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第二章:領主二年目第一部
提携(四):町の案内と食事
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「これはかなり高いですね。見晴らしが素晴らしい」
「偉くなった気分になりますね」
「広いから眺めがいいです。あんなに麦が……麦?」
「お姉ちゃん、麦って夏じゃないの?」
話も一段落したので町の中を馬車で案内することにした。ぐるっと回ればそれなりに時間がかかるので少し急ぎ目に走らせる。
馬車は町と町の間を移動するならそれほど速度は出さない。道が悪いので馬が疲れやすいからだ。急がなければ一時間で五キロ、急げば一〇キロくらいは出せるだろう。だが町の中は石畳が敷いてあるので、走りやすくなっている。
ドラゴネットの町中はそれほど面白みがあるわけではないが、デニス殿とニコラ殿も馬車を気に入ってくれたようだ。子供二人も楽しんでいる。麦を見て首を傾げているが。
「一つの町としてはかなり広いですね」
「そうですね。こちら側が元々あった町ですが、東西も南北もおよそ五キロです。橋を渡って向こう側にある農地と牧場も広さは同じです。牧場はまだ準備しているところですが」
牧場はまだ準備が整っていない。牧草が生えていないからだ。さすがに牧草も生えていないのに家畜を放すのも意味がないし、かと言って牧草のために土に竜の鱗の粉末を混ぜるのもおかしい。あまり生えてもそれはそれで困ることになるだろう。細かな調節ができないが、そこまで贅沢は言えない。
芝を始めとして牧草に良さそうな植物の種は用意してあるので、もう少し暖かくなったら蒔くことになる。上手く行けば夏には立派な牧草地になってくれるだろう。時期をずらして色々な種類を蒔き、季節ごとに色々な植物が生えるようにできれば一番いい。さすがに冬は無理だろうが。
「農地をいくらでも広げられるというのは羨ましいですね」
「農民たちの希望で広げましたが、こちらが心配になるくらいです」
働いていないと落ち着かないという仕事中毒のようになっている。だが仕事量的には無茶をしている訳ではない。麦が育つ速度が速すぎるだけだ。
「麦がいくらでもできるのはありがたいでしょうが、うちの農民たちでは無理そうな気がします。ちなみに、もし麦をそのまま放っておいたらどうなりますか?」
「畑の端で試しましたが、麦が育ちすぎると穂から実が零れ落ち、そこからまた生えます」
「ところどころ残しておけば麦蒔きの手間が省けませんか?」
残った麦から生えてくれれば楽は楽だが、そう上手くいくとは限らない。これも実際に試してみたことだ。
「満遍なく生えてくれればいいのですが、そうはならなりませんでした。それに農民たちは働き足りないから農地を広げてほしかったようですので、勝手に生えるのは彼らにとっては不本意だと思います」
「楽を選ぶのではないというのが理解に苦しみますね」
「私も理解しきれないところです」
「それにしても馬車が静かですね」
「車輪に工夫しています」
主な通りは石畳が敷かれているので走りやすくなっている。ちなみにこの馬車だが、車体が大きく重さもある。だから車輪に工夫をした。その工夫を教えてくれたのはカサンドラだった。
魔獣の毛皮は防具や外套などに使われるが、どうしても使わない部分が出る。その使わない部分を馬車の車輪の外側に巻くというものだ。魔獣の毛皮は鉄のような硬さではなく衝撃を受け止めるような柔軟さもある。その毛皮を車輪に被せると振動が伝わりにくくなる。
実際に走らせてみると分かるが、石と鉄がぶつかり合うとガリガリと不快な音を立てることが多いが、魔獣の毛皮を使うとゴロゴロと樽を転がしているような音がする。
「魔獣の毛皮ですか。贅沢ですが、これほど静かになると分かると考えますね」
「捨てるしかない部分を繋ぎ合わせています。これもいつまでも使えるわけではないようです。傷みますからね。他の素材で何かできないかと考えているところです」
一通り町の中を見て回ると、それから城に戻って食事となった。
◆ ◆ ◆
「これは美味しいですね」
「ええ、本当ですね」
「お肉が美味しいです」
「野菜も甘くて美味しい」
うちの自慢の料理長と副料理長が作った料理だ。四人とも満足そうで安心する。ラーエルとアグネスの料理に不満は一切ないし、普段から妻たちも満足そうな顔をしているが、俺は自分の舌に自身を持っていない。だが第三者が食べて美味しいと思えるなら間違いないだろう。
「アンドレアスには申し訳ないですが、彼よりも明らかに上ですね」
「そう言っていただけると二人とも喜びますよ」
