元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第八部:なすべきこと

ジゼルの様子

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「様子がおかしい?」
「はい。手紙を読み始めて、それからです」
 ジゼルの様子がおかしいというのをメイド仲間のフラヴィが伝えてきた。
「おかしな手紙だったのか?」
「いえ、実家からだと言っていました。開けて読み始めてから落ち込んだようになりまして」
「分かった。後で様子を見ておく」

 ジゼルは北にあるベックという漁村の生まれで、奉公のために王都に出てきた。最初は王宮でメイドをしていて、それからこの屋敷にやって来た。一番最初からいるうちの一人だ。
 シュザンヌも言ってたように仕事はよくできる。王宮のメイドなんて希望者は何百人も何千人もいるだろうし、それが最初の仕事だったくらいだ。漁村出身で王宮にコネがあるとも思えないし、よっぽど優秀だったんだろう。
 でも性格が少々問題だ。性格というか態度か。やたらと俺にアピールしてくるんだけど、子供っぽいのに大人びた態度で接してくるから違和感が凄い。顔も声も可愛い。胸は年のわりに大きい。背は少々低め。いわゆるロリ巨乳に近い。でも食指が動かない。一応俺はロリじゃないからな。
 他のメイドたちは掃除をしながら俺に下着をちらつかせるなどのテクニックを使う。でもジゼルはそのテクニックが微妙だ。さらに「旦那様、向こうでいかがですか?」などと言いながら、左手の親指と人差し指で丸を作り、右手の人差し指をそこに入れたり出したりするという、ある意味ストレートで下品なジェスチャーを使う。
 これがもう三つか四つくらい年が上でもう少し背があればそそられるかもしれないけど、何を子供がやってるのかという気分になってしまうのがジゼルの残念なところだ。若いのは彼女のせいじゃないけどな。
 そのジゼルが元気がないという連絡を受けた。体調が悪いわけではないそうだけど、一度様子を見にいくことにした。

 ◆◆◆

 ジゼルは部屋にいるらしい。俺は使用人たちの別館に入ったことはほとんどない。初めて来た時にチラッと見たくらいだ。面白いものがあるわけでもないからな。
 ジゼルの部屋は……ここか。
 メイドたちは四人部屋になっている。元々王宮で働いていた七人で、お互いに顔は知ってたそうだから、ABCDとEFGで分けたそうだ。後から来た元シスターの七人もHIJKとLMNで分けている。キッチンメイドの三人は三人で固まり、スティルルームメイドの二人は二人部屋となっている。メイド長のセリアは一人部屋だ。
 仕事ごとにしているのは生活時間帯が近いから。そして動く時に動きやすいからということだ。
⦅コンコン⦆
「ジゼル、入るぞ」
 ノックをして入ると、ジゼルがベッドに腰掛けていた。元気がない。
「体調が悪いと聞いたぞ。大丈夫か?」
 声をかけても俯いたままだ。こんなことは一度もなかった。
「ホントにどうした?」
 ジゼルの肩に手を置くと、彼女はゆっくりと俺の顔を見た。次の瞬間に顔をゆがめると目から大粒の涙があふれ出した。
「だんなさまああああああ! あ~~~~ん」
 俺にしがみ付いて鳴き始めてしまった。思わず抱きしめて頭を撫でる。
「どうした? 何も言わなければ分からないぞ」
 普段どれだけ大人ぶろうとしても、俺からすれば大人と呼べる年齢じゃない。子供をあやすように、できる限り優しく声をかけた。

 五分くらい泣くと少し落ち着いたようだ。そろそろ話が聞けるだろうか。
「ジゼル、何があった? 何が書かれてたんだ?」
 手紙が問題なのは間違いないだろう。ジゼルは袖で涙を拭いて、それから鼻を啜りながら俺の方を向いた。
「ぐずっ……。ち、父と母が……倒れたと……」
大事おおごとじゃねえか」
 俺はジゼルから手紙を受け取ると目を通した。そこには几帳面な字で彼女の両親の近況が書かれていた。差出人はマケールとなっていた。どうやら両親は字が書けないらしく、これは村長が書いたものらしい。要約するとこうなる。
 ジゼルの両親は彼女を王都に送り出すために借金をしている。それを返すためにこの冬の間も毎日頑張って漁に出たそうだ。それで体調を崩してしまった。
 漁師は漁に出なければ収入はない。体調を崩しても高価な薬は買えない。治癒師に頼もうにも村にはいなくて、町から呼ぶには金がかかりすぎる。だからいつものように病気を治すと言われる薬草などを与えたけど回復しない。近所の者たちが交代で看病しているけど、いつまで持つか分からない。そこには二月上旬の日付が書かれていた。
 もう三月の半ば。一か月以上かかって王宮に届き、それからこの屋敷に送られてきたようだった。
 北の海までは一〇〇〇キロ以上ある。郵便制度のような便利なものはない。だから町から町へはギルドなどの馬車に運んでもらうことになる。もしくは冒険者に配達を頼むかだ。
 各種ギルドは町から町へと荷物や人を送る馬車を動かしている。金を払ってそれに積んでもらうことになる。でも手紙専用じゃないから時間がかかる。ついでに運んでもらうからだ。
 魔道具を付けた馬車なら、八日から一〇日もあれば届く。でもその魔道具は高価で、どの馬にでも付けられるわけじゃない。それに町に着けば荷物の積み下ろしを行う。馬も休ませなければならない。
 さらに天気次第では出発時間を遅らせたり、その日の出発を諦めることもある。わだちに車輪がはまり込んで動けなくなったり、車輪が割れて修理に時間を取られることもある。
 この国で安く手紙を送ろうとすればそうやって運ばれる。だから届けばまだマシらしい。途中で盗賊に荷物を奪われることもあれば、嵐で積荷がダメになって誰宛の手紙かも分からなくなることもあるそうだ。だから二通三通同じ内容の手紙を日にちをずらして送ることもある。
 高い手数料を払えばマジックバッグに入れてもらったり、もう少しマシな運び方をしてもらえるそうだ。
 しかし一月前か……。
「ジゼル。すぐに出発の準備をしろ」
「……え? 何のですか?」
「帰省だ帰省。親の顔を見たくないのか?」
「見たいですが……お仕事が……」
「俺がいいと言ってるんだからいい。一〇分で準備をしろ」
「は、はい!」
 準備といっても着替えくらいしかない。食料などは俺のストレージにある。ジゼルに準備をさせる間にダヴィドにしばらく不在にすることを伝えることにした。
「ダヴィド、急遽北のベックに行く。社交は休むから謝罪の手紙を頼む」
「ベックといいますと、ジゼルですか?」
「ああ、両親が倒れたらしい。間に合うかどうか分からないけど、金や薬を送るくらいなら俺が行って治した方が早い」
「それはそうですが、メイドのためにそこまでされるのですか?」
「俺はのオーナーだぞ。それくらいはする」
「そうでしたね。申し訳ございません。私の方で手紙を出しておきます。すぐに馬車の用意をさせます」
「頼む」
 貴族同士の繋がりをないがしろにするわけじゃないけど、ジゼルの方が大切だからな。メイドとしては鬱陶しいこともあるけど、それとこれは話が別だ。仕事はできる。ちょっと大人ぶりすぎて空回りしてるだけだ。
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