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第四部:貴族になること
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少し足早に商業地区に向かう。王都は広い。貴族街から商業地区までの移動でもかなりかかる。【転移】が使えるなら使いたいけど、レベルがまだ〇だからほとんど意味がない。
一時間ほどかけて商業地区らしい賑やかな場所に着いた。この猥雑具合を見ると、高級店じゃなくて庶民のための店だろう。雑貨屋があり、道具屋があり、薬屋があり、向こうには武器屋もある。どこかには酸っぱいエールと黒パンを出す酒場もあるに違いない。ああ、これぞファンタジー。煌びやかな夜の街には慣れてても、こういう風景はさすがに見たことがない。これはテンションが上がる。
金髪は当然だけど、銀、黒、茶、赤、青、緑、黄、何でもありだな。白もいるか。ピンクはいないな。
お上りさんのように周りを見ながら通りを歩く。キョロキョロしていると財布を掏られる可能性もあるけど、周囲には気を配っているので問題ない。
大通りを進んでどこに何があるのかをチェックする。そこから脇道に入り、さらに狭い路地に入ると、そこは小さな建物が密集している場所だった。小汚くはないからスラムじゃないな。よく見ると鰻の寝床のような、間取りが狭くて奥行きがある店が並んでるようだった。
中を覗きつつどんどん進むと、気になる店があった。
「ここは……雑貨屋か?」
俺の目に飛び込んだのは、少し怪しげな雰囲気のある店だった。中には薬瓶のようなものも並んでいる。魔女の店かと思ったら、店の前には『イネスの美容品店』という看板が出ていた。美容品か。一度入ってみるか。
カラン
「いらっしゃいませ」
ドアベルが鳴ると、狭いカウンターの中から元気のいい女性店員の声が聞こえた。
「お客さま、当店は初めてですか?」
「ああ、面白そうだなと思って覗いてみた。いい店だな」
「当店は女性の美容のための薬品や、男女の営みをより豊かにする薬など取り扱っています。ごゆっくりお選びください」
「ああ、一通り見せてもらうよ」
そして店内をぐるっと見回すと、「ああ、なるほど」という感じだった。つい先日ジゼルから取り上げた媚薬と同じものが並べられていた。
並んでいるのはサンプルで、一番小さな瓶には八粒、中くらいの瓶には二〇粒、一番大きな瓶には五〇粒入っているらしい。そしてこの一番小さな瓶がジゼルの持ってたのと同じだ。
その値段だけど、八粒で中銀貨二枚。未だに貨幣価値がよく分からないけど、中銀貨は四万円はするはずだから、小瓶でも八万円はするはず。さすがに奪いっぱなしはマズイな。メイドの月給と同じだ。でも現物を返すのは問題だから、現金で返すか。
うちは公爵家だから払う給料は貴族の中でも高めになる。それでもメイドは安くて毎月中銀貨二枚。一年で一〇〇万円あるかどうか。ただし住居費も食費もかからないしメイド服も支給する。
俺からすると、住み込みで基本的に休みなし自由なし、それで年収一〇〇万なら逃げるけど、そもそも日本とこの国じゃ生活そのものが違う。休みがあっても金を払って遊ぶような場所もなく、将来のために金を貯めることがほとんど。
それなら別の仕事をすればいいと思っても、これがなかなか仕事がない。貴族の使用人という仕事は、安い上に仕事が多いけど、真面目に働けばずっと雇ってもらえる安定した仕事ではある。
それはそれとして、媚薬はまとめて買っておくか。あの感じなら、おそらくエミリアは美肌効果を維持したいはずだ。ミレーヌ(化身)ですらそうだったからな。依存性があるようなら今後は使わないけど、【鑑定:Lv九】で出なかったらおそらく大丈夫なんだろう。
それ以外には、スキンケア用品やヘアケア用品もある。どれもこれも自然の素材を使ったものばかりだった。薬草や蜂蜜などを使ったもので、美容液と書いてあるけど化粧水とかじゃなくてパックのように使うようだ。どれもこれも一番小さい容器で中銀貨はする。表通りにはないけど高級店なんだろう。
