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第六部:公爵邸披露パーティー
メイドとお茶を
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「旦那様!」
「私たちが立候補します!」
居間に入ってきたのは廊下の掃除をしていたセリーヌとドミニクだった。掃除をしながら聞いてたな。防音じゃないからな。
「それなら二人に試してもらおう。どれがいい?」
試しに作ったものを一通り並べてみた。ライセンスで問題になりそうな、デフォルメされた動物なんかはない。どちらかといえばリアルな動植物ばかりだ。
「これをこう組み合わせてエプロンの端にぐるっと縫い付ければ、立派な刺繍っぽく見えませんか?」
「これなら全面を縫い付けなくても、何か所かだけでも問題がないように思えます」
二人は蔦をモチーフにしたものをエプロンの縁取りのように並べ、さらに隅のあたりに鳥を配置した。
「いいデザインですね。エプロンだけがかなり目立ちすけど」
ミレーヌの意見はもっともだな。刺繍の縁取りに近くなった。ここまで使えば無地の白いエプロンも立派に見える。ちょっと立派すぎるか?
貴族が社交に着ていく服には刺繍もレースも使われる。俺が作ったアップリケは、少し離れたところから見れば刺繍っぽく見えるだろう。
「でもどうしてここを選んだんだ?」
場所は他にも色々とある。
「視線の誘導です」
「胸元に付けるのは私たち向きではありません」
「二人向きじゃない……ああ、そうか」
二人の体型ならな。
「一瞬で納得されると悲しいのですが、そういうことです」
「スカートに視線が行く方が助かります」
セリーヌの胸元はストーーーン、ドミニクもややストーンとしている。エプロンの方に視線が行けば胸元からは離れる。そういうことだ。
俺の考えでは胸の大小に貴賤はない。大きいのは大きいでよし、小さいのもまたよし。大きいから感度がいいというわけじゃない。どれも愛すべき胸だ。競ってはならない。併存すべきだ。
「一部は革も使ってるから洗濯をどうするかという問題はあるけど、パーティーの時だけ特別仕様にしてもいいな」
アップリケで使った布や糸は最初に酢で色止めした。でも革素材はあまり洗わない方がいいからな。
「社交用に限定すれば洗濯回数もそこまで増えないと思います。とりあえず洗い替えのエプロンの一部を、今度のパーティー用にしてもいいですか?」
「応援に来てくださる方たちの分はどうしたらいいですか?」
「応援の人数は分からないから多めにやってくれてもかまわない。とりあえずパーティーの時にメイドのエプロンは全部アップリケ仕様にしたいな」
俺がインフルエンサーになれるかどうかは分からないけど、やってみる価値はある。
「分かりました。みんなで手分けして縫い付けます」
「好きなデザインにしてもいいですか?」
「ああ、とりあえず各自で好きなデザインのエプロンを一つ確保しておいてくれ。それを当日使ったらいい。応援の分はある中から選んでもらえばいい」
今すぐ何かできるものじゃないから、二人にはみんなと協力して作業ができるように、糸や針も含めて一式渡した。
とりあえずファッションはここで終わりだ。次は話を変えよう。セリーヌとドミニクもいるから都合がいい。
「二人にも聞きたいんだけど、女性相手の商売なら焼き菓子もアリだろう」
「「焼き菓子⁉」」
「ああ、こういうのはどうだ? 試作品だけど、まあまあだろう」
厨房を借りて作ったものと、別の場所で魔道具を使って作ったものをいくつか取り出した。フィナンシエとマドレーヌとバムクーヘン、そしてカステラ。
並べた側から欠食児童のように食べ始めた。甘いものは貴重だからな。
「おいひいですおいひいです」
「これはうれますまちがいありません」
セリーヌとドミニクの反応からすると、どれも大丈夫そうだ。問題は値段だな。
「取り上げたりしないからゆっくりと食べろ」
四人分の紅茶を淹れ、なし崩しのティータイムに入った。後で他の子たちにも食べさせるか。
◆◆◆
お菓子がなくなるとミレーヌが立ち上がった。
「それでは私はまた戻りますね」
「ああ、助かった。また後でな」
ミレーヌが部屋から出ようとするとダヴィドが入ってきた。声が聞こえたからだろう。
「旦那様、こちらでしたか」
「何かあったか?」
「はい、商会の土地の契約が終わりました。後は商会長と扱う商品をどうするかということになります」
大抵の貴族は商会を持ち、全部とは言わないまでも活動資金の一部は商会が賄うことになる。俺の場合は領地がないから税収がない。そうなると商会頼みになってしまう。
場所は先日俺が見つけて、ダヴィドに契約させた。貴族街と庶民街の間、貴族でも出かけるし、庶民でもちょっとオシャレをして出かけよう、そんな場所だ。繁華街からもけっして遠くないので、場所としては悪くない。
「ダヴィド、とりあえず扱う商品についてだけど、俺は女性をテーマにしようと思う」
「女性でございますか」
「ああ。王都を何度も見て回ったけど、庶民、その中でも女性が買い物をできる場所は少ない。もう少し気軽に買い物ができる店を用意したい。潜在的な顧客はいるはずだ」
手軽に買えるものがないっていうのが一番だ。
「ここにエプロンに付けるアップリケがあるだろう。スカートだけじゃなく、装飾品としてカーテンなどにも使えそうだ。それに以前に女性陣には肌や髪を美しく見せる美容液を買ってきたことがあっただろう。あのようなものを優先的に扱っては面白いんじゃないかと俺は思う」
「そうですね。食品などはどこの商会も——」
バンッ‼
勢いよく扉が開いた。
「私たちが立候補します!」
居間に入ってきたのは廊下の掃除をしていたセリーヌとドミニクだった。掃除をしながら聞いてたな。防音じゃないからな。
「それなら二人に試してもらおう。どれがいい?」
試しに作ったものを一通り並べてみた。ライセンスで問題になりそうな、デフォルメされた動物なんかはない。どちらかといえばリアルな動植物ばかりだ。
「これをこう組み合わせてエプロンの端にぐるっと縫い付ければ、立派な刺繍っぽく見えませんか?」
「これなら全面を縫い付けなくても、何か所かだけでも問題がないように思えます」
二人は蔦をモチーフにしたものをエプロンの縁取りのように並べ、さらに隅のあたりに鳥を配置した。
「いいデザインですね。エプロンだけがかなり目立ちすけど」
ミレーヌの意見はもっともだな。刺繍の縁取りに近くなった。ここまで使えば無地の白いエプロンも立派に見える。ちょっと立派すぎるか?
