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第二章:領主二年目第一部
行啓(二)
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何も悪いことをしていないのに、俺とレオナルト殿下は女性二人に問い詰められた。悪いのは国王陛下だろう。もちろん陛下に面と向かって文句を言うことはできないが、いい迷惑だ。だが多少は説明も必要か。
「話してもいいそうなので言ってしまうと、アルマは陛下が使用人の一人に産ませた子供で、使用人の娘として育てられた。年齢はナターリエ殿下の一つ上になる」
事情を知らないカレンとエルザ、そしてナターリエ王女に簡単に説明する。
「軍学校時代に初めて王城でアルマを見た時は、まさか陛下の血を引いているとは知らなかった。それからすぐに孤児院に預けられたから、おそらく何かあったんだろうと思っていたら、という話だ」
「なんだ、以前に会っていたのか」
「いえ、かつて誕生パーティーに招待されたことがありましたが、あのときに会場を覗いていたのを見ただけです。顔まではっきりとは分かりませんでしたが、髪の色が特徴的でしたので覚えていました」
「そう言えば、そんなことを言っていたな」
誕生パーティーは立食だったので、俺は邪魔にならない端の方にいた。つまり一番手前で入り口に近かったので、覗いていたアルマが一瞬見えた訳だ。入口に近いとは言えそれなりに距離があったので、さすがに顔までは覚えられなかったが、銀色の髪は印象に残っていた。
「はいっ。私もエルマー様の髪の色を覚えていて、それですぐに分かりました」
「私はアルマのことを良家のご令嬢だと思っていました。ではあの寄付をしてくださった年配のご夫婦はアルマの家の使用人ではないと?」
エルザが疑問を口にした。アルマが孤児院に来た時は俺はいなかったから、そのあたりの経緯は知らない。たしか演習で遠出していた時だっただろうか。
「それはブラント夫妻だな。夫のアルバンは私が幼い頃に教育係をしていて、妻のエーディトは家庭教師だった。王城の外で最も頼りにしている二人だ。先ほどのエルマーの説明に続けると、カリーナは使用人の娘として王城で育てられていたが、フロッシュゲロー伯爵に目を付けられてしまった。それで城から逃すためにブラント夫妻に一度預け、そこからあの孤児院に行ってもらうことになった。私もカリーナが妹だと分かったのは、先ほどエルマーが言った誕生パーティーの直後だ」
「あの頃、殿下は少しお疲れでしたね」
「ああ、その件でこっそりとブラント夫妻に連絡を取ったりしたからな」
「みなさん色々とあったのですね」
ナターリエ王女がボソッと呟いた。
「まあな。私が偉そうに言えることではないが、結局のところ、エルマーがいてくれたのが大きい。お陰で叔父から逃れることができた」
「それを言うなら、私は殿下と親しくできたお陰で出征して戦功を立てることができました。そうでなければ今頃は領地を失っていたでしょう」
「みんな少しずつ他の人のお陰で今があるんじゃない?」
カレンがそう言ったが、おそらくそれがこの場では正しく思える。誰のお陰だとか言い始めたら終わりそうにないからな。俺だってエルザやカレンがいなかったら今ごろ何をしているか分かったものではない。
「ああ、思い出した。この城を建てたのはそちらにいるカレンの父親だと先ほど言っていたな。よほどの技術を持っている魔法職人だろうが、彼女もそうなのか?」
殿下の言う魔法職人とは、魔法を使って物を作る職人のことだ。建物だけではなく、武具や家具、食器なども含まれる。魔道具職人も魔法職人の一部だと言える。
「いえ、見てもらった方が早いでしょう。カレン、角を出してくれるか?」
「はーい」
カレンは一言返事をするといつものように角を出した。
「そ、その角は……」
「殿下はこの国の北には竜がいるという話を聞いたことがありますか?」
「ああ、『死の大地』の北には恐ろしく高い山があり、そのあたりは竜の住処だと……そういうことなのか?」
「はい、彼女の両親がそうです」
この国の一番北には魔獣が多く住む土地があり、そこには竜もいると思われている。カレンが産まれる前からクラースとパウラはいたわけだから、おそらくその二人のことだろう。
カレンが俺と結婚したので、その二人は子育てが終わったとして旅に出かけた。旧エクディン準男爵領から領民たちを移動させてくれたのも、この城や町にある多くの家を建ててくれたのもその二人とカレンのおかげだ。
「どう表現したらいいのか困るが、おとぎ話を聞いているようだな。それで竜と山を祀っているのか」
「私もどこか別の世界にでも紛れ込んだような気がしますわ」
こればかりは慣れてもらうしかない。特にナターリエ殿下には。そう考えるとハイデにいた者たちの順応力の高さは異様だったな。何を聞いても「ああそうなんだ」で済ませてしまう者が多い。単に物を知らないでは済ますことのできない大らかさだろう。
とりあえずアルマの件については、城の外にいる者には話さないようにと言っておいた。言いふらすべき内容でもなく、誰が得をするとか損をするとか、そのような話でもないからだ。
強いて言えば陛下の恥になるか? いや、王族なら落胤の一人や二人いてもおかしくないか。あの王妃様が厳格なだけで。
「話してもいいそうなので言ってしまうと、アルマは陛下が使用人の一人に産ませた子供で、使用人の娘として育てられた。年齢はナターリエ殿下の一つ上になる」
事情を知らないカレンとエルザ、そしてナターリエ王女に簡単に説明する。
「軍学校時代に初めて王城でアルマを見た時は、まさか陛下の血を引いているとは知らなかった。それからすぐに孤児院に預けられたから、おそらく何かあったんだろうと思っていたら、という話だ」
「なんだ、以前に会っていたのか」
「いえ、かつて誕生パーティーに招待されたことがありましたが、あのときに会場を覗いていたのを見ただけです。顔まではっきりとは分かりませんでしたが、髪の色が特徴的でしたので覚えていました」
「そう言えば、そんなことを言っていたな」
誕生パーティーは立食だったので、俺は邪魔にならない端の方にいた。つまり一番手前で入り口に近かったので、覗いていたアルマが一瞬見えた訳だ。入口に近いとは言えそれなりに距離があったので、さすがに顔までは覚えられなかったが、銀色の髪は印象に残っていた。
「はいっ。私もエルマー様の髪の色を覚えていて、それですぐに分かりました」
「私はアルマのことを良家のご令嬢だと思っていました。ではあの寄付をしてくださった年配のご夫婦はアルマの家の使用人ではないと?」
エルザが疑問を口にした。アルマが孤児院に来た時は俺はいなかったから、そのあたりの経緯は知らない。たしか演習で遠出していた時だっただろうか。
「それはブラント夫妻だな。夫のアルバンは私が幼い頃に教育係をしていて、妻のエーディトは家庭教師だった。王城の外で最も頼りにしている二人だ。先ほどのエルマーの説明に続けると、カリーナは使用人の娘として王城で育てられていたが、フロッシュゲロー伯爵に目を付けられてしまった。それで城から逃すためにブラント夫妻に一度預け、そこからあの孤児院に行ってもらうことになった。私もカリーナが妹だと分かったのは、先ほどエルマーが言った誕生パーティーの直後だ」
「あの頃、殿下は少しお疲れでしたね」
「ああ、その件でこっそりとブラント夫妻に連絡を取ったりしたからな」
「みなさん色々とあったのですね」
ナターリエ王女がボソッと呟いた。
「まあな。私が偉そうに言えることではないが、結局のところ、エルマーがいてくれたのが大きい。お陰で叔父から逃れることができた」
「それを言うなら、私は殿下と親しくできたお陰で出征して戦功を立てることができました。そうでなければ今頃は領地を失っていたでしょう」
「みんな少しずつ他の人のお陰で今があるんじゃない?」
カレンがそう言ったが、おそらくそれがこの場では正しく思える。誰のお陰だとか言い始めたら終わりそうにないからな。俺だってエルザやカレンがいなかったら今ごろ何をしているか分かったものではない。
「ああ、思い出した。この城を建てたのはそちらにいるカレンの父親だと先ほど言っていたな。よほどの技術を持っている魔法職人だろうが、彼女もそうなのか?」
殿下の言う魔法職人とは、魔法を使って物を作る職人のことだ。建物だけではなく、武具や家具、食器なども含まれる。魔道具職人も魔法職人の一部だと言える。
「いえ、見てもらった方が早いでしょう。カレン、角を出してくれるか?」
「はーい」
カレンは一言返事をするといつものように角を出した。
「そ、その角は……」
「殿下はこの国の北には竜がいるという話を聞いたことがありますか?」
「ああ、『死の大地』の北には恐ろしく高い山があり、そのあたりは竜の住処だと……そういうことなのか?」
「はい、彼女の両親がそうです」
この国の一番北には魔獣が多く住む土地があり、そこには竜もいると思われている。カレンが産まれる前からクラースとパウラはいたわけだから、おそらくその二人のことだろう。
カレンが俺と結婚したので、その二人は子育てが終わったとして旅に出かけた。旧エクディン準男爵領から領民たちを移動させてくれたのも、この城や町にある多くの家を建ててくれたのもその二人とカレンのおかげだ。
「どう表現したらいいのか困るが、おとぎ話を聞いているようだな。それで竜と山を祀っているのか」
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こればかりは慣れてもらうしかない。特にナターリエ殿下には。そう考えるとハイデにいた者たちの順応力の高さは異様だったな。何を聞いても「ああそうなんだ」で済ませてしまう者が多い。単に物を知らないでは済ますことのできない大らかさだろう。
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