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第五章:領主二年目第四部
家族のこと
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「それで、エルマーのお母様のことを聞いてきたわ。バタバタして今まで言うのを忘れてたけど」
「母のこと? 誰も知らなかったはずだが……」
俺の母の血筋を辿ってもどこにも繋がらないとエクムント殿が言っていた。それが分かったのか?
「お祖父様が昔たまたまこの大陸に来てたそうよ。その時にトラブルに巻き込まれたある貴族を助けたそうね」
「それが母の実家か」
「それがそこまで簡単な話じゃなくて、お母様は別の大陸からお祖父様が連れてきたそうよ。それでトラブル解決の謝礼の代わりに、その赤ん坊を娘として育ててほしいと渡したそうね」
「別の大陸だったのか……」
てっきり隣国あたりかと思ったら大陸が違ったとは。
「他に聞いたこととしては、魔力が人並み外れて多いのに魔法が使えなくて、それが体を蝕んでたそうよ。それでこっちに連れてきたんだって」
「そんな病気があるんだな。でもどうしてこっちだったんだ?」
「ここの盆地って魔素を吸ってるのよ、少しずつ」
ローサの話によると、この盆地は周囲から少しずつ魔力の元を吸っているそうだ。だからこの国にいると余計な魔力が体に溜まりにくいそうだ。
それなら俺たちにも影響があるのかどうかという話だが、普通の人間なら問題ないそうだ。母は魔力を消費できないのにどんどん溜め込む体質だったそうで、それでこの国に来たために普通に暮らせるようになったらしい。
「その体質というのはお祖父様でも治せなかったそうだから、手元に置いておくか、それとも妻と子供を亡くしたその貴族に託すか、どちらかってことになって、それでここに置いてきたんだって」
「そうか。母の記憶というのはほとんどないが、そんな波瀾万丈な人生を送る人とは思わなかったな」
異国にルーツがあるのは間違いないのか。
「ローサ、その話はエルマー様がどうしても知りたいと思った時に話すということでは?」
「あ、そうだっけ?」
カサンドラが困ったような顔でローサに聞いた。
なるほど、あまり聞かせないような話だったか? でもそれで母の祖国を見ようとかそういう気にはならない。父は父、母は母、俺は俺だ。
「それとこれも預かってるから」
「それは……扉?」
「これは『転移ドア』というもので、こっちから入ればもう一つの方から出られる魔道具よ」
「便利は便利だが、何に使うんだ?」
「レティシアのところに置けば移動しやすいでしょ?」
「レティシアのところって、来年できる大公領か?」
「そうよ。母親といつでも会えるのが一番でしょ?」
ディオン王は退位して、クロエ王妃とレティシアは今のエルザス辺境伯領の一番こちら寄りの小さな領地に越してくるそうだ。そこに置くと。
エルザはずっと孤児として育ったせいで親がいるという実感が少なかったが、行き来が増えれば実感も増すだろう。
「エルザが行くよりもレティシアが来る頻度の方が高くないか?」
「それはそれで賑やかでよくない? ね、エルザ?」
「賑やかというか騒々しいというか……」
エルザも微妙な顔になった。
「二組あるから、一組はバラして分析に使ってもいいわよ」
「それは助かるな。ブリギッタが喜ぶだろう」
ブリギッタは新しくできた町の方に時空間魔法を備えた倉庫を建てる毎日だ。以前は普通の倉庫を建て、それに何度も手を加えたけど、今度のは最初から内部を広くした上に中身が痛まないような仕様にするそうだ。
ダニエルとヨーゼフも水汲み場を整備したりと忙しい。カレンも運河を掘るのに出かけることもある。
「それはそうと、この扉って侵攻目的とかで使われたら危なくないか?」
ここからエルザス辺境伯領まで一五〇〇キロ……いや、もう少しあるな。それだけの距離を運べるような魔道具を設置してもいいのかどうか。一応隣国だ。陛下に相談……するのも気が引けるような案件だな。でも勝手にやってもいいのか?
「大人数は無理だから、それを使って侵入を試みても敵中で孤立するわよ」
「それならいいか」
「エルマー様、ローサはそれを預かったと言いましたが、お祖父様におねだりして貰ったものです。まさか自分の売り込みに使うとは」
「売り込む前じゃなくて売り込んだ後だからいいのよ」
「順番が問題ではありません」
「まあまあ、そんなことで揉めなくてもいいだろう」
「「⁉」」
俺が宥めようとしたら二人が飛び上がるようにこちらを見た。何かおかしなことを言ったか?
「どうした?」
「お祖父様にそっくりだったから」
「はい、『いいだろう』と『いいじゃない』の違いくらいです」
「それくらいは俺じゃなくても言うだろう……」
そんなに騒ぐような話か? 俺にとっては普通の受け答えだ。だが二人にとってはそこが大事だったらしい。
それから俺はどれだけ二人が祖父が好きか、どれだけ祖父に似た俺が好きかを蕩々と語られることになった。
俺としてはどうでもいいことでも二人には大切らしい。だが言い換えれば二人にはどうでもいいことでも俺には大切なこともあるかもしれない。
例えば俺が軍学校時代に睨みつけた給仕がいた。俺に毒を盛ったからだ。だがその給仕は貴族に命じられたからで、それから数奇な運命にもてあそばれて俺のところに来た。ヘルガのことだ。
軍学校時代、俺は同期の貴族たちに毒を盛られることがあった。その結果として具合が悪いまま屋敷に戻り、結果としてエルザの策略にはまって彼女を抱いた。
世の中、いつ何があっても驚くようなことではないのかもしれない。カサンドラとローサが俺を見て祖父を思い出すのもおかしいかもしれないが……たった一つ気になることがある。
俺はそんなに老けているのか?
