ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

南方からの連絡

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「旦那様、このような手紙が届いております」
「これはディオン王……いや、大公からか」

 昨年末、ディオン王は退位した。そしてリシャール殿下が即位した。もちろん俺はその場にはいなかった。俺はゴール王国の貴族じゃないからだ。いずれは挨拶に行くだろうが。

「それで内容は……ああ」

 手紙にはディオン王を見送って以降のことが書かれていた。

 予定通り年末に退位し、リシャール王子が国王になった。ディオン王は退位すると、妻のクロエ王妃、娘のレティシア王女と共に旧エルザス辺境伯領に作られたコルム大公領に引っ越した。領都はゲルラン。マルクブルク辺境伯の領都エルシャースレーベンから国境を越えた先だ。この手紙はそこから大使が届けにきたものだ。

「それなら返事を持たせるか」

 近いうちにゲルランへ行くので、屋敷に転移ドアを設置していいのなら置かせてもらう。それで行き来ができるようになる。それが問題になるようなら設置は取りやめる。そのような内容の手紙をしたためて、ここまで届けてくれた使者に手渡した。

 転移ドアについては陛下にも確認を取ってある。こうこうこういう魔道具を頂いたが使ってもいいかと。それに対する返事としては、転移ドアの複製が作れたのなら王城に設置してほしい。大規模侵攻などに利用されるのでない限りは制限はしないと。

 ローサが言うところでは、大人数が一気になだれ込もうとすると転移ドアは閉じてしまう。一列で順番に通れば問題ない。だから敵国に侵攻などの用途には向かないそうだ。

「使者殿、これをコルム大公にお渡し願いたい」
「畏まりました。返事がもらえた時には一応軽く内容を聞いておくようにと聞いております」

 重要な手紙は二通送ることもある。あるいは簡単な内容をそれを運ぶ使者に伝えておくこともある。何にせよ、その手紙を紛失してしまった場合でも、最低限の情報は伝わるようにはなっている。

「こういう扉がある。これは俺も譲り受けたものだから細かなところまでは分からないが、こちらの扉から入ればもう一つのセットになっている扉から出るというものだ」
「それは転移の魔道具ですね?」
「転移ドアと呼ぶらしい」

 俺は簡単に説明した。実際魔道具職人の間ではこういう魔道具があることは知られている。ただ珍しいだけだ。

「二枚のうち一枚をここに置き、もう一枚をコルム大公の屋敷に置けば、この距離を馬車で移動しなくてもすぐに行き来ができるようになる。その許可だ」
「そのような貴重なものを設置なさるのですか?」

 使者は驚くが、これはエルザとクロエ殿のためだった。

「貴殿はクロエ殿とエルザの話は聞いているだろう。ようやく昨年親子の対面が叶ったわけだ。お互いに行き来できるようにするくらいはいいだろう」
「そうでしたね。ではさっそく帰って報告いたします」
「ああ、その帰りのことだが、ヴァジ男爵領のサン=サージュまでは俺が魔法で送っていける。数日ほどこちらでゆっくりして疲れを落としたらどうだ?」
「……お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「ああ。俺がそうできることは大公もご存じだ。後になって貴殿をどうして送らなかったと言われそうだからな」

 さすがに馬にずっと乗ってきたわけだから疲れもあるだろう。疲れを取ってから戻って貰えばいい。

 それから三日して大使をサン=サージュまで送ることになった。

「ここは……たしかにヴァジ男爵領のサン=サージュですね。昨年通った記憶があります」
「それでは俺はこれで戻る。大公によろしく伝えてほしい」
「はい。間違いなく」

 俺は使者と別れるとそのまま指輪の力でドラゴネットへと戻った。


◆ ◆ ◆



 あのまま俺も一緒にゲルランに行くのも一つの手ではあるが、そうすると二日ほどかかってしまうことになるから、そこまではしなくてもいいだろうと思った。まあ両国を行き来するのも危険ではなくなったので、時間はかかるが以前に比べれば安心して移動できる。

 戦争がなくなれば国内の治安を安定させるのが国王の務めだ。カミル陛下はこれまでゴール王国との戦争のために用意していた兵士たちを盗賊や魔物の退治にために使うようになった。国は戦争のために糧食の備蓄をしていたが、今後はそれを巡回する兵士に回すことができる。備蓄を巡回兵に持たせると備蓄が減ると思うだろうが、そこはうちの領地の麦がある。国のためにうちの領地が麦を供出することになっている。

 他の領地からはこれまで通りの金額で買い取り、うちは無償で提供する。それではうちがただ損をするだけではないかと思われそうだが、そうでなくても十分な量が販売されている。それに国から譲ってほしいと言われたと知って、農民たちもさらに張り切って働いている。麦以外を作ってほしいところだがな。

 麦以外となるとライスがあるが、あれはもっと南部で作るものだ。アルマン王国ではあまり作られていない。ある程度温暖な気候が必要で、さらに麦と違って水が大量に必要だそうだ。うちは水は十分にあるがそこまで暖かくはない。暑い時期は短いな。

 おっと、転移ドアを置く話だった。

 カミル陛下はナターリエの父ではあるが、娘と生き別れになったわけではないので、申し訳ないがディオン殿とクロエ殿を優先させてもらう。問題はレティシアが飛んでくることだろうが、それはしばらく我慢してくれとエルザには言ってある。心底困った顔をしていたが。
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