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第二章:領主二年目第一部
帰還(一)
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北の空から何かが近付いてくると知らせがあったのは四月も終わりに近づいた頃だった。
「思った以上に早かったな」
「うむ、この町の話をしたらローサが住んでみたいと言ったので、結局ここに連れてくることになった」
クラースとパウラが急に帰ってきた。しかもローサさんを連れて。次に顔を見るのは早くても数年後、遅ければ俺が引退して子供が継いでいる頃かもしれないとと思っていたが、七か月程度では久しぶりと挨拶をする気にもならない。
「あなたがエルマーさんね。ローサです」
「初めまして、ローサさん。クラースの義理の息子になるエルマーです」
クラースとパウラはカレン繋がりでお互いに呼び捨てだが、ローサさんはそういうわけにもいかないだろう。妻の父親のもう一人の妻というのはどのような続柄になるんだ?
「クラースたちとは呼び捨てらしいから、私たちも同じ感じでどう?」
「そちらがそれでいいのならローサと呼ばせてもらおう。俺のことは……まあ弟のような感じでエルマーと呼んでくれ」
「それじゃエルマー、よろしくね」
ローサはパウラとは少し雰囲気が違う女性だ。パウラが落ち着いた見た目だとすれば、ローサは少し派手で軽い雰囲気がする。チャラチャラはしていないが。
「あれからしばらく経ってからだが、貰った書き付けにあった復元薬を飲んで、めでたくカレンが妊娠した。どうも俺の体が悪かったようだ」
「体に不調があったか。だがあれはよく効いただろう」
「ああ、それまでまったく子供ができる気配がなかったが、あれを飲んだらすぐだった」
パウラとローサは仲は悪くないようで、二人で町の方を見ながら何かを話している。カレンも二人の方に寄っていった。
「そういうわけで、結局はこの町で世話になることになった。家を用意してもらってよかった」
「定期的に掃除もしていたから問題ないはずだ」
「それは助かる。それにしても、少し見ない間に人が増えたか?」
「何度かまとめて移住希望者を集めたなあ。それから別の貴族のところで働いていた使用人を引き取って、軍学校時代の同期や教師が仕事を求めてやって来たか」
俺がそこで言葉を切ると、ヘルガに脇をつつかれた。
「旦那様、あたしをお忘れでは?」
「ヘルガ、お前のことも忘れてはいないが説明が難しい。クラース、これは軍学校時代にそこで働いていたヘルガだ。今は俺の秘書と愛人になっている」
「クラース様、旦那様の首席愛人を務めているヘルガです。あの待機部屋を与えられました」
「うむ、エルマーもお盛んで何よりだ」
「何よりか?」
「人で領主なら子沢山でないと困るだろう。ここは広いから、いくつも町を作る余裕がある。子供一人に町を一つ与えればいいのではないか?」
「町だけできても人がいなければ意味がないだろう」
「なに、いずれは増えるだろう。見る限りではこの短期間でかなり増えているではないか」
たしかにクラースとパウラがここを離れてから、三倍ほどに増えたな。だがあれはまとめて移住者を集めたからで、普通にやって来て暮らし始めたのは……関係者ではエルザとアルマ、ダニエル、ニクラス一家、ヨーゼフ、ブリギッタ、ヘルガ、ブルーノ、ライナー、エラ、ナターリエくらいか? エッカルト司祭もいたな。
それ以外は多くはないが、店を持ちたいとか働きたいとか、たまに増えているそうだ。人数としては多くはないが、この国の一番北と考えれば、よく来てくれたと言うべきか。
「エルマー様の妻になりましたエルザです」
「同じくアルマですっ」
「少し前に妻となりましたナターリエと申します」
「第一愛人のアンゲリカです」
「これならいくつ町ができても問題なさそうだな。だが序列で揉めないようにな。揉めると厄介だぞ」
「まあそこは大丈夫だろう」
揉めてはいないが、問題があるとすればアンゲリカとヘルガの方だ。
ヘルガは首席愛人と名乗っていて、アンゲリカは自分のことを俺の第一愛人と自称している。二人の話し合いの結果、争うことは不毛なのでどちらも一番ということに落ち着いたそうだ。それはそれで意味が分からない。
「エルマー、首席と第一の違いはあるのか?」
「いや、特にない。お互いが一番であることを主張しているだけだ。一番だが対等ということらしい」
「なかなか大変だな」
「半分くらいはあの待機部屋のせいなんだが」
とりあえず二人が旅立ってからこちらに来た妻や愛人の紹を介してからゆっくりと話をすることになった。
「それにしても、思ったよりもずっと早かったな。少なくとも五年や一〇年くらいは返ってこないと思っていたが」
「うむ。我々もそのつもりだった。とりあえずローサのところに行ってお互いの近況を話し合った。ローサの方は特に何もなかったようだが、うちはここ最近でカレンが独り立ちしそうだと思ったら相手を見つけて結婚して、それで一緒に町作りに協力したことまで説明したらローサが面白がってここに住みたいと」
「面白いか?」
「竜を見て逃げない者がそんなにいるのは珍しいと」
「三人ともそう言うが、そんなに珍しいのか」
「ああ、先ほども近くまで来たら手を振られた。普通なら蜘蛛の子を散らすように逃げる」
そう言えば俺だってよく似たものだった。たまたまカレンが俺の前に人の姿で現れたから普通に話を始めたが、遠くを飛んでいるのを見た時は、こちらへ向かって来たら逃げるつもりだった。慣れとは恐ろしい。
「思った以上に早かったな」
「うむ、この町の話をしたらローサが住んでみたいと言ったので、結局ここに連れてくることになった」
クラースとパウラが急に帰ってきた。しかもローサさんを連れて。次に顔を見るのは早くても数年後、遅ければ俺が引退して子供が継いでいる頃かもしれないとと思っていたが、七か月程度では久しぶりと挨拶をする気にもならない。
「あなたがエルマーさんね。ローサです」
「初めまして、ローサさん。クラースの義理の息子になるエルマーです」
クラースとパウラはカレン繋がりでお互いに呼び捨てだが、ローサさんはそういうわけにもいかないだろう。妻の父親のもう一人の妻というのはどのような続柄になるんだ?