エミリアとミレーヌ用にそれぞれ一番高いやつ、侍女のオレリーと家政婦長のシュザンヌにも二人と同じもの、そしてメイドたちには一つ値段が下のやつを買っていこうか。贅沢かもしれないけど、しばらくは少人数で頑張ってもらわないといけないから、それを労うためだな。
「少し聞きたい。この薬で依存症になることはあるのか?」
俺は媚薬を指で差しながら店員に聞いた。念のためだ。
「快楽を感じるためのものですのでゼロではないですが、今のところ中毒の話は聞きません。お酒でも何でも、過ぎれば体に悪いですよ」
「そりゃそうだな。もう一つ聞きたい。実は王都に来たのは初めてだから聞くけど、かなり手間がかかるから高価なのか?」
あえてストレートに聞いてみた。数十CC程度の小瓶で何万円もするのはおそらく高級品だろう。
「そうですね。ここにある商品は私が作っていますが、素材もできる限り自分で集めます」
「全部自家製か」
「はい。素材を集めるためには店を閉めて王都の外まで行かなければ集まりません」
「何が使われているかは聞かないけど、買うことはできないのか?」
「買おうと思えば買えますが、薬草は状態が大切です。新鮮なままのものはかなり値が張ります。毎度買っていてはもう一段階二段階上げなければ採算が取れません」
「そうか、悪いことを聞いた」
「いえいえ。きちんとお伝えしないと、単にボッタクリだと思われることもありますので、聞かれたら事実をお伝えしています」
「気軽には買えないからな」
「はい。購入される方は生活にゆとりのある方ですので、あまり顧客が増えないのが悩みではあります」
どうやら真面目な店員、じゃなくて店主のようだ。薬物や毒物の知識があるから素材を調べさせてもらったけど、全部が全部高いわけじゃない。問題は手に入るかどうかなんだろうな。
薬草や茸なんて山の方に行けばいくらでもある。でも王都なら摘みたての薬草なんて手に入らないだろう。【異空間】や俺の【ストレージ】、あるいは【異空間】の機能を持たせたマジックバッグでもなければ。
この国には魔法や魔道具があるけど、生活レベルはそこまで高くはない。俺がしばらく滞在した迎賓館は魔道具がいくつも使われてたけど、あれは複数ある迎賓館の中でも一番いい場所だそうだ。
魔道具は高級家電に相当するんだろう。生活するだけなら問題なくても、ゆとりのある暮らしというのは庶民には難しいのかもしれない。
しかし美容液か……。うちは妻が美の女神だから、こういうスキンケアやヘアケアの方面から国の役に立つことはできないか?
「それじゃこの媚薬の大瓶を三本、スキンケアとヘアケアの一番いいのをそれぞれ六つずつ、その一つ下ランクのをそれぞれ七つずつ用意してくれ。それと……これとこれも」
「え? は、はい! しばらくお待ちください!」
店主は飛び上がって用意を始め、一分もかからずに全ての商品がカウンターに並べられた。
「これなら足りるか?」
計算では小金貨で十分だろう。
「え? は、はい、代金としては十分すぎますが……」
店主が小金貨を見て困った顔をした。金貨……あ、お釣りか。
「銀貨の方がいいか?」
「はい、すみません。お釣りの用意が……」
「いや、こちらが悪かった」
銀貨だけでちょうどの金額を支払った。
「たくさんお買い上げいただきありがとうございます。こちらはポイントカードで、これが次回の購入時にお使いいただけるクーポンになります」
「ポイントカードとクーポン?」
クーポンは束で渡された。正規のものだと証明するためかハンコが押されている。ポイントカードは枠の中にハンコが押されている。
「ポイントカードがいっぱいになりますと、次回の購入で使える一〇パーセント引きのクーポンをお渡ししています。購入金額が金額でしたので、何枚分もいっぱいになりました。ハンコの端数分はそちらのポイントカードに押しています」
「ああ、そういうことか」
どうやら俺はポイントカード五〇枚分を購入してしまったらしい。
「クーポンは一定金額以上ご購入でないと使えませんが、どなたでも使えます。半分はオマケですので、お知り合いの方に譲っていただいてもかまいません。いえ、むしろ配ってください」
