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第二章:領主二年目第一部
提携(一):来客
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「旦那様、マーロー男爵が町の入り口に到着されたそうです」
「分かった。ヨアヒムは接客の用意を」
「はい」
年が明けてしばらくして、エクセンからマーロー男爵のデニス殿が家族と一緒にドラゴネットへ到着したそうだ。連絡を受けて城の入り口まで迎えに出る。今年初の来客どころか、初の来客と呼ぶ方が正しいか。
妻のニコラ殿にシビラとリーヌスの姉弟も一緒だ。
「お邪魔しますね」
「よろしくお願いします」
「ようこそ、ドラゴネットへ」
トンネルの完成も一二月だったので、それから一か月ほど経ってそろそろという感じか。さすがに一二月から一月は雪が降っているが、どうやら豪雪と呼ぶほどではなさそうだ。
年が明けたら来ると連絡を受けていたのでそろそろかと思っていた。お隣との交流は大切だ。仮にデニス殿との仲が険悪になれば、商人がこちらにはやって来なくなる。トンネルを塞がれたら終わりだからな。
「みんなで話していましたが、この城は町と一体となって、まるで一つの建物のように見えますね」
「そう見えるようになったのはたまたまですが」
ノルト男爵領は盆地になっている。エクセンとドラゴネットの位置を考えると、ドラゴネットの方が低い。エクセン側はほぼそのまま町の端からトンネルに入るが、こちら側は山の麓の森の中に出る。エクセン側からトンネルを掘らせてもらったのにはそのような理由もある。
トンネルからこちら側に出た瞬間、ずっと前方にあるドラゴネットの町を少し見下ろす格好になる。高さの違いは数十メートル程度だが、城壁に囲まれた町のまん中に巨大な白い城があるのが見える。
トンネルを出てすぐに森に入るのは安全面で問題になるので、木を切り倒して橋のような道を作った。真っ直ぐな道が森を出るまで続く。そこからさらに進むとドラゴネットだ。
このような僻地では珍しいが、国境の近くには町全体を高い城壁で囲った城塞都市というものがある。だが普通は住居が密集している部分を囲っただけで農地は普通は城壁の外だ。この町のように農地まで含めて全て城壁の中というのは珍しい。つまり城塞都市としては巨大だ。
そもそもこの町の周囲には魔獣を防ぐための城壁と堀があるが、城そのものには簡単な柵しかない。柵はあくまで敷地の範囲を示すだけで、正直なところ不要だと思っているが、何もないのもおかしく見えるらしいので取り付けた。
そのようになっているので、もし敵としてドラゴネットを攻めるとなると、中がどうなっているのかをトンネルのところから覗きやすいわりには、近付けば広い堀と高い城壁があって中に入るのはかなり難しく、だが城そのものは非常に無防備という、かなり特殊な町になっている。
「それはそうと、トンネルを出たところに何かが置かれていましたが、あれは何ですか?」
「それは棒状の物ですか?」
「ええ、道の左右にありましたが、門でもなさそうですし、何だろうと思っていたのですが」
「あれは魔獣避けの薬……になるのでしょうか。以前に言った対策です」
「ああ、なるほど、魔獣にしか感じない匂いですね」
「らしいですね。私にはよく分かりませんが」
カサンドラが作ってくれた物で、竜の鱗などを使っているらしい。デニス殿は魔法使いなのでそのあたりは詳しいだろう。俺は説明を受けたが細かなところは全く分からない。
「あ、あれはあの時の馬車ですね」
「あ、本当だ」
小広間を歩いている時にシビラとリーヌスが声を上げた。彼が見たのはあの式典の時に使用した馬車だ。普段使うことはないが、異空間に入れておいても嵩張ってしようがない。それなら見たい者がいつでも見ることができるように、大広間に置くことにした。式典の時に二人を乗せたが、かなり気に入ったようだ。
「後で乗ってみるか?」
「いいですか?」
「もちろんだ。なかなか使う機会がないから、馬車も喜ぶだろう」
王都でもなかなかあの大きさは存在しない。存在しないということは使われていないということで、つまりは使いたいと思う者がいないということでもある。
