元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第二部:勇者と呼ばれて

聖女からの説明

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「これは広いなあ」
 俺は感心しながら建物の中を眺める。複数の部屋が繋がっているスイートのような構造だった。
「勇者様にご滞在いただくには狭いかもしれませんが、一通りの魔道具も設置されていますので、居心地はここが一番だということです」
 魔道具か。言われてみれば外とは温度が違う。外は暑くも寒くもなく、部屋の中はほんわかと温かい。
「今後の予定などはあるのか?」
 召喚されたとなれば、国王に謁見とか、そんなイベントがあるはずだ。
「はい。本日は暗くなりましたら夕食をご用意いたしますので、このままこの迎賓館でおくつろぎください。そして明日ですが、午前中に謁見がございます」
「そうか。それなら……暗くなるまではまだ時間があるのか」
「まだ午後の半ばですので、夕食まで三時間ほどはございます」
 まだ時間があるならいくつか聞いておくか。エミリアに時間があればだけど。
「少し話が聞きたいんだが、エミリアは時間は大丈夫か?」
「は、はい。饗応役を仰せつかっております。私に分かることでしたら何なりと。その前に紅茶かコーヒーはいかがですか?」
「それなら紅茶をいただこう。俺の分だけじゃなくて、自分の分も淹れるようにな」
「は、はい。ありがとうございます」
 エミリアは部屋の端にある、蓋付きのワゴンのようなものを開けた。中にコンロやティーポットなどが入っているようだ。あれは魔道具か?
 しばらくすると紅茶のいい香りが部屋中に広がった。
「お待たせいたしました」
 エミリアはテーブルに紅茶を置くと、そのまま俺の横に立った。
「それでは——」
 横で立ったまま説明しようとした。立ったままか?
「いや、そのままでは話が聞きづらい。横に座ってくれ」
 座るよりも立つ方が好きならそれでもいいけど、多分そういうわけじゃないだろう。すぐ横に立たれると眼福なのは間違いないけど、今のところは座らせることにした。
「よろしいのですか?」
「ああ、ここに座ってくれ」
 俺がソファの隣を叩くと、エミリアはそこに腰を下ろした。
「では、何から説明いたしましょうか?」
 大まかに聞きたいことは決まってるから、どの順で聞くかだ。とりあえずはこの国のことや俺の扱い、そして召喚の理由くらいでいいか。
 ここで俺がどんな扱いになるかが一番重要だ。召喚されたからには理由は最後でいい。召喚されたからにはミレーヌのために全力を尽くすだけだ。まさか女のために全力で何かをしようなんて、あの頃は考えたこともなかったのにな。
「この国の名前やこの場所のことを教えてくれ」
「はい。ここはフレージュ王国という国になります。ここはその王都で、名前はシャンメリエになります」
 炭酸飲料みたいな名前だった。
「今いるこの建物と、さっきいた建物は何になるんだ?」
「ここは王宮の敷地にある迎賓館の一つになります。迎賓館は複数ありまして、一つ一つが独立した建物になっております。先ほどは中庭を挟んで向かい側にある元礼拝堂で召喚の儀式を行っておりました」
「元礼拝堂?」
「はい。建てられた時は礼拝堂だったと聞いています。召喚の儀式を行うようになってからは召喚専用の場所となっているそうです」
 なるほど。それで机や椅子がなかったのか。
「エミリアがここにいるということは、召喚を行った者たちの代表者ということでいいのか?」
「はい。私が今回の召喚の責任者を務めました。理由は分かりませんが、【聖女】の職業を持つ者の中で最も魔力の多い者が召喚の儀式を行うことになっています。今回参加した中には【聖女】は私だけでしたので、必然的に責任者となりました」
 シスターのような服装をしていても別に聖女とは限らないんだろう。
「なるほど、責任重大だったわけだ。その年で大変だっただろう。これで一息つけるんじゃないか?」
 俺は彼女の小さな手に自分の手を重ね、いたわるように声をかけた。エミリアは頬を赤らめた後、美しい形をした眉を寄せてから頷いた。
「正直に申し上げますと、かなりプレッシャーがございました。あの召喚陣に魔力を溜めるには、宮廷魔術師レベルの魔力を持つ方たち二〇人が毎日魔力を込めても五年ほどかかります。そして最後に召喚の儀式を行いますが、成功することは滅多になく、成功しても勇者様に来ていただけるとは限りません」
 気の長いガチャか。
「運次第か」
「そう言ってもおかしくないそうです。一〇年前と五年前は召喚に失敗したと聞いています」
「なるほどね。それでは余計に大変だったな」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
 真面目ちゃんだな。
「それで、俺はどういう扱いになりそうだ? 国に仕えるのか、それとも部外者として協力すればいいだけなのか、まあ所属についてのことだ」
「過去の例では……と申しましてもシュウジ様の前に勇者様がお越しになったのは一〇〇年以上前になります。その時の勇者様は公爵になられたそうです。今のモラクス公爵はその直系の方になります」
「かなり空いたのか。【勇者】以外なら?」
「はい。一五年前は【賢者】の職業を持つ方が来られて伯爵になられました。そのピトル伯爵は魔法や魔道具の開発をなさっています」
 なるほど。【賢者】は伯爵、【勇者】は公爵。過去の例ならそうなる。ならもう一つか。
「最後に一つ、俺が呼ばれた理由に——」
 俺が召喚された理由を聞こうとすると、エミリアが息を飲むのが分かった。これは「やっぱり聞かれた⁉」って顔だな。でも当たり前だけどこれを聞かないと困る。
「理由について教えてくれ。この国にどんな問題が起きているんだ?」
 俺はできる限り優しい声でそう続けた。エミリアは覚悟を決めるように一度目を伏せ、大きく息を吸い込んでから吐き出すと、首を振った。
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