ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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最終章

港の整備(一)

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 ハイデがあった場所からジョゼスシュタットの東まで運河用のトンネルを掘ることが決まった。俺はトンネルそのものには関わらないが、内部の照明だけ取り付けを頼まれた。

「それは光栄なことです。ぜひお願いします」
「そう言ってくれると思った」

 俺は魔道具職人ギルドのダニエルに照明の魔道具を量産することを頼んだ。これまでとはトンネルの長さが違う。おそらく一桁は多くなるだろう。話を聞く限りではかなり幅を広くするらしく、それなら照明の数もそれだけ増やすことになりそうだ。

「私も何かする」

 マリーナは妊娠と出産が終わり、以前は寝るのが一番の楽しみだったはずだが、あれからは体を動かすことに目覚めたようだ。わりと昼間は起きていることが多い。

「マリーナはダニエルたちに協力してくれ。今回は数が多すぎて大変だろう」
「できなくはないでしょうが、時間を考えると助かります」

 これまでの二本のトンネルはうちの所有物ということになるので様々な面で配慮している。内部でも遠くまで見えるように一定間隔ごとに照明を取り付けている。

 馬車が通るトンネルは、空気が悪くならないように常に空気を外から送り込み、さらに馬糞が溜まらないように一定間隔で水で洗い流して浄化する魔道具も設置されている。

 二本目の船を使う方のトンネルは、水の高さを調節するために巨大な閘門こうもんを使っている。当たり前だがうちの領地は盆地の中にある。トンネルは山に掘ったが、それでもエクセン側の出口と同じ高さにするために相当な高さまで船を持ち上げなければならない。その機構のための魔力も伝達路から受け取っている。

 今回建設する三本目のトンネルは、さすがに竜の鱗で作った伝達路を通すには長すぎる。それに途中は山を突き抜ける場所もあるらしく、それなら照明の魔道具だけ取り付けようという話になった。

 トンネル本体とハイデ側の閘門は国が担当する。盆地側の閘門と、そこから湾までの運河が俺の責任だ。

「分不相応な質問かもしれませんが、それで代金はどのようにして受け取るのですか?」
「向こう一〇〇年間の租税免除だ」
「それは……太っ腹なのかそうでもないのか」
「そこは俺も悩む。金額にすれば大したものだが、そもそもまだ一度も払っていないからな」

 一〇〇年間の租税の免除。思わず笑いそうになる。形としては区切られているように思えるが、法的には無期限と解釈される。つまりこの盆地の中にいる限り税を納める必要はない。

 最初に領地を与えられた時、翌年から三年間は税の免除と言われていた。もちろん四年目からは払うつもりだったが、結局あれから一度も払っていない。いろいろなことで相殺されているからだ。

 うちは麦がよくできるどころではなくできるので、一部の貴族と契約して、不作の場合などはうちが一定価格で販売するということになっていた。最初の相手はマーロー男爵やヴァイスドルフ男爵など、俺が親しくしている貴族が多かった。後日になって国とも契約し、国が必要とした場合にはその量を用意するということになった。

 それからしばらくして運搬にペガサス便を使うことになり、これで道が悪くても山があっても運ぶことができるようになった。大規模な災害などがあればうちから麦を始めとした食料を指定の場所に運ぶという契約を国と結び、それで税が軽減されることになった。

 ついでにビアンカ殿下の結婚の直前だが、転移ドアの複製が完成した。あれはブリギッタの力作だが、あれを献上し、その代わりとしてさらに三年の税の免除が追加されることになった。

 そして今回の港の整備でさらに物流が向上することが予想される。船が動くということは本来なら通行税が必要になる。船一隻あたりいくらという計算だ。うちとマーロー男爵領の間だけなら大した金額ではないので、お互いに通行税は不要ということにしている。今回この通行税をどうするかを国と話し合った。その結果、うちが運河の通行税を取らないという条件で税が免除されることになった。

 通行税を取らなければどうなるか。大陸外の国と交易をしたい貴族は運河を通行する川船を増やし、湾には外洋船を停泊させるはず。通行税の代わりにそこで稼ぐ。トンネルと港の間にいくつか町を作り、そこでしか販売されない特産品を用意する。通行税を取らない代わりに積極的に金を落としてもらおうと、うちの財政担当者は頑張っているところだ。



◆ ◆ ◆



「この湾は久しぶりだな」

 俺はカレンに乗せてもらって盆地からさらに北東にある湾に来ている。ここで暮らす者たちは名前を付けていないので、俺も単に湾と呼んでいる。

「私は子供の顔見せに先日戻りましたので」
「私もそうです」

 あれから二人は妊娠してドラゴネットで暮らしていた。水棲種族が地上でずっと暮らすのはなかなか骨の折れることらしいが、妊娠するとその大変さは少し和らぐらしい。腹の中にいる赤ん坊のために、体が地上での生活に慣れるのだとか。

 アレタもマレンも以前はずっと外にいると体が乾くと言っていたが、最近ではそう言うことが減った。だが他の妻たちに比べると水を口にすることが多く、やはり人の姿をしていても水棲種族だと感じることがある。

 俺たちが歩いていると、川人魚族の長のカシルダが気づいてやって来た。湾の周辺を整備したいと伝えると、水棲種族側でも窓口は一つにしたほうがいいということで、彼女が代表として俺とやり取りをするということになっている。

「エルマー様、ご無沙汰しております。このたびはこちらに立派な港を用意して人を呼んでいただけるとか」
「そういうことを国から頼まれた。それで先日アレタとマレンに確認に来てもらったのだが」
「はい。私たちとしてましては大賛成でございます。アレタとマレンの二人がエルマー様にもらわれて以降、恐ろしい魔物が襲ってくることがパタッとなくなりました」

 俺はあれは竜の鱗のおかげだと思っている。だから別のものを試すことにした。

「おそらく竜の鱗のせいだろう。それでこれを試してもらいたい」
「それは……袋ですか?」
「そうだ。中身は竜の鱗を粉末にしたもの。麦を育てる畑で使われているものと同じだ。これに重しを付けて湾の外側に沈めてもらいたい」

 鱗の粉末に触れた水には魔物が嫌がる成分でも含まれるのではないかと考えている。それなら鱗そのものならもっと効果があるのではないかと思ったが、そういうわけでもないらしい。カサンドラは表面積が多いほうが効き目があるのではないかと言っていた。細かくすればするほど効き目が上がると。木を丸ごと燃やすのと削ってから燃やすのとでは煙の出方が違うように、普通の魔物避けでも同じように造られているそうだ。だから鱗同士をこすり合わせて粉末にし、それを目の詰まった袋に詰めた。

 ここに建設する港はこのアルマン王国で唯一の外港だ。国だけではなく多くの貴族が使いたがるはず。だからこそ最初に大きくしておく必要がある。そのためにはこのあたりで暮らす水棲種族の協力が欠かせない。彼らは人が来ることを拒んでいるわけではなくこの場を離れたくなかっただけだった。

 それに伴って外洋船を建造するための船渠せんきょも建てなければならない。何十隻もの大型船が並ぶのはさぞ見ものだろうが、それには責任もある。一〇〇年の租税免除とどちらがいいか、考えものだ。

「湾の外側に関しましては、我々はほとんど使っておりませんでしたのでご自由にお使いください。ですが川のほうは生活に使いますので、ある程度配慮していただければ」
「もちろん生活に支障が出ないようにするのが前提だ。それで実際にどこをどう使えばいいか、その確認だ」
「ではご案内いたします」
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