デニス殿の料理人の名前は聞いたことがなかったが、アンドレアスという名前なら男性か。男性の料理人は比較的少ない。
貴族の来客ということもあり、ラーエルもアグネスも張り切っている。どちらかと言えば淡々と料理を作る方だが、いつもに比べると口角が上がっている。
この町で採れる食材にはどうしても限界があるので足りない分は王都などで購入しているが、それを活かすのは二人の腕だ。腕に関しては申し分ない。
正直なところ、彼女たちがこの町にいても宝の持ち腐れだと思わなくもない。だが大公派の一件からまだ一年も経っていないので、もうしばらくはここで働いてもらうことになるだろう。いずれどうなるかは分からないが。
夕食後はマーロー男爵一家と俺で居間に入り、少し談笑することにした。
「今日一日見せていただいて思いましたが、この町だけで全て賄えそうですね」
「そう思っていただけるのは嬉しいですが、残念ながら偏りがありましてね」
肉は魔獣を狩っている。麦や芋などの穀物、野菜、果物はいくらでも作れる。牛や山羊の乳やニワトリの卵は手に入るようになった。あまり口にすることはないが、川には魚がいる。釣ろうと思えば釣ることもできるだろうが、領民の数を考えれば全然足りないだろう。
木材はいくらでもある。やたらと硬い木があり、それについてはマーロー男爵領と提携することになった。それにはアレクとホラーツにも関わってもらう。
綿や麻は栽培しているし、陶器やガラスの原料は領内で材料が見つかっている。鉱物は琥珀がほとんどだが、他には水晶、紅玉や蒼玉も若干ながら見つかっている。
このように色々と領内で作られるようになったが、例えば陶器やガラスはそれほど頻繁に買う物でもない。一通り行き渡ればしばらくは必要ないこともある。
鉄はまだ見つかっていないが、そもそも鍋や包丁などはそうそう買い換えるような物ではないので問題になっていない。一方で酒や肉はどれだけあっても消費されるし、保存庫があれば傷むことはない。
こう考えると、作っても領内ではあまり使わずに外で販売する物も出てくる。そのために商会を用意し、売るだけではなく買い付けもする必要がある。
「なるほど、生きていくだけなら十分でも、それ以外となると不足するか余る訳ですね」
「なまじ穀物と野菜と肉と酒に困らなくなってしまったのが問題です。そのために商会がどうしても必要で」
領内で多く作った物を売り、必要な物を買い込む。まだ建物の改装は終わっていないが、アントンは挨拶回りをしているようだ。建物が完成すればそれなりに需要があると思いたい。
「偉くなった気分になりますね」
「広いから眺めがいいです。あんなに麦が……麦?」
「お姉ちゃん、麦って夏じゃないの?」
話も一段落したので町の中を馬車で案内することにした。ぐるっと回ればそれなりに時間がかかるので少し急ぎ目に走らせる。
馬車は町と町の間を移動するならそれほど速度は出さない。道が悪いので馬が疲れやすいからだ。急がなければ一時間で五キロ、急げば一〇キロくらいは出せるだろう。だが町の中は石畳が敷いてあるので、走りやすくなっている。
ドラゴネットの町中はそれほど面白みがあるわけではないが、デニス殿とニコラ殿も馬車を気に入ってくれたようだ。子供二人も楽しんでいる。麦を見て首を傾げているが。
「一つの町としてはかなり広いですね」
「そうですね。こちら側が元々あった町ですが、東西も南北もおよそ五キロです。橋を渡って向こう側にある農地と牧場も広さは同じです。牧場はまだ準備しているところですが」
牧場はまだ準備が整っていない。牧草が生えていないからだ。さすがに牧草も生えていないのに家畜を放すのも意味がないし、かと言って牧草のために土に竜の鱗の粉末を混ぜるのもおかしい。あまり生えてもそれはそれで困ることになるだろう。細かな調節ができないが、そこまで贅沢は言えない。
芝を始めとして牧草に良さそうな植物の種は用意してあるので、もう少し暖かくなったら蒔くことになる。上手く行けば夏には立派な牧草地になってくれるだろう。時期をずらして色々な種類を蒔き、季節ごとに色々な植物が生えるようにできれば一番いい。さすがに冬は無理だろうが。
「農地をいくらでも広げられるというのは羨ましいですね」
「農民たちの希望で広げましたが、こちらが心配になるくらいです」
働いていないと落ち着かないという仕事中毒のようになっている。だが仕事量的には無茶をしている訳ではない。麦が育つ速度が速すぎるだけだ。
「麦がいくらでもできるのはありがたいでしょうが、うちの農民たちでは無理そうな気がします。ちなみに、もし麦をそのまま放っておいたらどうなりますか?」
「畑の端で試しましたが、麦が育ちすぎると穂から実が零れ落ち、そこからまた生えます」
「ところどころ残しておけば麦蒔きの手間が省けませんか?」