「クラースたちとは呼び捨てらしいから、私たちも同じ感じでどう?」
「そちらがそれでいいのならローサと呼ばせてもらおう。俺のことは……まあ弟のような感じでエルマーと呼んでくれ」
「それじゃエルマー、よろしくね」
ローサはパウラとは少し雰囲気が違う女性だ。パウラが落ち着いた見た目だとすれば、ローサは少し派手で軽い雰囲気がする。チャラチャラはしていないが。
「あれからしばらく経ってからだが、貰った書き付けにあった復元薬を飲んで、めでたくカレンが妊娠した。どうも俺の体が悪かったようだ」
「体に不調があったか。だがあれはよく効いただろう」
「ああ、それまでまったく子供ができる気配がなかったが、あれを飲んだらすぐだった」
パウラとローサは仲は悪くないようで、二人で町の方を見ながら何かを話している。カレンも二人の方に寄っていった。
「そういうわけで、結局はこの町で世話になることになった。家を用意してもらってよかった」
「定期的に掃除もしていたから問題ないはずだ」
「それは助かる。それにしても、少し見ない間に人が増えたか?」
「何度かまとめて移住希望者を集めたなあ。それから別の貴族のところで働いていた使用人を引き取って、軍学校時代の同期や教師が仕事を求めてやって来たか」
俺がそこで言葉を切ると、ヘルガに脇をつつかれた。
「旦那様、あたしをお忘れでは?」
「ヘルガ、お前のことも忘れてはいないが説明が難しい。クラース、これは軍学校時代にそこで働いていたヘルガだ。今は俺の秘書と愛人になっている」
「クラース様、旦那様の首席愛人を務めているヘルガです。あの待機部屋を与えられました」
「うむ、エルマーもお盛んで何よりだ」
「何よりか?」
「人で領主なら子沢山でないと困るだろう。ここは広いから、いくつも町を作る余裕がある。子供一人に町を一つ与えればいいのではないか?」
「町だけできても人がいなければ意味がないだろう」
「なに、いずれは増えるだろう。見る限りではこの短期間でかなり増えているではないか」
たしかにクラースとパウラがここを離れてから、三倍ほどに増えたな。だがあれはまとめて移住者を集めたからで、普通にやって来て暮らし始めたのは……関係者ではエルザとアルマ、ダニエル、ニクラス一家、ヨーゼフ、ブリギッタ、ヘルガ、ブルーノ、ライナー、エラ、ナターリエくらいか? エッカルト司祭もいたな。
それ以外は多くはないが、店を持ちたいとか働きたいとか、たまに増えているそうだ。人数としては多くはないが、この国の一番北と考えれば、よく来てくれたと言うべきか。
「エルマー様の妻になりましたエルザです」
「同じくアルマですっ」
「少し前に妻となりましたナターリエと申します」
「第一愛人のアンゲリカです」
「これならいくつ町ができても問題なさそうだな。だが序列で揉めないようにな。揉めると厄介だぞ」
「まあそこは大丈夫だろう」
揉めてはいないが、問題があるとすればアンゲリカとヘルガの方だ。
ヘルガは首席愛人と名乗っていて、アンゲリカは自分のことを俺の第一愛人と自称している。二人の話し合いの結果、争うことは不毛なのでどちらも一番ということに落ち着いたそうだ。それはそれで意味が分からない。
「エルマー、首席と第一の違いはあるのか?」
「いや、特にない。お互いが一番であることを主張しているだけだ。一番だが対等ということらしい」
「なかなか大変だな」
「半分くらいはあの待機部屋のせいなんだが」
とりあえず二人が旅立ってからこちらに来た妻や愛人の紹を介してからゆっくりと話をすることになった。
「それにしても、思ったよりもずっと早かったな。少なくとも五年や一〇年くらいは返ってこないと思っていたが」
「うむ。我々もそのつもりだった。とりあえずローサのところに行ってお互いの近況を話し合った。ローサの方は特に何もなかったようだが、うちはここ最近でカレンが独り立ちしそうだと思ったら相手を見つけて結婚して、それで一緒に町作りに協力したことまで説明したらローサが面白がってここに住みたいと」
「面白いか?」
「竜を見て逃げない者がそんなにいるのは珍しいと」
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「ああ、先ほども近くまで来たら手を振られた。普通なら蜘蛛の子を散らすように逃げる」
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