元ロクデナシで今勇者

椎井瑛弥

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第十部:家族を持つこと

お互いの思惑

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 商会のベック支店は上手くやっていると報告があった。支店長のフェルナンも両手に花状態だそうだ。思ったよりも早かったな。真面目だという話だったから、もう少し時間がかかるかと思った。彼女たちのおかげだろうな。
 多少強引にでもフェルナンをベックの住民の誰かとくっつけるという計画だったけど、思った以上に上手くいって安心した。

 ◆◆◆

 ベックから帰ってから少しして、俺はベックに商会の支店を作る準備を始めた。俺は商会の経営そのものに関しては基本的にノータッチだ。金は出すけど口は出さない。ネリーとサビーを連れてきたりはしたけど、そういうことくらいしかしていない。だから一号店のナントカッソンの方にはほぼ関わっていない。
 でもベックは俺が一度足を運んだ場所だということもあって少し思い入れがある。そして考えていることもあった。
「アンナさん、ベックの支店を任せる人材のことなんだけど、少し口を出していいか?」
「ええ、もちろんですが、何かお考えですか?」
「商才は必要だとして、真面目で村人に愛されそうな性格の者を選んでほしい。独身ならなおよし」
 支店を任せるだけじゃなく、向こうにいる誰かと結婚して家庭を持ってくれれば助かるというものだ。
「そうですね……。フェルナンという若者ならその条件にピッタリですが、そこまで上手くいくかどうかは分かりませんよ? 人柄は問題ありませんが、少々引っ込み思案ですから」
「それなら上手くいくように仕向けるだけだな」
「……何をお考えですか?」
 アンナさんが少し目を細めて剣呑な雰囲気を出した。いやいや、フェルナンが誰か知らないけど、悪いようにはしない。
「おっと、やましいことじゃないぞ。ベックはベックで俺たちに期待している。こっちはこっちで期待している。それが一致するのが……」
「彼だということですか?」
 そう。俺との繋がり。俺がジゼルを見初めたことは日報紙でも知られている。ベックとしてはそれ以外にもう一つか二つくらいは繋がりが欲しいはず。
「フェルナンが独身なら問題ないだろう。二人でも三人でも大丈夫じゃないか?」
「それは公爵様だからでしょう。平民で側室を持つことは稀です」
 ああ、それもそうかもしれない。家族が増えればそれだけ金がかかる。一般的に女性は仕事が見つけづらい。側室を持ち、さらに愛人まで持つのは貴族くらいのものだ。
「平民だとしても、俺が所有する商会で支店長まで任されたとなれば、世間的の目にはどう映るか」
「将来有望な若者と見られるでしょう」
「そうだな。それなら何も問題ないな」
 たしかにベックは王都から遠い。でもコワレ商会の支店の一つを任されているということはそれなりの評価に繋がる。
「一定期間、こちらから二人ほど補佐を出し、彼のサポートをさせつつフェルナンに相手が見つかるように仕向ける。そうなればその女性に公私ともにサポート役は任せて補佐は引き上げさせる。それでいいだろう」
「よくそこまでやろうと思いますね」
「時には背中を押してやることも必要だ」
「突き飛ばすの間違いでは?」
 そうとも言う。でも悪い相手じゃないだろう。
 フェルナンがベックの誰を結婚相手に選ぶかは分からないけど、あれかあれかあれか、そのあたりだろうという想像はできる。
 前に行った時、村人たちとは治療をしつつ話をした。ジゼルと一緒に村長から読み書き計算をしていた中に、もう少し年上の子が四、五人いた。彼女たちに相手がいないのならフェルナンを相手に選ぶのは十分にあり得る。商店の仕事ができるというのは大きなアピールになるからだ。
「まあ悪いことにはならないと保証する」
「それならいいのですが」

 ◆◆◆

 その時はそんな感じでフェルナンを繋ぎ役にすることにした。まあ彼からすれば勝手にレールが敷かれたわけだ。でもそのレールの先はそれほど悪い場所じゃない。支店長を務めていずれ王都に戻ってより上の地位に就くか、それとももっと大きな町で支店長をするか。そうなるだろうとその時は思っていた。
「思った以上に上手くいったな」
「そのようですね」
「結果としては万々歳だろうけどなあ……」
 フェルナンにはさっそく恋人が二人できたそうだ。相手は俺の考えていた中の二人、アリアとマガリだった。支店の建物とフェルナンの家ができると、押しかけ女房のように同棲を始めたそうだ。しばらくは手を出さないようにしていたフェルナンだったけど、二人に押し切られるように関係を持ったらしい。そしてベックに定住したいと伝えてきた。
 フェルナンと一緒に王都からベックに向かったアンドレとエリックの二人にも恋人ができたそうだ。どうもフェルナンよりも前だったそうだ。
 二人の相手はジャネットとジョアンヌの双子の姉妹。双子でも大人しい姉と活発な妹という組み合わせだった。アンドレとエリックは商才の面ではフェルナンよりは落ちるらしいけど、アンナさんが人柄重視で選んだ二人だ。村の女性たちが惚れないはずがない。
 エリックとジョアンヌが一番先にカップルになり、この二人がアンドレとジャネットをくっつけ、それから四人でフェルナンの背中を押してアリアとマガリと付き合わうように仕向けたそうだ。
「しかしまあ……文面を見ると浮かれてるのがよく分かるな。こんな性格だったのか?」
 フェルナンの報告書には夫婦生活の素晴らしさが真面目な文面で蕩々とうとうと語られていた。そして自分をベックに送ってくれたアンナさんと俺に感謝すると。
「いえ、控えめでした。女は男を変えると言いますから」
「変わりすぎだろう。惚気のろけまくってるな。まあ仕事っぷりは大丈夫そうだけど」
「まだ若いですからね」
「俺もそこまで離れてないぞ」
 フェルナンが一七、アンドレとエリックは一九だったか? 俺はステータス的には二一だ。でも精神年齢はたまに一〇代前半まで下がる。
「公爵様は別でしょう」
 アンドレとエリックをずっとベックに滞在させるつもりはなかったけど、こうなるとこの先どうなるか分からないな。恋人を連れて王都に戻るか、それともフェルナンのようにベックにずっといるか。向こうに行かせたのはアンナさんというか俺だから、ここは二人に任せることにした。いずれ祝いの品でも贈るか。
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