342 / 345
最終章
港の完成と人を使うことの意味
しおりを挟む
俺はクラースと一緒にラドミラスハーフェンにやって来ている。ようやく港のある町の名前が決まった。この領地の一番北、今後は大陸外との窓口になる町だ。最初はリサ殿の名前を考えたが、そうすると俺との関係を疑われることもあり得るということで、ラドミラの名前を冠することになった。
「なかなか他では見ない光景だな」
「これは他国でも見たことがないな」
俺たちはリサ殿がクレーンと呼ぶ装置と呼べばいいのか建物と呼べばいいのか、それがいくつもある光景を眺めていた。
「クラースでもそうなのか?」
「うむ。人を使うのが領主の務めというのが根本にある。人というのは仕事があって食事ができ、適度な娯楽があれば余計なことは考えない」
「反乱や暴動だな?」
「そうだ」
仕事がないというのはそういうことを引き起こす可能性がある。だから領主は領民に仕事を与えなければならない。
「この国はあまり傭兵は使わないようだが、それでも多少はいるだろう」
「下級兵士は傭兵みたいなものだな」
以前はゴール王国との間で頻繁に戦争があった。そのために兵士の募集が常に行われていた。兵士は傭兵とは違うはずだが、この国では実際にはあまり違いはない。
平和になると兵士が余る。仕事を失った兵士たちが別の仕事に就いてくれればいいが、場合によっては盗賊になって村を襲う。それを防ぐためには別の仕事をあてがう必要がある。
「だが、常に忙しくさせておくのも難しいぞ」
「もちろんそうだ。忙しすぎても不満が溜まるので都合が悪い。適度に息が抜け、そこに金をかけずに楽しめる娯楽があればさらに文句は減る。領地が広がってきた今こそ、娯楽を考えてはどうだ?」
「娯楽か……」
仕事で金を得て、その金で食料品などの必需品を買い、余った分を娯楽に回す。それが続けば民は大人しくなる。仕事ばかりでは不満が出るだろう。しかしな……この領地に限れば、領民たち、特に麦畑に関わっている者たちは忙しければ忙しいほど喜ぶ。あいつらはおかしい。それでも仕方がない部分はある。旧エクディン準男爵領ではギリギリ食べていけるかどうかだったからだ。
この盆地に来てからはいくらでも作物ができる。麦が二週間ごとに収穫できる。種を蒔いて収穫することが喜びになっているので、あれはあいつらの娯楽と呼べるかもしれない。それでも領主としてはたまには休めと言いたい。
「娯楽といえば、うちにあるのは遊泳場くらいか。新しくやって来た者たちは、前からいる者たちが冬でも水の中で泳いでいるのを見て驚いているな。女性向けには温水の遊泳場もあるが」
「普通の人間は雪が降る真冬に泳ぐことはない。まあ水のほうが外の空気よりも温かいかもしれないが。それは別として、娯楽は考えておいたほうがいいぞ。身を持ち崩さない範囲なら賭博場でもいいだろう。男は娼館があるが、女性向けはないだろう」
「男娼はいないな」
ドラゴネットを始め、すべての町には娼館がある。男女比を考えると、男のほうが多いからだ。アデリナが連れてきた娼婦たちは、一部は身請けされて領民の妻となっているが、そのまま娼婦を続けている者もいる。新しく娼婦になる者もいる。
そういえば、クリスタはドラゴネットの娼館で人気が急上昇中らしい。サキュバスだからな。
「男娼も考えておくか。それ以外に男女に関係なく娯楽を増やすと」
「うむ。言い方は悪いが、与えすぎず奪いすぎず、その上で暮らしやすい町を作るということだ。この領地は不思議とそれが成り立っている」
クラースはそう言ってくれるが、実際はどうだ? 仕事は選り好みしなければいくらでもある。
まずは麦を始めとした作物だ。もはやこの国を支えていると言っても過言ではないほどの麦や野菜が作られている。内部が拡張された倉庫が次々と増えているが、それですら溢れかけている。ブリギッタと弟子たちが町から町へと移動しながら倉庫を増やしている。
次は木材だろうか。これも開拓でいくらでも出る。カレンたちが地面から引っこ抜いて水分を抜き、枝を払って運ばれる。領内でも家を建てるのに使われるが、丈夫で建材に向いているということで、領外に向けて販売される。
盆地の東の山では琥珀、そして北西の山では岩塩が採れる。山裾に村があり、そこを拠点にして採掘が行われている。品質が高いと人気の商品だ。
そして忘れてはいけないのが魔道具。ダニエルやブリギッタたちが作っている魔道具は、値段的には他よりも高いが壊れにくいと人気だ。マリーナが監修として参加しているので間違いないだろう。魔道具職人ギルドには魔道具職人になりたいと門を叩く者が絶えないらしい。
