というわけにもいかないでしょう。場合によっては別の仕事をしてもらうこともあります。それも伝えてもらえますか?」
「分かりました。必ず伝えますので、よろしくお願いします」
これは帰ってからみんなに説明しないとな。しばらく四人で生活と思っていたが、急に賑やかになりそうだ。まあ掃除に困ることがなくなりそうなのは助かるか。
王城を出るとそのまま貧民街の方へ向かう。ゲルトさんにも報告した方がいいだろう。
「ゲルトさん」
「おお、エルマー様……んあ? なぜこちらに? 北に向かったのではなかったのですかな?」
「ああ、行ったぞ。彼らも向こうに着いている」
「……そのような手段をお持ちだということで?」
「ああそうだ。あまり吹聴しないでもらいたいが。それでまだ数日だが、彼らに特に問題はない。うちは元々田舎者の集まりだから、みんな人はいい。上手くやれそうだ。それよりも、かなり焼けたな」
この店はスラムのすぐ近くにある。店の前から見るだけでも区画一つ分くらいが焼け落ちている。
「ここの住人たちが焼け出されただけになりましたな。北に行った者たちは暮らせる場所ができたのがせめてもの救いでしょう」
「連れて行った者たちはきちんと面倒を見るから安心してくれ。それで結局のところ誰がやったかは分かるか?」
「はい。どちらも取り潰しになった貴族だそうですな。なんでも爵位を召し上げられて平民に落とされる際に、ありもしない土地の権利を持ち出して売って金を作ろうとしたそうです。買った方も同じように平民に落とされた貴族で、安い土地を買って引っ越そうとしたところ、そこが貧民街だったので、怒って更地にしようとしたそうです。いやはや」
どっちもどっちだな。前者は強欲で、後者は自己中心的だ。
「それからどうなったかは分かるか?」
「どちらもきれいさっぱり処分されたようですな。かなり大目に見てもらって爵位召し上げで済ませてもらったところが、まああれですからな」
「あの連中らしい最後だな」
「よくご存知で?」
「大公派の貴族だろう。一人一人知っているわけじゃないが、何人かはな。失脚したのが多かったそうだからな。そのせいであちこち引っ越しがあって大変だったそうじゃないか」
あれからも王都内では貴族の引っ越しが続いている。結局のところ空いた屋敷を改装して引っ越し、前の屋敷を売却し、そこを別の貴族が買って、のように順番にならざるを得ないので、全体が落ち着くまでには相当な時間がかかる。
「ええ、それで一時的にかなり人手が足りなくて、エルザの嬢ちゃんに相談して、孤児院の男の子たちも雇ってもらえました」
「貧民街の方には探しに行かなかったのか? 男手ならいくらでも集まっただろう」
「一応向こうの希望で、最初は貧民街の住人はやめてほしいということでした。ですが、そのうちそうも言っていられなくなったようで、貧民街の住人でもいいと。真面目で体が丈夫そうなのを何人も紹介しました」
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