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第二章:領主二年目第一部
さらなる職人の追加(一)
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執務室で今後の予定を考えていると、バーランから俺を訪ねて来た一団があると連絡があった。バーランと言えばヴルストだろう。
「ご無沙汰しております」
「ハーマン、よく来てくれた」
城に到着したのは顔馴染みのハーマンを始めとした、ヴァイスドルフ男爵が派遣してくれた畜産関係の職人が……三〇〇人ほど。彼らは牛と山羊と豚を連れていた。
「思ったよりも多いな」
「申し訳ありません。領主様の指示でこうなりました」
「いや、こちらとしては助かるが、あまり多いとアンゼルム殿に申し訳ないと思ってな」
領民の数が減るというのは領主にとっては大事だ。つまりそれだけ税を納める者が減るわけだから。農民などは個々に払うわけではなく、全体で小麦をどれだけという払い方になるが、それでも人数が減れば一人あたりの仕事量が増える。負担が増えれば効率が下がり、収穫量が落ちることに繋がる。
「こちらが領主様からの手紙になります」
ハーマンから受け取った手紙を読むと、思わず眉間に皺を寄せてしまった。謝罪の言葉から始まっていたからだ。
「思った以上に財政状態が悪かったのか」
「牛も豚も山羊も鶏も、飼育の人手は減らせません。減らせばすぐに状態が悪くなりますから」
「人手が減らせないなら、飼育数を減らすしかないが、それを売る先もないわけか」
まず、食肉の売れ行きが落ちたので家畜を屠殺することが減った。だが売れるなら売りたいので今いる家畜は買い続ける必要があり、飼育のための人手もそこまで減らすことはできない。畜産の仕事は多岐に渡るからだ。
そのため、昨年から再び小麦の栽培を増やそうとしていたが、そのための人手も十分に確保できない。つまりどっち付かずになってしまったようだ。そのために多すぎる家畜に関しては半分諦め、小麦の栽培を以前と同じ程度に戻そうとしているようだが、そう簡単に戻せるものでもないだろう。
俺が言うのもおかしいかもしれないが、小麦は秋の終わりに蒔いて夏前に刈り入れる場合が多い。その前に畑の土を作っておく必要がある。もし去年の麦蒔きが上手く行かなかったとすれば、今年は不作になることも十分考えられる。さらに食肉が売れないとなれば、領地が傾くだろう。
「ここにいるみんなはうちの領民と同じ扱いをする。つまり土地付きの家を与える」
「ありがとうございます。我々は保存食作りを仕事にするということでよろしいでしょうか?」
「ああ、前にも言った魔獣を使った保存食作りが中心に行ってもらう。それと以前は家畜の飼育も仕事に入っていたと思うから、それもやってもらおうと思う」
「それは問題ありませんが、ここは家畜はそれほど多くはないと聞きましたが」
「今はそこまで多くない。だから増やす」
「いきなり増やせますか?」
「ヴァイスドルフ男爵領から余っている分を購入する」
ヴァイスドルフ男爵がうちに保存食の作り方などを教えるために領民を送ってくれたのなら、こちらとしてはその礼を返さなければいけない。そのためには家畜を買い取るのが一番だ。ヴァイスドルフ男爵領の経営状態が立ち直れば、その時には家畜を返せばいい。それまでに数を増やせばいいだろう。幸いにもこの町には水もエサも十分にある。ヴァイスドルフ男爵領よりも北になるが、すぐ南のマーロー男爵領よりも雪も風も少ない。
彼には彼なりの意図、つまり人減らしという目的があって三〇〇人もこちらに送ったわけだが、それはこちらには関係ない。こちらとして三〇〇人増えるのはありがたいだけだ。
「またバーランに行ってくる。アンゼルム殿との話が纏まれば、みんなには増えた家畜の世話もしてもらうことになるが、それでもいいか?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
「家畜の世話や食肉の加工が仕事の中心になるだろうが、もちろん他の仕事がいいのならそれをしてもらってもかまわない。木工や染織など、王都から職人たちに弟子入りした者もいる。何をするかはこの土地に慣れてからでもいい」
「ありがとうございます」
家ができるまでは集会所に入ってもらうことになった。単身者も家族連れもいるが、八〇軒近くは必要になりそうだな。
◆ ◆ ◆
「あなたが悪いわけじゃないんでしょ?」
「それはそうだ。あの大公とその下にいた貴族が悪いのは分かっている。だが彼らに巻き込まれた貴族も多い。ヴァイスドルフ男爵は大公の派閥にいたわけではないが、従わなければ物が売れなかったし買うこともできなかったかもしれない。そう考えれば親子ともにかなりの被害者だな」
「派閥って面倒ね」
「貴族というのはおかしなところで意地を張るからな」
貴族というのは本当に面倒だ。「すみません」と一言謝ればいいのに、そうしないがために方々で問題が起きる。場合によっては刃傷沙汰や貴族同士の衝突にも繋がる。そして何かが起きれば、そこで暮らす多くの領民が困ることになる。
「家畜を買い取るって、そんなにたくさん大丈夫ですか?」
「場所はあるから大丈夫だ。それに今回来てくれた者たちは食肉を扱っていた者が多いが、家畜の飼育をしていた者もそれなりにいる。場合によっては馬の世話に回ってもらう者もいるだろう」
「困った時はお互い様ですねっ」
「このようなお互い様はない方がいいと思うんだが、まあ今回は仕方ないだろう」
◆ ◆ ◆
「では急いで用意します」
「極端に急がなくてもいい。大怪我はいないように気を付けてくれ」