「武器を手にするか、それとも鋤や鍬を手にするか。何を持つかに違いはあるが、生活に満足していれば領民は領主に対して不満は持たない。とにかく仕事を減らしてはならない。あれは港で働く労働者を減らす可能性があると思ったので忠告したまでだ」
「俺も最初はそう思った。だが、意外に揺れるからな。押さえるのに人が必要だ」
「そのようだな」
重い荷物を人力ではなくロープで釣り上げて運ぶことができるというのは一見すると楽そうだ。それでも置き場所を定める係が必要になる。結局は仕事内容が変わっただけで、人はそれほど減っていない。それでも重労働が減ることになるので、その影響は大きいだろう。
「真面目にやるとすれば、領地一つを治めることすら大変な仕事だろう」
「そうだな。先が見えないというのは大変だな」
「そうだ。先が見えないからこそ真面目に取り組まなければならない。ましてや治めるのが一つの領地でなく国全体であれば、その苦労は数倍で済むような程度ではないということだ」
国王は自分で細かな指示ができない。その土地を治める貴族に対して命令する。貴族のまとめ役が国王になる。その苦労は並大抵のものではないだろう。それはそうだが……。
「クラース、ひょっとして、陛下から何か言われたのか?」
「国王からではなく、先王からだ。息子が大変そうなので、誰かに話し相手でもさせてくれと。それとなくしかるべき人物の耳に入るようにしてほしいと」
それでか。どうして領地の話から国の話へと急に変えたのかと思った。少し無理やり感があったからな。
「明日にでも王城へ行く。それと、今度先王陛下にお会いしたら、こんな時だけ遠回しに伝えるのはやめろと言ってくれ」
「そうしよう。それにしても人というのは大変だな」
「竜には竜で大変なこともあるだろう」
「うむ。それもそうか」
クラースとパウラには悩みは少ないようだが、この大陸以外で暮らしていた竜たちにはそれぞれに大変な思いをしていたと聞いている。崇められたり恐れられたり。
領地を取り上げられた時には理不尽な権力に怒りを感じた。その時のことを思い出してみると、大公派は俺のことをかなり危険視していたのだろう。だから力を削ぎたかった。それは分かるが納得はできないな。
俺としては……できる限り真っ当な領主としてこの土地を治めながら陛下の役に立つ、というのが貴族としてあるべき姿だろう。俺にそうさせてほしいものだ。
「なかなか他では見ない光景だな」
「これは他国でも見たことがないな」
俺たちはリサ殿がクレーンと呼ぶ装置と呼べばいいのか建物と呼べばいいのか、それがいくつもある光景を眺めていた。
「クラースでもそうなのか?」
「うむ。人を使うのが領主の務めというのが根本にある。人というのは仕事があって食事ができ、適度な娯楽があれば余計なことは考えない」
「反乱や暴動だな?」
「そうだ」
仕事がないというのはそういうことを引き起こす可能性がある。だから領主は領民に仕事を与えなければならない。
「この国はあまり傭兵は使わないようだが、それでも多少はいるだろう」
「下級兵士は傭兵みたいなものだな」
以前はゴール王国との間で頻繁に戦争があった。そのために兵士の募集が常に行われていた。兵士は傭兵とは違うはずだが、この国では実際にはあまり違いはない。
平和になると兵士が余る。仕事を失った兵士たちが別の仕事に就いてくれればいいが、場合によっては盗賊になって村を襲う。それを防ぐためには別の仕事をあてがう必要がある。
「だが、常に忙しくさせておくのも難しいぞ」
「もちろんそうだ。忙しすぎても不満が溜まるので都合が悪い。適度に息が抜け、そこに金をかけずに楽しめる娯楽があればさらに文句は減る。領地が広がってきた今こそ、娯楽を考えてはどうだ?」
「娯楽か……」
仕事で金を得て、その金で食料品などの必需品を買い、余った分を娯楽に回す。それが続けば民は大人しくなる。仕事ばかりでは不満が出るだろう。しかしな……この領地に限れば、領民たち、特に麦畑に関わっている者たちは忙しければ忙しいほど喜ぶ。あいつらはおかしい。それでも仕方がない部分はある。旧エクディン準男爵領ではギリギリ食べていけるかどうかだったからだ。
この盆地に来てからはいくらでも作物ができる。麦が二週間ごとに収穫できる。種を蒔いて収穫することが喜びになっているので、あれはあいつらの娯楽と呼べるかもしれない。それでも領主としてはたまには休めと言いたい。
「娯楽といえば、うちにあるのは遊泳場くらいか。新しくやって来た者たちは、前からいる者たちが冬でも水の中で泳いでいるのを見て驚いているな。女性向けには温水の遊泳場もあるが」
