元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十二部:勇者とダンジョンと魔物(一)

回復魔法

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「それじゃこのあたりに集まってくれ」
「「「よろしくお願いします」」」
 俺は町の周囲の掃討をしていた兵士や冒険者たちの治療をしている。今の俺の治癒魔法では欠損までは治らないようだけど、それはもっと専門的な治癒師に任せる。俺は骨折などの放っておいても治るけど早く治したい怪我の治療をしている。
 俺のスキルはミレーヌが用意してくれたものだけど、与えられたスキル構成にはミレーヌの考えが入っていて、一般的なスキルを一通りって感じで渡された。ミレーヌの持つ勇者像ってのは多くの人を救う存在だということだ。仲間をことが中心になるから、回復系が充実している。
 もちろん勇者である俺個人が死なないのは当然だけど、その仲間を全体回復魔法で治せるようになってるところがポイントだ。正確に言えば、ミレーヌだけじゃなく、ミレーヌを含むあの一帯の神の方針らしい。もっともミレーヌ以外にどんな神がいるのか俺は知らないけどな。
 今回は俺以上に治癒魔法が得意な治癒師が何人もいるから、俺は【魔力全回復(単体):Lv一】と【魔力全回復(全体):Lv一】を使う魔力タンクになることに決めた。レベルが低いからあまり回復量が多くないし、近くにいなければ回復しない。でも俺自身の魔力回復速度が速いから、よっぽどじゃなければ足りなくなることはない。それにいざとなれば干し肉(魔素マナ製)もある。
 そういういことで、俺は術者たちの魔力を回復させつつ、目の前に集まった軽傷の怪我人たちを【生命力全回復(全体):Lv一】を使って治す。これは【治療】の上位互換で怪我なら治る。俺の後ろには治癒師が座り、彼らが欠損を治している間に【魔力全回復(全体):Lv一】で治癒師たちの魔力を回復させる。
 ちなみに怪我は魔法で治せるけど、病気がどうかといえば、治るものもあるし治らないものもあるという、中途半端な状態だ。
 俺も使える魔法に【殺菌】というものがある。俺の分かる範囲では、細菌やウィルスによって引き起こされる風邪やインフルエンザ、梅毒、エイズなどは治るけど、細胞が変異する癌などは治らない。
 これは文字通り細菌を殺す、抗生物質のような魔法だ。抗生物質と違うのは、繰り返し使っても問題ないということだろう。それに細菌の中でも人体に悪いものしか殺さない。
 ということで、魔法で治すこともあれば切って治すこともある。

 ◆◆◆

「シュウジ様、休憩してくださいです」
「ああ、ありがとう」
 そう言ってお茶を持ってきてくれたのがエステルというエルフの冒険者だった。俺たち治療班のメンバーで、自分も先ほどまで怪我人の治療をしていた。エルフだけあって魔力量が多く、怪我人の治療で活躍してくれた。
「エステルは休憩はいいのか?」
「私もここでいただきます。隣でいいですか?」
「ああ、いいぞ」
 少しおかしな言葉遣いが見た目とマッチしていないけど、【鑑定】で見たら五五歳だった。これでも俺よりもかなり上だ。でもエルフとしてはかなり若い方だろう。
 長命種と呼ばれるエルフやハーフエルフ、フェアリー、ドワーフなどの種族は、寿命が長い分だけ精神的な成長が遅いそうだ。人間から見ると犬は成長が早い。逆に犬にすれば人間はゆっくり成長する生き物に思えるだろう。それに近い。
 寿命は人間が八〇歳から一〇〇歳、エルフは八〇〇歳から一〇〇〇歳と言われる。およそ一〇倍だ。一〇〇歳のエルフが人間なら一〇歳に相当するってほど単純じゃないそうだけど、エルフの中では一〇〇歳くらいまではまだまだ子供扱いされるらしい。でも一〇〇歳でも三〇〇歳でも、見た目だけなら人間にはほとんど区別がつかないらしい。ハーフエルフのベラも見た目は若いからな。
「お菓子もあるぞ。食べるか?」
「いいのですか?」
「ああ、遠慮なく食べろ。欲しければいくらでもある」
「ありがとうです♪」
 思わず餌付けしてしまった。
 俺が取り出したのは小麦粉を使った焼き菓子。小麦はライ麦に比べれば高い。そしてマシュマロも出した。あまり量は作ってないけど、それでも鍋一杯くらいはある。あんまり食べると気持ち悪くなるから少しだけな。
「甘くて美味しいです♪」
「全部食べていいから焦らなくてもいい」
 がっつくようにマドレーヌとマシュマロを貪るエステル。
「ほら、ポロポロこぼしてるぞ」
 子供の世話をする父親の気分だ。母さんが来てから余計に家族を意識する。俺は日本では結婚もしなかったし子供もいなかったけど、もし体を壊さずに仕事を続けてたら、どこかの段階で結婚して子供を作ってたかもしれない。あのままならワンコが相手だった可能性が一番高いか。お互いに彼氏彼女を名乗ったことすらなかったけど。
 目の前にある焼き菓子には王都で買っておいたものもミレーヌが最初に入れてくれたものも俺が作ったものもある。日本にあったお菓子のいくつかは商会の方でも販売を始めた。材料的に高くなりそうならサイズを小さくして、手に入りやすい価格にした。大きくて高いよりも小さくて安い方が手に取りやすいからだ。
 例えばバウムクーヘン。あれを丸々一本、長さ一メートルの丸太状態で販売するのが貴族向け、五センチくらいの輪切りにして販売するのが裕福な庶民向け、さらにカットして販売するのが一般向けになった。
 それで不思議なことだけど、普通なら丸々一本買う方が五センチのを二〇個買うよりも安くなると思うだろ? でもこの国の貴族は見た目を重視する。だから丸々一本の方が切ったものよりも五倍は高い。それくらい払ってくれる。
 お茶会のメインにバウムクーヘンを用意し、女主人がそれを切り分けてみんなで食べ、残った分を参加者たちに持って帰らせるという使い方がされてるそうだ。
 晩餐会では主人が肉料理などを切り分けることがある。それをお茶会でやるのにバウムクーヘンがちょうどよかったらしい。おかげで注文がひっきりなしだそうだ。
 種類も増やした。普通のだけじゃなく、コーティングを派手にしたり、生地を抹茶味にしたり花びらでピンク色にしたり、バリエーションを増やしている。
「ご馳走様でしたです」
「ほっぺたに付いてるぞ」
「あっ、恥ずかしいです」
 そこは恥ずかしがるのか。

 ◆◆◆

 しかし第二陣が来るのをただ待つってのも時間がもったいないな。ちょっとダンジョンにでも潜ってくるか? 第二陣は強い魔物が来るらしいけど、数は第一陣ほどは多くないらしい。俺がちょっと出かけて数を減らしておけば兵士たちの負担も軽くなるだろう。
 ここで一週間待つのは性に合わない。よし、出かけるか。その前に連絡はしておこう。いきなりいなくなると慌てるだろうからな。
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