なるほど、半分はオマケだったのか。
「ありがとう。知り合いに渡して使ってもらうことにする」
「いえいえ、こちらこそお買い上げありがとうございました。またの来店をお待ちしています」
俺はマジックバッグっぽい見た目にしたカバンを通してストレージに荷物を入れると店を出た。
一時間ほどかけて商業地区らしい賑やかな場所に着いた。この猥雑具合を見ると、高級店じゃなくて庶民のための店だろう。雑貨屋があり、道具屋があり、薬屋があり、向こうには武器屋もある。どこかには酸っぱいエールと黒パンを出す酒場もあるに違いない。ああ、これぞファンタジー。煌びやかな夜の街には慣れてても、こういう風景はさすがに見たことがない。これはテンションが上がる。
金髪は当然だけど、銀、黒、茶、赤、青、緑、黄、何でもありだな。白もいるか。ピンクはいないな。
お上りさんのように周りを見ながら通りを歩く。キョロキョロしていると財布を掏られる可能性もあるけど、周囲には気を配っているので問題ない。
大通りを進んでどこに何があるのかをチェックする。そこから脇道に入り、さらに狭い路地に入ると、そこは小さな建物が密集している場所だった。小汚くはないからスラムじゃないな。よく見ると鰻の寝床のような、間取りが狭くて奥行きがある店が並んでるようだった。
中を覗きつつどんどん進むと、気になる店があった。
「ここは……雑貨屋か?」
俺の目に飛び込んだのは、少し怪しげな雰囲気のある店だった。中には薬瓶のようなものも並んでいる。魔女の店かと思ったら、店の前には『イネスの美容品店』という看板が出ていた。美容品か。一度入ってみるか。
カラン
「いらっしゃいませ」
ドアベルが鳴ると、狭いカウンターの中から元気のいい女性店員の声が聞こえた。
「お客さま、当店は初めてですか?」
「ああ、面白そうだなと思って覗いてみた。いい店だな」
「当店は女性の美容のための薬品や、男女の営みをより豊かにする薬など取り扱っています。ごゆっくりお選びください」
「ああ、一通り見せてもらうよ」
そして店内をぐるっと見回すと、「ああ、なるほど」という感じだった。つい先日ジゼルから取り上げた媚薬と同じものが並べられていた。
並んでいるのはサンプルで、一番小さな瓶には八粒、中くらいの瓶には二〇粒、一番大きな瓶には五〇粒入っているらしい。そしてこの一番小さな瓶がジゼルの持ってたのと同じだ。
その値段だけど、八粒で中銀貨二枚。未だに貨幣価値がよく分からないけど、中銀貨は四万円はするはずだから、小瓶でも八万円はするはず。さすがに奪いっぱなしはマズイな。メイドの月給と同じだ。でも現物を返すのは問題だから、現金で返すか。
うちは公爵家だから払う給料は貴族の中でも高めになる。それでもメイドは安くて毎月中銀貨二枚。一年で一〇〇万円あるかどうか。ただし住居費も食費もかからないしメイド服も支給する。
俺からすると、住み込みで基本的に休みなし自由なし、それで年収一〇〇万なら逃げるけど、そもそも日本とこの国じゃ生活そのものが違う。休みがあっても金を払って遊ぶような場所もなく、将来のために金を貯めることがほとんど。
それなら別の仕事をすればいいと思っても、これがなかなか仕事がない。貴族の使用人という仕事は、安い上に仕事が多いけど、真面目に働けばずっと雇ってもらえる安定した仕事ではある。
それはそれとして、媚薬はまとめて買っておくか。あの感じなら、おそらくエミリアは美肌効果を維持したいはずだ。ミレーヌ(化身)ですらそうだったからな。依存性があるようなら今後は使わないけど、【鑑定:Lv九】で出なかったらおそらく大丈夫なんだろう。
それ以外には、スキンケア用品やヘアケア用品もある。どれもこれも自然の素材を使ったものばかりだった。薬草や蜂蜜などを使ったもので、美容液と書いてあるけど化粧水とかじゃなくてパックのように使うようだ。どれもこれも一番小さい容器で中銀貨はする。表通りにはないけど高級店なんだろう。
エミリアとミレーヌ用にそれぞれ一番高いやつ、侍女のオレリーと家政婦長のシュザンヌにも二人と同じもの、そしてメイドたちには一つ値段が下のやつを買っていこうか。贅沢かもしれないけど、しばらくは少人数で頑張ってもらわないといけないから、それを労うためだな。