一行は今日は泊まっていくことになっているので、今日でも明日でも時間はある。馬車は八頭立てだが四頭いれば引くことはできる。それくらいは牧場にいるだろう。
「すみませんね」
「いえいえ。正直なところ、せっかく作ってもらったのに使うことがほとんどありませんので」
「あの規模になるとなかなか走らせる場所を選ぶでしょうね」
「狭い道ではすれ違いも大変ですからね」
あの馬車は高さもあるが幅もある。なかなか御者も大変なようだ。うちは道が広くて真っ直ぐだからまだマシだろう。
「シビラ、エルマー殿と一緒になれば毎日でも乗れるぞ」
「不束者ですが」
「デニス殿、いきなり何の話ですか」
応接室に案内し、人心地を付けてもらう。すでに町ができているとは聞いていても、マーロー男爵領の住民たちはずっと近付かなかった場所だから緊張もするだろう。
そう言えば、この前エクセンで店をしている商人がニクラスの店に買い付けに来ていたそうだ。魔獣の素材でも買ったかもしれない。デニス殿が買いそうだからな。
「お茶をお淹れします」
ヨアヒムが茶の準備をしてくれる。
「ほほう、これはあまり覚えのない香りですね」
「茶葉は普通の物ですが、この領地で採れた何種類かの香草を加えているそうです」
「なるほど、それでかなり複雑な香りが。ですがスッと鼻を通り抜けて心地良いですね」
カサンドラが調合してニクラスの店に卸しているそうだ。二日酔いにも効く物もあるとか。
「私はあまり使いませんが、飲むと寝付きが良くなる物や、逆に目が覚める物もあるようです。うちに唯一ある商店で販売しています。茶葉を使っていない香草だけの物もあるはずです」
「それはぜひ購入したいですね」
「あまり飲み過ぎるとニコラ殿に怒られますよ」
「そうですよ、あなた。気が付いたら丸二日も寝ていないこともあるじゃありませんか」
「はっはっは」
デニス殿は笑っているが、ニコラ殿は目が笑っていない。近いうちにまた怒られることになりそうだ。
「そうそう、エルマー殿には馬車の件でお願いがありましてね」
「馬車が何かありましたか? リーヌスとシビラを乗せるのはいつでも構いませんが」
「いえ、あの馬車の件ではなく、馬車の製作のことで話がありまして。うちと提携しませんか?」
「分かった。ヨアヒムは接客の用意を」
「はい」
年が明けてしばらくして、エクセンからマーロー男爵のデニス殿が家族と一緒にドラゴネットへ到着したそうだ。連絡を受けて城の入り口まで迎えに出る。今年初の来客どころか、初の来客と呼ぶ方が正しいか。
妻のニコラ殿にシビラとリーヌスの姉弟も一緒だ。
「お邪魔しますね」
「よろしくお願いします」
「ようこそ、ドラゴネットへ」
トンネルの完成も一二月だったので、それから一か月ほど経ってそろそろという感じか。さすがに一二月から一月は雪が降っているが、どうやら豪雪と呼ぶほどではなさそうだ。
年が明けたら来ると連絡を受けていたのでそろそろかと思っていた。お隣との交流は大切だ。仮にデニス殿との仲が険悪になれば、商人がこちらにはやって来なくなる。トンネルを塞がれたら終わりだからな。
「みんなで話していましたが、この城は町と一体となって、まるで一つの建物のように見えますね」
「そう見えるようになったのはたまたまですが」
ノルト男爵領は盆地になっている。エクセンとドラゴネットの位置を考えると、ドラゴネットの方が低い。エクセン側はほぼそのまま町の端からトンネルに入るが、こちら側は山の麓の森の中に出る。エクセン側からトンネルを掘らせてもらったのにはそのような理由もある。
トンネルからこちら側に出た瞬間、ずっと前方にあるドラゴネットの町を少し見下ろす格好になる。高さの違いは数十メートル程度だが、城壁に囲まれた町のまん中に巨大な白い城があるのが見える。
トンネルを出てすぐに森に入るのは安全面で問題になるので、木を切り倒して橋のような道を作った。真っ直ぐな道が森を出るまで続く。そこからさらに進むとドラゴネットだ。
このような僻地では珍しいが、国境の近くには町全体を高い城壁で囲った城塞都市というものがある。だが普通は住居が密集している部分を囲っただけで農地は普通は城壁の外だ。この町のように農地まで含めて全て城壁の中というのは珍しい。つまり城塞都市としては巨大だ。
