ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

提携(二):馬車のこと

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 デニス殿の口から提携という言葉が出た。提携か……。

「先日うちの商人をこちらに来させたのですが、そこで販売されていた木材の一つを非常に気に入ったようで、その話を私のところに持ち込みましてね」
「正直なところ、木材ならエクセンの方が多いと思いますが。うちはそこまで販売していませんので」
「林業は盛んですから木はいくらでもありますが、他に何かないかと探しているところでだったのですよ。こちらに少し重くて硬い木がありますよね。あれを購入させてもらえないかと」
「重い木……ああ、あの濃い赤茶色の木ですか?」
「ええ、それです。うちは木材を販売していますが、加工して販売する場合もあります」

 デニス殿が言うには、エクセンでは皮を剥いで乾燥させた木材を販売することが多いが、加工品もかなり作っている。その中で常に一定の需要があるのが馬車の車輪と車軸だ。

 エクセンは山がすぐ近くにあり、しかも冬の寒さに耐えているからか、かなり目の詰まった良質の木材が採れる。その木材を使えばかなりしっかりとした車輪と車軸が作れるそうだ。もちろんいくら木が硬くても硬い地面の上を走れば削れるし割れる。だから外側には鉄を巻いて割れにくくしている。

 だがいくら鉄で覆っても割れる時は割れる。車軸だって折れる時はポッキリと折れる。[強化]で強くすることはできるが、鉄や石とは違って木はあまり硬くはできない。だから万が一に備えて予備の車輪と車軸を入れる場所が車体の下部や後部に用意されている。

 デニス殿はその職人が買ったという重くて硬い木材を見て、これで車輪や車軸を作れば、かなり車輪や車軸の破損が減るのではないかと考えたそうだ。重いとは言え、何倍もある訳ではなく、せいぜい二割から三割くらい重いだけだろうか。それくらいなら許容範囲だろう。

「そうですね。うちが木材を販売しても量的にはエクセンには敵いませんので、木材の形ではほとんど販売していません。余っていると言えば余っています」
「それにしっかり乾燥しているようですから、車軸が曲がることもないでしょう」
「そこはカレンが頑張っていますので」

 カレンは体を大きく動かすことはしていないが、町中を歩いて各所で手伝いをしている。妊婦だからと言って体を動かさなさすぎるのも体に良くないそうだ。

 その手伝いの一つが木材の乾燥だ。あまり水分を抜きすぎると割れるのでほどほどで止める必要があるが、カレンは水分に関してはかなり上手い。

 木は加工してから乾燥させれば歪むことが多いが、乾燥させてから切れば歪むことは少ない。ヨーゼフとブリギッタがそれ用の魔道具を作ると言っているようだが、なにせ木材は大きい。長いまま使いたいことも多いので、切らずにそのまま入れて乾燥させる魔道具を作るのだとか。それができるまではカレンが散歩ついでに乾燥させるだろう。

「木材を扱っているのはアレクとホラーツの二人ですが、最初はあの木を使って先ほどの馬車を作ろうとしたようです。ですが重くなりすぎるためにやめたそうです」
「ですが、あの馬車の車体はその木では?」
「ああ、それはその二人がその木を元にして作ってくれた板材ですね」

 さすがにデニス殿が相手でも細かな部分までは話すことはできない。今のところ売り出すつもりはないが、何があるか分からないからな。

「うちの木材の加工技術、それとノルト男爵領の木材、お互いに協力はできませんか?」
「そうですね……」

 マーロー男爵領に気を遣っている間は、うちはあまり大量の木材は売れない。木材が主要産業であるマーロー男爵領の経営に影響を与えてしまうからだ。

 そもそもうちには小麦などもあるから、無理に木材を売る必要はないが、収入源は増やしておいた方がいい。まだ商会もどうなるか分からないからだ。

 だが双方が協力することで、うちとしてはある程度は木材を売ることもできる。これまではエールや蒸留酒のための樽に使うことが多く、それ以外には家を建てる時の屋根として使うくらいだった。

「木材の担当者に話をしてみましょう。私としては基本的には前向きに検討するつもりですが」
「ええ、もちろんです。すぐにどうこうなるわけでもないでしょう。うちとしてはもう一つ二つ何かが欲しいのですが、残念ながら木材と琥珀くらいしかありません。そこで何かを作ろうとすれば、作れそうな人と協力するしかないというのが現状で」

 そうだなあ。マーロー男爵領はあの山の南側だが、魔獣がいないだけでうちの南の山沿いとそれほど変わらない。うちは魔獣を狩れば肉も毛皮も手に入るが、デニス殿にはそれがない。それが違いだろう。

「こちらもよく似たものですよ。ようやく王都で商会を任せる人物が決まりましたが、まだ何を扱うかも決まっていません。色々とありそうに見えて、実はどれくらい継続して販売できるかも分かっていないのが現状です。安心できるのは小麦と酒くらいですね」

 そう、何でも売れそうだが、一度売って品切れになっては意味がない。魔獣は今はいるが、ずっといるという保証はない。魔獣の毛皮は高値で売れるそうだが、仮に魔獣が出なくなって品切れを起こしたとする。入荷待ちの状態が長ければ愛想を尽かされる。王都で商会を持つことの利点と欠点はそこにある。

 個人でやっている行商ではなく貴族が経営する商会なら、扱う商品は常に一定の量を確保しなければならない。そうでなければ常に店を持つ意味がないからだ。いつそこに行っても必要な商品があり、十分な品質が保証されている。だからこそ信用される。

 商品を増やすことは問題ないが、下手に扱う商品を下手に減らすと、その商品を入手する手段をなくした、つまり落ち目であると思われることさえある。できたての商会でも例外ではない。勢いで作って潰れる商会はいくらでもあるからだ。

「ではエルマー殿が前向きに考えてくれるという前提で計画を立てましょう。あの木はかなり硬そうですから、まずはその加工からですね」
「ええ、あれはなかなか骨が折れたそうです」
「そのあたりも正式に提携が決まればやりとりをお願いしたいと思います。ところで提携ついでにもう一つ話があるのですが……」
「何でしょうか」
「うちのシビラを貰ってくれませんか?」
「前触れもなくその話を持ち出すのはやめてください」

 じっと話を聞いていたシビラが頬を赤くしてこちらをじっと見るが、さすがに若すぎる。

 伝令のベルントをアレクとホラーツの工房に向かわせるようにヨアヒムに伝えると、一度ここで休憩を取ることにした。
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