貴族が社交に着ていく服には刺繍もレースも使われる。俺が作ったアップリケは、少し離れたところから見れば刺繍っぽく見えるだろう。
「でもどうしてここを選んだんだ?」
場所は他にも色々とある。
「視線の誘導です」
「胸元に付けるのは私たち向きではありません」
「二人向きじゃない……ああ、そうか」
二人の体型ならな。
「一瞬で納得されると悲しいのですが、そういうことです」
「スカートに視線が行く方が助かります」
セリーヌの胸元はストーーーン、ドミニクもややストーンとしている。エプロンの方に視線が行けば胸元からは離れる。そういうことだ。
俺の考えでは胸の大小に貴賤はない。大きいのは大きいでよし、小さいのもまたよし。大きいから感度がいいというわけじゃない。どれも愛すべき胸だ。競ってはならない。併存すべきだ。
「一部は革も使ってるから洗濯をどうするかという問題はあるけど、パーティーの時だけ特別仕様にしてもいいな」
アップリケで使った布や糸は最初に酢で色止めした。でも革素材はあまり洗わない方がいいからな。
「社交用に限定すれば洗濯回数もそこまで増えないと思います。とりあえず洗い替えのエプロンの一部を、今度のパーティー用にしてもいいですか?」
「応援に来てくださる方たちの分はどうしたらいいですか?」
「応援の人数は分からないから多めにやってくれてもかまわない。とりあえずパーティーの時にメイドのエプロンは全部アップリケ仕様にしたいな」
俺がインフルエンサーになれるかどうかは分からないけど、やってみる価値はある。
「分かりました。みんなで手分けして縫い付けます」
「好きなデザインにしてもいいですか?」
「ああ、とりあえず各自で好きなデザインのエプロンを一つ確保しておいてくれ。それを当日使ったらいい。応援の分はある中から選んでもらえばいい」
今すぐ何かできるものじゃないから、二人にはみんなと協力して作業ができるように、糸や針も含めて一式渡した。
とりあえずファッションはここで終わりだ。次は話を変えよう。セリーヌとドミニクもいるから都合がいい。
「二人にも聞きたいんだけど、女性相手の商売なら焼き菓子もアリだろう」
「「焼き菓子⁉」」
「ああ、こういうのはどうだ? 試作品だけど、まあまあだろう」
厨房を借りて作ったものと、別の場所で魔道具を使って作ったものをいくつか取り出した。フィナンシエとマドレーヌとバムクーヘン、そしてカステラ。
並べた側から欠食児童のように食べ始めた。甘いものは貴重だからな。
「おいひいですおいひいです」
「これはうれますまちがいありません」
セリーヌとドミニクの反応からすると、どれも大丈夫そうだ。問題は値段だな。
「取り上げたりしないからゆっくりと食べろ」
四人分の紅茶を淹れ、なし崩しのティータイムに入った。後で他の子たちにも食べさせるか。
◆◆◆
お菓子がなくなるとミレーヌが立ち上がった。
「それでは私はまた戻りますね」
「ああ、助かった。また後でな」
ミレーヌが部屋から出ようとするとダヴィドが入ってきた。声が聞こえたからだろう。
「旦那様、こちらでしたか」
「何かあったか?」
「はい、商会の土地の契約が終わりました。後は商会長と扱う商品をどうするかということになります」
大抵の貴族は商会を持ち、全部とは言わないまでも活動資金の一部は商会が賄うことになる。俺の場合は領地がないから税収がない。そうなると商会頼みになってしまう。
場所は先日俺が見つけて、ダヴィドに契約させた。貴族街と庶民街の間、貴族でも出かけるし、庶民でもちょっとオシャレをして出かけよう、そんな場所だ。繁華街からもけっして遠くないので、場所としては悪くない。
「ダヴィド、とりあえず扱う商品についてだけど、俺は女性をテーマにしようと思う」
「女性でございますか」
「ああ。王都を何度も見て回ったけど、庶民、その中でも女性が買い物をできる場所は少ない。もう少し気軽に買い物ができる店を用意したい。潜在的な顧客はいるはずだ」
手軽に買えるものがないっていうのが一番だ。
「ここにエプロンに付けるアップリケがあるだろう。スカートだけじゃなく、装飾品としてカーテンなどにも使えそうだ。それに以前に女性陣には肌や髪を美しく見せる美容液を買ってきたことがあっただろう。あのようなものを優先的に扱っては面白いんじゃないかと俺は思う」
「そうですね。食品などはどこの商会も——」
バンッ‼
勢いよく扉が開いた。
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