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第三章:領主二年目第二部
あの日のこと
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「クロエ様がお腹が大きいのに行啓に来られた理由は、弟のデュドネ様が関係しているようです。ここに行啓に来るようにと熱心に誘われたそうです。気候もいいからぜひにと。デュドネ様はこの地域の巡察使をされている方です」
ベルナール殿は俺たちに当時のことを始めた。
巡察使とは地方を回り、貴族がきちんと治めているかを調べる役人だ。仕事柄、その土地の貴族との癒着もある。国によっては巡察使を監視する役人すらいるそうだ。
「気候がいいから出産にもいいだろうと、臨月が近いのに半ば強引に引っ張られて来られたそうです。そしてこちらに来られてしばらくしてから出産の準備に入られました。この屋敷の隣りにある離れに滞在されていたので、そこに産婆を呼びました。それが先ほど名前が出たロマーヌです」
「一つお聞きしますが、どうしてこの町だったのか理由は分かりますか?」
「おそらくエルザス辺境伯領が隣だからでしょう。デュドネ様の妻の一人はエルザス辺境伯の姪だとか」
「その言い方をされるのであれば、ベルナール殿はエルザス辺境伯が関係していると考えられますか?」
「おそらくは。それ以降、アルマン王国との戦争が増えましたので」
俺の問いかけにベルナール殿は首を縦に振った。辺境伯がデュドネ殿を使って王妃殿下をここまで引っ張って来た可能性が高い。癒着の証拠としては、デュドネ殿は辺境伯の軍師として従軍することもあったとか。
「ジョゼフィーヌ、デュドネ殿は今回の戦争には参陣していたのか?」
「はい、お見かけしました」
「やはり本陣にいたのか?」
「はい、そうです」
クラースの一撃で散ったか。生きていてもあの中にいたのならただでは済まないだろう。自分でやったこととはいえ、関係者が二人ともいなくなったのは痛いな。生きているなら調べることもできただろうが。
とりあえずクロエ王妃が双子を出産されたのは間違いないようだ。ベルナール殿もメリザンド殿も双子の顔を見ている。生後数か月のジョゼフィーヌはその離れで乳母たちに世話をされていたので、一緒に寝かされていたそうだ。
ところが翌日の朝、部屋に入ると赤ん坊が一人いなくなっていた。慌てて離れの中を探すが見当たらなかった。赤ん坊と一緒に王妃殿下と一緒に王都から来ていた女中が一人いなくなったそうだ。
「状況を考えるとその女中が連れて逃げたとしか考えられません。王女が連れ去られたので見ていないかと聞いて回るわけにもいきません。クロエ様はしばらくの間、体調を崩されて寝込まれてしまいました」
ヴァジ男爵としては、王妃が滞在している建物に何者かが侵入して赤ん坊が離から連れ去られたという大失態を犯した。だが王妃としても出産が近い時期にここに来た自分の責任だと感じていたそうだ。
「クロエ様は王都に戻られる際、娘は一人だったことにするが、もし何か情報が入れば教えてほしいとおっしゃいました。私たちもできる範囲で探しましたが、これと言って情報が手に入らなかった次第です」
だからその娘が見つかった時のために第三王女の位置は空白にして、もう一人のレティシア王女を第四王女にした。おそらく連れ出されたのは姉の方だったのだろう。
しばらくして第四王女が生まれたと発表された。多くの者はそれを聞き、すでに第三王女は生まれてから発表の間に亡くなっていたのか、もしくは死産だったかと思ったそうだ。
実際に第二王女から双子の間は三、四年ほど空いているそうなので、間に一人いてもおかしくはない。そのような場合は順番を飛ばすこともある。
しかし双子のうち一人だけかを連れ去ったのは、二人とも連れ去るのは難しかったのか、それとも何か理由でもあったのか。だがここにいない者の頭の中を考えても仕方がない。
「いずれ辺境伯の屋敷には国の調査が入るでしょう。詳しいことが出るとすればその時になるはずです」
さて、謎が減ったようでまた増えた。王都から王妃と一緒に来ていた女中が赤ん坊を連れ去ったのが事実だとする。だがエルザス辺境伯のところにいるはずの赤ん坊がアルマン王国にいたのはどうしてだ?
