ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第二章:領主二年目第一部

提携(三):契約の締結

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「はい、もちろんかまいません。ぜひ使ってください」
「余り物で作るということでしたので秘密も何も。真っ直ぐに押さえるのに若干コツが必要な以外は特に何も重要なことはないと思います」

 ベルントがアレクとホラーツを連れて戻ったのは、そろそろ休憩を終わりにして次の話をしようかと考えていた頃だった。もし二人が忙しいようなら、許可を出していいかどうかだけでも聞いてくればいいと言ったが、二人ともここまで来た。正直俺にはありがたかった。

 いやもう、デニス殿の押しが強いこと強いこと。何がと言えば当然シビラのことだ。そのシビラはデニス殿の隣で顔を赤くしている。

 確かに隣の領地なら娘を嫁がせるのには悪い場所ではない。しかもそれなりに発展しそうな雰囲気がある。親としては安心だろう。だがシビラはまだ一〇歳にもなっていない。残念ながら俺は小児性愛には興味がない。

 貴族の成人は一二歳が一般的だが、結婚するのは早ければ一〇歳くらいだ。だから今年で九歳になるはずのシビラが結婚しても極端に早い訳ではない。結婚事情だけを考えれば。俺と一〇歳差だが、貴族にとっては年齢の差はあってないようなものだ。



 城に来たアレクとホラーツからは了解を得た。もちろん俺が好き勝手にやっても問題ないが、彼らの努力は考慮すべきだろう。

 この二人は馬車を作ってくれたが、馬車が専門ではない。馬車は馬車、船は船、家は家、それぞれ専門の大工がいる。俺はついつい彼らに任せてしまうが、麦を育てるのと芋を育てるのが全く違うように、本来は完全に違う仕事だ。

 だが二人とも向上心が強く、船を見せたらそれを分解して分析し、新しい船を何隻も作っていた。馬車もやはり専門の職人と協力させれば、より高度な技術を身に付けるのではないかと思っている。本人たちも乗り気のようだから問題ないだろう。

「それなら、あの大型馬車に使ったあの色の濃い硬い木だが、あれを少し増やすことにしようか。木こりたちに伝えておいてくれ」

 ハイデ時代は男連中が山に入って切り倒していた。こちらに来てからはそれほど大規模に伐採はしていなかったが、木材をある程度は用意しておきたいので、木こりを専門にする者を募集した。以前から木を切り倒すのが得意だったゲーアハルトとヨッヘムの二人が責任者となって切り出しを行っている。

「分かりました。次の伐採から多めにします。運河が伸びたので運搬が楽になりましたから」
「あっという間にできたな、あの運河」

 ブルーノに農地を広げる話をして図面ができたのはつい先日だ。そしてそれに合わせて町の外に運河を延ばすことになった。俺が王都で商会のことやら何やらをしている間に、カレンが堀と運河を完成させてしまった。

 掘っている最中の失敗は二回くらいだったそうだ。それも自分で直したそうだ。「だいぶ慣れたわね」と言っていたが、慣れすぎじゃないだろうか。

「町の外のあれは運河だったのですか?」
「ええ、元々は町の中だけでしたが、山の方から魔獣と木材を運ぶのに使用しています」
「それなりに距離があるようですね」
「ええ。森の端から町の入口までで一〇キロほどあります。私がいれば異空間に入れて運ぶことはできますが、いつもそれができるとは限りませんので。重い物を運ぶのにどうしようかと考えた上であのような形になりました」

 元からある町と東に新しく作った農地の境目からまっすぐ南に向かって運河を延ばし、山裾の森に入る手前で東にLのように折れた運河ができた。そして折れ曲がった部分と一番東の部分には積み下ろしのための場所が設けられている。

「しかし熊の魔獣はかなり重くありませんか? あれを積み下ろしできますか?」
「そこもこの二人を始めとした職人たちの努力の結果です」

 二人が作ったのは、運河の一部を仕切って水を入れることで船を上げ下げする装置だった。これはシュタイナーが水の都で見たと言ったものを再現したものだ。それにダニエル、ヨーゼフたちも協力したようだ。

 運河の一部を仕切り、その部分に水を入れる。これを閘門こうもんと呼ぶそうだ。そうすると水面が地面にかなり近いところまで上昇する。そこに魔獣を乗せた船を入れ、仕切りを少し開いて中の水を抜くと船は下がる。水が抜けたら運河の他の部分と高さが同じになるのでそのまま荷揚げの場所まで運ぶ。

 荷揚げの場所も同じように仕切りがある。中に船を入れたら仕切りを閉じて水を入れる。そうすると船が持ち上がるので、地面と同じ高さくらいまで上がれば巻き揚げ機で引っ張って移動させる。水そのものは運河にいくらでもあるので、魔道具で組み上げて移せばいい。

 これは本来は荷物を運ぶためではなく、高さが違う場所を船が通過するために使う装置らしいが、うちでは積み下ろしのために活用することにした。どうしても山に近くなるほど運河が深くなってしまうために考えられた方法だった。

「たしかにそのような方法は聞いたことがあります。帰りの際にでも見せてもらうことはできますか?」
「もちろんです。もしよろしければ乗ってみますか? 馬車ごと船に乗せ、向こうで馬車を船から降ろすのもできますよ」
「「乗りたいです!」」

 そう言ったのはシビラとリーヌスだった。これまでじっと話を聞いていたが、乗り物の話になったら耐えられなくなったらしい。

「危なくはないのですか?」

 そう聞いたのはニコラ殿だった。

「何度も試験航行をしているので安全面は大丈夫です。それよりも馬車に比べて乗り心地がいいのが特徴です。曲がる時も静かですし、振動が伝わりません」

 馬車の車輪の多くは鉄を巻いている。その車輪で石畳の上を走っていて曲がる時はギャリギャリとかなりの音がする。その点では船の方がよほど静かだ。今は活用されているとは言い難いが、とりあえず運搬には有効利用されている。

「シビラ、もし船が揺れて怪我でもしたらエルマー殿に責任を取ってもらいなさい」
「はい、お父様」

 どうして俺は余計な提案をしたんだろうか。
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