ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

役場の設立

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 町が町として機能するためには税を取る必要がある。今年を含めて三年間は国に税を納める必要はない。だが税を徴収することはどう考えても必要なので、今年から行うことになる。

 農民たちは分かりやすい。小麦を納めるだけだ。彼らからは取りすぎじゃないかと思えるかもしれないが、彼らが納めた麦を金に換えて彼らの役に立つようにするのが俺の仕事だ。

 店を経営している場合はその売り上げから支払うのが普通だ。商店、パン屋、酒場、宿屋はそれに当たる。

 風呂屋は住民たちのために建てたようなものなので、利用料として銅貨一枚を入れて入る形になっている。掃除は森の掃除屋たちが汚れを食べてくれるので、人を使う必要はない。

 職人たちは物納するか、それとも売り上げを計算してその中から税を納めるか、そのどちらかになる。もちろんすべての職人たちから同じように徴収することはできない。物を作って販売する職人もいれば、フランツたちのように物を作らずに作業を担当する職人もいるからだ。

 そして税を集めるというのを考えた場合、ギルドに徴税を任せるということもある。

 ギルドには良い面もあれば悪い面もあるが、一般的にギルドという組織は、そこに所属している職人たちを教育し保護する目的で作られたものだ。

 だが縄張り意識が強い組織は閉鎖的になることがある。つまりギルドに所属していない者が新しく商売を始めようとすると邪魔をすることもあるそうだ。

 もちろんギルドに所属する者たちが作る物の品質を一定に保つというのは利点だと思う。切れる包丁と切れない包丁が混在していたら困るだろう。取り扱われる小麦に混ぜ物がないか調べるのもギルドの仕事だ。

 その一方で、所属していない店と違って大きく値段が変えられないなど、欠点も大きくなる。自信のある商品なら高く売りたいが、それは禁じられている。ただし所属していれば一時的に金を借りられるなど、何らかの便宜を図ってもらえるなどの利点がある。

 領主にとっても、ギルドが町で商売をしている者たちの税を取りまとめてくれるなら、徴税人を減らせるという利点もある。だが徴税人にとっては懐に入れる金額が減ることになるので、好ましくないかもしれない。

 徴税人は住民から税を集めるのが仕事だが、粗探しをしてできる限りたくさん税を搾り取ろうとする。最低限取らなければならない税、そして彼が搾り取った税、その差額が徴税人の懐に入ることになる。

 ギルドに所属している者からは税を取ることができない。ギルドを通して払うことになっているからだ。だからギルドがない方が徴税人にとってはありがたい。

 この町には排外主義的なギルドを作るつもりはない。値段を一定にしろとか、品質を一定にしろとか、それを言い始めたら切りがないからだ。品質が高ければ値段も高く、品質が低ければ値段も低い、それが普通だろうと俺は思う。そのためにはどうするべきか。
 
「ギルドばかり作ってもそこまで仕事がないですからね。何もないのも困りますが」
「それなら小さな役場でいいな」

 ライナーと話し合って徴税の方法を考えていた。

 要するに、集会所のような建物を一つ作り、ここは大工ギルド、ここは製パンギルド、のように個別の部屋を作る。ギルド長か、もしくは代行でもいいが、誰かがここに詰めて仕事の流れを確認する。

「それでその代表に僕ですか」
「徴税人兼ギルドのまとめ役。ピッタリだろう」
「一番得意な分野ですからね」
「農民たちの税は小麦で物納、狩人たちも魔獣で物納だな。職人たちは少々厄介だが、物納か金で、店は所属のギルドから……の予定になるが、たいして店もないから、今のところは個別でいいだろう」
「それくらいなら大丈夫です」
「店が増えてきたら徴税人を雇えばいいし、店の種類が増えてきたらそのときは新しいギルドを追加すればいいだろう。あまり増える見込みもないが」