「ベルナール殿、私はエルザの出自を気にしているわけではありませんし、エルザ自身も気にしていないようです。ですが王妃殿下がそれによって苦しんでいるのであれば、私としては一肌脱ぐ気はあります」
「そのエルザ殿はどのような境遇で育ったのですか?」
「孤児院育ちです。場所はバーレン辺境伯領でもほぼ一番西にあるニューメックという町です。少し西に行けばマルクブルク辺境伯領があります。そこまで行けば国境を挟んで反対側はエルザス辺境伯領です」
「では何かの間違いで国境を越えてしまったとも考えられますな」
「ええ、その女中に何かがあったとか」
連れ去った後に殺されて赤ん坊が奪われてしまったとか。だが情報が足りなさすぎる。
「私はこれから王都に向かうことになります。引き続きジョゼフィーヌに王都までの案内役を頼んでもよろしいですか?」
「もちろんです。ジョゼはどうだ?」
「問題ありません。王妃殿下と王女殿下にお会いするとなると時間がかかると思います。私が取り継ぎます」
「それなら頼む」
ベルナール殿は俺たちに当時のことを始めた。
巡察使とは地方を回り、貴族がきちんと治めているかを調べる役人だ。仕事柄、その土地の貴族との癒着もある。国によっては巡察使を監視する役人すらいるそうだ。
「気候がいいから出産にもいいだろうと、臨月が近いのに半ば強引に引っ張られて来られたそうです。そしてこちらに来られてしばらくしてから出産の準備に入られました。この屋敷の隣りにある離れに滞在されていたので、そこに産婆を呼びました。それが先ほど名前が出たロマーヌです」
「一つお聞きしますが、どうしてこの町だったのか理由は分かりますか?」
「おそらくエルザス辺境伯領が隣だからでしょう。デュドネ様の妻の一人はエルザス辺境伯の姪だとか」
「その言い方をされるのであれば、ベルナール殿はエルザス辺境伯が関係していると考えられますか?」
「おそらくは。それ以降、アルマン王国との戦争が増えましたので」
俺の問いかけにベルナール殿は首を縦に振った。辺境伯がデュドネ殿を使って王妃殿下をここまで引っ張って来た可能性が高い。癒着の証拠としては、デュドネ殿は辺境伯の軍師として従軍することもあったとか。
「ジョゼフィーヌ、デュドネ殿は今回の戦争には参陣していたのか?」
「はい、お見かけしました」
「やはり本陣にいたのか?」
「はい、そうです」
クラースの一撃で散ったか。生きていてもあの中にいたのならただでは済まないだろう。自分でやったこととはいえ、関係者が二人ともいなくなったのは痛いな。生きているなら調べることもできただろうが。
とりあえずクロエ王妃が双子を出産されたのは間違いないようだ。ベルナール殿もメリザンド殿も双子の顔を見ている。生後数か月のジョゼフィーヌはその離れで乳母たちに世話をされていたので、一緒に寝かされていたそうだ。
ところが翌日の朝、部屋に入ると赤ん坊が一人いなくなっていた。慌てて離れの中を探すが見当たらなかった。赤ん坊と一緒に王妃殿下と一緒に王都から来ていた女中が一人いなくなったそうだ。
「状況を考えるとその女中が連れて逃げたとしか考えられません。王女が連れ去られたので見ていないかと聞いて回るわけにもいきません。クロエ様はしばらくの間、体調を崩されて寝込まれてしまいました」
ヴァジ男爵としては、王妃が滞在している建物に何者かが侵入して赤ん坊が離から連れ去られたという大失態を犯した。だが王妃としても出産が近い時期にここに来た自分の責任だと感じていたそうだ。
「クロエ様は王都に戻られる際、娘は一人だったことにするが、もし何か情報が入れば教えてほしいとおっしゃいました。私たちもできる範囲で探しましたが、これと言って情報が手に入らなかった次第です」
だからその娘が見つかった時のために第三王女の位置は空白にして、もう一人のレティシア王女を第四王女にした。おそらく連れ出されたのは姉の方だったのだろう。
しばらくして第四王女が生まれたと発表された。多くの者はそれを聞き、すでに第三王女は生まれてから発表の間に亡くなっていたのか、もしくは死産だったかと思ったそうだ。
実際に第二王女から双子の間は三、四年ほど空いているそうなので、間に一人いてもおかしくはない。そのような場合は順番を飛ばすこともある。
しかし双子のうち一人だけかを連れ去ったのは、二人とも連れ去るのは難しかったのか、それとも何か理由でもあったのか。だがここにいない者の頭の中を考えても仕方がない。
「いずれ辺境伯の屋敷には国の調査が入るでしょう。詳しいことが出るとすればその時になるはずです」
さて、謎が減ったようでまた増えた。王都から王妃と一緒に来ていた女中が赤ん坊を連れ去ったのが事実だとする。だがエルザス辺境伯のところにいるはずの赤ん坊がアルマン王国にいたのはどうしてだ?
「ベルナール殿、私はエルザの出自を気にしているわけではありませんし、エルザ自身も気にしていないようです。ですが王妃殿下がそれによって苦しんでいるのであれば、私としては一肌脱ぐ気はあります」
「そのエルザ殿はどのような境遇で育ったのですか?」
「孤児院育ちです。場所はバーレン辺境伯領でもほぼ一番西にあるニューメックという町です。少し西に行けばマルクブルク辺境伯領があります。そこまで行けば国境を挟んで反対側はエルザス辺境伯領です」
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「ええ、その女中に何かがあったとか」
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