残った麦から生えてくれれば楽は楽だが、そう上手くいくとは限らない。これも実際に試してみたことだ。
「満遍なく生えてくれればいいのですが、そうはならなりませんでした。それに農民たちは働き足りないから農地を広げてほしかったようですので、勝手に生えるのは彼らにとっては不本意だと思います」
「楽を選ぶのではないというのが理解に苦しみますね」
「私も理解しきれないところです」
「それにしても馬車が静かですね」
「車輪に工夫しています」
主な通りは石畳が敷かれているので走りやすくなっている。ちなみにこの馬車だが、車体が大きく重さもある。だから車輪に工夫をした。その工夫を教えてくれたのはカサンドラだった。
魔獣の毛皮は防具や外套などに使われるが、どうしても使わない部分が出る。その使わない部分を馬車の車輪の外側に巻くというものだ。魔獣の毛皮は鉄のような硬さではなく衝撃を受け止めるような柔軟さもある。その毛皮を車輪に被せると振動が伝わりにくくなる。
実際に走らせてみると分かるが、石と鉄がぶつかり合うとガリガリと不快な音を立てることが多いが、魔獣の毛皮を使うとゴロゴロと樽を転がしているような音がする。
「魔獣の毛皮ですか。贅沢ですが、これほど静かになると分かると考えますね」
「捨てるしかない部分を繋ぎ合わせています。これもいつまでも使えるわけではないようです。傷みますからね。他の素材で何かできないかと考えているところです」
一通り町の中を見て回ると、それから城に戻って食事となった。
◆ ◆ ◆
「これは美味しいですね」
「ええ、本当ですね」
「お肉が美味しいです」
「野菜も甘くて美味しい」
うちの自慢の料理長と副料理長が作った料理だ。四人とも満足そうで安心する。ラーエルとアグネスの料理に不満は一切ないし、普段から妻たちも満足そうな顔をしているが、俺は自分の舌に自身を持っていない。だが第三者が食べて美味しいと思えるなら間違いないだろう。
「アンドレアスには申し訳ないですが、彼よりも明らかに上ですね」
「そう言っていただけると二人とも喜びますよ」
デニス殿の料理人の名前は聞いたことがなかったが、アンドレアスという名前なら男性か。男性の料理人は比較的少ない。
貴族の来客ということもあり、ラーエルもアグネスも張り切っている。どちらかと言えば淡々と料理を作る方だが、いつもに比べると口角が上がっている。
この町で採れる食材にはどうしても限界があるので足りない分は王都などで購入しているが、それを活かすのは二人の腕だ。腕に関しては申し分ない。
正直なところ、彼女たちがこの町にいても宝の持ち腐れだと思わなくもない。だが大公派の一件からまだ一年も経っていないので、もうしばらくはここで働いてもらうことになるだろう。いずれどうなるかは分からないが。
夕食後はマーロー男爵一家と俺で居間に入り、少し談笑することにした。
「今日一日見せていただいて思いましたが、この町だけで全て賄えそうですね」
「そう思っていただけるのは嬉しいですが、残念ながら偏りがありましてね」
肉は魔獣を狩っている。麦や芋などの穀物、野菜、果物はいくらでも作れる。牛や山羊の乳やニワトリの卵は手に入るようになった。あまり口にすることはないが、川には魚がいる。釣ろうと思えば釣ることもできるだろうが、領民の数を考えれば全然足りないだろう。
木材はいくらでもある。やたらと硬い木があり、それについてはマーロー男爵領と提携することになった。それにはアレクとホラーツにも関わってもらう。
綿や麻は栽培しているし、陶器やガラスの原料は領内で材料が見つかっている。鉱物は琥珀がほとんどだが、他には水晶、紅玉や蒼玉も若干ながら見つかっている。
このように色々と領内で作られるようになったが、例えば陶器やガラスはそれほど頻繁に買う物でもない。一通り行き渡ればしばらくは必要ないこともある。
鉄はまだ見つかっていないが、そもそも鍋や包丁などはそうそう買い換えるような物ではないので問題になっていない。一方で酒や肉はどれだけあっても消費されるし、保存庫があれば傷むことはない。
こう考えると、作っても領内ではあまり使わずに外で販売する物も出てくる。そのために商会を用意し、売るだけではなく買い付けもする必要がある。
「なるほど、生きていくだけなら十分でも、それ以外となると不足するか余る訳ですね」
「なまじ穀物と野菜と肉と酒に困らなくなってしまったのが問題です。そのために商会がどうしても必要で」
領内で多く作った物を売り、必要な物を買い込む。まだ建物の改装は終わっていないが、アントンは挨拶回りをしているようだ。建物が完成すればそれなりに需要があると思いたい。
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