そもそもこの町の周囲には魔獣を防ぐための城壁と堀があるが、城そのものには簡単な柵しかない。柵はあくまで敷地の範囲を示すだけで、正直なところ不要だと思っているが、何もないのもおかしく見えるらしいので取り付けた。
そのようになっているので、もし敵としてドラゴネットを攻めるとなると、中がどうなっているのかをトンネルのところから覗きやすいわりには、近付けば広い堀と高い城壁があって中に入るのはかなり難しく、だが城そのものは非常に無防備という、かなり特殊な町になっている。
「それはそうと、トンネルを出たところに何かが置かれていましたが、あれは何ですか?」
「それは棒状の物ですか?」
「ええ、道の左右にありましたが、門でもなさそうですし、何だろうと思っていたのですが」
「あれは魔獣避けの薬……になるのでしょうか。以前に言った対策です」
「ああ、なるほど、魔獣にしか感じない匂いですね」
「らしいですね。私にはよく分かりませんが」
カサンドラが作ってくれた物で、竜の鱗などを使っているらしい。デニス殿は魔法使いなのでそのあたりは詳しいだろう。俺は説明を受けたが細かなところは全く分からない。
「あ、あれはあの時の馬車ですね」
「あ、本当だ」
小広間を歩いている時にシビラとリーヌスが声を上げた。彼が見たのはあの式典の時に使用した馬車だ。普段使うことはないが、異空間に入れておいても嵩張ってしようがない。それなら見たい者がいつでも見ることができるように、大広間に置くことにした。式典の時に二人を乗せたが、かなり気に入ったようだ。
「後で乗ってみるか?」
「いいですか?」
「もちろんだ。なかなか使う機会がないから、馬車も喜ぶだろう」
王都でもなかなかあの大きさは存在しない。存在しないということは使われていないということで、つまりは使いたいと思う者がいないということでもある。
一行は今日は泊まっていくことになっているので、今日でも明日でも時間はある。馬車は八頭立てだが四頭いれば引くことはできる。それくらいは牧場にいるだろう。
「すみませんね」
「いえいえ。正直なところ、せっかく作ってもらったのに使うことがほとんどありませんので」
「あの規模になるとなかなか走らせる場所を選ぶでしょうね」
「狭い道ではすれ違いも大変ですからね」
あの馬車は高さもあるが幅もある。なかなか御者も大変なようだ。うちは道が広くて真っ直ぐだからまだマシだろう。
「シビラ、エルマー殿と一緒になれば毎日でも乗れるぞ」
「不束者ですが」
「デニス殿、いきなり何の話ですか」
応接室に案内し、人心地を付けてもらう。すでに町ができているとは聞いていても、マーロー男爵領の住民たちはずっと近付かなかった場所だから緊張もするだろう。
そう言えば、この前エクセンで店をしている商人がニクラスの店に買い付けに来ていたそうだ。魔獣の素材でも買ったかもしれない。デニス殿が買いそうだからな。
「お茶をお淹れします」
ヨアヒムが茶の準備をしてくれる。
「ほほう、これはあまり覚えのない香りですね」
「茶葉は普通の物ですが、この領地で採れた何種類かの香草を加えているそうです」
「なるほど、それでかなり複雑な香りが。ですがスッと鼻を通り抜けて心地良いですね」
カサンドラが調合してニクラスの店に卸しているそうだ。二日酔いにも効く物もあるとか。
「私はあまり使いませんが、飲むと寝付きが良くなる物や、逆に目が覚める物もあるようです。うちに唯一ある商店で販売しています。茶葉を使っていない香草だけの物もあるはずです」
「それはぜひ購入したいですね」
「あまり飲み過ぎるとニコラ殿に怒られますよ」
「そうですよ、あなた。気が付いたら丸二日も寝ていないこともあるじゃありませんか」
「はっはっは」
デニス殿は笑っているが、ニコラ殿は目が笑っていない。近いうちにまた怒られることになりそうだ。
「そうそう、エルマー殿には馬車の件でお願いがありましてね」
「馬車が何かありましたか? リーヌスとシビラを乗せるのはいつでも構いませんが」
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