「少し聞きたい。この薬で依存症になることはあるのか?」
俺は媚薬を指で差しながら店員に聞いた。念のためだ。
「快楽を感じるためのものですのでゼロではないですが、今のところ中毒の話は聞きません。お酒でも何でも、過ぎれば体に悪いですよ」
「そりゃそうだな。もう一つ聞きたい。実は王都に来たのは初めてだから聞くけど、かなり手間がかかるから高価なのか?」
あえてストレートに聞いてみた。数十CC程度の小瓶で何万円もするのはおそらく高級品だろう。
「そうですね。ここにある商品は私が作っていますが、素材もできる限り自分で集めます」
「全部自家製か」
「はい。素材を集めるためには店を閉めて王都の外まで行かなければ集まりません」
「何が使われているかは聞かないけど、買うことはできないのか?」
「買おうと思えば買えますが、薬草は状態が大切です。新鮮なままのものはかなり値が張ります。毎度買っていてはもう一段階二段階上げなければ採算が取れません」
「そうか、悪いことを聞いた」
「いえいえ。きちんとお伝えしないと、単にボッタクリだと思われることもありますので、聞かれたら事実をお伝えしています」
「気軽には買えないからな」
「はい。購入される方は生活にゆとりのある方ですので、あまり顧客が増えないのが悩みではあります」
どうやら真面目な店員、じゃなくて店主のようだ。薬物や毒物の知識があるから素材を調べさせてもらったけど、全部が全部高いわけじゃない。問題は手に入るかどうかなんだろうな。
薬草や茸なんて山の方に行けばいくらでもある。でも王都なら摘みたての薬草なんて手に入らないだろう。【異空間】や俺の【ストレージ】、あるいは【異空間】の機能を持たせたマジックバッグでもなければ。
この国には魔法や魔道具があるけど、生活レベルはそこまで高くはない。俺がしばらく滞在した迎賓館は魔道具がいくつも使われてたけど、あれは複数ある迎賓館の中でも一番いい場所だそうだ。
魔道具は高級家電に相当するんだろう。生活するだけなら問題なくても、ゆとりのある暮らしというのは庶民には難しいのかもしれない。
しかし美容液か……。うちは妻が美の女神だから、こういうスキンケアやヘアケアの方面から国の役に立つことはできないか?
「それじゃこの媚薬の大瓶を三本、スキンケアとヘアケアの一番いいのをそれぞれ六つずつ、その一つ下ランクのをそれぞれ七つずつ用意してくれ。それと……これとこれも」
「え? は、はい! しばらくお待ちください!」
店主は飛び上がって用意を始め、一分もかからずに全ての商品がカウンターに並べられた。
「これなら足りるか?」
計算では小金貨で十分だろう。
「え? は、はい、代金としては十分すぎますが……」
店主が小金貨を見て困った顔をした。金貨……あ、お釣りか。
「銀貨の方がいいか?」
「はい、すみません。お釣りの用意が……」
「いや、こちらが悪かった」
銀貨だけでちょうどの金額を支払った。
「たくさんお買い上げいただきありがとうございます。こちらはポイントカードで、これが次回の購入時にお使いいただけるクーポンになります」
「ポイントカードとクーポン?」
クーポンは束で渡された。正規のものだと証明するためかハンコが押されている。ポイントカードは枠の中にハンコが押されている。
「ポイントカードがいっぱいになりますと、次回の購入で使える一〇パーセント引きのクーポンをお渡ししています。購入金額が金額でしたので、何枚分もいっぱいになりました。ハンコの端数分はそちらのポイントカードに押しています」
「ああ、そういうことか」
どうやら俺はポイントカード五〇枚分を購入してしまったらしい。
「クーポンは一定金額以上ご購入でないと使えませんが、どなたでも使えます。半分はオマケですので、お知り合いの方に譲っていただいてもかまいません。いえ、むしろ配ってください」
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