「普通の人間は雪が降る真冬に泳ぐことはない。まあ水のほうが外の空気よりも温かいかもしれないが。それは別として、娯楽は考えておいたほうがいいぞ。身を持ち崩さない範囲なら賭博場でもいいだろう。男は娼館があるが、女性向けはないだろう」
「男娼はいないな」
ドラゴネットを始め、すべての町には娼館がある。男女比を考えると、男のほうが多いからだ。アデリナが連れてきた娼婦たちは、一部は身請けされて領民の妻となっているが、そのまま娼婦を続けている者もいる。新しく娼婦になる者もいる。
そういえば、クリスタはドラゴネットの娼館で人気が急上昇中らしい。サキュバスだからな。
「男娼も考えておくか。それ以外に男女に関係なく娯楽を増やすと」
「うむ。言い方は悪いが、与えすぎず奪いすぎず、その上で暮らしやすい町を作るということだ。この領地は不思議とそれが成り立っている」
クラースはそう言ってくれるが、実際はどうだ? 仕事は選り好みしなければいくらでもある。
まずは麦を始めとした作物だ。もはやこの国を支えていると言っても過言ではないほどの麦や野菜が作られている。内部が拡張された倉庫が次々と増えているが、それですら溢れかけている。ブリギッタと弟子たちが町から町へと移動しながら倉庫を増やしている。
次は木材だろうか。これも開拓でいくらでも出る。カレンたちが地面から引っこ抜いて水分を抜き、枝を払って運ばれる。領内でも家を建てるのに使われるが、丈夫で建材に向いているということで、領外に向けて販売される。
盆地の東の山では琥珀、そして北西の山では岩塩が採れる。山裾に村があり、そこを拠点にして採掘が行われている。品質が高いと人気の商品だ。
そして忘れてはいけないのが魔道具。ダニエルやブリギッタたちが作っている魔道具は、値段的には他よりも高いが壊れにくいと人気だ。マリーナが監修として参加しているので間違いないだろう。魔道具職人ギルドには魔道具職人になりたいと門を叩く者が絶えないらしい。
「武器を手にするか、それとも鋤や鍬を手にするか。何を持つかに違いはあるが、生活に満足していれば領民は領主に対して不満は持たない。とにかく仕事を減らしてはならない。あれは港で働く労働者を減らす可能性があると思ったので忠告したまでだ」
「俺も最初はそう思った。だが、意外に揺れるからな。押さえるのに人が必要だ」
「そのようだな」
重い荷物を人力ではなくロープで釣り上げて運ぶことができるというのは一見すると楽そうだ。それでも置き場所を定める係が必要になる。結局は仕事内容が変わっただけで、人はそれほど減っていない。それでも重労働が減ることになるので、その影響は大きいだろう。
「真面目にやるとすれば、領地一つを治めることすら大変な仕事だろう」
「そうだな。先が見えないというのは大変だな」
「そうだ。先が見えないからこそ真面目に取り組まなければならない。ましてや治めるのが一つの領地でなく国全体であれば、その苦労は数倍で済むような程度ではないということだ」
国王は自分で細かな指示ができない。その土地を治める貴族に対して命令する。貴族のまとめ役が国王になる。その苦労は並大抵のものではないだろう。それはそうだが……。
「クラース、ひょっとして、陛下から何か言われたのか?」
「国王からではなく、先王からだ。息子が大変そうなので、誰かに話し相手でもさせてくれと。それとなくしかるべき人物の耳に入るようにしてほしいと」
それでか。どうして領地の話から国の話へと急に変えたのかと思った。少し無理やり感があったからな。
「明日にでも王城へ行く。それと、今度先王陛下にお会いしたら、こんな時だけ遠回しに伝えるのはやめろと言ってくれ」
「そうしよう。それにしても人というのは大変だな」
「竜には竜で大変なこともあるだろう」
「うむ。それもそうか」
クラースとパウラには悩みは少ないようだが、この大陸以外で暮らしていた竜たちにはそれぞれに大変な思いをしていたと聞いている。崇められたり恐れられたり。
領地を取り上げられた時には理不尽な権力に怒りを感じた。その時のことを思い出してみると、大公派は俺のことをかなり危険視していたのだろう。だから力を削ぎたかった。それは分かるが納得はできないな。
俺としては……できる限り真っ当な領主としてこの土地を治めながら陛下の役に立つ、というのが貴族としてあるべき姿だろう。俺にそうさせてほしいものだ。
10
あなたにおすすめの小説
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる