ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

行啓(三)

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「そろそろ別室で待たせているが、同行した使用人を何人かここに呼んでもいいだろうか?」
「ええ、もちろんです」

 アルマの件が落ち着くと殿下がそう言った。ここまではアルマの紹介があったから殿下の方は護衛も使用人もオスカー殿以外は一人も入っていない。とりあえずアルマが殿下の妹だとかカレンが竜の娘とかいう話はここで終わりだ。

 オスカー殿はかつては殿下の側を離れなかったようだが、あれ以降は暇を持て余し気味だと殿下が前に言っていた。本来はそれでいいのだろう。常に護衛がピリピリしていなければならないような状況は、王族にとって好ましい状況ではない。護衛がいなくても出歩けるのが理想のはずだ。

 そのオスカー殿は使用人を呼ぶために部屋を出て、しばらくすると四人を連れて戻って来た。

「カリーナ!」
「お母さん⁉ みんなも」

 お母さん? ああ、以前話に出た育ての母か。実の母は亡くなっているから、あの女性が育ての母だろう。後ろにいる双子は二人の娘だろう。父親は真面目な役人、母親は優しい母親、そう思える。

「殿下、単なる使用人に過ぎない我々の願いをお聞きくださり、ありがとうございます」
「気にするな。私はここまで連れて来ただけだ。ここからは自分の頑張り次第だ」
「はい」

 何の話だと疑問に思う間もなく、男性が俺の方を向いて頭を下げた。

「男爵様、私カール、妻リンダ、二人の娘カーヤとラーラ、なにとぞこの四人をこちらで雇っていただけないでしょうか?」

 他の三人も頭を下げる。これが自分の頑張り次第か。肩に力が入りすぎだな。

「いいぞ」
「「「「え?」」」」

 四人の顔が、深刻な表情から気の抜けた表情に変わったので笑いそうになった。

「『え?』って、頼んだのはそちらだろう」
「も、申し訳ありません。一言で許可をいただけるとは思っていませんでしたので」
「正直なところ、こちらとしても人手が欲しい。一気に一〇〇人も来られると大変だが、四人なら問題ない」
「ありがとうございます」
「エルマーならそう言ってくれると思っていたが、やはりその通りになったな」

 俺なら四人を引き受けると殿下は思ったのだろう。アルマの家族なら受け入れないわけがない。俺がそう思っていると殿下には思われているのだろう。

「私としても、おそらく殿下ならそう言うだろうと思っていました。では紹介状もお持ちですね?」
「ああ。オスカー、あれを」
「はい。エルマー殿、こちらです」
「たしかに預かりました」

 すでに紹介状も用意して、いつでもこちらで働けるようになっていた。殿下はどんどん抜け目なくなっているな。

「アルマ」
「はいっ」
「この四人を応接室に連れて行って町の簡単な説明をしておいてくれ。それ以降は好きにしたらいい」
「ありがとうございますっ」
「カレンとエルザも体を休めたらどうだ?」

 アルマが王城を出てから五年くらい経つだろうか。家族でゆっくりしたらいいだろう。カレンもエルザもそちらの方でゆっくりさせることにした。



「それにしても、カリーナ……いや、もうアルマか。話には聞いていたが、私も今年中に伯父か」
「無事に生まれてくれば、私はいきなり三人の子持ちです」
「それまでには私も結婚をしておきたかったが、調整があって少しずれそうだ」
「陛下がそれっぽいことを口にされていましたが、お相手が見つかったのですか?」

 アルマに渡すドレスは殿下の結婚相手に渡すドレスに紛れるように作らせたそうだ。

「ああ、バーレン辺境伯の娘で、シエスカ王国の王家の血を引いている」
「と言うことは、今後はそちらと繋がりを、ということですね?」
「ゴール王国に対する牽制の意味もあるな。もちろん彼女を気に入ったからというのが大きい。私と入れ違いにビアンカがシエスカ王国に嫁ぐことになる」