「母のこと? 誰も知らなかったはずだが……」
俺の母の血筋を辿ってもどこにも繋がらないとエクムント殿が言っていた。それが分かったのか?
「お祖父様が昔たまたまこの大陸に来てたそうよ。その時にトラブルに巻き込まれたある貴族を助けたそうね」
「それが母の実家か」
「それがそこまで簡単な話じゃなくて、お母様は別の大陸からお祖父様が連れてきたそうよ。それでトラブル解決の謝礼の代わりに、その赤ん坊を娘として育ててほしいと渡したそうね」
「別の大陸だったのか……」
てっきり隣国あたりかと思ったら大陸が違ったとは。
「他に聞いたこととしては、魔力が人並み外れて多いのに魔法が使えなくて、それが体を蝕んでたそうよ。それでこっちに連れてきたんだって」
「そんな病気があるんだな。でもどうしてこっちだったんだ?」
「ここの盆地って魔素を吸ってるのよ、少しずつ」
ローサの話によると、この盆地は周囲から少しずつ魔力の元を吸っているそうだ。だからこの国にいると余計な魔力が体に溜まりにくいそうだ。
それなら俺たちにも影響があるのかどうかという話だが、普通の人間なら問題ないそうだ。母は魔力を消費できないのにどんどん溜め込む体質だったそうで、それでこの国に来たために普通に暮らせるようになったらしい。
「その体質というのはお祖父様でも治せなかったそうだから、手元に置いておくか、それとも妻と子供を亡くしたその貴族に託すか、どちらかってことになって、それでここに置いてきたんだって」
「そうか。母の記憶というのはほとんどないが、そんな波瀾万丈な人生を送る人とは思わなかったな」
異国にルーツがあるのは間違いないのか。
「ローサ、その話はエルマー様がどうしても知りたいと思った時に話すということでは?」
「あ、そうだっけ?」
カサンドラが困ったような顔でローサに聞いた。
なるほど、あまり聞かせないような話だったか? でもそれで母の祖国を見ようとかそういう気にはならない。父は父、母は母、俺は俺だ。
「それとこれも預かってるから」
「それは……扉?」
「これは『転移ドア』というもので、こっちから入ればもう一つの方から出られる魔道具よ」
「便利は便利だが、何に使うんだ?」
「レティシアのところに置けば移動しやすいでしょ?」
「レティシアのところって、来年できる大公領か?」
「そうよ。母親といつでも会えるのが一番でしょ?」
ディオン王は退位して、クロエ王妃とレティシアは今のエルザス辺境伯領の一番こちら寄りの小さな領地に越してくるそうだ。そこに置くと。
エルザはずっと孤児として育ったせいで親がいるという実感が少なかったが、行き来が増えれば実感も増すだろう。
「エルザが行くよりもレティシアが来る頻度の方が高くないか?」
「それはそれで賑やかでよくない? ね、エルザ?」
「賑やかというか騒々しいというか……」
エルザも微妙な顔になった。
「二組あるから、一組はバラして分析に使ってもいいわよ」
「それは助かるな。ブリギッタが喜ぶだろう」
ブリギッタは新しくできた町の方に時空間魔法を備えた倉庫を建てる毎日だ。以前は普通の倉庫を建て、それに何度も手を加えたけど、今度のは最初から内部を広くした上に中身が痛まないような仕様にするそうだ。
ダニエルとヨーゼフも水汲み場を整備したりと忙しい。カレンも運河を掘るのに出かけることもある。
「それはそうと、この扉って侵攻目的とかで使われたら危なくないか?」
ここからエルザス辺境伯領まで一五〇〇キロ……いや、もう少しあるな。それだけの距離を運べるような魔道具を設置してもいいのかどうか。一応隣国だ。陛下に相談……するのも気が引けるような案件だな。でも勝手にやってもいいのか?
「大人数は無理だから、それを使って侵入を試みても敵中で孤立するわよ」
「それならいいか」
「エルマー様、ローサはそれを預かったと言いましたが、お祖父様におねだりして貰ったものです。まさか自分の売り込みに使うとは」
「売り込む前じゃなくて売り込んだ後だからいいのよ」
「順番が問題ではありません」
「まあまあ、そんなことで揉めなくてもいいだろう」
「「⁉」」
俺が宥めようとしたら二人が飛び上がるようにこちらを見た。何かおかしなことを言ったか?
「どうした?」
「お祖父様にそっくりだったから」
「はい、『いいだろう』と『いいじゃない』の違いくらいです」
「それくらいは俺じゃなくても言うだろう……」
そんなに騒ぐような話か? 俺にとっては普通の受け答えだ。だが二人にとってはそこが大事だったらしい。
それから俺はどれだけ二人が祖父が好きか、どれだけ祖父に似た俺が好きかを蕩々と語られることになった。
俺としてはどうでもいいことでも二人には大切らしい。だが言い換えれば二人にはどうでもいいことでも俺には大切なこともあるかもしれない。
例えば俺が軍学校時代に睨みつけた給仕がいた。俺に毒を盛ったからだ。だがその給仕は貴族に命じられたからで、それから数奇な運命にもてあそばれて俺のところに来た。ヘルガのことだ。
軍学校時代、俺は同期の貴族たちに毒を盛られることがあった。その結果として具合が悪いまま屋敷に戻り、結果としてエルザの策略にはまって彼女を抱いた。
世の中、いつ何があっても驚くようなことではないのかもしれない。カサンドラとローサが俺を見て祖父を思い出すのもおかしいかもしれないが……たった一つ気になることがある。
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