ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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最終章

三本目のトンネル

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「問題ありやせん」
「使ってもらうのが本望ってやつでさあ」
「俺たちも参加してもいいですか?」

 案の定、旧エクディン準男爵領の住民たちには反対はなかった。むしろ自分たちも参加したいと言い始めた。彼らは今でこそ少数派だが、この領地の一番最初の住民だ。人数は三三四。それで全員だった。そこから増えに増え、今では五万を超えるようになった。大領地だな。

 元々一〇〇〇人少々で落ち着いていたところにゴール王国からの移民が六〇〇〇人以上いきなりやって来た。そこで町を増やして対処し、人が増えれば町を増やすという方向性に決まった。

 それから一番大きかったのは、ビアンカ殿下の輿入れのころ、カレンがナターリエに頼んで先王陛下へ嘆願書を送ったことだ。人が欲しいと。そのあたりから人の流れが変わった。ゴール王国からアルマン王国へ、シエスカ王国からアルマン王国へ、人が流れてくるようになった。商人、冒険者、移住を希望する者。これも平和によってもたらされたものだ。

 領地の玄関が領都というのは珍しいだろうが、これは最初にドラゴネットを作ったのがこの場所だったので仕方がない。いくら俺でも魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする森の中で寝泊まりしたくはない。できる限り盆地の入り口に近く、魔物が侵入しにくい川の中州のようば場所を選んだ。それがドラゴネットだ。そこに元領民たちを呼んだ。

 彼らは今では新しくやって来た者たちにこの領地での麦の栽培を指導する立場になっている。本人たちは「俺たちは単なる農夫ですから」などと言っているが、おそらく並みの兵士よりも屈強だろう。

 広大な農地で育てられる麦は一〇日で育つ。刈り終わった畑の土を二日の間に起こして、二日使って蒔く。また一〇日で麦が育つ。さすがに新年前後だけは休んでいるが、それですらなくてもいいと考えているふしがある。それで体が鍛えられないわけがない。

 それに寒いことは寒いが雪があまり積もらない地域だ。だから冬場は外よりも水の中のほうが寒くないということで、冬でも遊泳場で泳いでいるやつらがいる。俺は遠慮したいが。

「今回は土魔法を使う魔術師が多く動員されるはずだ。だがこちら側には閘門を作らなければならないし、そのためにそれなりの規模の町を作る。まずはその建設に関わってくれ。しばらくしたら計画を伝える」
「うっし。ここしばらく町の建設がなくて暇をしてたんでさあ」
「頑張りすぎて腰を痛めるなよ」
「そんなヤワな体はしてませんって」



◆ ◆ ◆



「湾の方は大丈夫だな?」
「はい、むしろ人が来ることでさらに安全になると喜ばれました」
「最近は魔物も減ったようで、子供も増えていました」

 川人魚族のアレタと海人魚族のマレンにマリーナと一緒に故郷へ戻ってもらい、アルマン王国が湾を整備して港を作り、大陸外と交易に使いたいという話を伝えてもらった。

 アレタたち水棲種族は故郷が嫌になって出てきたわけではない。水質に変化があってそれを調べにやって来ると、ここに俺たちが町を作っていた。故郷に帰ってそのことを話し、こちらで暮らしたいと思った者だけがやって来た。

 向こうに残った者たちは新しい環境へ引っ越すことが不安だっただけで、自分たちが移動するのではなく人が来るだけなら何も問題がないということだった。

 ここ数年で盆地の多くの場所が調査された。まだ手付かずなのは、盆地の東の山裾から水棲種族たちの暮らす湾に繋がる北東部、そしてカレンたちが暮らしていた北の山からそのまま西部にかけて。要するに盆地の東側から北側を通って西側のふちの部分だ。南側はすでに調査し尽くしている。

 俺はカレンに頼んでアレタたちの故郷に連れていってもらったことがある。そこで湾の周辺から危険な魔物が減ったという話を聞いた。竜の鱗のせいかもしれないと、そこで暮らす者たちは考えているようだ。水竜様のおかげだと。カレンも属性は水なので、神のごとく敬われて困っていた。アレタがパウラに初めて会った時と同じような反応だったな。

 そもそもアレタたちと縁ができたのは、ドラゴネットの畑にパウラの鱗を粉末にしたものを混ぜ込んだからだ。そこに水を撒くと、土に染み込んだ水は鱗の粉末に触れてその成分を吸収し、それから運河に流れ込む。運河は川へ繋がっていて、その流れは下流の湾のほうに向かっている。

 アレタたちは鱗の艶が良くなったことで水質が変わったと気づいた。だが効果がそれだけだったのか。さらにその先、湾の外側に流れ込んだ水の影響で、魔物が近付かなくなった可能性が高い。知能の高い魔物ほど危険を察知して逃げるからだ。

「それなら陛下にお伝えして、領地内の川の整備をするか」

 俺が初めてこの盆地に来た時にも思ったが、人の手が入っていなかったので川が氾濫しやすかった。だからドラゴネットの周辺は浚渫しゅんせつし、岸を固めている。

 町が増えるたびに工事を行なっていたが、今度は領地の東の端近くを南から北に通すことになる。そうなると湾と閘門閘門の間には船を休ませる場所があってもいいだろう。だが魔獣がどうなるか。

「この際、東側からごっそりと排除したら?」
「ごっそり? どうやってだ?」

 たまにカレンは意味の通じない言い方をする。

「私とマリーナとマルリースが追い立てて、お父さんとお母さんとマリエッテで叩き潰したらいいんじゃないってこと」

 カレンが言ったのは、湾に近い方からカレンたち三人が地面すれすれを飛んで地上にいる魔物や魔獣を南に追いやり、クラースたち三人が南側で待ち伏せして駆除すればいいと。

「一〇〇キロも二〇〇キロも魔物を追い立てるのは難しいだろう。それに西側へ大量に逃げ出したら町が危ない」
「そっか……」

 追い立てられた魔物が素直に南に進むとは思えない。だが一網打尽にするというのは考え方としては悪くない。要はどのように退治するか。

「片っ端から木を引っこ抜いて、見通しをよくしたら大丈夫?」
「そうだな。焼き払うと根っ子が残って面倒だから、抜いたほうが助かるのは間違いない。建築資材としても使えるからな」
「それならその線で考えるわ」

 カレンは人の姿のままでも、地面から生えている木を掴んで引っこ抜くくらいの力がある。だが体格の問題もあって、巨木の場合はうまく抜けない。そのような場合は竜の姿に戻り、それこそ人間が庭の草でも抜くかのように木を抜いては放り投げ抜いては放り投げ、そうやって薮を更地にしてくれた。そうしてできたのがドラゴネットだ。懐かしいな。

「あ、そうそう。ローサはまた双子みたいね。来月くらいだっけ?」
「また賑やかになるな」
「いくら増えても困らないでしょ?」
「それはそうだ。みんなのおかげで町も増えたからな」

 アルマン王国の中で一番成長しているのがうちだろう。だが他の貴族の領地からただ人が流れてくるだけではない。戦争がなくなり、明らかに子供が増えているからだ。

 戦争に駆り出されるのは男だ。そしてもし戦争で大負けでもして村の若い男が全員命を落としたとすれば、近い将来その村はなくなる可能性が高い。戦争なんて百害あって一利なしだ。そうならないように陛下にはしっかりと隣国と仲良くしてもらわないとな。
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