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第三章:領主二年目第二部
サン=サージュ
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「なるほど、派手ではないが見栄えがする町だな」
「辺境伯領に近いので、規模としてはそれなりに大きな町です」
ジョゼフィーヌの故郷であるヴァジ男爵領のサン=サージュが見下ろせる場所に到着した。到着したとは言っても、移動は一瞬だが。
そして同じ男爵領の領都とは言っても、ドラゴネットに比べればかなり立派な町だ。競うことではないが、アルマン王国よりも洗練さの点では上だろうか。全体的に角がない感じだな。
「忘れないうちにお返しします」
「ああ、そうだった」
ジョゼフィーヌが転移の指輪を返してくれた。渡したことをうっかりと忘れていた。
「改めて考えると、ものすごく貴重な魔道具をポンと捕虜の私に渡したのではありませんか?」
「まあ形は捕虜だったかもしれないが、今は大使の案内役だろう。それに逃げるつもりはないだろ?」
「はい、もちろんです。レティシア殿下も関係しているかもしれませんので」
指輪を指にはめる。そして異空間から馬車を取り出す。御者を買って出てくれたのはローサだった。
この馬車は御者席の後ろに扉があり、客室に入れるようになっている。そのため、前側の席は真ん中が通れるようになっている。前が二人と一人、後ろが四人とそれなりに大きい。大使として移動するために陛下からお借りした馬車だ。ローサとジョゼフィーヌだけなら馬でもいいが、ヘルガもいるなら馬車が最適だろうということになった。
町の外には畑が広がっている。農民たちは主に城壁の外で暮らしているようだ。そのあたりは地域ごと、町ごとでかなり違う。うちは全部城壁の中だ。魔獣が出るからな。
町の外に農民たちの家がある場合、もし戦争が起きれば畑や家はそのままにするしかないが、農民たちは大切な物だけを持って町の中に逃げることになる。だがそのようなことがあまり起こらないからこの形になっているのだろう。
「止まれ」
町の入口で衛兵が馬車を止めた。ジョゼフィーヌが馬車から顔を出す。
「この馬車はアルマン王国の大使の馬車です。私が案内役を仰せつかっています」
「ジョ、ジョゼフィーヌ様! これは失礼いたしました。どうぞお通りください」
そのままジョゼフィーヌの案内で町の中に入る。しばらく走って町の中央から少し外れたあたりに一軒の大きな白い屋敷があった。
「これは綺麗な屋敷だな」
「この白さには拘りがあるようです」
門まで行くと衛兵が出てきたが、ジョゼフィーヌを見ると慌てたように武器を下ろした。
「お、お嬢様、ご無事でしたか?」
「ええ、無事です」
やはり敗戦の知らせが伝わっているのか、衛兵たちは慌てているようだった。
馬車が車輪を鳴らしながら屋敷の前で止まると、中から執事らしい服装をした壮年の男性が現れた。ジョゼフィーヌが馬車を降りて執事に話しかけた。
「私は今後サン=エステルまでアルマン王国の大使殿を案内することになります。この方々の案内を頼みます。父上と母上はいますか?」
「はい、ご在宅です」
「ではエルマー殿、しばらく応接室でお待ち下さい」
「ああ、ゆっくりさせていただく」
「大使殿、ご同行の皆様、こちらへどうぞ」
執事の案内で応接室に入ってしばらくすると、ジョゼフィーヌが両親を連れて入って来た。父親はベルナール、母親はメリザンドという名前だそうだ。両親ともに目が赤い気がするのは、無事なジョゼフィーヌを見たからだろうか。
「大使殿、この度は娘をここまで連れて来ていただいたそうで、感謝します。エルザス辺境伯軍が大敗したという知らせが早馬と鳩で国中に伝わっています。娘がどうしているのかと心配しておりました」
そう言ってベルナール殿が頭を下げた。
「いえ、偶然ですが怪我一つしなかったのは彼女の運もありましょう。私はサン=エステルまで向かいますので、彼女が案内人を買って出てくれたのは心強く思っています」
「ところでエルマー殿、娘の父親としてお聞きしますが」
「母としてもです」
ベルナール殿とメリザンド殿が真剣な顔になる。
「何でしょうか?」
「ジョゼは妻として迎えていただけるのでしょうな」
「愛人ではなく、妻としてですよね?」
「えっと、何のことですか?」
「エルマー殿は男爵ながら大領地を持ち、国王陛下の信頼も得て、妻も愛人も多いと聞きました。曲がりなりにも当家は貴族です。ジョゼはできれば愛人ではなく妻として迎え入れてもらいたいと思うのですが」
「音楽や絵画ではなく剣を嗜むようになってしまいましたが、それでも一通りはしっかりと教えました。どこへ出しても恥ずかしくはありません」
なぜそのような話になる?
「ジョゼフィーヌ、どういう説明をした?」
「いえ、事実をそのまま伝えただけですが」
「俺のことを伝える必要はなかったと思うが……」
自分が戻ってきた経緯だけを説明すればいい話だと思うが。
「エルマー殿は大使ですが、爵位は男爵でしょう」
「ああ」
「アルマン王国とこの国とでは勝手が違うかもしれませんが、普通なら大使は伯爵が務めることになるはずです」
「それは同じだな。本来大使は大臣扱いの宮廷伯が務める」
「はい。大使のはずが男爵なのかと父上に聞かれまして、政務官をされているということを伝えました。それなら爵位以上の何かがあると言われましたので、国王陛下と王太子殿下の覚えが良く、期待されて大領地を与えられていると」
「順に説明するとそうなるか……」
とりあえず二人にはきちんと状況を説明して、ジョゼフィーヌを貰うために挨拶に来たのではないことは理解してもらえた。
サン=エステルに向かうことは二人に説明したが、何のためかはまだ詳しくは言っていない。それはジョゼフィーヌから言ってもうことにしている。俺が聞くよりも早いからだ。
「母上、少しお聞きしたいことが」
「何をですか?」
「私が生まれた時、取り上げてくれた産婆は誰でしたか?」
「あの時は……リディだったかしら。あなた、覚えていますか?」
「ああ、リディだったな。あれからしばらく経って亡くなったが」
「では、レティシア殿下がここでお生まれになった時は誰が?」
ジョゼフィーヌがそう口にした瞬間、二人の表情が一瞬固まった。
「それはリディの妹だったか?」
「そうですね。ロマーヌだったはずです。あの人も亡くなっていますね」
二人とも亡くなっていた。確認のしようもないが、
「ではレティシア殿下が双子だったことは知っていますね?」
「……ジョゼ、あなたそれをどこで?」
「どこでと聞かれても、場所は限られるでしょう。殿下は本当に双子だったのですか?」
二人は先程とは打って変わって気まずそうな顔をする。
「私はアルマン王国でレティシア殿下と瓜二つの女性とお会いしました。それがエルマー殿の奥様のエルザ殿です」
そのままジョゼフィーヌは両親を見つめる。しばらくするとベルナール殿は根負けしたかのように視線を外すと一つため息を吐いた。
「メリザンド、もう隠すのはやめるぞ」
「はい、こうなればそうするしかないでしょう」
「辺境伯領に近いので、規模としてはそれなりに大きな町です」
ジョゼフィーヌの故郷であるヴァジ男爵領のサン=サージュが見下ろせる場所に到着した。到着したとは言っても、移動は一瞬だが。
そして同じ男爵領の領都とは言っても、ドラゴネットに比べればかなり立派な町だ。競うことではないが、アルマン王国よりも洗練さの点では上だろうか。全体的に角がない感じだな。
「忘れないうちにお返しします」
「ああ、そうだった」
ジョゼフィーヌが転移の指輪を返してくれた。渡したことをうっかりと忘れていた。
「改めて考えると、ものすごく貴重な魔道具をポンと捕虜の私に渡したのではありませんか?」
「まあ形は捕虜だったかもしれないが、今は大使の案内役だろう。それに逃げるつもりはないだろ?」
「はい、もちろんです。レティシア殿下も関係しているかもしれませんので」
指輪を指にはめる。そして異空間から馬車を取り出す。御者を買って出てくれたのはローサだった。
この馬車は御者席の後ろに扉があり、客室に入れるようになっている。そのため、前側の席は真ん中が通れるようになっている。前が二人と一人、後ろが四人とそれなりに大きい。大使として移動するために陛下からお借りした馬車だ。ローサとジョゼフィーヌだけなら馬でもいいが、ヘルガもいるなら馬車が最適だろうということになった。
町の外には畑が広がっている。農民たちは主に城壁の外で暮らしているようだ。そのあたりは地域ごと、町ごとでかなり違う。うちは全部城壁の中だ。魔獣が出るからな。
町の外に農民たちの家がある場合、もし戦争が起きれば畑や家はそのままにするしかないが、農民たちは大切な物だけを持って町の中に逃げることになる。だがそのようなことがあまり起こらないからこの形になっているのだろう。
「止まれ」
町の入口で衛兵が馬車を止めた。ジョゼフィーヌが馬車から顔を出す。
「この馬車はアルマン王国の大使の馬車です。私が案内役を仰せつかっています」
「ジョ、ジョゼフィーヌ様! これは失礼いたしました。どうぞお通りください」
そのままジョゼフィーヌの案内で町の中に入る。しばらく走って町の中央から少し外れたあたりに一軒の大きな白い屋敷があった。
「これは綺麗な屋敷だな」
「この白さには拘りがあるようです」
門まで行くと衛兵が出てきたが、ジョゼフィーヌを見ると慌てたように武器を下ろした。
「お、お嬢様、ご無事でしたか?」
「ええ、無事です」
やはり敗戦の知らせが伝わっているのか、衛兵たちは慌てているようだった。
馬車が車輪を鳴らしながら屋敷の前で止まると、中から執事らしい服装をした壮年の男性が現れた。ジョゼフィーヌが馬車を降りて執事に話しかけた。
「私は今後サン=エステルまでアルマン王国の大使殿を案内することになります。この方々の案内を頼みます。父上と母上はいますか?」
「はい、ご在宅です」
「ではエルマー殿、しばらく応接室でお待ち下さい」
「ああ、ゆっくりさせていただく」
「大使殿、ご同行の皆様、こちらへどうぞ」
執事の案内で応接室に入ってしばらくすると、ジョゼフィーヌが両親を連れて入って来た。父親はベルナール、母親はメリザンドという名前だそうだ。両親ともに目が赤い気がするのは、無事なジョゼフィーヌを見たからだろうか。
「大使殿、この度は娘をここまで連れて来ていただいたそうで、感謝します。エルザス辺境伯軍が大敗したという知らせが早馬と鳩で国中に伝わっています。娘がどうしているのかと心配しておりました」
そう言ってベルナール殿が頭を下げた。
「いえ、偶然ですが怪我一つしなかったのは彼女の運もありましょう。私はサン=エステルまで向かいますので、彼女が案内人を買って出てくれたのは心強く思っています」
「ところでエルマー殿、娘の父親としてお聞きしますが」
「母としてもです」
ベルナール殿とメリザンド殿が真剣な顔になる。
「何でしょうか?」
「ジョゼは妻として迎えていただけるのでしょうな」
「愛人ではなく、妻としてですよね?」
「えっと、何のことですか?」
「エルマー殿は男爵ながら大領地を持ち、国王陛下の信頼も得て、妻も愛人も多いと聞きました。曲がりなりにも当家は貴族です。ジョゼはできれば愛人ではなく妻として迎え入れてもらいたいと思うのですが」
「音楽や絵画ではなく剣を嗜むようになってしまいましたが、それでも一通りはしっかりと教えました。どこへ出しても恥ずかしくはありません」
なぜそのような話になる?
「ジョゼフィーヌ、どういう説明をした?」
「いえ、事実をそのまま伝えただけですが」
「俺のことを伝える必要はなかったと思うが……」
自分が戻ってきた経緯だけを説明すればいい話だと思うが。
「エルマー殿は大使ですが、爵位は男爵でしょう」
「ああ」
「アルマン王国とこの国とでは勝手が違うかもしれませんが、普通なら大使は伯爵が務めることになるはずです」
「それは同じだな。本来大使は大臣扱いの宮廷伯が務める」
「はい。大使のはずが男爵なのかと父上に聞かれまして、政務官をされているということを伝えました。それなら爵位以上の何かがあると言われましたので、国王陛下と王太子殿下の覚えが良く、期待されて大領地を与えられていると」
「順に説明するとそうなるか……」
とりあえず二人にはきちんと状況を説明して、ジョゼフィーヌを貰うために挨拶に来たのではないことは理解してもらえた。
サン=エステルに向かうことは二人に説明したが、何のためかはまだ詳しくは言っていない。それはジョゼフィーヌから言ってもうことにしている。俺が聞くよりも早いからだ。
「母上、少しお聞きしたいことが」
「何をですか?」
「私が生まれた時、取り上げてくれた産婆は誰でしたか?」
「あの時は……リディだったかしら。あなた、覚えていますか?」
「ああ、リディだったな。あれからしばらく経って亡くなったが」
「では、レティシア殿下がここでお生まれになった時は誰が?」
ジョゼフィーヌがそう口にした瞬間、二人の表情が一瞬固まった。
「それはリディの妹だったか?」
「そうですね。ロマーヌだったはずです。あの人も亡くなっていますね」
二人とも亡くなっていた。確認のしようもないが、
「ではレティシア殿下が双子だったことは知っていますね?」
「……ジョゼ、あなたそれをどこで?」
「どこでと聞かれても、場所は限られるでしょう。殿下は本当に双子だったのですか?」
二人は先程とは打って変わって気まずそうな顔をする。
「私はアルマン王国でレティシア殿下と瓜二つの女性とお会いしました。それがエルマー殿の奥様のエルザ殿です」
そのままジョゼフィーヌは両親を見つめる。しばらくするとベルナール殿は根負けしたかのように視線を外すと一つため息を吐いた。
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