 南西のゴール王国とは仲が良いとは間違っても言えないが、南のシエスカ王国とはそれほど悪くはない。お互い国と国との立場があるので、さあ仲良くしましょうとはいかないのが普通だ。だが国境の近くでは、貴族同士が仲良くするのはよくあることだ。

 バーレン辺境伯の正妻は当時のシエスカ王国王の五番目か六番目の王女で、両国ともに認められて結婚している。国境を挟んでこちら側と向こう側の貴族同士が仲が良いというのは国境の安定にも繋がるからだ。

 だが場合によっては裏切られて侵略される可能性もあるので、一概に良いとは言い切れない。そのあたりはお互いにどれだけ相手を信頼しているかが重要だろう。簡単に裏切られるようではそもそもが失敗だ。

 王太子殿下に子供が生まれれば、その子は遠いながらもシエスカ王国の血も引くわけで、両国にとってはめでたいことになる。そしてビアンカ王女もシエスカ王国に嫁ぐ。さらに殿下が今の国王の娘を迎え入れることになればより関係は強くなるだろう。

 だがあまりやりすぎるとゴール王国がちょっかいを出してくる可能性が高くなる。去年失敗したばかりだから、また何か仕掛けてくる可能性がある。ただしシエスカ王国と手を組めば、二方面から牽制できるので、以前より状況は落ち着くだろうか。

「そのときには式に呼ぶのでぜひ来てほしい」
「もちろん、喜んで参列いたします。ところで、アルマの件がバレたと先ほど聞きましたが……」

 先ほどから一番気になっているのはそれだ。王妃様にバレたのならただでは済まないだろう。

「ああ、あれなあ……。先日アルマのことで父と話したらしいな」
「ええ、陛下から少しアルマの話が聞きたいと言われましたので」
「お前から直接話しを聞いて喜んだようでな、それで酔って母の前でポロッと」
「前もそうでしたが、酔って漏らすのが多くありませんか?」

 つい多いと言ってしまったが、俺が知っているのはアルマの件で二回だけだ。

「普段のパーティーで酒を飲んでもそのようなことはない。問題は帰ってからだ。気が抜けるのだろう。以前は外に出れば敵ばかりだったからな」
「それで王妃様は?」
「想像した通りだった。使用人に手を出したことや子供ができたことについては仕方がないと。そういうことは国王なら少なからずあり得ることだと。だが子供が生まれたのに何もせず、見て見ぬフリをしていたこと、その使用人が死んでも何もしなかったこと、などなどについては烈火のごとく怒ってな」
「簡単に想像できますね」
「あのような母は初めて見た。私もその場にいたが、この年になって漏らすかと思ったくらいだ。父は顔が腫れ上がって数日間寝込んだ」
「それであれほど怒っていたのですね。何があったのかと思いましたわ」

 ナターリエ王女はその場にはいなかったのか。優しきも厳しい王妃だとは殿下から聞いていた。

「王妃様にとってはよほどだったのでしょう」
「ああ。王妃と言えども母親だ。アルマとは血の繋がりがないとは言え、もし自分の子供がそうだったらと思えば怒っても仕方がないかもしれない。それでせめてもの償いとして、あの馬をアルマに渡してくれということだ」
「それであれだけ立派な馬が」

 ゲルトに頼んで集めてもらった馬にもかなり立派な馬が多かったが、今回は全て軍馬だな。狩人たちが喜ぶだろう。

「それで育ての親たちに話をしたところ、娘の近くにいたいと。それでお前には迷惑をかけるが、勝手に連れて来ることにした」
「先ほど本人たちにも言いましたが、人手は多いほどありがたいのは間違いありません。できればあらかじめ聞いておきたかったところではありますが……」
「たまには私もお前を驚かせたいからな。それはさておき、頼もしい義弟おとうとができたと思っておこう。アルマだけなら公言はできないが、ナターリエが嫁ぐとなれば公式に私の義弟になるからな」
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