 今のところは、小麦、酒、肉、大工、染織、宝飾品、ガラス、鍛冶、家具、木材くらいだ。品名を挙げれば顔が浮かぶ。

「それなら、いっそのこと食品とそれ以外でよくありませんか? それに大工や左官は商品を作る仕事ではありませんので別枠がいいと思います。他の領地とのやり取りのために商人ギルドはあってもいいと思いますが」
「それなら、小麦、酒、肉などの食品関係で一つ、大工や左官などの労働関係で一つ、染織、宝飾品、ガラス、鍛冶、家具などの製品関係で一つだな。そしてそれらを外で売り買いする商人のために一つ。薬師はどこに入れる?」
「愛人のことは自分で管理してください。カサンドラさん一人だけなので問題ないでしょう」
「……了解」



◆ ◆ ◆



「腕が鳴るねえ。アタシし棒が火を吹くね」
「俺としてはそのし棒を振り回す機会がないことを願うぞ」

 パン屋のリリーとイーリス、酒職人のライムントとカスパー、狩人のダミアン、そしてヴァイスドルフ男爵領から来たハーマンを中心にして食料品ギルドを作ることになった。パンやヴルスト ソーセージなどは領内で消費されることがほとんどだろうが、酒は外に売りに行くことになっている。木材を使うためにだ。

 今年はこの領地の特産品を領外で販売したいと思っている。その特産品の一つに木材があるが、これはお隣のマーロー男爵領も同じだから、あまり販売すれば向こうが困ることになるだろう。潰し合いになるからだ。だから樽に加工して酒造りに活用することになった。

 特に蒸留酒は何の木で作った樽を使うかで風味が変わる。この盆地にはこの国の他の場所にはあまり生えていない木も多く、独特な風味が付くのではないかとライムントとカスパー、それに樽職人のバルタザールは考えていた。だが熟成には時間がかかる。

 それを解決するための熟成庫という魔道具を購入することになった。いや、させられることになった。そのため去年の年末に王都へ熟成庫を探しに行った。ヨーゼフとブリギッタの店で扱っていると教えてくれたのは、同じく魔道具を作っているダニエルだ。

 二人を訪ねたときに熟成庫について聞いたところ、今年の頭に移住してくれることになった。そしてやって来て早々ブリギッタはライムントに無理難題を押し付けられていた。だがそのお陰でより高性能な熟成庫と保存庫が作られるようになった。ありがたいことだ。



「今後の領内の工事はお任せください」
「危険な場所での工事はさせないが、町が大きくなれば手を入れる場所も増える。頼んだ」

 土木・建築ギルドはフランツを代表とし、そこに同じく大工のオットマーと左官のアーダム、石工のシュタイナーやフォルカーたちが所属する。そこで家や店などの建築、そしておそらく今後行うことになる土地関係の仕事を任せることになった。

 今はこの町しかないが、いずれは増やすこともあり得る。その際には彼らがその町を作ることになるだろう。



「お受けいたします」
「頼んだ」
「お役に立てるような場所を探して来た甲斐があるというものです」

 木工職人のアレクには製品ギルドの代表を任せることにした。彼は自分の知識や技術が新しい町には必要とされるだろうとしてここへやって来た。

 目立つ仕事はないが、最初の頃は職人街で水を汲むための手回しの水車、それ以外にも様々な場所で使われている木製のといなど、主に生活に関係する物を作っている。

 彼の下には陶芸のウッツ、ガラスのエトガー、仕立てのデリアなどが付くことになり、この領内で食料品以外に作られる物を管理することになった。



「ありがたくお受けします」
「前にも言ったが、今はそれほど仕事はない。しばらくは一人の商人として働いてくれてかまわない」
「はい、ありがとうございます」
「俺が王都との間で親しくしている商会や商店に向けた紹介の手紙を用意しよう。いずれは王都の商会にいるアントンと協力して、商品の行き来を管理してくれ」
「助かります。この町のために頑張ります」

 ニクラスには前に言ったように商人ギルドを任せることになった。領内には彼以外に商人はいないが、領外からやって来る商人がたまにいるので、彼らと情報のやり取りをする場を作るくらいだ。

 この領地が細々とやって行くなら外へ出る必要はない。この盆地で麦を育て魔獣を狩り、そうやっていれば飢えることはない。だがそれは正しい人の営みとは呼べないだろう。他者と交流することによって得られるものは多いはずだ。
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