ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥

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第六章:領主三年目、さらに遠くへ

ローターヴァルトとブラーノにて

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 これはビアンカ殿下がシエスカ王国に向かう前の話だ。



◆ ◆ ◆



「[転移]と[移動]が便利すぎていかんな」

 ビアンカ殿下の結婚式の下準備をするためにシエスカ王国に向かっている。その途中で我が国で一番シエスカ王国に近いバーレン辺境伯領に来ている。ここは領都ローターヴァルト。大貴族の領地の領都らしく、堂々とした風情がある。

 俺としてはあまり縁がなかった地方だ。エクディン準男爵領は北東部、ノルト辺境伯領は一番北。南部は戦争で出かけたマルクブルク辺境伯領くらいのものだ。あれは南西になるが。ここはその東隣ではあるが、領地が広いから近いとは言えない。だが転移を使ってあっという間に到着してしまった。当初はずっとロンブスに乗って移動するつもりだったが。

 俺には[転移]と[移動]が使える。この[転移]には二種類あって、一つは普通の魔法、もう一つは竜の持つ力だ。俺が使えるのは竜の力の方だ。

 俺は初めて聞いたんだが、同じ名前の魔法でも違う効果があったり、違う名前の魔法でも実質的には同じだったり、魔法にはそういうややこしいところがあるらしい。

 竜の[転移]を使ってどのあたりに行きたいかを考えると、頭の中に行ける場所が見える。まるで商店に並んでいる商品のように。その中から選んで移動するわけだ。普通の転移は頭に情景を思い浮かべることで跳べるらしい。視界に入った場所に移動するのが[移動]だ。

 俺が初めて[転移]を使った時はカレンのすぐ後ろに移動したが、あれは[移動]という魔法だったようだ。[跳躍]と呼ばれることもあるらしい。頭の中に移動できる場所があったから[転移]だと思ったが、[転移]を思い浮かべながら[移動]を使ったらしい。ドラゴネットと王都を移動するのに使っていたのは竜の力としての[転移]らしい。俺には境目が分からないので同じだと思っていた。

 そしてこの[移動]だが、魔力が続く限り遠くまで移動できるので、目に入る一番遠くまで移動を繰り返した。そうするとマルクブルク辺境伯領の領都エルシャースレーベンからこのローターヴァルトまで、移動の回数は多かったものの二日で着いた。転移の指輪のおかげだ。ここに蓄えられた魔力がなければさすがに無理だ。

「あなたは……ノルト男爵閣下ですか?」
「そうだ。今では陛下より辺境伯の爵位を頂いている。領主殿のご都合がよければご挨拶でもと思ったのだが」
「すぐにお屋敷に確認を取ります。しばらくお待ちください」

 そう言うと兵士は何か魔道具を操作した。ひょっとしたら連絡のための魔道具なのか?

「ブルクハルト様はご在宅だそうです。今から訪問してよいとの返事が届きました」
「そうか。それでは今から伺わせていただく。もし連絡をするならそう伝えてほしい」
「はっ」

 俺は屋敷の場所を聞くとそちらに真っ直ぐ向かうことにした。



◆ ◆ ◆



「貴殿の噂は聞いておる。まさか男爵から辺境伯になっていたとは」
「私としてはあれから何もしていないのですが」

 実際に何もしていない。領地の探索を行っていただけで、戦争で功績を立てたわけではない。転移ドアを献上したが、あれはブリギッタの功績で、俺は必要な素材を渡しただけだ。

「それで今回の訪問の目的は?」
「私はこれからシエスカ王国に向かいます。ビアンカ殿下の結婚の諸々で」
「こちらの方もそれで最近は大忙しだ」
「何か起きているのですか?」
「盗賊どもが騒ぎ始めた」
「ああ……」

 結婚式があるとなるとアルマン王国とシエスカ王国の間で人通りが増える。人通りが増えれば盗賊が増える。場合によっては殿下を攫うことも考えているかもしれない。

「儂としてはこれを機会に一掃できればいいと考えておるが、殿下に何かあっては大変なことになるのでな」
「なるほど。それでは殿下がここを通らないというのはいかがですか?」
「通らない?」
「はい」

 俺は転移ドアについての説明をした。これは陛下が仰ったことで、必要に応じて話してもいいと言われている。

「そのような魔道具がな。たしかにそれがあれば殿下を危険な目に遭わさずに済む。だが途中の貴族たちがどう思うかだな」
「それこそ転移ドアの出番でしょう。町に入る前に馬車に移動していただき、そして町を出ればまた王城に戻っていただきます」
「なるほど。馬車に乗せることができるのか。それなら問題ないな。それなら儂としては街道の掃除をしつつ気楽に待たせてもらおう」

 ビアンカ殿下は多少忙しくなるが、それでも一か月も二か月もの間、朝から夜まで馬車に乗って移動することを考えれば随分とマシなはずだ。しかも危険がない。

 俺はブルクハルト殿の屋敷で一泊させてもらうと、翌日はシエスカ王国に向けて馬を進めた。



◆ ◆ ◆



「ようやくか、と言うほどには時間がかからなかったな」

 視線の先には王都ブラーノが見える。ここまでに入った町もそうだったが、アルマン王国とは雰囲気がかなり違う。植物が多いと言えばいいのか。のんびり観光するほどの時間はないが、どうせ来たなら見ていこうというくらいだ。

 転移が使える今となっては、魔力さえあればどこまででも移動できる。ただ無理はしないようにした。視界の中で一番遠いところまで移動するというのを繰り返して、魔力が減ったと思ったら指輪の力を借りた。ただ二つの指輪のうちの一つは使わないようにしていた。いざという時に魔力切れでは困るからだ。

「止まれ」

 ブラーノの城門で止められた。こちらの門は貴族用のはずだが、さすがにこの国の者とは服装が違うからか。

「異国人のようだが、身分を証明できる物は?」
「これがある」

 俺は大使として用意される金でできた身分証と書類を見せた。

「し、失礼いたしました。すぐに王城に使いを出します。いつ王城に向かわれますか?」
「さすがに今到着してその足でというのは失礼だろう。明日の午後の早めに向かうと、しかるべき場所に伝えてもらいたい」
「承知いたしました」

 俺は宿屋の場所を聞くと、とりあえずそこに行くことにした。腹が減っては戦はできない。こんなところで戦うつもりは全くないが。



◆ ◆ ◆



 貴族や裕福な商人の御用達という宿らしく、店の者の言葉遣いも丁寧で、逆に言えば少々堅苦しい。だが仕事で来ているわけで、あまり変なところに泊まることもできない。

「ふう」

 部屋に入って上着を脱ぐ。アルマン王国よりも南にあるのですでに春の陽気を感じる。少し体を休めたら昼食に行くか。
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