ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第一章:領主一年目

城の案内(二)

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 裏の廊下の一番西側まで来た。ここまで歩いてまだ一階の三分の二くらいだ。

「それでこの先が使用人棟だ」
「ここから見ただけでも立派なのが分かりますが、本当によろしいのですか?」
「大丈夫だ。そのために建てたものだからな。建てたのはクラースではなくこの町の者たちだが、作りは基本的に同じだ。それで実は少し問題がある」
「立派な建物だと思いますが……」
「城もそうだが、薪を使うと煙が逃げる場所が窓しかない」

 試しに薪を燃やしたところ、一部は窓から出るが、残りは廊下を通って城の方に向かってしまった。

「そう言えば、煙突がありませんね」
「この城には火を使う石窯もなければ暖炉もない。寒くないようになっているのはいいが、それと同じように作られたから、使用人棟にも暖炉も何もない。それで一部屋を台所にしようと思ったが、薪を使うと煙がほとんど城の方に流れ込んでしまうことが分かった。近いうちに簡単な調理ができるくらいの魔道具を用意する。それまでは面倒だが城の厨房を使ってくれ」
「わざわざありがとうございます」
「雇う側としても使用人が働く環境は整えたい。それについてはそのくらいだ。それで、ここに館内図まであるから、どの部屋を使うか考えてくれ」

 男性はヨアヒム、女性はユリアを中心に部屋を決めたようだ。仕事内容によっては一人部屋の方がいいだろうが、若い女中などは三人か四人で同じ部屋を使うようだ。広すぎると寂しいからな。

 アンゲリカにしても当分はここで暮らすだろうから、部屋は割り振った方がいい。俺には使用人たちの細かな人間関係は分からないから、部屋は自分たちで選んでもらえばいい。

「部屋が決まれば、残りを案内する。付いてきてくれ」



「このあたりは予備の部屋だな。娯楽室もある。今のところ客が来る予定もないから、まだ何も入っていないが」
「部屋が多いですね」
「多すぎて空き部屋ばかりだ。大半は増築用の資材を置いているだけだな」

 資材が床に並べられている部屋が多い。あまり外から見えると格好が悪いから、見えない位置に置いてあるが。使用人棟と来客棟を建てたが、それでもまだ余っている。これ以上増築は不要だろうが、外に置いておくのも問題になりそうで、やむを得ず空き部屋に並べている。



「このあたりは俺の執務室などがある。ヨアヒムやアントンには来てもらうことも多いと思う」
「しっかりと覚えておきます」
「二人には先ほどの予備の部屋に仕事部屋を用意するつもりだ」
「ありがとうございます」

 何かが減るわけでもなく金がかかるわけでもないから、部屋はどんどん使えばいい。



「さて、この先がまた小広間で、これで一週だな」
「先ほどから見えていましたが、中庭の噴水もきれいですね」
「噴水は湯も出るそうだから、寒ければ手を温めてくれ」
「……湯を出す意味はあるのですか?」

 そう言いたくなるのは普通だよな? おそらく湯気が出るぞ。

「雪を溶かすためだそうだ」
「無理に溶かさなくてもいいのでは?」
「俺もそう思った。前に俺がこのあたりはどれくらい雪が積もるのかと聞いたことがあるので、そのせいかもしれない」

 少し手を加えれば風呂になるかもしれないな。外国での話だが、雪が降る寒い冬に、屋外の風呂に入ることがあるそうだ。寒いときにどうしてわざわざ寒い場所で風呂に入るのかと思ったが、雪が積もった中で温かい風呂に入るのは思ったよりもいいかもしれない。



「さて、これから二階に上がるが、基本的には個室ばかりだ。三階は閉鎖している。二階のどこに誰の部屋があるかだけ覚えてくれればいい」

 二階は家族の部屋になっている。もちろん使っていない部屋は多い。三階も家族用だ。

「部屋の場所を覚えておいて、夜になったら来いということですね?」
「下着は必要ですか? それとも最初からなくてもいいですか?」
「お前たちは静かにしておけ」



「家族の部屋はこのあたりい固まっている。他は空き部屋だ」
「ここからホールが見えますね」
「吹き抜けも多いからな。とりあえず使っていない部屋は閉めている。三階はまったく使っていないから、いっそ使用人の階にしてもいいかと思ったが、それもなあ」
「そうされますと、さすがに我々が落ち着きません」
「そうなるよな」

 使用人が与えられる部屋はもちろん主人やその家族が使う部屋よりも狭くて暗くて環境が悪い。一般的な屋敷なら、裏口に近い狭い部屋や、ジメジメしている地下室や半地下室、天井が低い屋根裏部屋などだ。

「旦那様~、やる気が出てきました~」
「しっかり頑張りま~す」

 いきなりカリンナとコリンナがやる気を出し始めた。仕事はできると書かれていたからな。

「いずれこの二階に部屋を与えられるように頑張ります!」
「めざせ玉の輿~!」
「二人とも、真面目に働いてからな」
「「は~い」」



「一つ気になったのですが、あの塔は何に使われているのですか?」
「ああ、あれか。あれはカレンが外からやってきたときにわざわざ正門から入らなくてもいいように作られた出入り口だ」
「出入り口ですか」
「ここまで来たから、中を見に行こうか」

 塔に入って一番上まで上がると、カレンがいるな。子供たちと一緒に。

「あー、カレンがいるな。あれだ、見えるか?」
「はい、もちろん見えますが、あれがカレン様ですか?」
「そうだ。竜の中では小柄だそうだ」
「ちなみに、あれは何をされているのですか? 手を上げたり下げたりしているようですが」
「子供たちの相手だな。手の上に乗せて持ち上げると喜ぶんだ。こっちに来る前に向こうで試しにやったら気に入られたみたいでな、今でもたまにやっている」
「危なくないですか?」
「子供たちは手すりの付いた籠のようなものに入っているから危なくはない。そのあたりはカレンも分かっているだろう」

 決めてやっているわけではないが、たまに農地の方の広場に行くとやっている。子供たちも慣れたもので、カレンが来ると喜んで籠を持ってくる。ハイデではとりあえず土を固めて石にしたが、もっと軽いものと思って木で作り直した。

「それで、教会の庭にいるのはエルザとアルマだな」
「エルザ様とはまだお会いしていませんね」
「普段は教会の方にいることが多い。庭の手入れが趣味だからな。それ以外だと、カレンに王都まで運んでもらってあの屋敷と教会の掃除だ」
「お仕事をされているのですか?」
「ああ。まあ最初に言っておくと、俺も妻たちも、誰もが貴族らしい生活に慣れていない。俺も元々は僻地の準男爵の息子だ。生活は平民とさほど変わらなかった。うちのやり方には違和感があるかもしれないが、『どの国にもそれぞれの法がある』と思って働いてくれ」
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