「はい」
フランツたちには、ハーマンたちの家を領民と同じ形で建てるように指示し、それから今年初めてバーランに行くことになった。
「ご無沙汰しております」
「ハーマン、よく来てくれた」
城に到着したのは顔馴染みのハーマンを始めとした、ヴァイスドルフ男爵が派遣してくれた畜産関係の職人が……三〇〇人ほど。彼らは牛と山羊と豚を連れていた。
「思ったよりも多いな」
「申し訳ありません。領主様の指示でこうなりました」
「いや、こちらとしては助かるが、あまり多いとアンゼルム殿に申し訳ないと思ってな」
領民の数が減るというのは領主にとっては大事だ。つまりそれだけ税を納める者が減るわけだから。農民などは個々に払うわけではなく、全体で小麦をどれだけという払い方になるが、それでも人数が減れば一人あたりの仕事量が増える。負担が増えれば効率が下がり、収穫量が落ちることに繋がる。
「こちらが領主様からの手紙になります」
ハーマンから受け取った手紙を読むと、思わず眉間に皺を寄せてしまった。謝罪の言葉から始まっていたからだ。
「思った以上に財政状態が悪かったのか」
「牛も豚も山羊も鶏も、飼育の人手は減らせません。減らせばすぐに状態が悪くなりますから」
「人手が減らせないなら、飼育数を減らすしかないが、それを売る先もないわけか」
まず、食肉の売れ行きが落ちたので家畜を屠殺することが減った。だが売れるなら売りたいので今いる家畜は買い続ける必要があり、飼育のための人手もそこまで減らすことはできない。畜産の仕事は多岐に渡るからだ。
そのため、昨年から再び小麦の栽培を増やそうとしていたが、そのための人手も十分に確保できない。つまりどっち付かずになってしまったようだ。そのために多すぎる家畜に関しては半分諦め、小麦の栽培を以前と同じ程度に戻そうとしているようだが、そう簡単に戻せるものでもないだろう。
俺が言うのもおかしいかもしれないが、小麦は秋の終わりに蒔いて夏前に刈り入れる場合が多い。その前に畑の土を作っておく必要がある。もし去年の麦蒔きが上手く行かなかったとすれば、今年は不作になることも十分考えられる。さらに食肉が売れないとなれば、領地が傾くだろう。
「ここにいるみんなはうちの領民と同じ扱いをする。つまり土地付きの家を与える」
「ありがとうございます。我々は保存食作りを仕事にするということでよろしいでしょうか?」
「ああ、前にも言った魔獣を使った保存食作りが中心に行ってもらう。それと以前は家畜の飼育も仕事に入っていたと思うから、それもやってもらおうと思う」
「それは問題ありませんが、ここは家畜はそれほど多くはないと聞きましたが」
「今はそこまで多くない。だから増やす」
「いきなり増やせますか?」
「ヴァイスドルフ男爵領から余っている分を購入する」
ヴァイスドルフ男爵がうちに保存食の作り方などを教えるために領民を送ってくれたのなら、こちらとしてはその礼を返さなければいけない。そのためには家畜を買い取るのが一番だ。ヴァイスドルフ男爵領の経営状態が立ち直れば、その時には家畜を返せばいい。それまでに数を増やせばいいだろう。幸いにもこの町には水もエサも十分にある。ヴァイスドルフ男爵領よりも北になるが、すぐ南のマーロー男爵領よりも雪も風も少ない。
彼には彼なりの意図、つまり人減らしという目的があって三〇〇人もこちらに送ったわけだが、それはこちらには関係ない。こちらとして三〇〇人増えるのはありがたいだけだ。
「またバーランに行ってくる。アンゼルム殿との話が纏まれば、みんなには増えた家畜の世話もしてもらうことになるが、それでもいいか?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
「家畜の世話や食肉の加工が仕事の中心になるだろうが、もちろん他の仕事がいいのならそれをしてもらってもかまわない。木工や染織など、王都から職人たちに弟子入りした者もいる。何をするかはこの土地に慣れてからでもいい」
「ありがとうございます」
家ができるまでは集会所に入ってもらうことになった。単身者も家族連れもいるが、八〇軒近くは必要になりそうだな。
◆ ◆ ◆
「あなたが悪いわけじゃないんでしょ?」
「それはそうだ。あの大公とその下にいた貴族が悪いのは分かっている。だが彼らに巻き込まれた貴族も多い。ヴァイスドルフ男爵は大公の派閥にいたわけではないが、従わなければ物が売れなかったし買うこともできなかったかもしれない。そう考えれば親子ともにかなりの被害者だな」
「派閥って面倒ね」
「貴族というのはおかしなところで意地を張るからな」
貴族というのは本当に面倒だ。「すみません」と一言謝ればいいのに、そうしないがために方々で問題が起きる。場合によっては刃傷沙汰や貴族同士の衝突にも繋がる。そして何かが起きれば、そこで暮らす多くの領民が困ることになる。
「家畜を買い取るって、そんなにたくさん大丈夫ですか?」
「場所はあるから大丈夫だ。それに今回来てくれた者たちは食肉を扱っていた者が多いが、家畜の飼育をしていた者もそれなりにいる。場合によっては馬の世話に回ってもらう者もいるだろう」
「困った時はお互い様ですねっ」
「このようなお互い様はない方がいいと思うんだが、まあ今回は仕方ないだろう」
◆ ◆ ◆
「では急いで用意します」
「極端に急がなくてもいい。大怪我はいないように気を付けてくれ」
「はい」
フランツたちには、ハーマンたちの家を領民と同じ形で建てるように指示し、それから今年初めてバーランに行くことになった。
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